第三十三話、ウサギは寂しいとどうなるんですか?
「スキルって凄いな。挑発が慣性を無視して、目標に向かわせるスキルだとは思わなかった。一寸侮ってた」
「僕もパーティーは初めてだから、あんな仕様だと思ってなかったよ。一人でやってた時は変わらなかったし」
先の俺達が全滅したラビット戦。
そこで使われたマリアのスキル、挑発。
それは、空中で俺に迫っていたラビットの向きを、マリアの方向に変えさせる程の力があったのだ。
「ジェイルは何か新しいスキル覚えてないの? 初めの一個目は覚えやすいって言うけど」
スキルねぇ。それも縛りプレイの一環で……コピー以外でのスキル取得は出来ないんだ。
でも、それは言えないし。
「いや、特に増えてないな」
「そっかぁ、でもモンスターから盗れるんだよね。何かいいのあった?」
いや、ラビットとしか戦ってないぞ。まぁ、あるにはあったが……。
「ラビットが突撃と防御+1を持ってた。コピー確率は低かったが」
「そうなの! じゃあ、行こうよ。当然行くよね?」
まあな、出来ることをやっていかないと弱いままだしな。
「私ならいつでも付き合うから、ね、行こうよ」
いつでも? この娘は……学生じゃないの? まさか、引き籠もり? 触れないでおこう。人には触っちゃいけない事もある。
考えすぎかもしれないし、ま、いってみる。とりあえずその辺の村の外に。
「今度はリンクしないように……僕が釣るよ」
「そうか、じゃあ任せた」
「狙いを付けて……えい!」
手にした小石を拾って、投げつけるマリア。それは寸分違わずピョンピョン跳ねてるラビットに直撃する。
レベルの差か? 俺よりダメージが高いな。いや、ステータスの差か。
「来るよ! さ、準備はいいジェイル?」
「構わんが……それは釣ってから聞く事なのか?」
マリアに向かって飛び込んでくるラビット。
そのジャンピングタックルを腕をクロスすることで受けるマリア。
成る程、タイミングを作ってくれたのか。じゃあ、遠慮なく……。
「スキル、魔人の左手!」
スキル発動と同時に顔面を殴り飛ばす。
別に言う必要はないんだが……気分だ気分。
「ーーどう?」
「そう簡単にはいかんよ……後1回」
失敗。
今のでラビットのターゲットが俺に移る。
懲りずにジャンピングタックルをかましてきたラビット。
俺は飛んだ時に合わせて、そのまま蹴り上げる。垂直に浮かび上がるラビット。
落下に合わせて、再度魔人の左手を発動。
「どうだ! せい!」
「キュピ!?」
んーー駄目か。MP回復速度から考えて、こいつは無理だな。
後は殲滅するか。
起きあがる前に駆けよって止めを刺す。
「ん、失敗だな」
「ずっと思ってたけどジェイルはやっぱりおかしい」
またその話か。もう、翔からも散々言われてるからもういいんだが。
「相手をよく見て予測を立てれば誰でも出来るって。言わなかったか?」
「そんな感じの理論はさっき聞いたけど、実践出来ないよ! だって、自分に向かってくるんだよ」
あーそうか。実践経験がないと、その辺は怖いか。体が硬直しちまうしな。自分の力の半分も出せなくなっちゃうしな。
「それは、まあ……慣れろ。プレイヤーは皆、そうやってやってるだろうし」
「身も蓋もないよ……結局、ジェイルが出来てる理由になってないし」
「俺は、まあ……慣れてるから?」
主に馬鹿のせいで。
「……がんばるよ」
「攻撃を受けれてるだけでも大した物だと思うがなぁ。あれだって怖いだろ」
「それはまぁ、僕は騎士になりたいから、頑張ってるんだ」
騎士か。ノブレスオブリッチか? いや、そこまでのものじゃないか。
「じゃあ、挑発は都合がいいスキルだったんだな」
「そうだよ。必須だと僕は思ってるよ」
まあな、俺もそう思うよ。
「所で、ジェイルのMPってどのくらいで回復するの?」
「大体3分位か?」
「じゃあ、どんどん出来るね。でも、MPとHPの回復って、アイテムと宿以外にないから不便だよね」
「自然回復が抜けてるぞ。それに、休息を取れば回復するだろ?」
「え? なにそれ!? 知らないよ、そんなの」
基本常識だと思ったが、違うのか?
「武器を締まって地面に座り込むこと。それでHPとMPを使わなければ回復量が増えるぞ」
「そうなんだ……」
まあ、今の俺達には関係ないがな。
視界にラビットが入ったことで、休憩は終了。
スキルコピーの旅が今、始まる。




