第三十二話、相討ちはよくないと思いませんか?
右フック。ストーンイーターは左に振られる。
左フック。ストーンイーターは右に振られる。
右ハイキック。ストーンイーターは左方向に飛んでいき、そのまま動かなくなる。
当然、左手でぶん殴る時に、魔人の左手は発動させてある。
「ん、満足、満足」
「なんか、機嫌悪くない? ジェイル」
「……そんな事ない。俺は誠心誠意レベル上げに勤しんでいるだけだ」
薬草を買う為に、名も無き村に戻った俺とマリア。
その時、試しに無料の宿泊施設、馬小屋に泊ってみたのだ。
うるさい、臭い(気がする)、藁の上じゃ寝れない、馬に蹴られるとダメージがある、様々不満はあるが……一番は気に入らんのは……。
「それでも回復している自分に腹がたつんじゃ!!」
見つけた新しいストーンイーターに、助走をつけた状態での飛びげりを叩き込んだ。
「……八つ当たりじゃない」
「あーあーあー聞こえなーい」
ゲーム内時間の二日目も順調であった。
どうやら、同じ名前のモンスターにも個体差があるらしく、ストーンイーターでも動きや耐久力に違いがあった。
だが、あの程度の動きの差は全くの誤差。
どの個体も余裕を持って倒せる。
時間でMPは自然回復するから、全く問題ないし魔人の左手使いまくり。
で、何匹目かで問題なく、HP+1をゲットした。
変更点1。スキルをコピー出来たときに体感で感じられるようになった。
なんか、体が熱くなるような感じで、何かが入ったってイメージを受けた。
変更点2、こっちはまた問題であった。
「ジェイル、どうしたの?」
「ん、ストーンイーターの持ってるHP+1なんだが……もう一回コピー出来るみたいだ」
そう、前みたいに一回コピーしたら、その種類のモンスターはコピー不可になるかと思ってたら、そうでもないのだ。
一応、コピー確率は減ってるが、問題なくコピー可能なのだ。
こんな感じ。
ストーンイーター、レベル2
スキル
土中移動、レベル1〈0%〉
HP+1〈0%〉
でも0%です。意味ないし! 0はどこまで行っても0だぞ。
こんな仕様変更しなくていいのに……後で確認してみるか。
それにしても、手に入るアイテム、ミミズの肉だけだな……食べるのか?
一昔前のハンバーガーか?
倒したストーンイーターを背にしてため息をつく。
このままやればその内レベルが上がるだろうが……いいのか、これで?
もっと刺激を味合わなきゃ勿体なくないか?
ま、要は飽きたのだ。この辺で別の奴とも戦いたい。
「あれにするか……」
「ラビットにするの? ……まあ、僕がいるから大丈夫だとは思うけど……」
何だ? 強いのか? 思いつきだから、戦闘不能を賭してって程じゃないけど……。
「……来たな」
「ラビットはアクティブモンスターだからね。大丈夫だよ。やられそうになったら僕が何とかしてあげるから」
やられそうに、って……俺、当たったら即戦闘不能なんだが……あれ? 俺マリアにステータスの事言ったっけ?
言ってない気がする。
何はともあれ、ウサギを観察する。
ラビット、レベル3
スキル
もこもこ毛玉、レベル1〈0%〉
(もこもこの毛玉でダメージを吸収する。damage低減1)
突撃、レベル1〈10%〉
(勢いをつけてぶつかる。ダメージ110%)
防御+1〈15%〉
コピー出来るスキルが2個もあるな。待望の発動系スキルだ。突撃は抑えておきたい。
俺のリアルラックに期待だな。
それにしても……ウサギなのにノンアクティブじゃないとは……寂しいと死んじゃうんじゃないのか? バリバリ肉食系じゃないか。
いや、むしろ、あれは構って、構っての構ってちゃんの証なのか?
「何考えてるの! 来たよ! ジェイル」
「ん、わかってる」
ピョンピョン跳ねて近づいてくるラビット相手に、地面に落ちている小石を投げつける。
俺の今までのメインダメージソースだと思う。
スキルもないが、投擲だ。投げ方は前と同じ。もうこれは癖になってるから、そうそう変えられないな。
残念ながら、道が結構整備されてるから……仕様なんだろうが殆ど落ちてない。
脇道に逸れて活動するか? それとも他の村にいけば状況が変わるのか?
「キャン!」
「体勢を崩したな……HPゲージの減りかたを見ると、倒すまで大体小石五個分位か」
当然持って無いけどな、偶然落ちてただけだし。
「ラビットはね、まず……」
「おお……ジャンピングタックル。これが突撃か? 甘い甘い、その程度じゃ俺にダメージは与えられないな」
「……何で避けれるの? まだ、説明終わってないのに……」
俺は体を反るようにして回避する。
マリアが何やらよくわからない事を言っているが、あのタイミングで攻撃方法を説明したら手遅れだろうに?
反転してまたジャンピングタックルを繰り出すラビット。
反撃、と、ばかりに、魔人の左手込みで正面から左ストレートをぶちかます。
「キュー!!!??」
「モーションそれしかないのか? だったら、敵じゃないな。初心者向け何だろうが……楽すぎるだろう?」
飛んでいって地面でバウンドするラビット。
「よし、攻撃力1の拳でも小石一発分に近いダメージが入るな。後、4発弱か……つうか、小石ってやっぱり、この程度か。入手率も悪いのに弱いのか……これも場所が変われば変わるのかな?」
「……ジェイル、君のHPも減ったよ」
何、マジか! 何でよ???
即座に自分のHPゲージを確認する。
おお、5/8まで減ってるし。ダメージ高すぎだろ。一回3も減ったのか? HPフルでも3発殴ったら俺が死ぬじゃないか。
なんてアンバランスな。
あの肉食系ウサギ、まさか、毒でも持ってるのか? だとしたら強敵だな?
「とんだ強モンスターだ……」
「多分ジェイルの考えてるのは違うと思うよ……僕達は素手なんだよ。ラビットの突撃を反撃したら、攻撃判定を受けるよ。相手にもダメージがいくのは利点だけど」
成る程、そんなのがあったのか。ミミズは平気だったのに……堅めの相手は駄目なのか。
むしろ、初めに言えよそれは……良かった、対応出来る敵で。
「つまり、相討ちを狙うんじゃなきゃ、攻撃後とか、対処出来る隙をつけばいいだけだろ?」
「だけって……それが出来れば苦労はしないよ……」
いや、そうでもないだろ? だって、飛び上がってタックルしかしてこないんだぜ?
単調な突撃しかしないラビット。ジャンピングタックルを終えて地面に降りた時に、蹴りつけて別に苦もなく撃破する。
「ま、こんなもんだな。やっぱり蹴りはHP減らないんだな。レベルか、ステータス、もしくはスキルの影響か? 反射ダメージ受けるのは」
「わからないけど……でも、ジェイルは何で攻撃、当たらないの? ズルいよ、抗議するよ」
ズルいって……何で怒られてるんだろうなぁ?
「だから、軌道と予備動作を見てれば回避は余裕だろ?」
「そんなの、普通の人は出来ないよ。ラビットにだって、僕、何回やられたか……」
マリア、ストーンイーターの時も言ってたが……一体何回やられてるんだ……むしろ、不憫な子なのか? マリアは。
「ドロップは……ウサギの肉か。やっと、食べられそうなのが来たな」
「名も無き村じゃ、素材を調理出来ないよ」
そうなのか? じゃあ、暫くアイテムボックスの肥やしだな。
ラビットからスキルコピー出来なかったな。一寸狙っていきたいな。
「……あ」
「どうした、マリア?」
マリアが俺を見て固まる。
「ジェイル!!」
「何だ、急に?」
回れ右で走り出すマリア。
何なんだ。俺、逃げられるような事したか?
散々、変な奴認定されて、尚且つ逃げ出されるとは……流石の俺も一寸傷つくぜ。
「ジェイル、何やってるの!? 後ろ! ラビットがリンクしてるから!」
マジか?
ま、俺に不満があったんじゃないならよし。
表面上は無表情を保っていたが、ガラスのハートがガシャンガシャンだったから、なんとか生き抜いたな。精神的に。
やっと言いたいことが把握出来た俺は、自身の後方を振り替える。
「5匹か……この距離じゃ、もう逃げきれないな。出来る所までやって華々しく散るか」
マリアは既に離脱してるから問題ない。俺の旧ジェイルの時に身につけた、超回避術をみせてやるぜ。
「甘い! その程度で、俺を捕らえられるか!」
蝶のような舞いを見せて、ひらりひらりとラビット達のジャンピングタックルを回避する俺。
ラビットは時間差で近づいて来てるので、今相手にしてるのは2匹。
残3匹が来た時にどうするかな?
そもそもMPもさっき使ったから残1だし、HPも減ったままだから5しかないし。
当たったらおしまいなのは変わらないが……なんか、この理不尽な感じ……ゲームの初期の城の周りにでるモンスターとか、こんな気持ちなのかな?
ラビットって小さいから、パンチングボールの感じでラッシュかけれないかな?
動物愛護団体に文句を言われないように、と祈りながら、試しにラビットを1匹サッカーボールの要領で蹴り上げる。
綺麗に眼前に跳ねてきたので、左右の拳を滅茶苦茶に繰り出すラッシュをかける。
今度はダメージが返ってこないように、毛に覆われてない顔や腹を集中攻撃だ。
これであってたみたいでダメージは受けない。
「ふっはっりゃりゃりゃりゃりゃ……だあ!」
そして最後は当然魔人の左手フック。地面に落ちるときには戦闘不能状態のラビット。
予想通りワンラッシュでラビットを沈める事に成功する。
「後、4匹か。意外に出来るものだな……と、後続も来たか。よし! 農民2代目ジェイル推して参る!」
目の前の1匹のラビットに身構えながら、気合いを入れ直した。
「はっはっは。やっぱり駄目だったか」
「ごめんね。僕がもっと早く戻ってればなんとかなったかもしれないのに……」
あの時、目の前のラビットと睨み合っていた俺は、後続の3匹に追い付かれた。
散る事を想定してるとは言え、むざむざやられるつもりもない為、HP的に一撃でアウトの俺は、攻撃を捨て回避に専念せざるを得なくなった。
勿論回避なんてしきれない。2匹まではなんとかなるが流石に3匹は無理だ。
3引き目のジャンピングタックルに対処できずラビットCの体が眼前に迫った。
しかし、それは間一髪戻ってきたマリアが、スキル、挑発をかけてくれたおかげで生き延びた。
それにしても、慣性を無視して空中でラビットの向きが変わるとは……予想外です。
最も……直後、ラビットDのジャンピングタックルを受けて俺がやられた為、4匹を相手取る事になってしまったマリアも駄目だったのだが。
無念。
「いや、こっちこそ悪いな。マリアを死なせる羽目になった」
「いいんだよ。もともと僕がもっと詳しく説明しとけば良かったんだから」
「いや、やはりここは俺が……止めよう、きりがない。両者痛み分けといこうじゃないか」
仲間と共に、2代目ジェイルは戦闘不能になったのだった。




