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第二十四話、過ぎ去りし日常への帰還ですか?(1)

「結構プレイヤー来てるな。やっぱり関連付けてここか! って感じなのか?」


 ここはアレストガンの渓谷。街をコボルトの軍勢が襲撃した事で、その調査に、と、数々の高レベルのプレイヤーが徘徊してる。


「狩られすぎてコボルトいないし……」


 別に悪い事じゃないけどさ。

 全く持って安全に歩いていけるし。襲撃の時に召喚士でプレイした俺だが、大手を振って皆に見せて回りたい訳じゃない。


 だから今は幻獣も呼んでいない。


 布の服を着て銀の短剣を持ったよくわからない奴。

 それが今、他人から見た俺。


 モンスターも全て駆逐されてるし、全く問題ないね


「さて……よくわからんが、あいつに会えば進むんだろうか? とりあえず、奥に行くか」

「ギャグワァ!!」


 倒されてからある程度時間が立ったんだろう。不意に出現して襲ってくるコボルト。

 レベル的にも低ランクな為、特に相手にならない。


 銀の短剣で突き刺して、そのまま撃破する。


 道は散々通ったので記憶している。何一つ躊躇しないまま、散発的にコボルトを突き刺しながら歩を進める。


 目的地は奥のクエスト用の転移魔法陣だ。きっとそこら辺まで行けば何か起こるだろう。


「ま、何でもないなら帰ればいいだけだしな」


 全く本当にコボルトはいない。楽でいいな。だが、俺的にはただ移動すればいいのではなく、そこには彼女の姿があった。


「こんな所にいたのね……」

「……アイリーン」


















「やはり来たか……魔竜をその身に宿した英雄よ」

「ここか。その言葉で始まるって事は、あれか? ここで次のメインクエストへの布石が始まるのか? あれ、こいつザカールライツと敵対してた気がする。ってことは……俺、敵か?」


 ここは奥にあるクエストの転移魔法陣の前。


 俺の前に立つコボルトの英雄。顔はその他大勢と変わりないが、声色は険しい。

 やはり、一般的に悪い奴を吸収した俺=悪い奴。って言う判断をされてるんだろうか?


 そもそもここに来たのは、データ管理者が言っていた墓場の運動……じゃなくて、クエストが始まらなかったからだ。


 今の時間はロマノフとも都合があわず一人。暇に任せて、前回のクエストの関係があるかもしれないこのアレストガンの渓谷に来ただけだったのに。


 それに、先程のアイリーンとの事もある。


「何故、街を襲ったんだ?」


 その時の会話を考えながら、話半分何だが会話を続ける。

 この会話がクエストのトリガーとなるなら、きっと街襲撃の事を確認する事に違いない。そう判断して直接的に聞いてみる。


「それをお主が聞くのか? 悪しき英雄よ」

「あ、やっぱり俺なんだ……」


 データ管理者の話を総合するとそんな気はしてたけど……一寸切ない。


「悪しき英雄よ、お主は危険だ。あれだけ押し込まれていながら、一人の力のみで押し返すとは……」

「いやいや、一人じゃないし、条件がそもそもそんなのじゃないし、それに一緒にいた魔ぞ……」

「しかも、お主のような悪しき存在が、我等幻獣を無理矢理契約の鎖に縛り付け行使するなど言語道断」


 急に関係ない事をかぶせてきたぞ。魔族は? コボルト的にはどんな扱いになるんだ?


 うーん。英霊への道行の戦闘状態が、今フラグになってるのかね?

 今思いつくのは……一つは生存していること。まあ、これはクエスト達成が元々生存が条件だから言うまでもないけど。もう一つは幻獣を召喚して戦う事か? いや、召喚士をジョブで持ってれば言われるかもしれないから、ジョブ、召喚士を持ってることか?


「違うってのに…頭でっかちだなぁ……だから最後まで聞けって。お前等コボルトと一緒にいた魔族はどういう事だっての。それにお前もあの場にいなかったし」

「認められん。我等、コボルトの、幻獣全ての敵。今、ここで消えてもらう……」

 

 って、言うだけいって魔法陣に消えやがった。


「何これ? 弱者に口なしって事か? おいおい、俺がこのまま帰ったらどうするつもりなんだよ?」


 全く……お、これクエストになってるな。すれ違いを助けろ……って、どんな意味?


 どちらにせよ、一回あいつ、キャリーストレイシスを黙られなくちゃいけないって事ね?


「やれやれ……仕方ない……脳筋って、何でどいつもこいつも話を聞かないんだろうな?」


 俺は魔法陣から、キャリーストレイシスの移動した戦闘フィールドを見ながら先程のアイリーンとの話を思い出していた。















「あの娘がいなくなったの」

「ミリンダの事か? いなくなったってどういう事だ?」


 プレイヤー達から距離を取った俺達は、真面目な顔で口を開きだしたアイリーンに冗談ではないんだろうな、と思いながら確認をとる。


「そのままの意味。ミリンダ……天上院美玲が姿を消したの……ここじゃないわよ。リアルでね」

「……驚きや疑問が多すぎて、何から聞けばいいのかわからんのだが……天上院ってあの天上院か? それに姿を消したって……家出?」


 天上院グループ。


 俺はよく知らんが、確か翔の話だと日本有数の大企業で、冗談みたいな金持ち。

 お茶の間から世界までをキャッチコピーに、あらゆる物を生み出しては成功しているリアルチーター。


 刃向かったらリアルに闇に葬られる。そう言っても過言ではない位の権力者。らしい。


「そう。美玲はその一人娘。それにあの娘には専用のSPが付いてるから、家出なんて不可能。つまり……」

「誘拐……って事か?」

「そう。グループ全体があの娘を探してる。だから、私も見つかるまでここにはログインしない」


 え? そんな状況でそれだけを伝えるために俺を捜してたのか?

 いや、違うだろ? ここは不特定多数の参加するMMOだ。

 むしろ、情報収集か?


「この間、ミリンダに会った。手掛かりになるかもしれない」

「本当に!?」


 そして、俺はあの時のことを記憶している限り説明する。


「PK……それに、ログインした日は既にあの娘は……」

「少しは役に立つか? 勿論、ミリンダがいないのなら、その誰か別の奴がインしてた可能性もあるが……」

「……うん、いや……でも……しかし……」


 長考状態になってしまった。


 直感的に、あの時のミリンダは本物だと思うんだが……ここでのつき合いしかない俺には断言は出来ないな。


「……ん」

「落ち着いたか?」

「ええ。有意義な情報だわ、有り難う。正直、手がかりが全くなかったから困ってたの。本当に助かったわ」

「ただの1ゲーマーの俺で、役に立てたなら何よりだ」


 しかし、天上院グループが捜索しても見つからないなんて、どれだけ巧妙に隠れてるんだ。


「相手からの連絡みたいなのも……って、俺みたいな部外者が関わっていい事じゃないな……」

「そうね。天上院を知ってるならなおのことお勧めしないわよ。なにせ、私達は神を目指すって言われてるんだから……部外者って言うか……」


 何それ、初耳。


「でも、その上で言わせてもらうけど、ここで何かわかったら天上院の屋敷に連絡をもらえる? ロマノフまでなら状況を話しても構わないから」

「ここだと、俺が一番ミリンダ? に遭遇する可能性が高そうだしな。了解した」


 本物でも偽物でも、ミリンダがいるなら俺が見つけなきゃな。

 このまま、クエストを進めれば会えるような事を言っていたし……結局出来ることはゲームをする事だけか。


 嵐のように去っていったアイリーンとは別に、俺はその場で立ち尽くして頭を働かせる必要があった。


 ここ数日、いろんな事が起こりすぎだ。


 俺って、ただゲームを楽しんでただけじゃなかったっけ?


 全く、出来ることをやる。いつの時代もそれだけか。

 なんだ、結局いつもと変わらないじゃないか。

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