第二十五話、真なる者は人目を忍ぶものですか?(2)
「スキル、一閃!!」
俺は手にした鉈を逆手で、ウッドゴーレムを切り抜ける。
「ギャワアアアアアアアア!!!」
不意打ちで放った一閃は、格上のウッドゴーレムを一撃で消滅させる。
「この位のレベル差なら、全く問題としないか……ドロップも有り得ない事になってるし」
ドロップアイテムは魔木樹の木片×4、魔木樹の大木片×1、ゴーレムの核×1。
採集スキルでドロップとレアドロップ率が上がってるから、モンスターを倒す度にウハウハだ。
でも、このままじゃ使えないから加工するスキルとかが欲しいな。
「で、今回追加したスキル奪取スキルだが……」
これがまたヤバい。
例えば今のウッドゴーレム。スキル、魔王の左手で所有スキルを確認してみると……。
ウッドゴーレム、レベル51
所有スキル
光合成レベル20〈61%〉
(天候晴天時HP自動回復20%)
樹木統一レベル20〈0%〉
(周囲の戦闘中の同族を察知する)
と、記入される。
試してみたのだが、光合成は61%の確率でコピー出来る。
樹木統一は0%だから出来ない。これは多分モンスター専用スキルなんだと思う。
そもそも名称からヒューマンの俺に体得出来るとは思えない。
スキルの説明まで乗ってるのはとても有り難い。で、早速複製して見たのだが……。
光合成レベル1
(天候晴天時HP自動回復1%)
と、レベルが1に下がった。
まあ、レベル維持までやったらもう引いちゃうよな。そこまではいいや。
1%だと真魔王のHP1000でも10ずつしか回復しない。
劣化コピーだけど、だがこれは……。
「楽しいぞ!!」
魔王のスペックって素晴らしい。MPも10秒で50%回復とか馬鹿みたいな性能だし、スキル使い放題だぜ?
MP消費型のスキルあんまりないけど……。
俺、幻獣系のMP消費抜いたら凄く低燃費だよな。
ただ、制限と、いうか縛りがいくつかあって、同じ種類のモンスターからは一つのスキルしかコピー出来ない事と、コピーするスキルは選べないこと。
つまり、ウッドゴーレムから何度も光合成をコピーしてレベルを上げたりは出来ないって事。
コピー確率といい、複数個あったときのランダム性といい、まさに俺の為にあるようなスキルだな。
レベル上げも普通に必要だが、俺はどちらかと言うとこういった新スキル入手や色々なアイテム入手の方が重要だ。
「コピーして覚えたスキルのレベルも上げたいし、別にモンスターのレベルは関係ないか。調べて持ってないスキルがあるやつに無作為に襲いかかるか」
一撃で倒せるため、勿論ウッドゴーレムも見つけ次第仕留めていく。
まあ、格上も格上なのでレベルはどんどん上がるんだが……。
この時の俺は、先程調べたウッドゴーレムのスキルを考えずにウッドゴーレムばかりが現れる事を不思議に思いながら狩り続けていた。
「樹木統一って、範囲内のウッドゴーレムの戦闘に加勢するスキルだろうから、森中のウッドゴーレムが集まってるのか?」
だが、もしこの仮定があってるならプレイヤーはどうやってここを過ごしてるんだ?
仕方ない、奴に聞いてみるか。
(おい、どうしてんだ?)
(何だ急に? そもそもお前何処にいるんだ?)
(そんな事はどうでもいい。それよりどうやってウッドゴーレムの樹木統一を回避してるんだ?)
(ウッドゴーレム? お前まさか魔樹林にいるのか? ん……樹木統一?)
反応早く即座に返答が帰ってくるが、どうも噛み合ってない。
(魔樹林? わからんが多分そうだ。樹木統一を知らないのか? 近くの同種族の戦闘状態を察知するスキルだ)
(スキルでそんなの持ってたのか!? 俺達はてっきりそういう特性があるのかと思ってたぞ)
そんなのいいから早く対処法を伝えろ。
(ん。いいなぁ、お前の鑑定スキル……今度詳しく教えてくれ。ウッドゴーレムは状態異常にすると仲間を呼ばなくなるんだ)
(……他には? 俺に、んなスキルはない)
(じゃあ、逃げるしかないな。奴らは足が遅いから簡単に逃げられる。それに魔樹林からは出て来ないから、森を出ちまえばリンクしてようが何だろうが強制カットされる)
こんなに強くなったのに逃げるか……恐ろしいなOOは……。
(そうか……わかった。全く……使えないなお前)
(俺!? ジェイル、まずしっかり調べてからやれよ。それに何故わざわざ魔樹林に入った? そこはクエスト以外では、ウッドゴーレムとシルバーウルフしかいないエリアだぞ。魔王の左手を使うならもっといい所があるだろ?)
そう言われてもな。俺はウッドゴーレムをしばきながら反論する。
(そこに森があったから……か?)
(いや、あそこ適正レベル20は離れてるだろ!? 確かにお前なら問題ないだろうが、少しは周囲の目も気にしろよ)
(はいはい、わかったよ、うるさいな。お前等はステータスやスキルを閲覧出来るスキルはないのか?)
樹木統一の事を知らないなんて……最近作られたモンスターじゃないだろうに。
(ないぞ。そんなのが把握出来たら、プレイヤー側のスキルとかもバレて、PKに活かされるかもしれないから導入しないんじゃないか、って言うのか俺達が考えた推察だ)
(普通だと既存のジョブやモンスター、アイテム、スキルとかを紹介した攻略本とかを販売しような感じだがな)
大もうけだろ? 世界人口的にプレイヤーがいるんだから、まず買うだろうし。
(ああ……それは公式にやらないって事になってるんだ)
(既に発表されてるのか)
(ああ、俺達天上院の痕跡を残さないために圧力をかけてるんだ)
(って、お前等のせいでか!? 他の善良なプレイヤー達には申し訳ないな)
ん? じゃあ、もともとの投資に関してはどうなってるんだ? それも記録として残るだろ?
(ゲーム好きなアラブの石油王に話して投資してもらった。個人的なものだから俺達の跡はない)
(……俺、頑張らないとな)
当然、話しながらもウッドゴーレム。駆除し続ける。
出口へ向かって歩いているが……まだまだだし。
(マップで見てもまだ半分も来てないか。調子に乗って進みすぎたな)
(で、もういいのか? 俺もパーティー中なんだが……)
器用だな、あれだけ話しててパーティー中かよ。
(ああ、大丈夫だ、問題ない。後で行くって美玲ちゃんに伝えておいてくれ)
(OK、じゃあ、またな。晩飯には間に合うようにこいよ?)
さて、知りたい情報はわかったが、道は長いな。それにウッドゴーレムはウザイし。時間指定はされるし。
「さて、どうしたものか……」
と、なんだか目の前には不思議な祭壇。なんともクエストくさい作りだな。
何でこんな所にでたんだ?
「ま、クエストなんか受けてないわけだが」
「ギャワアアアアアアアア!」
「お前等はその鳴き声聞かないのか!」
切り捨てて、祭壇を後にしようとする……が、どうも俺は巻き込まれ体質らしい。
「おお? 地震か?」
地面が急に揺れだし、支えが必要なレベルで振動が走る。
「地震って……まるで竜王の復活とか巨大モンスターのフラグだよな」
この思考もフラグだろうか? こんな揺れの中ウッドゴーレムに襲われたら何も出来ないな、とか思ったが、幸い周囲に敵影はなく、揺れも徐々に収まる。
「全く……ここの事はまたロマノフに聞いてみるか……さ、俺は早く森の外……へ……と……はぁ……やっぱりフラグか」
どうも、OOの神は俺に好き勝手やらせたくないらしい。
こらー! あんた、家の子達いじめて! と、ばかりに超巨大なウッドゴーレムらしきモンスターが俺の前に生えていた。
「歯ごたえはありそうだし、面白いスキルももってそうだし……やるか。でも、倒したらウッドゴーレム襲わなくならないかな? 切実なお願い」
こうして、俺は巨大なウッドゴーレム擬きと相対する事となった。




