第二十七話、無双なんて目じゃない簡単なお仕事ですか?(2)
「お疲れ、ジェイルのお陰で助かった。犠牲も大分少なくすんだ」
「ガラティーンこそ、あの説得は凄かったな、あんなに一致団結するものなのか?」
まだ、特殊フィールド内。一端合流した俺達は、状況把握につとめている。
「あれは運が良かっただけさ。たまたま俺の事を知ってる人が居て、たまたまここに俺達ほどレベルが高いプレイヤーが居なかった、それだけさ」
「でも、そこであんな事が出来るのが、ガラティーンの凄い所だよな」
ま、それは確かに。急にあんな場所に放り込まれて、多分一番怖いのは集団パニックによる混乱だろうし。
あそこでガラティーンが皆をまとめてなかったら、俺達はきっと中から瓦解してたに違いない。
希有な才能だよな。リアルが関係してるのか?
聞かないけど。マナー違反だし。
「戦闘不能になったプレイヤーの人数はわかったか?」
「調べはついてるよ。大体ソロと低、中ランクプレイヤーを中心に被害が出たね。具体的には42人。だから、次は58人で切り抜けないといけないね」
半数近く落とされたか。規模から考えてまだ前哨戦だろうに。
「でも、後の皆は、ソコソコ名の知れたパーティーだったり、僕達程じゃないけどレベルも高い人達だから、なんとかなるんじゃないかな?」
「相手が……問題」
「ペインキラー、こういった場面で過信はしない方がいいぞ。想定するは常に最低の状況。それが俺達の家訓だ」
あ、そうなんだ。神に一番近いと言われた一族は、最低の状況のみを想定して生きてきたのか。で、その結果がこれ、と。ある意味参考になるな……いや、俺もそれを妄信して生きてかなきゃいけないのか?
天上院の一撃は色んな呼ばれ方をしてるから、どれも凄く嘘くさいよな。
俺達は幸い無事だが、パーティーで抜けてしまった人もいるだろうし。メンバー的に考え直さなきゃ次は無理だぞ。
「皆、多分イベント戦闘はこれで終わりじゃない。もし、パーティーメンバーが抜けてしまったりしている場合は、今の内に残ったプレイヤー感で話し合って登録しておいた方がいい」
俺と同じ考えだったガラティーンの声で、残ったプレイヤー達が新たなパーティーを組み始める。
勿論、全員がそうではない。
頑なに残ったパーティーだけで戦おうとするプレイヤー達もいる。
友情か……。
「違うだろ。多分あいつ等は獲得したギルドポイントが減るのが嫌なんだろ」
「……なんか、今聞くと凄く人間が汚く思えてしまう……こんな気持ちにしてくれて有り難う……誘拐犯よ」
「おまっ! まだ引っ張るか! それに事実を言っただけで俺別に悪くないだろ!!」
適当に頷きながら、クレイゴーレムを呼び出して待機していた。
「くぅぅ、忌々しや! あれだけのサイプロクスをものともしないとは!! ええい! 仕方ない! お前達、あの愚か者どもを消してしまえ!」
イベントが再開。一回儀式を中断した男は、両手を振って何かに指示を出した。
そして、地面が盛り上がって5体の異形の存在が生まれてくる。
「あれが、魔族か」
「5体……大体一人10人位で当たれってことか」
「いや、俺達はパーティーの6人だけでいいだろう。他に増員して当たろう」
そして、ガラティーンがまた、皆に指示を出す。開始される飛道具による弾幕。
降り注ぐ矢や投擲型のアイテム。しかし、痛くも痒くもない様子で、そのまま歩いてくる5体の魔族。
「効いてないのか?」
「そんなこと……ない……でなきゃ……私達に……勝てない」
「その通りだね。がんがんやるよ!」
変わらず進んでくるが、こちらも弾幕の手は止めない。
「ん? 何をしようとしてるんだ?」
「一斉に動きが止まったな」
両手で天を仰ぐような仕草をする。あの距離でそんなモーション。
「皆、退避! 出来るだけ距離をとれ!」
範囲攻撃に決まってるだろ!!
魔族の両手に黒い光があふれる。そして、5つの光は反響するように爆発を起こした。
即座に動いた俺達、高レベルプレイヤー、初動が遅れた中堅プレイヤー達。
その動きの差が決定的な差だった。
「おいおい、更地になってんぞ」
「こいつは……5体で増幅したってことか?」
「ジェイル君、ゴーレムやられちゃったけど、大丈夫?」
まさか、爆心地だとクレイもやられるとは……ダメージなのか? それとも一撃死扱いなのか?
「召喚には少し時間がかかるが大丈夫。他にも幻獣はいる。スキル、召喚、ロックゴーレム」
岩が集まってゴーレムになる。正直、レベルが足りないが、ドライアードは数値が高すぎるから余り使えない。
「スロウは使えないが、ロックも弱くはない筈」
「とりあえず俺たちで速攻一体を落とさないと……一気にやられたから」
「多分……私達は……20人も……いない」
「一気に30人脱落か……」
でも、やるしかないな。
5体で歩いてくる魔族に、リィントゥースがターゲットを取りながら俺たちは覚悟を決めた。
「スキル、ハイパワーアタック! ブリュウナク!」
「おう! スキル、ブリオッシュブレイド! 連携属性、濃霧!」
顔のない真っ黒の魔族は、斬られても体制を崩さずその場で立ち止まって攻撃を受ける。
連携が炸裂しても微動だにしない。
「む、二人とも、離れろ! スキル、オールガード!」
「~ーーー!!」
魔族は言葉にならない声を上げて、体から無数のトゲを出す。アイアンメイデンのようだ。
「く、この盾の痺れ……皆、絶対に食らうなよ!」
「ロック!」
「……一閃……」
ロックと同時に動くリィントゥース……一閃使えるんだ。
まあ、俺だけの専売特許じゃないからあれだけど。
「繋ぐ! スキル、天の煌めき!」
ガラティーンの巨大剣が白く輝き、縦横無尽に振り回される。
「ーー~~!!」
そこで、魔族は初めて後退を見せる。
「そうか……魔族は闇属性。皆、光だ。光属性のスキルで応戦するんだ!」
「気づかなかったよ! わかった! スキル、祝福の光!」
「……私……ない……スキル、暗剣殺」
そこからは簡単だった。光属性を受けてる時はうごきが止まるため、連続でたたき込めばスタンと変わらない。
楽に撃破できた。
なんか、前回の時の奴らの方が強かったな。
御披露目イベントだし、こんなものなのかな?
「さあ、次にいこう!」
「光属性のスキルって多いのか?」
「……少ない。だからこその弱点設定なんだろう」
俺達も急いで救援に向かったが、確かに光属性スキルを使えるプレイヤーは少なく、俺達も入れて9人しか残らなかった。
「戻ったのか……他は……やはり」
周囲を見渡すが、どうも高ランクの見知ったプレイヤーしか残ってないみたいだ。
俺には何もわからないが。
「フェイルノート、お前等の所は……9人か。残った方じゃないか」
「グレン。お前の方は?」
「俺だけだ」
「100人いたのにか?」
「よう、ガラティーン。そうだ、あの忌々しい魔族の野郎の爆発でな」
急にヒゲのオッサンがやってきて話し始める。一人残ってクリアした所を見ると、余程強いプレイヤーなんだろう。
「まあ、後はうちにはガンレボンの奴がいやがったからな。一般の奴らは皆、まとめてやられちまったよ」
「ああ……それは……ご愁傷様……」
「おう、リィントゥースの嬢ちゃんも居たのか。それに、ハナタレ坊やも」
「誰がハナタレだ!」
ブリュウナク、お前、何処でもそんな扱いなんだな。
「しらねぇ顔がいるな。アンタ、名は?」
「俺? ジェイルだ。召喚士をしてる」
「ほぉ、そりゃ珍しい。俺はグレン、聖騎士をしてる。レベルは98だ」
レベル98!? 一番高いんじゃないか?
「ジェイル、グレンはOOで最も高レベルのプレイヤーだ。しかも、ソロでな」
「しかも、ヒゲさんは一人無双なんて呼ばれてるんだよ」
一人無双……なんかゲームみたいな呼び名だな。
「ペインキラー、お前等皆残れたんだな、流石難攻不落の閃光の旅人亭だな」
難攻不落……このパーティーそんな風に呼ばれてるのか。
「お、また戻って来やがったか! あっちも随分やられたなぁ。三人かよ。まだ13人だぜ。全体を通しても20人残らないんじゃないのか?」
「こんな調子じゃ本番の魔王の頃には、手も足もでないんじゃないだろうか?」
「多分、元々手も足も出ないと思うが。対策もなしに勝てる奴じゃないだろう」
ガラティーン、よく考えてるな。
「確かに……今の戦闘……振り分けが……目的?」
「ああ~そうかも。1500人なんて魔王も勝てないだろうし。僕達の人数を減らしたかったんだよ、きっと」
「そんな理由か?」
正しそうだが、他の理由があると思うが。
「意見ありそうだな。じゃあ、ジェイルはなんかあるのか?」
「運営が、宣伝用にムービーに、綺麗に取る為に人数を減らした」
「「「ありそう」」」
実際問題、いい宣伝になるし。
そんなどうでも良いことを話しながら、全フィールド戦闘が終わるのを待っていた。




