第二十五話、真なる者は人目を忍ぶものですか?(1)
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先のクエスト「英雄への道行き(2)侵略」をクリアされた為、皆様には連続クエスト「英雄への道行き(3)魔王誕生」にご参加頂けます。
全プレイヤーが対象になりますので、参加を希望される方は各町に新しく設置された冒険者ギルドでお申し込みください。
冒険者ギルドについてはプレイヤーの皆様に送付させてもらったメールにて用途はご確認ください。今後ともオンラインオンラインをよろしくお願いいたします)
ログインして、まずアナウンスされたのはそんな事だった。
「ジェイルさん!」
「ん? ミリンダか……今ログインしたんだが、ピッタリのタイミングだな。奇遇……だよな?」
タイミングなのか? いやいやまさかな……俺はやってきたミリンダとロマノフを見やる。
「ジェイル……残念ながらお前の家はピッタリマークされてるからな。インする時間も完全把握されてるぞ」
「……マーキングされてるって事でいいんだろうか?」
ストーカー所じゃない、個人の完全統制とでも言えばいいのか?
恐ろしい……じゃない! とんでもないわ!
いや、落ち着け、落ち着くんだ。これは愛されてる故、そう、決してストーカーじゃない。偶然だ、偶然探知に引っかかっただけだ。
「で、でだな。アナウンスあったろ? ミリンダはな、何かやるのか?」
「ジェイル、それがいい。細かいことを気にしてたら神経切れちまうぞ」
翔に天上院について少し聞いておかないとな、これは。過労死しかねない。
「御披露目、するんですよ!」
「御披露目?」
「はい! 昨日決めたように全身を私とわからないように隠して、指定プレイヤーとの戦闘です。今回は私無双ですよ! 全員叩きのめして見せます!」
おおぉ。凄い自信だな。
そんなに強くセッティングされてるの、魔王。真魔王として気になる所なんだが。
「スペックは、まぁ魔王だからそりゃ強いが、今回は違うんだよ」
「違う?」
「私、今回はオーラを纏ってるんです。能力を物凄く強くするやつです」
オーラ、か。よくある初めはそれで一般プレイヤーを蹂躙する系か。
「圧倒的な力で、その後は封印とかして徐々に弱体化させるとかのあれ?」
「そうだ。だが、正直洒落にならないレベルだぜ。HP100倍、HPMP自動回復(50%)、物理を含む全属性耐性(80%)、ステータス強化(600%)、魔法・スキル拡大化、状態異常無効……他もそうだが、初めの三つなんかは解除しなきゃ勝負の舞台にすら上がれない」
やっちゃった感があるな。それだと誰でも余裕で魔王になれるじゃん。
「ミリンダの魔王としての力はどんな感じなんだ?」
「聞きますか? 聞いちゃいますか? すっごいですよ! どうしてもって言うなら教えて上げてもいいですよ」
何て言うドヤ顔。自信満々に話したいって顔してるな。
やれやれ……てことは、美玲ちゃんが自分で考えたのか?
「いや、やっぱりいいや……俺は一応プレイヤーサイドで参加するから、それを楽しみにしてるよ」
「ブーブー。それはないですよぁ、聞いてください。ね、お願いします、かっ、可愛い、彼女! が言ってるんですよ!!」
急に何を言い出すんだって感じでびっくりしてミリンダを見ると、こんな表情モーションキャプチャーしてるのか、と思える位に動揺してる。
顔も真っ赤になってる。
「お前等……せめて余所でやんなさい」
「お兄様!?」
「俺もか!?」
そんなこんなで、結局有耶無耶になりました。
「なぁ、何で今日は愛さんはいないんだ?」
「愛さん天上院メイド会の会長なので、定例会議に参加してますよ?」
…………最早何も言うまい。
「当然ジェイル君も出るよね? 一緒にやろうよ? ね?」
ロマノフ……いや、フェイルノートに変わった翔に連れられて来た先は、ギルド、閃光の旅人亭のホームだ。
「やあ、ペインキラー。久しぶり……でもないか」
「……ジェイル…………元気?」
「来たな、モテ男め。今日は歓迎してやるぜ。ゆっくりして行きなさい」
リィントゥースとブリュウナクが俺に声をかけてくる。
「何を偉そうに言ってるんだ、ブリュウナクは」
ガラティーンが頭を小突く。
「あ痛っ、ガラティーンさん! 冗談だって……」
「お前等……相変わらずアットホームな雰囲気を醸し出してるなぁ」
なんか見ててほのぼのしてしまうわ。
「ジェイル。話はフェイルノートから聞いてるが、今回の英雄への道行き(3)を俺達のギルドから挑戦したいって事だが?」
そう、昨日の内から翔に連絡を取ってもらってたのだ。
ソロだと浮いてしまうからな。どうせなら、馴染みのパーティーの方がいいし。
「ああ、そうだ。出来れば頼みたいが、どうだ? 駄目か?」
「勿論オッケーだよ。こんなわからんちん、僕が何が何でも了解させるかから任せといて」
ペインキラー、それは自慢げに本人の前で伝えることなのか?
「ペインキラー、俺も別に反対じゃないが、今回はパーティーメンバーがフルだ。空きはないがどうするつもりだ?」
「え? アライアンスを組めばいいじゃない?」
アライアンス? 何だ? 同盟だと……。
「ロマノフ……」
「後で説明してやるから、取りあえず頷いてろ。問題あったら俺が訂正してやる」
何だと。何だこのこいつの安定感は。これでは頼りになる奴ではないか。
「ああ…………」
「ジェイル……元気ない……大丈夫?」
リィントゥースに心配されてしまった。
「お前なぁ、大体想像は付くが俺にびっくりしてへこむの止めろよな。むしろ俺がへこむわ!」
「ああ! 確かにフェイルノートが急に頼りになったらへこむかもしれないな。僕もそうなりそうだし」
わかってくれるか。同士よ。思わずペインキラーの手を取ってしまうな。
「わ、わ、ジェイル君、ど、どどどどうしたの!? 僕の手を取るなんて初めてだよ! も、もしかして僕も狙われてるの? 僕、ノーマルだよ!」
「えーと。彼は何を言ってるんだ?」
誰もが首を振る。いや、よく見るとブリュウナクなんかはニヤニヤしてるし、リィントゥースなんかはやや不機嫌そうだ。
「か、彼? そ、そうだよ。フェイルノートがどうしようもないって話だよね? 別に何でもないよね!?」
「こんなに取り乱したペインキラーは初めてみたな」
「死神の意外な弱点だな……まあ、ジェイルならおかしくはないが」
何だか俺が全部悪いみたいな流れ……ロマノフ、後で覚えてろよ。
ペインキラーってひょっとしてニート? 握手一つで反応良すぎだろ?
「まあ、それはそれとして話を進めようか。アライアンスはいいが、グループ分けはどうする? 俺は半端に分散しない方がいいと思うが?」
「でも、例えばジェイル一人とかなら、ここに来る必要もないよな」
「私が……一緒でも……いい」
どうやら、話の感じからメンバー外の臨時パーティーみたいな印象を受ける。
別に無理なら、多少はマイナスになるがソロでも構わないっちゃ構わないから別にいいんだが。
「なあ、無理矢理なら俺は……「全然問題ないって、大丈夫だよ! なんなら僕がついてもいいし」……そうか」
「駄目……私……ペインキラーは……無理」
おろ?
「無理だって? そんな事言うならリィントゥースの方が余程無理だよ。少人数パーティーの時は同時に戦えるジョブの方がいいんだよ。紙装甲のアサシンには荷が重すぎるよ?」
「大泥棒……攻撃スキル……ない……相応しく……ない」
「そんな事ないよ。ちゃんとあるし。僕の生への渇望はジェイル君の召喚獣にピッタリだし。むしろリィントゥースの方が彼の助けにならないんじゃない?」
「笑わせる……私のスピードを……補佐できるのは……彼だけ……ブリュウナクに……聞いた」
なんかまた始まった、みたいな感じになってるな。
これ、いつものことなのか?
「俺、なんか珍獣現る、みたいな印象を受けてるのは気のせいなのか?」
「こいつ等はタイプが似てるから、一寸でも合いそうな奴がいたらこうやってパートナーの取り合いをするんだ」
はぁ、二人とも……こんな低レベルに何を求めてんだ?
パーティーのイロハ自体よくわからんぞ。
「だから! リィントゥースは仲いいんだから、ブリュウナクなんかと組めばいいでしょ! 僕がジェイル君と組むの!」
「冗談じゃない……あんなヘタレ……ペインキラーこそ……筋肉マンと……やればいい」
キョロキョロと左右を見回してお互いがお互いを見やる二人。
「へ、ヘタレ?」
「筋肉マンって……俺の事か?」
そして二人は自然と俺に目がいく。
「ええと……二人とも落ち着こうか? あの二人に悪気はないと思うんだ。それは不幸な事故だ」
「全く関係ない飛び火だろ?」
「脳筋自体の意味がわからん。俺だぞ? 取りあえず……」
そして二人の意志が一つになる。
「「お前は後でしめる!!」」
「俺も被害者だろ!!」
システムで守られてるから別に何が出来る訳じゃないのに、無謀にも襲いかかってくる二人をいなしながら駆け回る。
何度も違反行為の通知が出るが、当然、光の速さで拒否する。
「もう、二人とも一緒に三人でパーティーを組めばいいんじゃないか?」
「……ガラティーン……いいの?」
「俺達はOOを好きな事をする為に始めたんだ。やりたいことをするのが一番だ。ペインキラーもな」
「流石ガラティーン、わかってるね!!」
そんなこんなで俺はリィントゥースとペインキラーとパーティーを組む事になった。




