第二十八話、無双転生は別れの味
「純也、お前には資格がある。転生するか?」
魔王アンリマンユとのデモ戦が終わり、ヘッドセットを外した俺。その後なんだかんだで徹夜してしまった。
そこには何故か、腕を組んで俺を見下ろすように立つ翔がいた。
「何してんだお前。頭沸いたのか?」
「おまっ、ここは乗れよ! 死亡異世界転生は男の夢だろ!」
こいつのバカはいつものことだが、急すぎて頭がついて行かない。
「お前一人でいけ。そもそも何で貴様俺の家にいる。お縄につきたいのか?」
「ふっ、我ら天上院に司法の手は届かぬよ。さぁ、選ぶへらっ!?」
「お兄様、いい加減にしてください。戯れ言はその辺で……私達はそんなことをしに来たんじゃないですよ」
とんでもない音とともに頭を抑えて悶絶する翔。その後ろに立つ包丁を手にした美玲。
それでやったのか? 翔……召されたか?
「お前っ! そんなので殴ったら死んでしまうだろ!」
「大丈夫です! 柄の方ですから」
「そんな問題なのか……」
と、言うより美玲もいるのか……家の防犯体制、見直した方がいいのか?
いや、家族になるからいいのか? でも、まだ違うし……だが……いや、止めよう。多分何をしても無駄だろうし。
天上院か。
「おはよう、美玲。こんな朝っぱらからどうした? 俺に会いに来たのか?」
「はい! あ、いや、用事はあるんですけど、それも目的だったというか、あの、ええとですね……」
「美玲、お前こそ話が逸れてる……おー痛てて……」
ふむ、とりあえず、何か用があって来たのは間違いないのか。
「で、美玲、どうしたんだ?」
「おい、俺にも聞けよ。親友だろ」
「そうだな、親友、一寸向かいの小麦飯店で炒飯大盛り買ってきてくれ、な、親友」
朝から炒飯は油っこいが、あそこのは不思議なほど胃がもたれない。
いい付き合いをさせてもらってる。
「そんな事か。よし! この親友の俺に任せてくれ!」
「お兄様……」
「チョロい……」
家を飛び出した翔。鍵を念入りに閉める俺。
「純也様の趣味、思考は全て把握しています。お好きと言われていた炒飯も、こちらに……」
「ーーっ!? やっぱりいたんだ。あんまり驚かせないでくれ、芽依」
既に俺の求める炒飯はあった。それを口にしながら、さり気なく翔が無駄足になったなぁ、とか考えていた。
「で、何の用なんだ? いい加減知りたいんだが?」
あの後何故か用意されていたチャーシュー麺と小籠包も摘みながら確認してみる。
「はい、まずは淳也様に謝罪を」
「謝罪? 何かあったのか?」
俺にわざわざ謝ることなんて何かあるか?
「不法侵入について?」
「いえ、その程度の些事では御座いません」
俺の家に侵入するのって、些事なんだ……?
こうなると本格的にここに住む意味がない気がする。
「美玲?」
「ええっと……OOの淳也さんのキャラクターのジェイルのデータが壊れちゃったんです」
ん? 今、さらっと言われたけど、結構大変な事言われた気がする。
「はい、淳也様、コーヒーのおかわりは如何ですか?」
「ああ、もらおうか。で、何故?」
「あのですね、原因はあれなんです。さっきの私の魔王戦なんです……」
なんか、長々と話があったので割愛するが、何でも大量のプレイヤーを滅殺しすぎたせいでシステムに不具合が出て、一部のキャラクターにエラーが出たらしい。
「で、そのエラーが出たキャラクターが、俺と……」
「私……」
「そして、私を含めました三人分のキャラクターデータになりますね」
何でその三人? あれか? 無理難題ばかり言ったから恨まれてるのか? 天上院が……いや、それはないか。
「まさか……」
「それは有り得ないと思われます。日本に住まう人間に、天上院に対して不利的行動をしようと思うような命知らずはいないと思われます」
「だよな。俺も言ってそれはないと思った」
一般人に取って、天上院は正に天上の存在。経済界を統べる存在なんだ。
もし何かあって、もし人間が出来てない奴が天上院にいたら現実的に首が飛ぶだろうし。
「やっぱりそんな感じなんですか……はぁ、中々皆さんわかってくれないですね」
「仕方ないと思いますよ、美玲様。天上院の人となりを知る機会は数えるくらいしかありませんから。実際先程まで、土下座で謝罪に来ていましたし」
来てたんだ……それに土下座か……ロックスカン社も必死だな。
指先一つで会社がつぶれるかもれないと思ってるんだから。
「じゃあ、偶然俺達三人が選ばれたのか?」
「いえ、これにも一応理由があります」
「私達が一番最後にデータを追加したキャラクターなんです」
ん? どう言うこと?
「会社側でデータを更新したキャラクターが私達だったので、一番最新のデータだから消えちゃった訳です」
「他にも大陸が一つと、新規モンスターが42、スキルや魔法が33、アイテム類が91ロストしたらしいです」
あー結構大事じゃないか。
「なぁ、それってさ。俺達(むしろお前達)が途中が追加データを弄りすぎたから容量が足りなくなった、とかないよな?」
「…………愛さん?」
「美玲様に翔様は何も問題ありません。そんな事実はないのですから」
今、さり気に認めた気がするが……まあ、気にしないでおこう。
俺も大人になったものだ。
原因不明のエラーでデータ消失した。うん、それでいいじゃないか。なあ?
「で、どうする? 新しくキャラクターをつくればいいのか?」
「淳也さん。あっさりしてますね……」
魔王が出来なくなったなら、イベントは暫く持ち越しか。
でも、データが記録に残ってるなら新しく同名のキャラクターを作ればいいのか?
俺も馬鹿みたいにチートになってたし。まあ、いいんじゃないか?
「淳也様、私達に関しては記録は残ってるので完全に復旧出来ますが……それを望みはしませんよね?」
「なんでそう思う?」
芽依の言葉にニヤリと笑ってみる。このメイド、中々わかってる。
「ですよね? 淳也さんなら、またすぐに自然チートになりますしね? 今度は何をやりますか? 縛りプレイですか?」
あー今度はそれもいいな。
でも、ドライ達幻獣達と別れるのも寂しいしな……どうしたものかな?
考えながら俺は、部屋においておいた物干し竿を手にする。
「淳也さん? 急にどうしたんですか?」
「いや、そろそろ頃合いかな、と思って……」
物干し竿を玄関に向かってかまえる。
「スキルはどうでもいいんだが、ドライ達とわかれるのは辛いな…………っとぉ!!」
「じゃあ、そんなときは俺にーーっおわぁ!? 何だ! こんなもん当たったら死んじまうから!」
うるさい、タイミングを計って入ってくるな。
「寸分違わず翔様の真横の壁に……流石は天上院次期当主」
何で当主? そんな面倒くさいの勘弁してくれ。
「付き合いが長いからな。大体わかる。お前、炒飯はどうした?」
「私も早くわかってほしい……」
「愛さんが持ってたろ? 俺無駄足だったじゃないか。それより、縛りプレイとジェイルからのスキルの追加もやればいい」
むう、まあそうなんだが……。
「そうですよ、そうしましょうよ。私も一緒にやります!」
「美玲様は駄目です。イベント用に再構築しますので、ミリンダを使用してください」
「えー私、淳也さんと一緒にやりたいんですけど……」
「諦めろ、この不具合だけでもマイナスなのに、メインイベントの魔王まで駄目、なんてなったらロックスカン社が大打撃だ」
じゃあ、俺一人か? 芽依はどうするんだ?
「私は魔王の一人としてデータを作り替えていた所でしたので、そのまま継続してやりたいと思っています」
「そこまで決まったなら、後は俺達に任せろ。お前を素敵なキャラクターに変身させておいてやる」
「いや、お前達は信用ならん。気がついたらチート満載のぼくたちのかんがえたさいきょう、にされるから俺も混ぜてもらうぞ」
「じゃあ、一緒にやりましょう。場所は今回特定の新規プレイヤーにのみ追加されている隠れ里から初めてもらうのはどうですか? あそこならまだ皆レベル一桁ですよね?」
「ああ……あそこか。確かにちょうどいいな。レベル制限もあるし……」
そんなこんなで、俺はあれやこれやと追加された新規プレイヤーで新しい大地に立つ。事になった。




