第二十三話、世界は何で回ってますか?(2)
「お前それ、マジか」
「当たり前だ。こんな事嘘ついてどうする? こんな誰にも話すこと出来んような事……」
翔に話した内容はシンプル。
クエスト中にミリンダが現れたこと。
そのミリンダにブリュウナクがやられたこと。
ミリンダが俺との約束をどれだけ大切にしていたかを。
クエストの内容と、襲っている敵を知っていた事。
そしてそれが事実だったこと。
クエスト開始前にはミリンダはログインしていなかった事。
「ミリンダさんが、その……PKをしたって事だよな?」
「俺の目が腐ってなければな。だが、そんな事が可能なのか?」
俺にはわからないが、そんな方法があるのだろうか?
「無い……筈だ。ロックスカン社は、社長のゴードンが自らPKは屑だと公言してる人だから。会社の発売したゲーム全てで、PKを匂わせるプレイは全て最重要に規制されてる。倫理系の物と同列にな。しかも、防衛データが優秀すぎて、ロックスカン社は法治国家って呼ばれてるんだ。今までそれを潜り抜けて、不正介入したハッカーも、俺達一般人が把握できるレベルではいない」
じゃあ、不正にデータを使われたりしてるわけじゃないのか。
「って、話した俺が感じたんだが、多少おかしかったがあれは確かにミリンダ本人だった」
「お前が断言するなら、そうだな。それに一個人になりすますのはマギの本体データに介入するのと同義だからな。日々進化してるマギにそれは無理だろ。なら、ミリンダがテスターだった可能性は?」
テスター? 言葉の意味を考えるに、ゲームマスターみたいなOOに介入しているロックスカン社に関係する人間の事か。
「そればっかりはわからんな。だが、ミリンダが会社の関係者だとして、社長自らが忌避してるPKなんて真似するか?」
「それもそうか。マイナスしかないしな。ロックスカン社は今、世界一のネットゲームの称号があるから経営難で無理難題を何処かから押しつけられてる、みたいなのも無いだろうし」
だが、なんらかの関わりがあるのは確実なんだ。そのなんらかがわからない。
「そもそも、俺は何をすればいいのか……」
「それは簡単だろ?」
抜け満ちなく、八方塞がりの状態の俺に、軽く返答する翔。
「簡単に言うな」
「だって考えるまでもないだろ。ミリンダさんがどんな立場なのかはわからないが、俺達に出来ることなんてOOをプレイし続けるくらいしか無いだろ? ここで止めたらまた約束を守れないだろ?」
確かにその通りだが……。
「普通にパーティーは暫く組めないだろうから、後は会ったときに聞くのが一番早いんじゃないのか?」
「意外だな……お前ならもっと考察を深めたりするかと思った……なんか俺が馬鹿みたいだな」
「これは考えてもわかんないし、どうみても一プレイヤーの領分じゃない。酷な言い方かもしれないが、ミリンダさんが納得の上、今の現状にいるのなら手に首を突っ込んで大企業から睨まれるのも遠慮したいってのが本音かな」
ふむ、そう……か。そうかもしれないな。
これで人生棒に振る危険もあったのか。
そこまでは考えてなかった。
「ま、俺に出来る事は可能な限りするがね。ただ
それはOOの中でだ。お前もそれでいいんじゃないか?」
「……ああ、もし彼女が退っ引きならない状況で、俺に助けをもとめてきたら別だが、それ以外ではOOで出来ることをする。と、それでいいんだな?」
「……一寸違うが、お前にそれ以上の譲歩は無理そうだしな。いいんじゃないか? それで」
何が違うのかよくわからないが、そんな感じで俺達の協議は終わった。
夜のログインで、ガラティーン達にクエスト詳細を説明するため、翔にメンバーのセッティングを頼んである。
約束の時間までまだある。
先にキャラクターのバージョンアップを行っとくか。
……メモリースティックって何処に指せばいいのか?
適当に差して、壊れたら嫌だな。
「何か情報は……って、手紙につける所書いてあるじゃん」
俺もまだ冷静じゃないな。そう思いながら、メモリースティックを差す。
あれ? これって自動ログインなのか? それとも一回インして手続きをしないといけないのか? って、どうせこれも手紙に……ほらら書いてあるし。
専用フォームで個人手続きね。はいはいわかりましたよ。と、言うわけで早速ログインした俺。
だが、その先にあったのは専用フォームなんかではなく、またもや視界一杯に広がる暗闇だった。
「あ……ありのままに今起こったことを話すぜ。バージョンアップの為にログインしたと思ったら、暗闇に放り出された。脱出方法は不明。解決方法も不明。な、何をいってるのかわからないと思うが俺も何が起こったのかわからなかった。リアルラックやチーターなんてそんなチャチなもんじゃねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
と、まあお約束はおいておいて……さて、この状況は一体なんだ?
原因を考えると、どう考えても突き刺したメモリースティックが原因だろう。
「だが、何故? わざわざ運営会社がそんな愉快犯みたいな事をする必要がある?」
「それは君が一番わかってるんじゃないかな?」
すぐに消えるはずの俺の呟きに、言葉を返してくる何かがそこにはいた。
「誰だ! って聞くのが一般的か?」
「冷静なんだね。もっと慌ててるかと思った」
「……慌ててるさ。今なら訳がわからないまま流されるかもしれないな。で、わざわざこんな所に招待して、俺に何の用だ?」
姿は現れない。個人を特定されないためか、データ的に必要ないか。
「まあ、まずは自己紹介をしようか? 私はゼクス。わかってるとは思うが、ロックスカン社のオンラインオンラインのデータ管理者の一人だよ」
「随分大物だな。俺は騙された、ってことでいいのか? 社員さん」
「その件に関しては私達も心苦しい限りなんだけど……君は私達が接触する事に関して、心当たり、あるでしょ?」
そんなものない……農民の特異性とサイドジョブの異常性、暴走中のミリンダ。その位しか。
「……………………………………ないな」
「そこまで沈黙するなら、返答の意味ないでしょ。とりあえず、私がここに来た理由から話そうか……あ、大丈夫だよ。今日最悪の事態になっても君のデータを削除するとか、そう言った事態には絶対にならないから」
そんなに大げさな事なのか? まあ、詐欺紛いで人の意識を弄んだんだ。
でる場所に出れば一裁判軽い。
「ま、まあ、まず聞いてよ。えっと、初めに君のジョブの農民はね。本来第三の街が解放されてから
、転職可能になることが決まってるジョブなんだよ。一応初期ジョブとしてなる事は出来るけど、確率は1%以下だよ」
「懸賞とかよく、当たるようで……なんかすんません」
「まあ、なってしまったものは仕方ない。私たちとしても、クエストをこなさないととても戦闘が出来ないようなジョブを続けると思わなかったんだし」
何せ武器はないしね。
そう言われても……俺はなんて返答すれば? がんばりましたか?
「だからそれはいいんだ。ただ、私達の予定よりクエスト進行や特定のジョブの解放が速まりすぎてるのが問題なんだ」
「特定? 俺が関係したのって言えば……召喚士か?」
「そう、召喚士は先のメインとなるグランドクエストに必須だから、設定はしたけどプレイヤーに解放されるのはもっとかなり後だった。それに、君のそのサイドジョブ……それも勿論後々に全プレイヤーに解放予定だったんだけど、そんな複数職設定なんて普通はあり得ない……それはイレギュラー」
イレギュラーなんてあるのか……そもそも予定しない出来事が何故起こる?
「ロックスカン社は、法治国家じゃなかったのか? 何でそんな意に添わないことが起こる?」
「法治国家……ネットで騒がれてるあれか。私達はそんなつもりはないよ。実際こうやって日々バグ取りに励んでるしね……あ、ゴードン社長のPK嫌いは本当だけどね」
やっぱりこれってバグ扱いなんだ。
「私達も、君に何の非もないから今までは静観していたんだ。だが、昨日の件でそうも言ってられなくなった」
「昨日……英霊への道行」
「そう。あれは完全なイレギュラーなんだ。そもそも英霊への道行きは継続するクエストなんかじゃなく、単発で終了するものだ。街の襲撃なんてものは、私達は初めからクエストに盛り込んだりしていない」
ん? 言葉の意味がよくわからないな。自分達じゃないなら、じゃあ、誰か?
「外部のハッカーやクラッカーじゃないんだろ? 一部の社員の暴走とかか?」
「うーん。そう言いきれなくもないが……私達と関係はあるし、外部アクセスではない、そしてゲーム内で完結していると判断した」
……そこから導き出されることは?
そもそも、何でこの人さこんなに極秘とも言える情報を俺に洩らすんだ?
最後に口封じでもされるんだろうか?
「つまり、この一連の騒動は、君の成長を察知したマギの独断である。と判断したんだ」
「俺の? 何で?」
「それは、君が本来持ち得ないジョブやスキルを所持してるから。恐らくはそこから、全体のクエストのランクを判断したんだと思われる」
俺がいるから、現状クエスト終盤だとマギが認識してるってこと?
「だから、私達は君には申し訳ないが、君のスキルを制限する事にした」
「……それはクエストを平均的な流れにするため?」
「そう。そして同時に私達からマギに働きかけることで、正常な判断が出来るようになる筈なんだ」
なんか、他人事のように聞こえてくるが、マギってそんなに独立してOOを運営してるのか?
「マギなしじゃ回らない?」
「マギはOOの柱だ。クエスト、NPC、モンスター、スキル、すべてを作成しているし、世界が安定して供給出来るように、ユーザーサポートの役割も込めてる。私達は調整くらいしか普段やってないんだよ」
機械の反乱って奴か? 本気でデスゲームが始まるのか?
「まさか……微調整で済むレベルだよ。それに、マギについても対策は出来てるから、こうやって少し働きかけるだけで解決する……で、君の制限させてもらうことは、それ以上のサイドジョブの追加、転職、新たなジョブの取得の禁止、固有を除いた汎用系スキルの拾得の禁止、店舗からの武具の購入の禁止……OOの自由度を全て消してしまうような選択になってしまうが、これを飲んでくれるなら月額の使用料は払わなくていい……どうする?」
今の話を反芻すると、本当にランダム自由度がない。
これは暗に俺に辞めろと言ってるのだろうか?
が、俺には今ログインしなければ行けない理由がある。
「そうか、まあそれで構わない。その処置はいつやるんだ?」
「淡泊だね。君はこのオンラインオンラインが好きじゃなかったのかい? これだけの優位性を手にしていたのに……でも、いいなら、早速やらせてもらうよ。ああ、動かないでいいし、準備もない。すぐ終わるから……」
返答待ちだったのか、すぐに俺の体が輝き出す。封がされてるのだ、そう思うとこの光がすごく邪悪な物に見えてくる。
「君は面倒をかけるんだ。この間で何か聞きたいことがあったら、何でも聞いていいよ。出来るだけ答えてあげる」
聞きたい事……あるけど……聞いていいものか?
「……いや、大丈夫だ。問題ない」
「そう言われると私も張り合いがない……色々本来は言えない機密を暴露するつもり出来たのに」
「いいのか? ただでさえ睨まれてるプレイヤーにそんな事……」
「んん? いいのいいの。こんな無茶をねじ込んでくる上が悪いんだから。少なくとも、私達データ管理者一同は君に申し訳ない気持ちで一杯なんだ」
そして、聞いた話が次は墓場で運動会だ。何でも、わかりやすく言うと、街の墓地で起こるクエストを進めることらしい。
「はい! おしまい。この状態で言うのも何だけど……これからもOOを楽しんでほしい」
「俺はやりたいことがある。だから、楽しむさ……所でここはだうやったら抜けれるん?」
格好付けた所でログアウト? のやり方がわからない。
しまらないな、全く。
「ああ、それは私がやらないと出来ないんだ。私もプレイヤーとしても遊んでるから、よければ次は、1プレイヤーとして一緒に遊べるのを楽しみにしてるよ……そうそう、近日中に新しいイベントを予定してるんだ。これが始まったらやばいと思うよ。なんせ、巷で噂の…………が…………じまるんだから」
何か重要なこと言った気がする。
なんでこんな聞き取れない場所で言う!? あれか! わざとか! そんな振りはいらないっての!
そんな事を思いながら、俺は強制ログアウトをする事になった。
情報をまとめたい。ロマノフにはメールだけ送って、今日もインはしないことにした。




