第二十四話、過ぎ去りし日常への帰還ですか?(3)
「すまん!! この通りだ!!」
俺は今、男の土下座に遭遇している。一体何が起きてるのか……はわかるが、意味がわからん。
腕は……縛られてない。監禁……は部屋の中だからわからん。
確かこいつにスタンガンで、誘拐されたはず。
「何で土下座してんだ、親友だと思っていた俺の信頼を裏切った誘拐犯」
まずは軽いジャブを飛ばして様子を見る。
ビクリと震える翔。意外と気にしてんのか。
「す、済まない。俺にはあの方法しか出来なかったんだ。本当に申し訳ないです!!」
「方法? あんなに格好つけて、今更そんな言い訳は情けないだろ! お前が何を考えてんのかわからんが、その前にまず理由を説明する所からだろ! 何年お前につき合ってたと思ってんだ」
誘拐なんて、俺達の中じゃそんなに危険度高くない。
大学のバカ仲間なら、平気で無一文で簀巻きにした上で富士の樹海に放置したり、起きたら店舗のマネキンよろしくポーズを取らされてたりとかだぞ。
当然俺も似たような事をやる訳だが。
道具で本格的な誘拐は初めてだが、理由だなまずは。
「そうだな、だが、何時でも土下座出来るようにこの姿勢のままでいいか?」
「良くないだろ。そんなままだとこっちが気持ち悪くていかん。早くそこのソファーにでも座れ」
俺が言うと、非常に申し訳なさそうにソファーに座る。
ここが何処か知らんが、部屋が豪華すぎる。
一つだけ心当たりが無くもないが、考えたくはないから知らない振りで話を進めよう。
「で、何の理由で俺はここにいるんだ? ん、どうも。でも、アルコールがいいな。プレミアムラルフある?」
「俺達まだ未成年だろ」
メイドさんが持ってきたジュースを一気のみして、酒を頼む。
「馬鹿。こんなの素面で聞けるか。友人に誘拐されましたなんて……今回はカメラは何処だよ? それともマジモンか?」
俺達が企む時の大前提が面白いかどうかだ。
後で被害にあった自分も見て、最終的に笑える事が行ってもいい基準だから、必ずカメラを回す事にしてる。
「……今回はマジだ。それにしてもお前、家のメイドを我が物顔で使いすぎだろ? 適応力高すぎる」
別にそんな事ないだろ?
確かにマッサージや飲み物食べ物を要求したり、空調の温度や何時何が起こるかわからないから食べさせてもらったりしてるが、別におかしな事じゃないだろ?
「愛さん。申し訳ない」
「いえ、構いません。これは純也様の正当な権利ですから」
メイドさん、愛さんって言うのか。確かにメイドさんじゃ失礼か?
「愛さん、だっけ? 有り難う。後はいいよ、こいつから話を聞いたり、内容の如何によっては蹴り飛ばしたりしなきゃいけないから」
「……メイドとして、そんな事を言われたら退出するわけにはいかないのですが……」
真面目だなぁ。そんなの気にしなきゃいいのに。
「お前、恨まれてないんだな、よく知らんけど」
「あのなぁ……まあいいや、愛さんも当事者だからここに居てくれる? って、何でそこ?」
「職務ですから」
何故か俺の隣に座ってマッサージを再会するメイドの愛さん。
いい人だな。いや、職務に忠実なんだろうか。
メイドさんを使ってたり、家のとか言ってたり、部屋が豪華すぎたり、真面目な理由がありそうだったり……聞こえない。俺は何も聞こえないぞ! スルーして、俺は鈍感君を目指す。
「じゃあ、話を……って、何してんだ? 気持ちは分かるが変わらないぞ。あきらめて話を聞け」
「あーあーあー聞こえない聞こえない。俺は最後まで希望は捨てない。あーそこそこ、気持ちいいです愛さん本職ですか?」
「いえ、主人を満足させるのがメイドの役目。全てにおいて水準以上を満たしているのがメイドですよ。それにここてん……「ストップ!! それは俺は聞こえないから! 無かったことにして進めて」……かしこまりました。では……」
そう言うと愛さんは何事も無かったかのようにマッサージを続ける。
気持ちいい……このまま寝て、起きたら高校時代からやり直せたらいいのに。
そしたら、こいつに会わずに俺は平凡な一般人としての生活を歩むのに。
おっと、今でも平凡だった。
「声漏れてるぞ。俺に会わなきゃって、そんな事で平凡は無理だろ? お前既に明けの明星とか言われてたじゃないか?」
それはそれ。そんな黒歴史も聞こえないし。一寸運がいい事にいちゃもんをつけてきた奴らを成敗してただけだし。
むしろ、そんなニックネーム過大広告だし。
「老若男女問わず、困った人は見捨てず手を差し述べていたと伺っていますが?」
「何で愛さん知ってんの!? って、違うから! 人体実験の被験者にしてただけだから! 皆困ってないから、お金払ってやってる振りしてただけだから!」
「純也……もういいんだ。可哀想な中二病になってるから、考えつかないなら黙ってていいんだ」
くっ、こいつに同情されるなんて……。
「……ゴメン。ロープ買ってくる」
「俺に言われんのそんな!?」
「当たり前だ、このゴミ虫! こんな心外なことないわ! 慰謝料を要求するわ! っと、金は無駄だろうからお前今日一日牛乳雑巾頭に乗せてろ!」
「リーサルウエポン!? って、愛さんも持ってこなくていいから!?」
仕事早いな。流石は超一流のメイドさんだ。
はぁ、話も進まないし現実逃避も止めようかな。
「で、お前は天上院の屋敷に俺を連れてきて、何が目的なんだ? そもそもお前の名前は本名なのか?」
「おお!? 進めさせてくれるのか? 有り難う純也様!」
「このようなご関係なのですね。翔様……」
同情されてるぞ、翔。気付け。原因の俺が言うのも何なんだが。
「まず俺の名前だな。名前は想像通り天上院翔だ。木上は母方の苗字だ。で、ここは俺の屋敷だ」
お前の屋敷?
「俺達家族は一人1邸屋敷を持ってるんだ」
……言葉もないな。漫画か何かの大富豪の話か?
「で、愛さんは俺じゃなくて妹の専属メイドだ。薄々わかってるだろうが、OOのアイリーンだ」
「はい!? マジか!?」
「あれ? 知らなかったのか? お前にしちゃ察し悪かったな」
「はい、あの時はあのような失礼な物言いで申し訳ありませんでした」
それは蚊帳の外だった。てっきり現状説明から入っていくと思ってたのに、いきなりぶっ込んで来やがったな。
とりあえず生意気言った翔には、一秒間に十六連打を目指して拳をたたき込んでく。
じゃあ、あれか。パーティー間で会話が少なかったのは、あそこでわざわざ話す必要が無かったって事か!!
「お前等……」
「お前を騙してたんだ。重ねて本当に済まん」
「私も本当に申し訳ありませんでした」
違う、そんな事が問題じゃない! 論点がずれてる!
「違うわ! お前等の仲が悪いんじゃないかって、俺がどれだけ気を使ったと思ってるんだ!」
「は?」
「気……使ってましたか?」
使ってたわ! 俺はこれでも紳士なんだ。
「むしろお前が論点がズレてる気が……「そんな言はどうでもいい! 仲がよかったなら早く言え!」……ああ……なんか済まん」
「そう言えば、こんな人でしたね……まあ、だからここにいると言えるのですが……」
全く、いきなりこれだと、俺話を全部聞いたら本当に発狂しちゃうぜ。
だから、ほら横になるからもっと体重を込めてマッサージして?
「お前……大物だな。やっぱり……寝たままでいいけど、マジに寝ないでくれよ?」
「舐めるな。この程度の快感何でもないわ。俺の通り名が猫型ロボットに寄生されためがね君を忘れたのか?」
全く……こんな刺激程度……むにゃ……むにゃ。
「いや、それ駄目だろ!!」
「はっ! 俺は今何を!?」
「この程度とは……私の矜持に反します。純也様には最高の快感をご提供しましょう」
「え? 愛さんも何言ってんの? 本題そこじゃないからね!?」
優しく、特に激しくと、絶妙な快感刺激が俺を襲う。
しかし、こちらこそ舐められたものだ。
「俺への挑戦か? いいだろう、受けて立とうじゃないか。高校ではびっくりするほど勘が鋭くて、びっくりするほど神経の一部が抜け落ちてる、と言われた俺に並みの手は通用しないぞ」
「それ、鈍感センサーの事だし関係ないから! 純也、この場の話だよ、今は!」
俺は俺より強い奴に会いに行くんだ! 仕掛けられた挑戦を受けないは、戦士の恥。
「ふっ、付いてこれるか?」
「言いますね。快感に身の任せて、私無しでは生活できないようにして差し上げましょう」
「お前等、俺の話をって、愛さんはそれ駄目だろ!! ああ、もう、誰も話聞かないし……誰か助けてくれーー!」
突如開くドア。そこには高校のだろうか? ブレザーを身にまとった、正直可憐な美少女が立っていた。
「お兄様、私に任せてください!!」
「美玲、お前が来てどうするんだ!!」
この混沌に終わりはない。まる。
愛さんのテクは凄まじく、俺は何もしない内に二度目の気絶を果たしたのだった。




