第三十六話、レベルが上がると変わりますか?
「純也さん! レベルアップのシステムが変わることになりましたよ!」
「急だな。美玲、どう変わったんだ?」
「それはですね……」
会話の途中から不意に現れて混ざってくる芽依。
「相変わらずだな、まあ、どっちでもいいから教えてくれ」
「じゃあ、俺が……」
「「(お兄様)(翔様)は結構です」」
「なにそれ……悲しい」
兄が冷遇されるのにも随分慣れた。この兄妹とメイドにはこれがデフォルトらしい。
「スキルなんですが、レベルアップ時で個別に設定された項目がランダムに上がることになったんですよ」
「……ごめんな、よくわからない。じゃあ、芽依、頼む」
「お任せください。今回のバージョンアップから、スキルに詳細な情報が追加されます。例えばストーンの魔法だったら、威力、消費MP、射程距離、クリティカル率、等です。そして、スキルレベルが上がった際に、その中の項目がランダムで上昇します。なので、威力が上位スキルより高いけれど目の前の距離にしか届かないストーンや、消費が低いまま高威力のストーン等、プレイヤーの数だけ新しいスキルを作れるようになったんです」
なる程、ランダムが売りのオンラインオンラインらしい変更だな。
だが、それだとこのスキルがおすすめ、みたいなものが全く変わってくるな。
とりあえずは……。
「芽依、わかりやすかった」
「恐縮です」
「愛さん! 次こそは負けませんよ。勝って次こそは純也さんに褒めてもらうんです!」
それだと俺がひどい奴みたいに聞こえる。別に褒めないやつとかじゃないが。
だけど、その説明の差だと一生勝てない気がしないでもないが。
ま、いいか。
と言うような話を以前から聞いていた俺は、今日のバージョンアップの結果を楽しみに、ログインする事にした。
「吹き飛ばす! 一撃!」
ジャブからの右ストレートを、ビー(ラビットサイズの蜂)に突き刺すと同時に、本命の左のワンツーをたたき込む。
しかし、そこで俺のターンは終わらず、追撃として呼び出していたクロウの急降下が突き刺さる。
「ビュウウアウウ……」
流石にこの辺の敵には、ラッシュを受けるには荷が重かったか、難なく撃破する事が出来る。
「森の中だと多少は歯ごたえがあるな……敵が素早いとどうしても被弾は避けられないが……まあ、一回耐えられるようになっただけマシか」
俺は超人じゃなくただの器用な人な為、何でもかんでも回避は出来ない。
今回のビー戦でも、2/3以上の8もHPが削られた。15しかないんだから、もっと遠慮して欲しい。
ラビットで防御+1を取ったのが地味に助かってる気がするわ
「即死確定のクロウだとこういった運用が理想的なのかな。俺がメインで、被弾しないように巻き込まれない所からの攻撃。でも、俺も回避盾系だから、やっぱりマリアがいる方が格段に楽だな」
次の敵を見つけたのか飛去っていくクロウの後を追いながら、俺はマリアがログインしてくる時間になるまで思い切りレベル上げに精を出すことにした。
「もうすぐ8時か……早く起きたからログインして待ってようって……子供か、俺は? 遠足が待ちきれない小学生じゃないんだから」
クロウの再召喚を優先してる為、MPが1は残るように気をつけている。総MPが2しかないがな。
蹴り主体でストーンイーターを沈める。
「お、レベルが上がった……スキルもか?」
早速、頭上に現れた報告を確認する。
「これで、レベル4か。村に入れなくなったな。ま、これは来るべき事だったから別にいい。で、サモンクロウのレベルが上がりました。召喚可能数が2匹になります……ふむ、戦い手が増えるのは好都合だな」
まだ、文章は続いてるな……召喚数が増える度に、HP、威力にマイナス修正が入ります。
……ただでは楽にさせないって事か? まあ、当然の事だな。
だが、忘れてないか? クロウは全ステータスが1なんだが……デメリットなくね?
充分活かせるとわかった為、即座にもう一匹クロウを召喚する。
「この辺の敵なら乱獲出来る? 筈だ。一気に行くぞ!」
MPはないが、俺がメインになれば問題ない! 力一杯モンスターハントを行うことにした。
「ジェイル、おはよう……って、クロウ増えてる……」
あれから三対一で優位な戦闘を繰り広げていたら、俺自身のレベルが上がった。
クロウがバラバラの敵に襲いかかるかもしれないという懸念があったが、幸いクロウの思考ルーチンは一括りで、同じ敵をサーチして襲いかかっていたのは幸運だった。
しかも、送還を使うとMPが1戻ってくる事がわかった。
想像以上に戦略の幅が広がる仕様だ。
って言うかMP1で呼び出して送還でMP1帰ってくるって……デメリットないじゃん、デメリットないじゃん!
結果、予想よりやりやすい戦闘だった。
やはりよく落とされるので、魔人の左手を中々使う暇がなかったけど……。
「おはよう、マリア。クロウのレベルが上がって召喚可能数が増えたんだ。俺には関係ないんだが、ステータスは弱体化してるらしい」
「……早いよ。一体、何時からログインしてたの?」
「秘密」
余計な事を喋ってやぶ蛇にならない内に、挨拶もそこそこに早速ミカールの町を目指す事にする。
「マリアはレベルアップまでどの位だ?」
「僕は後64だね。ジェイルは?」
「俺は朝少しやってたから後11。ミカールの町までどの位かかるかわからんが、初心者が一人から二人で目指す場所だ。そんなに時間もかからないだろう。それなら、出来るだけ出会った敵は倒していこう」
「僕達自身だけじゃなくてスキルのレベル、ジェイルにはコピーがあるもんね。わかった、じゃあそれで行こう」
とりあえず、オートでサーチアンドデストロイを行う不安要素のクロウは送還する。
今回は戦闘時のみサモンクロウで呼び出す事にしよう。
こういう目的地があるプレイの時は、送還必須だな。
「ジェイルは薬草とか買っておかないでいいの? それとももう準備済んでるの?」
「いや、昨日から別に使ってないから減ってないし……忘れたか? 俺ももうレベル4だぞ? 村には入れんよ」
「そっか、僕がログインする前から経験値稼ぎしてたんだよね? 何で薬草を使う事態になってないの? あっ! また、全部避けたとか馬鹿みたいな事言うんでしょう?」
馬鹿みたいって……なんか、ちゃんとした理論を元にやってるのに、やっぱり俺がチート戦士みたいな言い方しやがる。
天然か? こいつ。相変わらず真顔でえぐってきやがるわ。
「俺は一般の学生だ。マリアがどう思ってるのかはわからないけど、何でもかんでも出来る訳じゃないぞ。現にビーって言う蜂のモンスターには被弾したし」
「はい! ダウトだよ! ビーは森の中にしか出現しないモンスターで、飛行型で高い敏捷性もあるから、出会ったら僕達程度じゃとても倒せないんだよ? それを問題ないなんて言ってる時点で、もう何を言っても説得力はないんだよ!」
強いよな、とは思ったがそんなに強かったのか。
確かにこのラグナロクの仕様じゃあ難しいよな。でも、ダメージは受けるけど相打ち覚悟なら、攻撃モーション中にこっちも攻撃すれば楽に倒せるだろ? HPは低いんだし。
「……僕は、初めに声をかけたのがジェイルだった事を幸運に思えばいいのかな?」
「何言ってるんだ?」
俺なんて他のプレイヤーからすれば下の下だろうに……。
武器はなし、防具はなし、パーティーは二人。
あんまり心配はしてないが、一応死なないように注意していく事にした。




