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第五話、ジョブは何ですか?

「はい、すみませんでした。これからは心を入れ替えて馬車馬のようにジェイル様に尽くさせて頂きます」

「ん、しっかりな」

「ジェイルさんって……凄い……」


 俺の教育と言う名の口撃を受けてすっかり従順になった翔……プレイヤーネーム、ロマノフを見て、何故かミリンダに感心される俺。


 この娘も何処かずれてるよな。


 種族の関係か、正座しても俺と同じ位の目線のロマノフ、相対してとつとつと口撃する俺、横でそれを楽しそうに眺めているミリンダ、そんなのを広場で繰り広げているとまたもや注目を集めてるようだ。


 遠巻きに集まってきたプレイヤーからも、おい、あれさっき壁を笑いながら叩いてた奴じゃないか? とか、マジかよ、あんな責め苦受けたら俺なんて……とか、どうも顔バレしてるとしか思えない声が挙がっている。


 これじゃあ移動した意味がねぇ。


「やっぱりジェイルさんのお知り合いの方だったんですか?」

「いや、俺、筋肉、知り合い、いない」

「え、いや、待てよ。俺だよ俺! 翔だよ! 純也だろ!? わかってるんだろ? さっきそうだっていったじゃないか!? そもそもわかんないんだったら、全く知らない奴にあんなその道の人が受けたら極上のご褒美になりかねないような責め苦を授けるのか!?」


 そりゃそうだ。しかしまあ、長い付き合いなのにわからんもんかね?

 こいつ……まさかその道の人か? もしそうなら、付き合い方を考えないと……。


 それにしてもオンラインの世界で実名を出すなんて、なんて非常識なやつだ。


「いや、俺の勘違いだった。俺はそんな名だが、貴様のようなネットマナーもわからん、その道の趣味の人に知り合いはいない。さあ、ミリンダ、行こう。俺達二人なら楽しい仲間になれるさ」

「はい、わかりました、私の方こそよろしくお願いします。従姉妹とも待ち合わせしてるんで、一緒にいいですか?」

「勿論だ。ミリンダの従姉妹なら、是非にって感じだしな」

「いや、違うから! その道の人じゃないから! 俺も仲間に入れてくれよ!! 話が進まないからって、言ってたじゃないか!」


 うるさいやつだな。折角待っててやったのに、なんだコイツのこの態度は?


「いや、違うよね? 明らかに俺の為じゃなくてこの子とデートしてたからだよね? 待ち合わせ場所にも全然いなかったし……いつもの事だけど……」

「--でっ!? デートって!?」


 それで仕返しのつもりか、何を馬鹿な事を。


 俺はこれでも最低限のネットマナー位は弁えてるつもりだ。

 たとえゲーム系は初心者であってもその辺は変わらない。


「舐めてもらっては困るな。例え、相手がネカマだったとしても、俺は全くそれに触れる事なくキチンと対応してみせるさ」

「ジェイルさん、ネカマって何ですか?」

「ジェイル、お前例えが悪すぎるだろう……あのね、ネカマとは、インターネット上で男性が女性の言葉使いとかをして女性のふりをする事。通称ネットおかまの事だ。俺は別にいいと思うけどな。そういうロールプレイもありだろ。あ、別にミリンダさんの事を言った訳じゃなからね」


 無言で説明した翔ではなく、何故か俺に詰め寄ってくるミリンダ。


 しかも細かく説明しすぎだろ。どう考えてもお前の事だけどな。って言ったように聞こえるだろ。


 それに俺は自分の心構えを例で上げただけで、別にミリンダがどうとかそんなつもりじゃない。


 ただ無言で見つめてくるミリンダ。


 これは俺に罪の意識を感じさせる作戦なのか?


「純也……じゃないや、ジェイル。言い過ぎたんじゃないか?」

「ふむ、言葉の使い回しは失敗したかもしれんな。だが、止めを刺したのはお前だぞ、この馬鹿者が。今のネットプレイヤーは余り耐性がないのかな?」

「いや、この子が、じゃないのか?」


 一応謝罪をしておこうと思い、ミリンダに声をかけようとする。が、彼女はニヤリとまるで誰かを彷彿とするような笑みを浮かべていた。


 ……怖い、天然が何を考えてるかはわからないが、女性が何かを企んでいると思われるような笑顔はまっこと恐ろしいですたい。


 ピロリン!


 直後、電子音と共に俺の頭上に文字表示。


 文字の内容は……メールを受信しました。とある。


 メールって、こんな風に届くのか。意外だ。


「おい、筋肉!」

「筋肉って……ドワーフな。それにお前の一言は、ここにいる全てのドワーフ使いを敵に回した」

「何言ってんだ? 俺は普段のお前を言ってるんだ。まあ、そんな事はどうでもいい。メールが届いたんだが、どうやって見ればいい?」

「メール? メニュー画面に通信設定があるからそこからだ……後は……」


 意外と面倒くさいな。


 頭上にあるメールを表す手紙の絵をタッチしてみる。


 何だ、これで見れるじゃないか。


 何々、差出人は……やはりミリンダか。あの笑みはこれに関係してるんだろうな。


 予想通り目の前で、胸を張ってる(つもり)みたいで、笑っている。


 で、その内容は……と!?


 同時に添付された画像データに俺は絶句するしかなかった。


 マジか、コイツ……なんて迂闊な。


「ミリンダ……お前」

「ふふん。どうですか、わかりましたか?」

「ん? どうしたんだ?」


 メールと添付されたそれを見ながら、俺は一言しか言えなかった。


「バカだろ、お前」

「なっ!? 言うに事欠いてバカとはどう言う事ですか! 説明を要求します!」

「ん? どうしたんだ?」


 画像データを閉じて、ミリンダに向かい合う。翔は同じ事しか言ってないな。説明する気もないが。


「あのなぁ、ここはゲームとは言えネット社会なんだぞ。今みたいな言葉遊びを真に受けて、写メなんて送ってくる奴があるか!」

「でも、これで私が女の子だってわかりましたよね?」

「あ~そういう訳ね」


 添付されたそれは、高校生位の女の子の写メだったのだ。


 状況的にまず間違いなくミリンダだろう。データがPCとリンクしてるからなんらかの手段で送ってきたんだろうけど……。


 最近の若い子は皆こんなに迂闊何だろうか?


「ジェイル。近頃の子は意外とそうなんだよ」

「む。そうなのか。ミリンダ、君は迂闊過ぎる。もし俺が悪人で、今の写真を悪用したらどうする?」

「え? するんですか?」


 するつもりなら、わざわざ説明なんかするか。


「仮定の話だ。ネットと言うのはどんな事件に繋がるかわからない。相手だって何処の誰かもわからないんだ。個人情報を迂闊に開かすべきじゃない、事件は何も現場だけで起きてるんじゃないぞ」

「……有難うございます。気をつけます、でもジェイルさんもロマノフさんも良い人です。わざわざ教えてくれるなんて……」


 なんか感謝された。


「いや、当然の事だし……なあ?」

「見てられなかっただけだ」


 この後暫くの間、他にも何も知らなそうなミリンダに、俺と翔でネット上の一般常識を説いていく羽目になった。









「所で話変わるけどさ、ジェイル、ミリンダさん。ジョブは何だった? 俺は戦士だ」


 二人で顔を見合わせる。


 そう言えば、初めの神の選択の時にそんな事言ってたな。


 あまりに立体的な建物建築に感動して、基本的なメニューを見る事すら忘れてた。


「私は魔法使いですよ」

「俺は…………」

「メニューのプレイヤーネームの場所の下に表示されてるだろ?」


 く、言わずとも把握しやがるとは……腐っても友人か。


「べ、別に、見る場所がわからなかった訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよ! ち、一寸ボケッとしてただけだからね!」

「……そんな言い訳あるか……」

「ジェイルさん可愛い……」


 約一名反応がおかしいだろ? お兄さんこの娘の将来が心配です。


「ええと、農民、だとよ。冒険できるのか? このジョブ」


 なんか一般的じゃない気がするが。


 戦闘出来るのか? 農民だぞ。


「そんなものまであるんですか?」

「いや……農民? 俺も聞いた事ないぞ?」


 そう言われてもなぁ。

 表示されてるし。


「レアジョブか? ジェイル。どんなスキル熟練がある?」

「見るのは構わんが条件がある」

「なんだよ? 勿体ぶってないで、教えろよ」


 自分が先行プレイヤーで、知らなかったからってうるさいやつだ。


「どうすれば、そのスキル画面になる?」

「そうですよねぇ、私も説明書見ながらじゃないとわかりませんし」

「またか、説明書読んだんじゃなかったのか……メニューでプレイヤー情報。その中にスキル表示があるから」


 読んでないさ、わかってて言うなそんな事。


 言われた事の確認なんてちょちょいのちょいよ。


 早速表示されたステータスを確認する。


「全てレベル1だぞ?」

「当たり前だろ。まだ何もしてないんだから。どんなチート希望者だよ。SSの見過ぎだ」

「えすえす? ゲームですか?」


 素人がいるな。


 知らないならそれのほうが幸せだ。


「まあ、そうだな。ええとな農耕レベル1、農具レベル1、採集レベル1……ふむ、畑でも耕すか」


 どうやら俺は戦闘しないで過ごす事になりそうだ。


「……やはりレアジョブか。農耕と農具なんて種別は聞いた事ないぞ」

「あの……ロマノフさんは経験者なんですか?」

「ああ、あいつはサービス開始からやってる初期組だよ。廃人様は俺やミリンダのようなビギナーをあざ笑いに来たのさ」

「人聞きが悪いぞ。お前とやる為にわざわざキャラ作ったんだから楽しく行こうぜ。廃人なのは認めるが」

「βテスターだったから、知識チートだろうがな。おい、βテスターの特典はなんだ?」

 

 手にした剣を掲げて見せるバカ一人。


「金とスキルポイントのボーナスだけさ。俺達のプレイ時間を考えるともっと欲しい所だがな」


 う~む。


 知らない言葉が出てきたな。


「スキルポイントってなんだ? 響きから、多少は想像がつくが」

「私もわかんないです。公式には出てなかったですよね?」

「まあ、そうだよな。簡単に言うと、汎用のスキルをゲットする為だけに使えるポイントの事さ」


 βテスターだけのものだから、公式には乗らないだろう。


 そう締めくくったが、よく考えたら凄いんじゃないか?


 このゲームでスキルを望んで手に入れられるなんて。


「凄いんじゃないんですか?」

「二人とも、この世界を統括するメインコンピューター、マギを知ってるだろう?」

「魔法使いとかをマギって言いませんか?」

「知らんな、あれか、耳がおっきくなる手品師の事だろ?」

「お前……興味ない場所を読み飛ばしすぎだろ! テレビでもやってただろ!? マギはこのOOの柱じゃないか!」


 おーおー? ……オンラインオンラインの略か? 安直な略し方だな。


 しかし、明らかに人工知能の事。


 それが管理するネット空間で起こる事態は……まさか。


「顔見れば大体想像つくが、言っておくけどデスゲームじゃないからな」

「貴様……エスパーか!?」

「ですげえむ?」


 ちっこい顔して首を傾げるミリンダ。


 やはりホビットはなかなか可愛い。


「ミリンダには後で教えてやる。でも違うならなんだ?」

「はぁ……お前がそういうやつなのはわかってたが……まあいい。じゃあ、マギの説明するぞ」


 説明が始まった。


 一言で言うと……長い。


 歴史や機能の説明から始まり、なんだか秘匿っぽい開発者達の名前も出て来ていた。


 なんで、知ってるんだお前。


 つまり何が言いたいかと言うと……飽きた。


 うるさいから時計台の壁の方を向かせとこう。


 翔の呪詛が聞こえないように、ミリンダと世間話を始める。


「そういえばミリンダも待ち合わせか? その従姉妹殿と」

「え!? い、いいんですか? あの、ええ、そうです。随分長居したから、さっきチャットで怒られちゃって……迎えにきてもらう事になってます」

「ふーん。空手の実力者なんだよな?」

「はい、私なんか足下にも及びませんよ、確か地区大会で優勝した事もあった筈です」

「そりゃ凄い。所でこれ、高かっただろう? どうやって手に入れたんだ?」

「そうなんですか? 私もお誕生日にお父さんからもらったので、細かい値段は……」

「ジェイル聞いてないよね!? 俺の説明馬耳東風だよね?」


 なんか、一人で壁に向かって喋ってた奴が復活しやがった。


「全く……要はそのスーパーコンピューター、マギの演算機能を利用した数々のスキル群。つまり、他にはない唯一無二のキャラクターを作り出すのに、あまり役に立たない汎用のスキルなんか意味はないって所かな?」


 あ、ポカーンとしてやがる。


 取説は読んでないが公式は見たって、言ってんのに。


「なんだよ、知ってんなら面倒くさい説明させんなよ」

「ジェイルさん凄いです。私なんて何も知らなかったのに……」


 いや……ミリンダ。

 君はわからなすぎだろう?

 俺も同じ公式情報しか見てないぞ。


「おーい、ミリンダぁ」

「あ、メイ!」


 ん? ミリンダも待ち人来たり、か。


「ミリンダも、揃ったみたいだな。じゃあ、俺達も行くか?」

「ん? そうだな……って、もう一時間だぞ!?」

「確か、チャット目的でオンラインゲームにアクセスするプレイヤーもいるんだよな?」

「いますね。私、パソコンゲーム自体初めてだけど、楽しいですね」


 初めては俺も一緒みたいなものだ。状強的に仲間だな。


 しかし、これで満足してる俺達って……。


「ジェイルさん、ロマノフさん。今度一緒に冒険しましょうね」

「ああ。次会った時はクワの力を見せてやろう」

「おう……所でクワなんてアイテムあったかな?」


 ……マジで!?

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