第七話、業務内容を教えて下さい
「甘い、甘いぞ、ザコ共ぉ! 俺に触れよう等とは100万年早いわ! 下僕一号、やぁっておしまい!」
「へいへい、お前達に恨みはないが、俺とこいつの為に消えてくれ」
木上翔……パーティーメンバーのロマノフの攻撃で、消えていく自分と同じ位のサイズのミミズ。
俺は近くにいた次のミミズに、フィールドに落ちている小石や木の枝を拾って投げつける。
「必殺! スローイングウッドブレイド!!」
「ただの尖った木片な」
うるさい、気分位出させろ。この位やらなきゃ、この虚しさは消せないんじゃ!
投擲にダメージなんかない。
この役立たず具合考えると、ぶっちゃけ俺いなくていい。
軽くヘコみながらその辺のものを放り投げている俺。
華麗にショートソードで斬りかかるロマノフは、ミミズにトドメを刺す。
そして、俺は次のミミズに狙いを絞る。
適当なものを投げる投げる投げる。
あ、レベルが上がった。
「おめ。これで、後5だな」
「なんか、俺が冒険してる気がしねぇ。これじゃあ俺の護衛クエストか何かだろ?」
俺は戦力にならない。殴られたら、ランクに関係なく一撃死。
そんな敵をその辺の物を投げておびき寄せる位しか出来ない。(釣りと言うらしい)
そして襲ってきたモンスターはロマノフが殴ってターゲットを取る。
より高いダメージを与えた方にモンスターの狙いが向くらしい。タゲ取りと言う。
スキルでもなく、ただただ落ちてる物を投げているだけ。
普通はそれでもなんぼかダメージにはなるらしいのだが、そこはこの世界で絶対安静の重病人よりステータスが低い俺。
当然のようにダメージは0。
俺は全然楽しくない。
いくらレアジョブとはいえ、現段階で全く戦力……と、言うか戦闘がこなせない農民から脱する為、転職可能となるレベル10を目指して、まるで寄生虫のような暮らしをもう一時間はしてる。
「まあ、気持ちはわかるがな。でも、このまま農民が楽しめるジョブになる可能性は低い。だから、後レベル5分だけなんとなくやっていこうや」
むう……なんだかなぁ。
「ほら、次のミミズ行こうぜ」
ミミズばっかりだな。ウネウネウネウネ、気持ち悪いんじゃあ!
落ちてる石を拾う……なんかさっきより一寸大きい。これで、ダメージが入ればいいのにな。
このやりきれない感じを、力一杯の投擲で少しは発散させる事にする。
「怒りの! 馬鹿力!」
VRMMOの特性を生かして、振りかぶって石を投げる。
言い忘れたが、VRMMOとはヴァーチャルリアリティの事な。
リアルでの自身の身体機能が反映される。
それは勿論任意なので、オフにする事も出来る。
汎用こモーションに頼ってたら即死決定の為、俺は当然オンだが。
「お?」
「あれ?」
俺の必殺石投げが直撃してこちらにウネウネ向かってくる。と、言うのがいつものパターンなのだが、意味不明ののけぞりを見せるミミズ先生。
「今のは何だ?」
「俺が知るか」
はて……心なしかダメージも発生しているようなしていないような……。
向かってきてるが速度が遅くてここからじゃよくわからん。もう一回試して……っと。
「それっ! 焼き肉定食!」
「何そのかけ声?」
今食べたいものを気合いと共に叫んで、拾った石を放り投げる。
「やはりのけぞるな」
「どうなってるんだ? ダメージあるぞ」
ウネウネからまた動きを止めて、のけぞる動作を見せるミミズさん。
そのHPバーは、二回同じ事を繰り返したせいか目に見えるレベルで減少した。(大体10%位)
「急だな。何で急にこんな事に? 俺の日頃の行いがいいからか?」
「お前……行いがいいつもりだったのか? だとしたら一回何処かで見てもらった方がいいぞ」
失礼な奴だな。ダメージ自体は低い為、気にせずどんどん近付いてくるミミズ。
そんなミミズに三度目の石の投擲。
ここまで近付けばもうはっきりわかる。見た感じ一撃5%位ずつのダメージが発生してる。
そんな事を探り探り繰り返して、なんだかんだで落ちてるものを投げて50%位HPバーを減らすことが出来た。
今までの俺からすれば有り得ない出来事だ。
「なんだかよくわからんが、ここからは俺の領分だな。行くぞ!」
飛び出していくロマノフ。
しかし、急にグリンッ! とこちらを振り向くと、私気がつきました! と、言わんばかりのどや顔を見せる。
ウザイ、しかもキモイ。
「お前! これって何かスキルを覚えたんジャマイカ!?」
「ああ……確かにウザイ」
「何の話だ! しかも、それ俺の事だろ!
こんなにいい奴に向かってウザイとはなんだ! ナイスガイと言え!」
「うわぁ……この上なくウザイ。でも、スキルか、確認する余地があるな」
英雄然と振る舞う奴を見てても癪に触るので、言われるまでもなく早速メニュー画面を確認する。
………………。
うーん、何だろうなこれは。
スキルは確かに得ていた。説明書きを読む……読む……読む。
地面に落ちている石を見る……拾う……手に取った石を見る……説明書きを読む………地面に落としてみる……拾い直してみる。
ふむふむ……なるほどなるほど。
「どうだった? って……何やってんだ? お前」
ミミズ様を滅殺したロマノフが俺を不思議そうに見ている。
「うむ、スキルを覚えたようだが……まず既存の物は、農耕レベル1、農具レベル1、採集レベル5だな。採集がかなり上がってるな。あの意味のないと思ってた釣り宣言も多少意味があったらしい。で、新しいのは、ランクアップだと。レベルがないな。つまり、これ以上強くならないスキルって事」
「いや、マジか! 詳細は!? 詳細!?」
うるさいやつだなぁ。
詰め寄るな、興奮するな、目を輝かせるな、気持ち悪い。
「ランクアップは……初めて拾ったもののランクを上げる。石とか木片、拾った時に若干大きくなってた。多分良質な物になってるんだろう。だから俺のステータスでもダメージが発生したんだろう」
「おまっ! それ、かなりレアだぞ! レベル指定のないスキルはクラス固有の物だし」
固有スキル、農民の? ……こんな低レベルで覚えるものなのか?
ま、とりあえず、これで我が軍は補給なくてもまだまだ戦えるようになったな。
「つまり、俺に戦う術が出来たって事だな」
「そうなるな……面白いなお前。農民って意外と侮れないなぁ、何気にただの投擲が俺の一撃と同じ位になってるし」
戦えるなら転職する必要ないな。
ジョブも油断出来ないし、なんかそうすると無理にレベルあげなくてもいい気もするな。
「じゃあ、いいか」
「……え?」
「俺は農民王になる!」
「きっと修羅の道だぞ」
「俺にはこれがある!」
落ちてる大きめの木の棒を拾う。
「この固有スキルで、全てを平らげる!」
「おい! それ、未鑑定アイテムじゃないか?」
ん? 手にした棒を見てみる。
モンスターみたいに棒をチェックする。
棒、未鑑定……か。そのままだな。
「鑑定ってどうやるんだ?」
「なんで、未鑑定アイテムなんか拾えるんだ? 普通だとモンスターや宝箱ドロップだろ? おかしいだろ? なんで、拾えるんだよ? 世の中間違ってる」
はよ教えろ。
「あ、ああ、すまんな。鑑定の手段だったな。街の鍛冶屋とNPCの武器屋、後、スキルを所有したプレイヤーだな。ま、最後は進めないがな」
人を信じるなって事か?
「まあな。鑑定結果からふっかけてくるやつや、持ち逃げするやつもいるからな」
じゃあ、きまりだな、とりあえず武器屋に行ってみるか。
「……まさかクワなんてな。本格的に農作業に精を出せって事か」
「クワなんて全くを以て出回ってないし、むしろ農民専用のドロップだったんだろうな、良かった」
ダンダクール武具工房とか言う武器と防具を置いてるNPCの店で棒を鑑定した俺達。
結果は木のクワだった。
農民のスキル、農具熟練に適応されると思われるそれを手に入れた俺。
折れた木の棒から装備を変更して、なんとか農民もやっていけそうな感じが受けながら、今日はログアウトする事にした。