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第三十四話、使えなければ意味はないのですか?

「それで、どうなったんですか?」

「ふむ、わし等はウサギ型のモンスターとの戦闘を繰り返した。そして、ついに手にいれたのじゃ」


 俺は無邪気に聞いてくる美玲に対して、オーバーリアクションで身振り手振りをする。


「普通にスキルを手に入れたんじゃないのか?」

「うるさい、馬鹿。折角の語らいに水を差すな」

「そうです! お兄様は何処か人知れず居なくなって下さい」

「あれ? 俺の扱いってそんなん?」


 大体な。


「翔様。あそこで口を出すなど、空気読めないにも程があります。馬に蹴られてしまいますよ」

「いや、別にそんなつもりではなかったんたが……」

「いいえ、私は初めからそんなつもりです! 純也さんとなら、どんな話でもバッチコイです!」 


 別にそんな細々した話じゃないんだが……。


「とりあえず、翔の言う通りスキルを手に入れたんだ。まぁ、当然だな。手に入る迄やったんだから」

「全部確率10%台ですよね? それが一日に二回も……凄すぎます! ……お兄様……?」

「あーなんか済まん。この埋め合わせはする」

「絶対ですよ」

「ああ、必ず満足するさ。お前達二人とも」


 ん? なんか関係ないところで話を進めるな。


「それで、一体何のスキルだったんですか?」

「ん。それはな…………」

 










 俺はラビットを殴り付けるのに合わせて、魔人の左手を発動させる。


 少しでもコピー確率があるならどんどん狙っていくべきだろうし……2しかないMPなら回復も早いし。


 殴り飛ばしたラビットを追随するように跳び蹴りをぶちかます。

 そして、消滅したラビットのいた場所二立ちながら体の銚子も悪くない事を実感する。


「よし! いい感じだ」

「いい感じじゃないよ! 突撃は!? 何で突撃しないの!? 覚えたんでしょ? 僕に見せてよ!」

「うーん、そう言われてもなぁ……」


 そう、俺がラビットから覚えたのはスキル、突撃。用は体当たりだ。ダメージ補正は110%だから、その後に連続攻撃の基点になりそうな感じはする。


 するのだが……。


「わかるか? マリア、俺のMPは2だ」

「そうだね、もっと使えればもっとコピー出来るのにね」

「そうだな。でだ、ここで問題になるのは突撃のMP消費量だ」

「攻撃スキルもMP減るの? そういうのはHP減少での発動じゃないの?」

「あーそういうゲームもあるな。だが、ここではMP判定だ。で、突撃のMP消費は3だ。この意味、わかるか?」

「……使えないじゃないか……」


 そう、覚えたのに発動させられなかったのだ。しかし、消費3って普通に考えるとかなり低いな。普通のスキルで覚えたプレイヤーなんか使い放題じゃないのか?


 それとも普通のスキルと同じように、スキルレベルや威力増加で消費量もあがるのか?

 モンスターのスキルはわからん。


 だが、それで威力は俺の素手の一撃と大差ない、じゃ、このまま封印されてもおかしくないな。


 むしろ、普通の手段でステータスが上がらない俺は、このままじゃ一生使えないスキルなんだが。


 突撃はいいんだけど、早くドライ達を呼び出したい。そうじゃなくちゃ、わざわざ前ジェイルからヒキツいだ意味がないわ。


「じゃあ、とりあえずラビットを狩っていけばいいんじゃない?」

「まあな。防御アップも捨てがたいしな」


 目に付いたラビットに、もれなく跳び蹴りをかましながら森の中までも構わず狩りにかかった。











「ラビットの姿が見えなくなったな」

「ラビットもだけど、やっぱり森は他のプレイヤーいないね。新しいモンスターもでるかな?」


 今の所防御+1は取得出来てない。倒したラビットを湧き待ちするのも面倒何だが……。

 MPも回復したし。待ってても時間が勿体ない。


「この森……なんて名前か知らんが、ここはどんなモンスターが出るんだ?」

「ここ? 名無しの森だよ。出るモンスターはね……」


 名無しの森って……そのままか!? 仕事しろ、運営!


「新しいのは……確かバットとボアだったかな?」

「こうもりと猪か。ウサギの次が猪って、随分難易度上がるな」


 大きさも強さも何だか段違いみたいな感じするし……例えばあの位の大きさで……そうそう、茶色い毛皮に腹部分は白でな、短い足を器用に使いながら突撃してくるんだよな。


 あんな風に。


「って、当たった終わりじゃ!」

「うわっボアじゃないか!?」


 俺が飛びずさった為、ボア? の体当たりは木がそのまま受ける。

 うわぁ、木がとんでもなく揺れてるんだが……。


「ボアって、やっぱりそのまま猪か。あれの突撃はどうみても俺一撃死だよな」

「いやいや、多分僕もだからね!? 矢面にたたせないでよ?」


 でかいし、直線的だから回避は出来るが……姿がでかいから反撃なんて危なくて出来ないじゃないか。


 そんな事で拳で倒せるのか、これ? いくら森はモンスターのレベルがあがるっていっても限度がないか?


 あっても発動出来ないスキルはあっても意味がないってこと。

 俺は突撃で通り過ぎたのを確認してから、拾った小石を投擲する。


 全く、効いてる気がしないな。


 しかし、木にぶつかったボアはその動きを止める。脳震盪? 自分の突撃で。


「マリア、今なら行ける!」

「う、うん。わかった」


 やっぱり木は結構なダメージがあるんだろう。


 これがこいつのダメージパターンでいいのか?


「うりゃゃゃゃゃゃあ!」

「行くよ! えいえいえい!」


 二人で左右に別れて、殴る蹴るの暴行を繰り出す。


「やはり効いてるのかどうかもわからん……邪魔な毛皮だな」


 やはり、ボアは何事もなかったかのように、木から頭を離して振る。


「マリア、挑発で木に誘導できないか?」

「うん、わかった。やってみるよ。ジェイルは?」


 決まっている。距離を取って俺に話しかけてくるマリアに、ボアがまた走り出す前にその背にまたがった。


「決まってる……暴れ猪退治さ」












 器用に乗った俺を、振り落とそうと跳び跳ねるボア。


 これはこれでレアな気がするが、頭の毛をつかんだ俺は動かない。


 この隙にコピー出来そうなスキルを確認する。


スモールボア、レベル6

スキル

硬い毛皮、レベル2〈0%〉

(厚くて強度のある毛皮で防御アップ120%)

猪突猛進、レベル1〈2%〉

(対象を10回以上連続で攻撃する事で、それ以降のダメージを5%上昇させる)

突撃、レベル3〈4%〉

地ならし、レベル1〈10%〉

(力の限り地を踏みつける事で、確率でスタン微)

HP+5〈15%〉



 流石はボス、いいもの持ってるじゃないか! 頂いて俺の糧になってもらうぞ。 

 









 挑発で木に突撃させる事8回。


 ボアに乗っかったまま魔人の左手を叩き込む事12回。

 

 うまく行かず明後日の方向に突撃していったこと……プライスレス。


 やはり拳などの物理攻撃は聞いてる様子はない。ダメージの殆どは木への突撃だろう。


 コピーは……出来た。だが、何が出来たのか確認出来ない為、それは後回しで何処までも魔人の左手を使い続ける。


「大分動きは悪くなってきたが……まだ倒れないのか?」

「ジェイルぅ、これ以上避けるの無理だよお」


 全体がうまく見えない為、俺は考える。


 木にぶつかった時に動きを止める。


 今まではそこでラッシュをかけてたが、ダメージなんて微々たるものだろう。


 なら、その隙に木に飛び乗って顔面に飛び降りれば流石にダメージになるんじゃないだろうか?


 無理だったら……逃げよう。


 マリアにも思い付いた作戦を伝える。


「わかった。じゃあ、これで最後だね。行くよ、挑発!」


 今までと同じ要領で、ボアの突撃をかわして木にぶつけるマリア。ずいぶん巧くなってきたものだ。


 俺はボアの硬直に合わせるように、その背を蹴って太めの木の枝に掴まる。


「よっと……マリア、勝っても負けても戦闘は終わりだ。距離を取っていてくっ!? ……と、おわぁあああ!?」

「シュール!?」


 そのまま木に乗っかろうとしたら枝は途中から折れた。

 俺は両手で折れた木を掴んだまままっ逆さま。


「ーーく、まだまだぁ!」


 予定とあまり変わりはないんだが、勢いとか、心の準備とかある。

 なんとか体を動かして下を向き、真下のボアにダメージを与えようと手にした木を下にする。


 そして……。









「ジェイル、大丈夫? 落下ダメージは?」

「足が痺れてる位だから……それにしても、そんなのまであるのか? 全く……リアルな世界だ事。げっ、1/8までHP減ってる。瀕死の重傷じゃないか。危なかったな、俺」


 俺の身を案じて駆け寄ってくれたマリアと一緒に、ボアを見やる。


「倒せはしたけど……」

「うん。一寸可哀想だね」


 俺が振り下ろした木の枝が、体を貫通して地面に突き刺さっている。

 かなり深くに刺さったらしく、どれだけジタバタしても微動だにしない。


 死因は出血死って事かな。


 そして、その姿を消すボア。

 姿が消えるのと一緒に、木の枝も消えたのが残念だった。

 武器がないから代わりに使えたかもしれないのに。


 いや、あんな感じに折って使えばいいのか?

……いや、止めよう。なんか違う気がする。


 そして、ボアの消滅と同時に俺達の体が光輝く。


「お、レベルが上がった」

「僕もだ。何かクエストもクリアしたみたいだよ」


 そんなの受けたか?


 クエストは……森の主を倒せ……か。


 何、あいつ森の主だったの?


 なんだ、この森のすべてのモンスターがこの位強いのかと思った。


「それにしても何時、クエストなんて受けたんだ?」

「臨時クエストだね。ボアに遭遇した時に自動で発生したんだと思う。集中してたから聞いてなかったけど」


 完了報告は名も無き村の村長、ワイルか。折角だから行ってみるか。


「そうだ、マリアは村に入れるのか? レベル4だよな」

「ああっ!? そうだよ!! どうなんだろう、ジェイルぅ?」


 知らんよ。不安そうな顔のマリアと一緒に、一つの疑問を胸に俺達は村に戻った。


 因みにコピー出来たスキルは猪突猛進とHP+5だった……やったね。










「ここなの?僕には道しか見えないよ?ジェイルは村に入ったんだよね?姿が急に消えたけど」

「なるほど、それがレベル4以上のプレイヤーへの対応なのか」


 マリアは報酬がもらえない事がわかり、見るも無惨なへこみようである。

 まあ、あれだけ死闘を繰り広げたら当然か。


「……仕方ないよ。ジェイル、行ってきてよ。僕はここで待ってるから」

「あ、ああ、わかった。すぐに戻るから」


 慰めようがないので、とりあえず俺は村長の家に向かった。







「よくぞ、森の暴れん坊を倒してくださった。これで、この村も少しは平和になるじゃろう。それで、報酬ですが……」

「一寸待ってもらえないか」


 矢継ぎ早に話を進めようとする村長のワイルに、外にもクエストを行った仲間がいる事を説明する。


「……その者のレベルはいくつですかな?」

「……4だ」

「この名も無き村は、レベル3までの冒険者に解放している。その者は運がなかったとしか……」

「彼女はずっとここを拠点にしており、ボアの討伐でレベルが上がったんだ。それまではレベルも3だったんだぞ」

「しかし……これは規則で……」


 何やら渋るワイルに尚もいい募る。


「彼女が居なかったら俺はボアを倒すことができなかった……失敗していたら村へ更なる損害が降り注ぐ結果になったかもしれないが?」

「……この村にも余裕はない。貴方への報酬を分ける形になるがよろしいか?」


 俺がもらってから分けても一緒じゃないのだろうか? と、一瞬思ったが、直の方がマリアの気分も違うだろう。

 俺は躊躇う事なく頷いた。


「では、その者の所へ案内して下され」

「ああ、よかったよ納得してくれて。最悪、この村のあり方を変えさせなきゃいけないかと思ってたんだ」


 今回の場合みたいな、プレイヤー放り投げのクエストはよくないからな。


 しかしよかった。言ってみるものである。












「あ、ジェイル、お帰り。クエスト、何をもらったの?」

「それなんだけど……」

「貴女がジェイル殿の言われていた冒険者ですかな?」

「わ、あなただれ?」


 座ってぼうっとしていたマリアは、俺の姿を見るや立ち上がって駆け寄ってくる……が、続いて出てきたワイルに驚きをあらわにする。


 そこで、話をしてマリアにも報酬を貰う事が出来るようになったことを説明する。


「本当に!?」

「ジェイル殿の熱意に負けた形ですな」

「有難う、ジェイル!」


 当然の事だから、なんか礼を言われる方が変な感じだ。最終手段も使わずに済んだし。


「では、こちらになります。マリア殿はスキルディフェンスを。ジェイル殿はスキルサモンクロウを。二人ともこの度は真に助かった。ありがとう」

「え、スキルって、本当に? しかも、魔法?」

「サモン系スキルって……召喚術か? そもそも使えるのか?」


 俺、そんなMPないんだが……。


「心配はないと思いますぞ。クロウのコストは1。精神力は、冒険者なら誰でも持ってる筈ですから」


 スキル詳細……。


サモンクロウ、レベル1

MP1

HP2

攻撃1

防御1

魔攻1

魔防1


 おお、確かに呼べる! 能力的には頼り無いが、全然問題ない! よし、これはドライ達への第一歩だ! 


 後から考えると恥ずかしいが、俺達は手を取り合って跳ねながら喜んだ。

 そして、村長ワイルは嬉しそうに見つめているというこの光景……。


 これも俺の人生の汚点の一つにならなきゃいいが……。













「と、言うことだ」

「やっぱり楽しそう……私も一緒にやりたいです」

「うーん。ボアってきっとそんなやられ方するようなモンスターじゃないよな、絶対」


 とは言ってもそれが事実だ。むしろ、お前達の方が俺は気になるがな。


「こっちは……まあ、一寸不満は出てるな」

「不満……か」

「ああ。始まったばかりの魔王クエストがいきなり凍結されたからな。プレイヤー側からしたら、ただのやられ損だし」

「それに関しましては補填と言う形で保証をしようかという話が出ています」


 保証? と言うか、やっぱりいたんだ。芽依はメイドと言うよりアサシンかなんかじゃね?


 気配遮断がうますぎる。


「何? 俺も知らないぞ」

「私が純也さんと一緒にプレイする事ですか!?」

「それは追々で……今回は皆様が住んでいる町の名称変更権です……と、言うか既に変更しています」


 え、なにそれ? 知らないんだが。


 二人もそうみたいだな。どうやら、俺がお知らせを見てないから、な訳じゃないみたいだ。


「前回の美玲様のクエストで一番貢献したプレイヤーに権利を与えました」

「それって純也じゃね?」

「純也さんの事ですか?」


 いや、知らねえから。それに、俺達に与えても仕方ないだろ。


「そうです。そして、変わった名称に関しては……」

「関しては?」


 溜めるな……意味深な。


「お楽しみです。発表をお待ち下さい」

「うぇ!? マジか!」

「あーそうだと思いました。愛さんそう言う振り好きですもんね」


 この兄妹とメイドの付き合い方を見た気がする。


「きっと純也様は驚きますよ」

「そうか……じゃあ、楽しみにしとくよ」


 俺の今いる場所には関係ないんだが……まあ、そうするか。


 その後は、この日も何だかゆっくりとした時間を皆で過ごした。

 

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