第三十七話、出会いは蜂との予感
「予想外だよ、こんなの」
「ここまでとは予想してなかったな」
ウネウネと迫ってくる3匹のストーンイーター達。
1匹にはマリアが、1匹には俺、残りの1匹には2匹のクロウが対処する。
1対1でも運が良ければ勝利できるクロウを2匹割り当てる。俺とマリアは特にダメージなく勝てるので鉄板の構成だ。
「はいはい。ミミズが俺を止められると思うなよ」
足払いから体勢を崩し、右手で掴み上げてハイキックをたたき込む。
そして、追撃として左手でフックを繰り返す。
ぐったりした所でストーンイーターを地面から引き抜いて放り投げる。
「さて、マリアは……と、俺が手を貸すまでもないか」
既にストーンイーターは殆どHPは残ってない。
ならばと、クロウ達の方に移動する。
「やはり、速度はゆっくりか……」
ストーンイーターのHPは半分程、クロウ達は運良くやられてない。
俺はそのまま飛び蹴りをぶちかました。
「送還、クロウ……これで残MP2に戻ったな。また、二匹クロウのサモンが出来るな」
「随分沢山モンスターいるけど……今日は誰も町の移動してないのかな?」
まあ、俺達8時からやってる訳だから……普通に考えて一番乗りじゃないだろうか?
「リポップの関係上、俺達の後なら安全に街道を進めるだろうさ」
因みに大分前にレベルが5に上がった。
まあ、縛りプレイだから意味はないが。
これで戦闘不能になったら、何処に飛ばされるんだろうな?
「そうだね。ねぇ、ジェイル、あれ……」
「ん? あれは……ビーが2匹か。プレイヤーが1人……」
さっきの蜂型モンスター相手に、俺達と余り変わらないレベルの服(村人の服とでも言えばいいのか?)を着た、しかも素手で相手をしている女性プレイヤーがそこにいた。
いや、あれは戦闘じゃないな。ビーが一方的にプレイヤーを蹂躙してる感じだな。
一撃のダメージが低いからなんとか生きてるけど、このままじゃ駄目だな。
「どうする? 行くか?」
「この時間じゃ、他にプレイヤーいないしね。ジェイル、いけるでしょ? 僕達までやられたらやだよ」
問題ないだろう? あのプレイヤーだって戦えるだろうし、俺にはクロウもいる。
「マリア、ディフェンスを」
「うん、わかった! 汝の身はいかなる力もはじく、ディフェンス!」
俺は自分の体に白銀の輝きが収縮するように降ったのを確認すると、クロウを2匹呼び出してビーに向かって走り出す。
「おい、しゃがめ!」
「え? きゃ!」
俺の声に反応してじゃなくて、走り寄る俺に驚いたようにしゃがみ込む女性、ネームはルーナルミナとなっている。
俺に脅えてるようで一寸ショック。
しかし、それは顔に出さないようにして、左右の手で綺麗にそれぞれのビーを掴むと地面に叩きつける。
「弱い者いじめは終わったか? 蜂さんよ? さあ、懺悔の時間だ……」
手を離した俺は、交互に拳を繰り出しながら後続のマリアとクロウ達が来るのを待った。
「有り難うございました。あのままだったら……私……」
「気にする事じゃない。OOは助け合いだろ? 俺はジェイルだ。ルーナルミナ、君もレベルがいくつかは知らんが、俺達と大差ないだろう? ビー2匹は死亡フラグだ? 時間も時間だし、運が良かったな」
「間に合って良かったよ。僕はマリア、ルーナルミナさんだね、よろしくね。同じくらいって言ってるのに、全く物ともしないこの人は気にしないでいいからね」
酷い話だ。
それにしても……女性同士だから話が弾むようで、軽く疎外感を味わった俺は、一歩下がった位置からその話に耳を傾ける。
そんな中、頭上に表示あり……履歴確認する。
クエスト?
今まで無かったし、また臨時クエストか? 内容は……新米鍛冶を守れ、か。この中に新米の鍛冶屋がいるって事か。周りを見渡す。マリアとルーナルミナ、クロウがいる。
クエストって事は、彼女しかいないよな。実際守ったし……なら、ルーナルミナはNPCなのか?
「ルーナルミナ、お前は鍛冶職人なのか?」
「いえ、そんな、職人なんておこがましいです……ジェイルさん達も見てたでしょう? 素材の一つも自分で取りにいけないんですから」
「え、なに、どういう事?」
マリアはよくわかってないみたいだ。
臨時クエストについて説明する。
「こんなにリアルなんだぁ。僕と話してても全く違和感なかったよ……」
「これが世界一のMMOと言える所以なのかもな」
しかし、こんな所にもNPCから始まるクエストがあるなんて……しかも、マリアが会話をして尚違和感がないなんて……。
流石は世界一!
「ルーナルミナ、俺達はミカールを目指してるんだが、君はどうする?」
「は、はい……今のビーに鉱石を入れる用の袋をやぶられてしまったので……あの、よろしければご一緒させてもらってもいいでしょうか?」
ここでの返答が、クエストの受諾になるのか?
「場所はミカールの町で相違ないんだな?」
「はい、流石の私でもミカールまで行けば一人でも帰れますから」
「確かにそうじゃなきゃ生活出来ないしね」
断る理由もない、俺達はこの鍛治の少女ルーナルミナと共にミカールを目指すことにした。
クロウの送還と召喚を戦闘前後で行ってるため、魔人の左手を使えないのがとても残念だ。
町についたら絶対ビーを狩りに来る。俺はそう決めたんだ。




