第二十五話、真なる者は人目を忍ぶものですか?(3)
「結局どういうことなんだ?」
「私は嘘もついてないですよ? ……本名は愛沢芽依です。お嬢様にはOOで私を芽依と呼ぶように指導しました。愛沢流古流武術の免許皆伝を受けております」
正直、OOで今まで聞いたことが何処まで真実かがもうわからない。
愛さんは、自分の情報は偽ってないって言うこだわりか?
「それよりも純也様、私はお気軽に芽依、とお呼びください。これから長い付き合いになるのですから」
「そうか、じゃあ、芽依さ……「芽依、です」……ん……芽依さ……「芽依、です」……ん……芽依ちゃ……「芽依、です」……ん……芽依たん……「それで純也様がよろしいのでしたらどうぞ?」……いや、無理です。宜しく、芽依」
く……愛さん……芽依か。これは手強い。俺のライバルになれる。
「純也さん! 愛さんばっかりずるい! 私も美玲って呼んでください!」
「ん? わかった、美玲。これでいいか?」
「うう……なんか、簡単に呼ばれました……でも、美玲、美玲か……いいです」
なんかトリップしてる美玲。久しぶりに見たな。
「お前達のちちくりあいはいいんだけどな、トレントギアとの戦闘について教えてくれよ。あれをソロで撃破した奴なんて今まで居ないんだ。気になって仕方ない」
「あら? 私も純也様のハーレムに加えて頂けるのですか?」
「そ、そんなの駄目です!! 純也さんには私がいればいいんです!!」
混沌としてるが……男冥利に尽きるな。しかし、なんと言ったものか……男として軽い返答はしたくないな。
「有り難う、美玲。そんなに思ってくれてるなんて、とても嬉しいよ」
「……純也さん……はぁ」
「翔様……これが純也様ですか?」
「そうだ。人当たりよく人たらし。意識無く人口説き。かの者は常に落とす……奴は生粋の主人公だ」
なんか失礼な事を言われてる気がするな。俺は常に、誰も傷つかない最高と思われる選択をしてるだけなのに……。
「納得言ってない顔してるな」
「なる程、抱き込むことで事なかれ主義を貫く訳ですね。私のハーレム入りも否定しませんでしたし」
いや、それは、ねぇ? 男の子だもん。そんな事言われてみたいじゃない。それを否定なんて俺には出来ない。
「さ、て……トレントギアとの戦闘の話じゃったな。あれはワシがまだ、魔樹林と呼ばれる森に居たときじゃった……」
「聞こえてるのに誤魔化したぞ」
「なるほど、私も期待あり、と考えてよろしいのですね……」
「……純也さん……」
皆、誤魔化されてくれ……モテない君だった俺にハーレムの夢を捨てることは、例え冗談でも出来ないんだぁ!!
周りの目は見ずに、俺は話を進めることにした。
「やれやれ……どんな攻撃をしてくるんだか? ウッドゴーレムに準じてると楽なんだが……」
言いながらも、殆ど攻撃されてないからわからないが。
「グルオオアオアアアア!!」
大木に手足が生えたような超巨大な体、その腕部分と思われる木を振り上げると、俺に向かってその腕を振り下ろしてくる。
「思ったより早いな。スキル、召喚、クレイゴーレム!」
後方へ飛ぶように回避すると同時に、新魔王化で防御面が強化されたクレイゴーレムを呼び出す。
「遥かに格上だろうが強化されたことで俺より防御が高くなったんだ……やれるか? クレイ、まずは防御でスロウとスリップを与えろ。その後はスロウ化した攻撃を当たらないように攻勢に出るんだ」
指示を出すと、即座に魔王の左手を発動してこの巨大なウッドゴーレムの詳細を調べる。
トレントギア、レベル79
所有スキル
光合成、レベル45〈0%〉
(天候晴天時、HP自動回復30%)
眷属召喚、レベル50〈0%〉
(下位同種族の召喚、成功率71%)
憤怒の一撃〈3%〉
(HP25%以下の際、攻撃力2倍)
衝撃の嵐、レベル50〈5%〉
(移動時に全方位に衝撃波を出現させる。威力10、風属性、攻撃力依存)
バーサーク、レベル79〈33%〉
(防御力が50%低下して攻撃力2倍になる)
化け物か? いや、化け物か。30秒毎の回復量30%って……いやいや、こんなの普通にやったらどうやって倒すんだ馬鹿たれ。
他にも凄い数とヤバいスキル群だ。
光合成は既に覚えてるから0%になってるな。
このレベルの敵が同型のウッドゴーレムを呼び出していくって……。
むしろ問題は攻撃力上がり過ぎな事か。
バーサークで攻撃力2倍、憤怒の一撃で更に攻撃力2倍、衝撃の嵐でその上がった攻撃力が適応される全方位の衝撃波。
で、防御力が下がってHPが減っても光合成で回復します。か……コンセプトが完結しすぎてて、手が出ないって……本当にどうやって倒してるんだ?
だが……どれも良いスキルだよな、欲しい。バーサークが一番可能性があるか……それにしても……。
「クレイもやるな。強スロウって大したもんだ。スローモーションかよって位遅いぞ。これならどんなに素人でも避けれる。しかも、効果時間が長いな」
ダブルスコア以上のユニークに対して、発動して今までのスロウと比べたら自転車と車位の差がある強スロウ。
いやぁ、これもないな。高性能すぎる。
ただ、攻撃力はないからダメージは殆ど与えられてない。
スリップ効果も入ってるみたいで、僅かながらHPが減ってるが光合成の自動回復で元に戻っている。
「とりあえず……お前をぶん殴る!」
左手を握って、スキル魔王の左手を発動させながらトレントギアを殴る。
「グルオオオオオオ!!」
「さて、どうだ? ……と、失敗か……一番確率高くて33%だから仕方ないが、ダメージ的には結構減ったな」
今の一撃で大体1/30位減ってる。見た目程じゃなく柔いのか?
だから、回復量が高いのか。ただ……。
「これじゃ、覚えるまで武器使えないな。倒してしまいかねん」
幸い、攻撃、防御時の両方に強スロウが発動するから安心して、スキル取りに専念できる。
「じゃあ、もう一度……スキル魔王の左手!」
ミス
簡単に出来るとは思ってない。だから、俺は……。
「お前から! スキルを! 複製するまで! お前が泣いても! 殴るのを! 止めない!!」
「グルウオオオオオオオオオオオオオ!!」
あれ? 本当に泣いてんのか?
左手での魔王の左手ラッシュ。殴る殴る殴る。
瀕死になったら距離を取って、HPを回復させる。幸い30%も回復するのですぐに次のラッシュにかかれる。
ん? 衝撃の嵐ですか? 奴はその場でクレイゴーレムを殴ろうとじっと頑張っているので全く動いてませんが?
しかも、移動時も回復しての衝撃の嵐だからダメージもそこまで高くない。
やられても複数回召喚するから全く無問題。
30秒毎にMPが50%回復する真魔王なめんな。
まあ、俺以上の防御力を誇っても、流石に一撃はデカいらしくそのHPの1/3位が一気に減る。
ただ、強スロウによって攻撃の頻度自体が減ってるのと、クレイの自動回復があるので意外に持つ。
「いい加減終わりにしてくれないか? それ! 魔王の左手!」
最早何度目になるかわからない、魔王の左手。
当てた瞬間俺に手応えがあった。
「お、行ったか! ……これは!? 来たぞ! 俺始まりの合図!!」
確認してすぐに、クレイを自爆させてダメージソースとする。
半分位あったHPが、1/3程度まで減る。
「意外にダメージ出たな。しかし、お前はこれまでだな……スキル、召喚、ドライアード!」
呼び出したドライの背後に、隠れるように回り込む俺。
複製に成功したスキルを考えると、思わずニンマリしてしまう。
「さて……お前も災難だったな。いいように殴られて、その高リジェネ性能も利用されて、更には自分のスキルでやられるんだから」
こちらに向かってくるトレントギア。移動に際して衝撃波を全方位に振りまく。
「本家は威力が高いが、俺も攻撃力には自信があるんだぜ?」
左手に鉈、右手に草刈り鎌を装備する。
「さて……こっちには鉄壁の盾がいるぞ……スキル、衝撃の嵐!!」
ドライアードは風と土属性無効。
そのためトレントギアの衝撃波は、ドライに当たってそのままはじかれる。
しかし、俺の衝撃波は、そのままドライをすり抜けてトレントギアにヒットする。
ダメージは少ない。しかし、こっちには生身のプレイヤーならではの知恵がある。
その場で足踏みを加速して行う。すると、予想通り足場が変わっている=移動してると判断され、物凄い数の衝撃波がトレントギアを襲う。
ガリガリ削られていくトレントギア。対して自信の衝撃波は、やはりドライに無効化される。
勝負にならない。こちらへ辿り着く前にトレントギアはその存在を消滅させた。
「あんな全方位衝撃波、仲間を呼ぶスキル持ちが使うんだから、敵味方の区分けがあるとは思ってたが……いやぁ、これはまたヤバいスキルだよ」
これが俺の衝撃の嵐。
衝撃の嵐、レベル1
風属性、威力1
消費MP、30
効果時間、10秒
(移動時に全方位に衝撃波を発生させる。威力は攻撃力依存)
色々デメリットが追加されてるが……いやいや、こんなのデメリットの内にならない。
真魔王でこんなのやったら、風属性無効化以外皆アウトだぜ?
さて、満足する結果が出た所で出口に向かっていくか。
「とまあ、そんな訳で魔王の左手は楽しく愛用させてもらってるよ」
「純也さんが喜んでもらえたなら、私達も考えた甲斐がありました」
「そんなソロ討伐ありか?」
「でも、そんな下位にランクダウンされた能力を得る位でいいんですか? 初めからあるのとは何か違うんでしょうか?」
芽依はわかってないな。自分の力で、自分の行いで、自分の運で手繰り寄せる! それが重要なんじゃないか! 希少な物ほど憧れる。それがレアハンターだ!
「お前、何時からレアハンターなんて職業に転職したんだ……まあ、気持ちは分かるが」
「なら、純也様は既に天上院の長女を手に入れてるんです。これ以上の名誉はないでしょう」
……そうなんだけど……それとこれとは話が違うと言うか……美玲のあんな顔を見たらとてもそんな事言えない。
翔……駄目か、首を振りやがった。くっ、万事休すか。
「そ、そうだな……ああ俺はこんなに幸せなことはないなぁ」
「純也さん!! 本当ですか! う、嬉しいです!!」
首に抱きつきだと!? こんなのマンガの中だけだろ!?
ああ……なんて巨大な罪悪感! 貴様等、見てろよ! 絶対この報いは受けさせてやる。
「でも、何で初めからドライアードを出さなかったんだ? 土と風の二種類も属性無効なんだから、正直楽勝だったろ?」
「出し惜しんだ感はあるが……クレイの強スロウとスリップも見たかったんだ。後、俺の防御力は何処まで通用するかも……家で一番高い防御力だから」
「それで、レアハンターは何を手に入れたんですか?」
芽依は意外に空気読めない感があるぞ。
「魔木樹の大木片×8、樹木の宝玉×1、ゴーレムコア×1だな」
「お前、ゴーレムコアって言ったら、 ゴーレムの核だぞ。作れるんじゃないのか? ゴーレムを」
へぇ、それは興味深いな。
「じゃあ、やってみるか……取りあえずペインキラー達と約束してるからその後でだな」
「……約束、ですか?」
「ああ、連携を試してみたいらしい。ま、俺も他のパーティー体験なんてあんまりないし、美玲達とのパーティーに生かせたらいいか」
取りあえず美玲の頭に手をおいて、楽しみに待ってるように伝える。
「あれがほんまもんだ」
「なかなかに手に負えないですね」
でも、ゴーレムってどうやって作るんだろうな?




