第二十三話、世界は何で回ってますか?(3)
「さて、緊急事態が発生したぞ。この豚カツ野郎!」
「急だな。昨日もドタキャンするし一体何があった? 例の件で何か進展があったのか?」
例の件……ミリンダの暴走。翌日には俺弱体化……弱体化か? 今の強さは変わってないし、より強化出来なくなっただけか?
まあいい。
「お前の所に、データバージョンアップ用のメモリースティックは来たか?」
「あ? そっちの話か……いや、まだ来てないな。その順番すらもお前のラックで探り当てたか?」
「いや、ちゃかす話じゃない。真面目に聞け、マッスルブレイン」
「ぶれないな、お前は……脳味噌筋肉って、脳筋って言いたいのか? で、それがどうした?」
「あれはな、そんなものじゃなかった……」
結果起こったデータ管理者との話し合い、俺に起こった出来事を話す。
「そんなことが……それ……やばいんじゃないのか?」
「一応、能力が制限されたけど、こうやってログイン出来たが?」
「話はわかったし、いきなりアカウント削除されたりするよりよっぽど良かっただろうが……」
実際その通りなんだがそれは困るし。
「俺達、って言うかお前は、ミリンダさんを守ってやるんだろ? なら、それは俺達にとっては秘匿しなければならない最優先事項。だから、お前がどうやってその特異性を把握されたかが問題だと思うんだ」
「よくわからんが、そんなに問題か? データを入力して遊んでるゲームだろ? 個々を追えるような機能は当然ついてるんじゃないのか?」
「冷静に言うな、そんな訳あるか!! そんな個人のプライバシーが守られないゲーム誰がやるかよ」
いや、でも、店舗だと防犯カメラとかついてるし、何もおかしくないんじゃないか?
「いやいやいやいや、そんなものとは違うから! つまり俺がいいたいのは、お前がもっと早い段階からマークされてたんじゃないか。って事だ」
「その可能性は十分あるが……だが、それは俺達にはどうしようもないだろ? もしそうなら、とっくにミリンダは問題になってるだろうし。違うならむしろ、それがなんらかの仕様の可能性だってある。それに、よしんば問題があってもあくまで忠告されただけの俺に、それを洩らすことは無いだろ」
昨日考えていたこと。そう、翔と話してたとおり結局俺が関われる事なんて、このOOをやるくらいしかないのだ。
強いて言うなら、この残った強大な力を使って誰よりも早く真相に近づくことくらい。
「まあ、それはそうだけどな……」
「わからないのは、運営サイドが何処までマギに干渉出来るのか、それに尽きるな」
「また、何かが起こるかもしれないってことだしな」
まあ、それこそ俺にはわからないし、とりあえず今すぐ出来ることからやろう。
「ミリンダさんとアイリーンに、継続的に呼びかける事……」
「後は、メインクエストを進めていくこと、だな」
なんか、もうゲームの枠組み飛び越えてね?
まあ、それも俺達らしいっちゃらしいけどな。
「よし、やろうぜ? 俺達の冒険はこれからだ!」
「ジェイル、無駄に死亡フラグを建てるな……」
だぜ?
「と、言うわけで、逃げ回った結果なんとか生き残ることが出来たって事」
「そんな感じだったのか……報酬は確か腕力強化だったか? 効果はどんなもんなんだ?」
「悪くないぜ? レベル1で攻撃力1%アップだ。レベル毎に1%上がっていくなら、とんでもない良スキルだろ?」
「確かに、物理、魔法問わず攻撃力アップはとんでもないな。あれだけ意表を突かれたクエストの報酬なだけはあるな」
先のクエストでパーティーを組んだ閃光の旅人亭に、クエストの詳細を、嘘を交えながら説明する。
同時にガラティーンの言葉にも返答を返す。
「………………でも…………4人の中の一人…………凄い」
「ああ、有り難うリィントゥース。よくわからんが、ひょっとしたら規定時間生存が条件だったのかもな」
「4人しかいないのを見るとそうかもな。だって、4人で、一人はソロになったんだ。実質3人で残ったモンスターをどうこう出来ないだろ?」
残りの3人も誰だかわからないから、なずが少ないって言うのが俺の言葉に信憑性を持たせてくれる。
「なぁ、ジェイル。俺を倒したプレイヤーなんだけどよ……」
そのブリュウナクの言葉に、閃光の旅人亭の皆は一様に沈黙する。
多分これが一番聞きたかったんだろう。その本来有り得ない仕様。
彼らは経験が長いからこそ、その答えは見つけられないのじゃないか?
「………………………………………………………………………………………………………やっぱり、状態異常だったのか? 話してる感じからそんな気がしてたんだが……」
「は? 状態、異常?」
ブリュウナクの話だと、混乱や洗脳、といった極々レアステータス異常があるらしい。それにかかると、その名の通り仲間を攻撃する事がある。
なんて、今の状況に都合のいい状態異常なんだ!
まあ、ゴードン社長がPK大嫌いな関係で、設定はされてるけどとんでもなくレアって扱いらしいが。
社員が無理矢理ぶっ込んだ感はあるが。
「違うのか? あの後異常解除したんじゃないのか? いや、待てよ。そしたら生き残ったのが二人? でも、ジェイルはソロでやってたって……」
「あ、ああ……多分そういう異常なんだろうがよくわからん。最後はそのまま消えちまったからな。てっきり自動でHPが減って戦闘不能になったと思ってその後は考えて無かったからな」
「聞いてないのか? そのプレイヤーから細かいこと」
「あれからログインしてないな」
「多分、ジェイルの邪魔をしたのが申し訳なくて、イン出来ないんだと思うぞ。その娘はジェイルに心酔してるから」
不審に思われる前に、ロマノフがサポートしてくれる。
「ジェイル…………もてもて…………爆発、する?」
「いや、しないし、別にもてもてじゃないから……ロマノフもいらんこと言うな、あんまり言うとミリンダに失礼だろ。折角OOを楽しんでるんだ」
「な? こんな感じなんだぜ。一緒にいる俺のことも考えろっての!」
「天然系か。わかるぜフェイルノート! 俺の周りにもいるんだが、あれは天災レベルだ! 無自覚ハーレムとは、本当に爆発すればいいのに!」
「おお! わかってくれるかブリュウナク! これは俺達みたいな、身近で体験した者にしかわからない苦行だ!」
「ふーん、可哀想だね。二人とも、ま、それはどうでもいいんだけと、でも結果的にジェイルを加入させて良かったでしょ? 僕の功績はデカいよね。あ、クエストに参加も出来なかったダルマさんは口を貝のように閉じて黙っててね?」
「ぐぬぬ……ペインキラーめ……」
こいつ等は、いつもこんな。一寸羨ましいね。バラバラになりかけてる俺達だが、俺達もこんな風になれるだろうか?
「なぁ、ジェイル。君さえよければ、君も閃光の旅人亭に入らないか?」
「…………いい…………私も歓迎…………する」
「俺もいいよ! ジェイル面白いし!」
俺を、ねぇ。ここも暖かいしありがたいが、一般のプレイヤーに知られては行けないことが多すぎるからな、俺は。
「ありがたいが、遠慮させてもらうよ。俺、いつか仲間内で自分のギルドを作りたいから……」
「……そうか。応援するよ。じゃあ、せめて俺とフレンド登録してくれないか?」
「…………私も」
「当然おれも!」
「この流れで僕のも断ることはないよね?」
「なんか……お前最近死亡フラグ踏み過ぎじゃね? その内、このクエストが終わったら結婚するんだ、とか言い出しかねない」
都市伝説なんてなんのその。俺は死亡フラグをぶち抜いて歩いていって見せる!
そんなこんなでなんかフレがたくさん増えた。
考えてみると、パーティーも制限されるな。俺、ロマノフとアイリーンと…………ミリンダ、位しか今後組める奴いなくね?
「何だか……前途多難だな」
「ドンマイ! 相棒」
「お前もなんだか面倒くさいフラグ建てようと必死だな」
「親友フラグってそんなに面倒!!」
暑苦しい。




