第二十三話、世界は何で回ってますか?(1)
あのクエストの翌日、俺は学食でカツカレーを食べている。
一人ではない。例のクエストに参加できなくて詳細を知りたくて仕方ない奴も一緒だ。
「何で、お前はそんなにいつも大盛りになってるんだ? 大盛りは別料金じゃないのか?」
「俺が知るか。お姉さま方にはあまりに栄養が足りなそうに見えるんじゃないのか?」
同じ物を頼んだのに、三倍位は量に差があるのが不満みたいで、何故か俺にいちゃもんつけてくる。
「くそ、どうせいつもの奴だろ? 爆発しろ! …………まあ、それはいいんだが……な? どうだったんだ? お前はきっと達成したんだろ? ガラティーンに聞いてもよくわからなかったし」
そういえば、起こった出来事が衝撃的過ぎて黙ってログアウトしたな。
だから、彼等に挨拶もしてないな。今日にでも連絡取ってみるか。
「まあな、当然だ。俺だからな……それについて説明する事も吝かではないんだが、それと、それとは多分別の一件で、俺からもお前に聞きたいことがある」
「お前が? 珍しいな。またクエスト上で不明な設定でもあったか?」
設定って言うか……あれはそんなものじゃ無い気がするが……。
「確かに俺は、クエスト英霊への道行き(2)を生き残ったし、他の誰よりも貢献したと思う。ターニングポイントでは他のプレイヤーとは誰とも会わなかったし。知ってたか? 街の敗北条件。それはな、NPCファットとフェイトがやられることだったんだぞ?」
「そうだったのか、いや、知らないな。だが、それじゃあ農民……と、言うか建物に入れるお前しか行けないだろ?」
いや、それは流石に条件きつすぎだろ。
「外に出てたぞ。二人とも専用のユニーク扱いのモンスターがいたから、放っといたら敗北するようになってるんだろう」
「しかし、その条件よくわかったな。普通は実際になってみないとわからないだろうし……」
「ああ、それはな……そこからが俺の本題なんだが……と」
タイミングよくなる昼休みの終了の鐘。俺は言葉を切ってテーブルから立ち上がる。
「ここまでだな。続きはまたの機会に……」
「待てよ! マジか!? この状況で次回に続くかよ! じらしプレイにも程があるだろ!」
こいつ……。
「貴様はこんな衆人環視の中で、何を叫んどるんだ……」
周りの学徒共が、一体何事かとこちらを見やる。が、何故か俺達の顔を見ると、納得顔で教室に戻っていく。
「何だあいつ等は……何であいつ等なら仕方ない。みたいな顔で去っていくんだ……」
「え? 当たり前だろ? 俺とお前だぜ?」
当然だろ、みたいな顔の翔。これはまさか、ウホッ! いい男達! みたいなあれか? うう……自分で言ってて寒気が……。
「そんな風に思われてたのか……近づくな変態。俺はノーマルだ。貴様みたいな腐ったメロンと一緒にするな! そんなふざけた幻想は俺がぶち壊してやる! まずは貴様からぶちのめす!」
「おいおい、落ち着けよ。何を勘違いしてんだ。俺だってノーマルだ。そうじゃないだろ。俺達がこのガッコで何してると思ってんだ?」
学校で? 普通に学生してるだけだろ?
「……コンピュータールームのデータをいじって、講義中に10分クッキングをエンドレスで流すのが普通か?」
「それは俺じゃないだろ。むしろそもそもの発端が、高橋のおばさんが出てるのを承知で講師の山田が番組批判を繰り返したのが原因だろ? しかも本人に聞こえるように。俺はその事実と言質取ったテープを学長に直談判しにいっただけだし。パソコン詳しくないからな」
「じゃあ、学食のおばちゃんの依頼でデモ活動の先頭に立って、時給と勤務時間の変更を勝ち取り、尚且つ食糧事情を改善させたことは?」
「あれはご婦人方の頼みも勿論だが、何より学食が旨くなかったから。働く方々のモチベーションもそうだし、仕入れる物が悪かった。まあ、言ってみれば自分のためだな……見ろよ。今じゃあ、予鈴がなっても学徒が来るようになったじゃないか。前は閑古鳥も良いところだったのに」
「じゃあ、あの、なんだっけ? 学園祭の時に、何とかってアイドルが来ただろ? そのときに着替えを覗こうとした奴らをお前が狙撃していったら、最終的に約半数の生徒との白兵戦になった事とか」
「それはあいつ等が悪いだろ。アイドルに粗相を働くとか、学校のイメージダウンも良いところだ。俺のいる内は、そんなマイナスイメージがあると将来に支障がでる。それに、戦いは数で決まるとは言っても、愚直に突撃しかして来ない暴徒と、優秀な指揮官の元、完璧に罠を張って備えてた部隊では質が違うんだよ」
急に何を言ってるのかわからないが、全然おかしな事はないだろ?
「キャンパスライフを謳歌してる、って言えばそれまでなんだがな……つまり、俺達は突飛な、おもしろおかしな事をする無軌道な集団だと思われてんだよ」
「……失礼な。ここの規則は守ってるし、成績だって一応全員ある程度はキープしてるだろ? 全くそいつらは何を見てるんだ」
「あのなぁ、人は中々やりたいことをやりたいように出来ない物なんだよ」
全く……そんな哲学的なこと言われても困る。急におかしな方向に話が始まったから、もう講義始まっただろうし……次、古代歴史論だぞ。あれははじめから出たかったのに。
「で、それはまあ、納得は出来んがわかりはした。お前は何時まで食ってんだ?」
「おまっ! 何で話と併用しながら食い終わってんだよ!? ラック極降りは化け物か!」
何言ってんのこの人? まあ、俺もそうだが、結構自主休講が多いから別にこいつ一人置いていっても構わないよな?
「じゃあ、先に行ってるな。話の続きは後で、かもしくは永遠の先でな」
「待てって! 今食う! 食うから! おい、マジで行くのか! 一寸、純也さーん!」
そして、俺は何か言ってるそれをスルーしたまま、足早に学食を後にした。
次に翔と話をしたのは、講義が全て終わった夕方であった。
「何で貴様俺の家にいるんだ? 不法侵入か? 隣の正義さん呼ぶぞ?」
「あの、ロマノフみたいな筋肉さんかよ。勘弁してくれ……あの人この間プロデビューしたって言ってたじゃないか。お前からなんか言われたら、俺ぼろ雑巾にされちまうよ」
まあ、どうでもいい話をしながら買ってきた1,5リットルのそば茶をコップに注ぐ。
仕方ないので奴にも出してやる。
「学食で話はしてたが、ぶっちゃけ、あの場で最後まで話す気はなかった」
「まさかの計画的じらし作戦!?」
こいつ、なんでこんななんだろう?
「真面目に聞け。正直、俺には判断つかんが他のプレイヤーには誰にも話せない事が起きたからだ」
「……それは、お前のジョブに起きてる事に関係があるのか?」
「それはわからない。総体的に考えれば、ただ無関係とは思えないが……実はな……」
まるでタイミングを見計らったように、インターホンが鳴る。
「おわっ! びっくりしたな。宅配便だろ? 一寸待ってろ」
「話に合わせて来客って……怖い話だったら、応対したお前はもう帰ってこないパターンだよな」
何を馬鹿な……俺の一日の配達頻度を知ってこんな事言って……はっ、むしろ皮肉で言ってんのか?
「はいはい。っと、あ、いつもご苦労様」
「いえいえ、霞さんの自宅が自分の配達範囲内だから、一気にノルマがはけて助かります! では、今日のぶんっすね」
そして、予想通りに昔の手紙を運ぶ人がデザインされた配達人がいて、品物を受け取る。
最早顔なじみだ。
「小物が多かったんだな。またよろしくな」
「はい! 多分明日もあるっすから、よろしくお願いします!」
両手いっぱいに荷物……懸賞品を持ってリビングに移動する。
「おい、手が離せん。玄関を閉めてこい」
「せめて言いようがあるだろ……」
「今日の物の中に、ビーフシチューがあるんだが……」
「純也様! 今すぐ行ってきます! 冷蔵庫への保管作業、よろしくお願いしますっす!」
走って玄関に向かう翔。走るな……階下の住民に迷惑だろ。隣人トラブルに発展したらどうするんだ。
ま、言われたように仰々しい袋はがんがん開けて冷蔵庫に放り込む。
殆どが食べ物で、後は小物が数点……と、なんかよくわからない奴があるな。
ロックスカン社? こんな所が関係するような景品の物送ったっけな?
でも、俺の名前だし……ま、開けてみるか。
「……メモリースティック……か? なんだこりゃ? お、手紙があるな……何々……」
全く……企業の言葉ってのは言い回しが遠まわしでいかん。
わかりにくい。
どうやらロックスカン社ってのは、オンラインオンラインの販売社のこと。
今回のこれは懸賞関係なく、バージョンアップの繰り返しで個々のプレイヤーデータに不具合が起こっているらしい。
その為、このメモリースティックの中にある修復データでプレイヤーデータ自身のバージョンアップをしてくれって事らしい。
「そんな事があるのか。ベータ版からやってるが、そんなの一度も無かったな」
「まあ、俺は不具合の塊みたいな物だから、ひょっとしたら使ったらそのまま消滅するかもしれないな」
それにしても、全プレイヤーにこんな物を送るなんて……余程の不具合なんだな。
「俺もその不具合って奴がわからなくて、今、調べてみたんだがな、報告例は極少数なんだが、何でも、使い魔やテイムしたモンスターに攻撃されたり、急にモンスターに攻撃が全く効かなくなったりするらしい」
「結構重傷だな」
「報告からまだ、一週間も経ってないが……早い対処だな。俺も帰ったらワクチン? やらないとな」
もう、そわそわしだしてる。はええよ。まだ、俺何話してないから。
「ま、これは置いといて……じゃあ、本題に入ろうか。タイムリーな事に、今の不具合が関係してくるかもしれない話だ」
「そうだな、それを聞かないと始まらない。ログインの話は後で考えよう。しかし、お前の規格外が関係してるかもしれなくて、モンスター関連の不具合も関係してるかもしれない? 何だか俺には訳ワカメだぞ」
そして、俺はあの時起こったことを、包み隠さず可能な限り記憶のままに時系列順に説明していく事にした。