第二十七話、無双なんて目じゃない簡単なお仕事ですか?(3)
「まさか、あやつ等まで負けるとは……だが遅かったな。私の儀式を止められなかった時点でお前達の負けだ! さあ、蘇れ! いにしえの王よ! 消え去りし、永劫の時を生きる覇王よ。この世の全てに永遠の救いを与えたまえ」
そして、ローブの人は消え、男はそのまま発動した魔法陣の光に飲み込まれた。
「光が消えたら、実は誰も残らなかった……とかだったら平和に話が終わるな」
「どう見てもそんなことないでしょ」
「浮いてる……あれは……女の子?」
ペインキラーとリィントゥースの声によく見直してみると、光の中でローブの女性が浮かび上がっている。
ローブをはためかせていることで初めて性別がわかった。
後は微妙に体格が出たから。
「お、光、収まってきたぞ」
「あれが魔王なのか? 今なら無防備だぞ」
「ブリュウナク、空気読め。何のために全員で見てると思ってるんだ」
勢いが弱まると共に、ローブの人はゆっくりと地面に降りていく。
あれ、美玲なんだろうか? 全く確認出来ない気がするが。
「あ、動き出したぞ。戦闘準備はしておくぞ」
「生贄に憑依した魔王。そんな設定か?」
設定とか言うなよ。宣伝用ムービーとかいっちゃう俺も何だが。
そして光が無くなった時、ローブは消え去り何故か紫の全身鎧を着たナニカがいた。
「……何で?」
「ん? どうした、ジェイル。確かに魔王って言うよりは一寸側近っぽいけどな」
「あんまり強くなさそうだね」
楽しみにってこういう事? 確かにある意味凄く驚いたけど……美玲のセンスって、侮れない。
「ーーーー!!」
「何か言ってるか?」
「いや聞こえないな」
「ひ、ひひ……成功だ! おい! 仮初めの魔王、こいつ等をやれ! やってしまえ!」
あれはもう美玲なのかな? これも振りなら……何をするかというと。
全身鎧は無手の状態から、右手に闇が集まり巨大な漆黒の大剣の形となる。
「さあ、お前等ももう終わりだ。先程のチンケな魔族程度とは格が違うぞ! もう終わりだ、終わりなんだ…………あ?」
そしてその振り上げられた大剣は、そのまま男を両断した。
「ーーーー!!」
そのまま大剣から吹き出た闇に、取り込まれるように消滅する男。
「ウウウウオオウウウオオオオオオオ!!!」
「叫んだ!?」
「やはりこうなったか。だが、この後どうなる?」
周囲の大気を揺らすほどの、力の限り咆哮をして俺達を足止めしている魔王。まだ一人も動かない。
「ウオオオアアアアオオトアト……………………ヤット……ヤット……」
「この不完全な状態の魔王を倒せるかどうか、と言うことか?」
「なら、わかりやすいやな……一番、聖騎士グレン、参る!」
「おい、グレン! 全くあいつは……フェイルノート、ブリュウナク、俺達も行くぞ!」
「仕方ない……ジェイル、先行ってるぜ」
「皆、何でそんなに……いく、行きますよ!」
長剣を手に飛び出していったグレンを、追いかけるように駆けていくガラティーンとフェイルノート、ブリュウナク。
俺達は取り残されたように一歩遅れてしまった。
「ジェイル、僕達はどうする?」
「……追撃……する?」
どうする? もし、これが既に魔王ミリンダとの戦闘開始だったら、彼女はどうする?
多分魅せる戦いをしたいに違いない。なら、自分との戦闘で邪魔なものは……。
「後衛か? 出来るか、そんな事……いや、出来るか。むしろ、是か非かで自問すること事態が詮無きことか」
なら、ミリンダの一番の狙いは後列に残った……つまり俺達!?
予想通りだったら……今すぐここから離れなくては!
「俺達も行く! 一気に駆けるぞ! スキル、召喚クレイゴーレム!」
「了解! やっぱりそうでなくっちゃ! 一番槍は取られたけど、まだまだ僕の見せ場はこれからだよ!」
「……やる……ジェイル……ついて来れる?」
リィントゥース、ペインキラー、クレイを喚びだした為、一番最後の俺。
四人に続いて攻撃に出た。
「アマネクーーザンーータ」
「やらせねぇぞ! スキル、天光の大雷!! おらぁ!」
フルヘルムから漏れる、魔法詠唱をさせじとグレンの光と雷属性の斬り下ろしが直撃する。
地面を伝って雷光が広がるのが見える。
「ーーカタストロフィ」
「あんだと! 詠唱妨害にすらならないだと!? 耐性持ち? いや、全く効いてねぇって事か!」
事実は多分両方。
そして発動する魔王の魔法。目の前でラッシュをかけるグレンを除いて、俺達は皆すぐに回避に移れるように一度駆け寄る足を止める。
しかし、魔法発動は俺達の背後で行われた。
「なんだこりゃ!?」
「属性耐性が効いてないのか?」
「抜け出せない、逃げられないってことかよ!?」
丁度先程まで俺の元いた場所位までを範囲に、後列のプレイヤーが全員収まるくらいの超広範囲の闇の光が天から降り注ぎ続けている。
「固定空間……無差別殲滅魔法かよ」
「まず、後衛を立って後顧の憂いを断つ……テメェやるじゃねぇかよ! スキル、天元突破!」
「全滅!?」
「……やっぱりか。ジェイルも考えんから動いたんだろう? 全くえげつない」
俺は予想が当たったことに、ペインキラーとリィントゥースは今起きたことが信じられず、少しの間フリーズしてしまう。
「これで、残りは俺達7人だけか」
「一瞬かよ!」
「詠唱中断は出来ない、撃たれたらやられる。じゃあ、近接で張り付くしかないって事だね……」
「……圧倒的……でも、私たち……まだ負けてない」
グレンを中心に、左右に展開してるガラティーン達。
追いついた俺達は背後に回る。
「フェイルノート、こりゃとんでもないな。クレイ、強スロウで動きを止めるぞ!」
「全くだ、ま、無様に散るのだけは止めようぜ、スキル、下り三段!」
四方八方から攻撃をはじめとするされているのに、全く微動だにしない魔王ミリンダ。
まあ、今回の魔王効果は、HP100 倍、HPMP自動回復(50%)、物理を含む全属性耐性(80 %)、ステータス強化(600%)、魔法・スキル拡大化、状態異常無効だ。
多分基礎ステータスもとんでもないことになってるだろうし……そう考えれば、ステータス600%っているのか?
殴っても殴っても効き目はないよな。でも、その中でもクレイの強スロウは、魔王ミリンダにも発動する。後微々たるスリップダメージも。
真魔王の効果は凄いな。
「ジェイルだったな。お前、凄い召喚獣もってやがるな」
「偶然です。それにスロウ化なんて追加スキル、正に幸運ですよ」
「……謙遜すんな。この魔王に入るって事は余程愛情込めて育てたって事だろう? ははは、お前、気に入ったぜ! スキル、弧月斬!!」
むう、気に入られてしまった。天上院の悪ふざけの結果強化されたスキルなのに……。
「ヤミーーヅキ」
「わ、やべっ!!」
「く、ブリュウナク! スキル、強制値カット!」
ゆっくりと向けられた魔王の右手に漆黒の光が集まる。
絶妙なタイミングで、手のひらの先にはブリュウナク。ガラティーンが特殊っぽいスキルを発動する。
「ーーデス」
「ーーーーがっ!?」
ガラティーンのスキルの効果はわからないが、手のひらから出た黒きレーザーは、狙い違わずブリュウナクを貫いた。
「なっ!? 何故俺の強制値カットが?」
「消滅してねぇんならまだ、生きてんだろ!! お前等しっかり回復してやれ!」
「特効薬だよ! それ!」
「スキル暗剣殺……く……効き目……殆どない」
ペインキラーの投げた回復薬で、HPの半分くらいは一気に回復する。
しかし、距離を取ろうとするブリュウナクよりも早く魔王ミリンダはその頭を掴む。
「ガラティーン! 何時までぼさっとしてる! ブリュウナクを救い出すぞ! スキル、百烈突き!」
「あ、ああ、済まない、フェイルノート。スキル敵愾心アップ(大)、スキル、ノブレスオブリッチ!」
フェイルノートの無数の槍突きに、ガラティーンの剣気とでも言うのか、オーラをまとってより巨大になる大剣からの振り下ろし。
「マジか!? やめろおおおおおれ!!!」
「ーーーイン」
魔王ミリンダは、ブリュウナクを掴み上げながら、逆の手にまた大剣を出しそのままブリュウナクを貫いた。
儀式の男と同様に、闇に吸い込まれるように消滅するブリュウナク。
そして、何故かその動きを止める魔王ミリンダ。
ここぞとばかりに俺達は、攻勢にでる。
「流石に魔王か……強スロウの効きが悪いし、時間が短い。手を止めるな。スロウ効果を入れ続けるんだ」
「く、ブリュウナク……どう言うことだ、俺のスキルの効果が出てないのか?」
ん? ガラティーンは何をそんなにさっきから気にしてるんだ?
「どうした? なんか集中が切れてるぞ」
「すまん、ジェイル。奴には俺のスキルが全然効いてないみたいなんだ」
「スキルが? どう言うことだ? スキル無効って事か?」
状態異常無効の事? それなら、俺も持ってるけど?
「いや、ゲーム内の状態異常についてじゃない。俺は敵からターゲットを取るために、敵愾心アップや、相手の敵愾心を全てゼロにする固有スキル、強制値カットとかを使ってたんだ」
ああ~そりゃ効果ないわ。だって、相手は人間だし。システムに働きかける効果は効きようがないだろ。
「じゃあ、そう言った物も無効化するって事か」
「そう、考えざるを得ないな」
「もういっこあんだろ! おらぁ、少しは効きやがれ! スキル、不死鳥狩り!」
グレンが俺達の話に混ざってくる。
「相手が同じ人間の場合だ! 後はジェイルの言った無効化、この位しか可能性はないだろうよ!」
「……そんな馬鹿な」
「馬鹿を馬鹿じゃなくするのが、OOだろう? 何事も疑ってかかるべきだ、ガラティーン」
スキルと連携を繰り返し、自分達に出来うる限りの攻撃を繰り返す俺達。
しかし、身動き取らない魔王に対して有効だと思われるものは全く与えられない。
「ここにいるの、俺を除いてOOのトップランカー達だよな? これで無理だったら倒せる奴なんかいるのか?」
「……やはり……ここで……きっと魔王は倒せない」
「嬢ちゃんもそう思うか、俺もそう思う! 恐らくそう言った仕様なんだろうよ! だが、それでもはい、そうですかって納得出来ると思ってるのか!?」
「では、その力の限り向かってきなさい」
「え、言葉……魔王が……」
今、流暢な言葉でグレンに返答したのは、今までまともな言葉を解することが出来なかった魔王ミリンダだった。
「てめぇ……やっと本気だってか? 上等だ! 見せてやるぜ、俺の大一番! お前等巻き込まれたくなけりゃ下がってやがれ!」
「まきこまれる? 何を……「ジェイル、下がるぞ」……フェイルノート……わかった」
心なしか、動きも流暢になった魔王ミリンダに対して、肩に長剣を担ぐようにして正面に対する。
全員がグレンから距離を取る。
「なぁ、何が起こるんだ?」
「グレンが本気になった。お前も見ておけ。これがOO最強の本気の力だ」
既に皆は知ってるみたいだな。
「どうせ、最後までは無理だってわかってたからな。せめて一発度肝を抜かせてもらうぜ!」
「幾らでも? 私には何をしても無駄ですから」
「その余裕、吹き飛ばしてやるぜ! スキル、パッシヴスキル行使! 行くぜ! 攻撃力ブースト(強)、腕力強化(強)、武器攻撃力アップ(強)、長剣熟練! まだまだこれからだぞ! スキル、チャージ、怒りの一撃、憤激の一撃、諸刃の一撃、境界線の狭間!」
グレンは両手で長剣を握り直し、上段に構え直す。
パッシヴスキル行使……これがグレンの固有スキルか? 聞いて思ったのは、その名の通り、パッシヴスキルを発動型スキルとして再発動させられるスキルか?
聞いてて、攻撃、一撃に賭けてるみたいだし……俺でもここまでブースト出来ないんじゃないか?
「レアなスキルを持ってますね……しかし、それではマイナス効果が高すぎる……二の太刀はどうするのですか?」
「ふん! それはこいつらの仕事だ、俺は一人無双の名に恥じない、最高の一撃をてめぇにくれてやるだけだ! それに、まだ終わりとか思ってんじゃねぇぞ! スキル、限界値カット! 固有スキル、我、如何なる者も等しく天の霞とせん!」
今までのが固有スキルじゃなかったんだ? 流石はOO最強。一人無双なだけはある。
「固有スキルって、言わなきゃ行けないのか?」
「別にそんな事はないけどな……個のステータスみたいなものだしな。普通は一個、グレンみたいなのは特別だから何個かあるが……」
よかった。俺はあれもこれも固有固有って言うのやだったからよかった。
「行くぞ、スキル、天地創造!!! どおりゃああああああああ!!」
正に二の太刀いらず、との言葉通りの一撃。
その振りは、初動しかなく、姿は見えず振り下ろした後の姿が魔王ミリンダの遙か後方に現れる。
そして、振り下ろしたと思われる剣閃の範囲全てが光に包まれる
音が後から聞こえ、その範囲を中心に大爆発を起こした。
土煙が周囲に立ち込めて、周りは何も見えない。
「これが……OO最強の秘奥か」
「そうだ。マイナス要素も多いから、使用後はHPMP1で暫く行動不能に陥る、正に必殺の一撃だがな」
「相変わらず凄まじいな」
「……これで……どこまで……やれてるか」
とてもじゃないけど、一人で出来るような物じゃないよな。
俺達じゃこれ以上は無理だろ。ゼロを限り無くプラスにするには、彼の存在は不可欠。
なんとか助けて、救出しないと。
俺も初めに預かったハイポーションを構えて待機する。
同時にクレイを突撃させる。
「見えてきた……って、え?」
「想像以上です。これ程とは……」
「くそったれ……俺の奥義が大したダメージになりゃしねぇのか……」
しゃがみこんで動けないグレン。見た感じ全く無傷の魔王ミリンダ。
「いいえ、私としては驚愕するほど減らされましたよ。まさか、一個人にこんなに減らされるとは思ってませんでした。誇っていいですよ」
「……最強が聞いて呆れるぜ。お前、名は? 俺はグレンだ」
「私は魔王、魔王アンリマンユです」
そのまま胡座をかいて座り込む。ニヤリと魔王ミリンダ……アンリマンユに笑う。
「そうか……俺が絶対にお前を倒す。覚悟しとけ」
「貴方には才能があります。期待していますよ……では、さようなら」
手に漆黒の大剣を生み出すと、グレンに向かって振り下ろした。




