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第二十二話、街の治安を守るのは自警団の役目ですか?(4)

「…………スキル、一閃」


 俺の両手に持った農具の、それに熟練度や威力増幅型スキルの効果で特大ダメージになった一閃で、誰もいない中央広場にいたコボルト大巨人を一撃の下に消滅させる。


 そして、振り返ることもせず、街の中心部にあるダンダクール武具工房に急ぐ。


「一体何が起こってやがるんだ。ミリンダ……何だこりゃ、冗談じゃない!」


 農具で襲い来るコボルトを一撃しながら、俺は先程のミリンダとの話を思い出していた。














「ブリュウナク!? これは……どういうことだ」


 ミリンダが、スキルでブリュウナクを撃ち抜いた。

 この事実は俺が今この目で見た。だから間違いない事実だ。


 だが、OOはPKは禁止で設定基準はかなり厳しいことになっていたはず……。


「これで私だけとパーティーが組めますね、ジェイルさん」

「ミリンダ、一体何がどうなってるんだ? 何故お前がブリュウナクを攻撃できる?」


 俺の言葉にミリンダは小首を傾げるように斜めにする。


「何故って、邪魔だったからですよ?」

「いや、そうじゃない……わかってるだろう? 俺達プレイヤーにPK出来るシステムは組まれてない。だとしたらそこのロジックがおかしくなったか、デスゲーム化したかのどっちか……どちらにせよ、お前はある程度の情報を得ているだろう」


 玉のように笑うミリンダ。


 何故、このタイミングでそんなに嬉しそうなんだ?


「まさか……そんなわけないじゃないですか」


 それだけいって、言葉を止めるミリンダ。一体何について言ってるんだ。


「わかりませんか? 私が言ってること? これはデスゲームでも、マギの反乱でもありません……もともと定められていたんですよ」

「何を言ってる? ミリンダ、お前がプレイヤーを攻撃できる事の理由にはなってないぞ」


 尚も笑うミリンダ。何だ、俺がおかしいのか?


「ジェイルさん。いつの間にか私じゃ追いつけないくらい強くなったんですね。待ってて、私を守ってくれるんじゃなかったんですか?」

「…………!? ミリンダ、それは……」


 こちらから言い出そうと思っていたが、まさかこのタイミングで……。


「私、寂しかったんですよ。アイリーンと一緒に少しずつレベルを上げながら、ジェイルさんの言葉だけを信じてがんばってレベル上げに励んで……でも、ジェイルさんはもうレベル31。私なんかじゃとてもじゃないですけどもう、一緒に遊べません。待ってましたけど畑にも来てくれませんでした」

「………………………………」


 無理してでも、もっと早く連絡を取っていれば……この不可思議な状況はわからないが、少なくともこんなにミリンダが悲しむことはなかったんだ。


「ミリンダ……俺は…………「だから私、決めたんです」…………決めた?」


 晴れ晴れとした笑顔を見せるミリンダ。


「ジェイルさんが他の人より何倍も早く強くなるなら、私はこの世界で一番強くなればいいんだって」

「何? 何を言ってるんだ……」

「幸い皆さんが、私に協力してくれました。だから、後はこのクエストだけです」


 言ってる意味が理解できない。だが、この局面……一歩間違えば全て致命的な何かが起こる気がする。


「ミリンダ、聞いてくれ。今回のことは、全て俺が君の事を軽んじてしまった為に起きたことだ。済まなかった。だから、俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ。出来る限り、かなえられるよう尽力する」

「……もう…………いですよ…………じゃあ、ジェイルさん。私は帰ります。だから……私に会いに来て下さい。今度は言葉だけでなく、態度でその言葉を証明して下さい……待ってますよ、ジェイルさん」


 そういうと、体が段々薄れていくミリンダ。消えているのか? 一介のプレイヤーにこんな芸当が出来るのか?


「ああ、そうです。ジェイルさん」

「……なんだ?」

「このクエストはモンスター側が勝利すると、この街が一定期間廃墟になる襲撃クエストです。ここに負けてしまうと、私の所に来るのが遅くなっちゃうので、ヒントを出しときますね」


 ヒント、か? まるで運営側の言葉だな……まるで? いや、まさか……それに、体が消えきってしまっても声が聞こえるなんて……どんな手品だ。


「このクエストの敗北条件は、ダンダクール武具工房にいる、フェイトさんと、ファットさん。両名の敗北です。このお二人は大抵の事では負けませんが、相対している魔族さんには負けてしまいます。そう言う物なんです。だから…………ジェイルさんが何をすべきなのか、わかりますね? じゃあ、改めて……さようならジェイルさん。私は何時までもお待ちしてますね」


 そして、声も消えた。


 クエスト開始から大分時間が立っている。


 ミリンダが何なのかについては後で考えればいい。

 まずはその情報を頼りに、武器を農具に変更して

駆け出すしかなかった。

 不思議とミリンダは嘘は言ってない。


 そんな気がしていた。












 遠目だが、フェイトがダンダクール武具工房の前で戦っているのが見える。


 コボルトは彼の一振りで、ガンガンHPを減らしている。

 だが、その後方のローブをつけた角野郎が放つ魔法を避ける事が出来ず、苦悶の表情を浮かべる。


「フェイトのHP、半分切ってるじゃないか……一撃で決める……スキル、剣戦の一撃!」


 鉈を構えながら走り込む。狙いは角野郎ただ一人。


「覚悟! スキル、一閃!」

「ぐおおおおおおおおおおお!!?? こ、な、なんだこれはああああああああああああ!!???」


 全く、背後に注意を払わない角野郎は、俺の全力の一閃を受けてHPを即ゼロとする。 


「馬鹿なああああああああああああ!!!??」

「フェイト! こいつは仕留めた。雑魚も一気にやるぞ!」

「ジェイル様。了解致しました。では、行きます!」


 元々角野郎さえ居なければ優勢だったのだ。不意打ちでしとめた後は、俺やドライも加わると驚きの速さでコボルトを駆逐していった。


「ドライ、回復を……フェイト、大丈夫か?」

「精霊様の癒しを私にも……ドライアード様、ジェイル様、感謝致します。私は大丈夫です。それよりもファット様の元へ。あの方の方へは、最も相性の悪い鉄壁のダイモンが向かっています。このままでは……」


 鉄壁のダイモン? モンスターに名前があるのか?


「それは魔族の事か?」

「既にご存じでしたか。そうです、英雄の少年が駆逐したと言われていた魔族です。私と対していたのは、魔法無効の臼風のマイタガインでした」


 彼が残HP半分だったんだ。向こうも急いだ方が良さそうだ。


「わかった。じゃあ、行ってくる。お前はどうする?」

「私は皆様を守らなくてはいけません。それが、この街の守護者の役目ですから……」


 何、その強さはそんな複線が合ったわけ?


 いや、今は気にしている場合じゃない。急がなくては。


「わかった。無理はするなよ。ドライ、行くぞ」
















 いやぁ、今度はモンスターの数多すぎ。


 家がモンスターに囲まれてる。それにドアがこじ開けられてる所を見ると、中にもごった返してるっぽい。


「ドライ、剣形態。思い切りやっていいぞ。ただ、死ぬなよ……とりあえず少しでもこのモンスターを家から話さないと、進入も出来ん。聞け、モンスター共! 我が名はジェイル! 我を恐れん者はかかってこい! 無駄と言う言葉を教えてやろう! さあ、他の有象無象よ! 刮目して見よ!」


 俺の名乗りを受けてか、大柄のコボルトが棍棒片手に向かってくる。

 こんな相手スキルを使うまでもない。


 棍棒を振り上げた所で、鎌で横一線に切りつける。

 ただそれだけでそのコボルトは消滅する。


「さあ、次はどいつだ? いないのか? 腰抜け共が!」


 と、張り切って罵声を浴びせても全く動きはない。

 やはり、この手の事はスキルがないと駄目なんだろうか?


「仕方ない。斬り捨てながら進むか」


 両手の農具を持ち直して、ドライにスキルの指示を出した。











「ほう、あれを抜けてくるとは、ただの人間じゃないか……英雄。貴様の後継者か?」

「おわぁ! あぶねぇ! ドライ、回復! ほら、爺、薬草飲め、薬草!」


 体中血だらけで、ファットの元に行くとなんとそのHP1~2割。

 急いで回復させる。


「きおったか、馬鹿もんが! こんな場所まで何しにきおった!」

「お前に死なれたら寝覚めが悪いんだよ。年なら年らしく隠居でもしてろ!」


 ガンガン倒していったから、敵は魔族、鉄壁のダイモンの周囲に何匹かコボルトが残っているだけになっている。


「あれは厄介か?」

「厄介じゃな。あの大きな盾で、全て止められてしまう」


 騎士タイプって事か? 二つ名にすら鉄壁だもんなぁ。

 正直、俺って、ファットの劣化版みたいな感じだから、ファットに相性悪けりゃ俺も悪いだろう?


「貴様がどれだけの使い手かは知らんが……「一閃!」……ふむ、中々素晴らしい卑怯だ! その躊躇のなさ、貴様も我ら魔族と変わらん現実的な見方をしとる」

「スキルも完全に防ぐのか……あの盾……厄介だな」


 どうやら、完全防御みたいだ。本体にダメージが入ってるとは思えん。


「これだと一閃が効かない? スキルはそれしかない……どうする?」


 両手で斬りかかってみる。上段、突き、下段、中段と、ラッシュをかけるが、盾に阻まれて全くダメージはない。  


「そんなものか? いや、人間なぞ所詮こんなものか、残念だ」

「厄介だな。魔法か? いや、砕いてみせる! ……っと、痛てぇな。ダメージは大したことないのか……持久型め」


 攻撃に夢中になって、奴の攻撃を受けてしまう。が、それ自体は大して痛くない。


 問題は当たらないことか。俺の威力なら一撃なのに……。


「それは主が未熟者だからじゃ! 攻撃とはこうするのじゃ、見よ! スキル、一閃二式、霞」


 ファットが俺の一閃とは違う、別の攻撃を繰り出す。

 双剣で始めに活きてない方の剣をフェイントに使ったのだ。


「それで変わるのか……は? なんだそれ、そんなのありか?」

「鉄壁の俺に傷を付けるか……老いたりとはいえ英雄の名は伊達じゃないな」


 ファットの剣はダイモンの盾をすり抜けて直接本体にヒットしたのだ。


「これが発動型スキル進化術、天の道。このスキルは、血のにじむような経験を積むことで、そのスキルがより強力な技術を体得するスキル。英霊の加護を受けている主なら使えるはず……」

「英霊? クエストはしたが、加護なんて……あった、これか? 英傑の力……」


 それに今、ファットから話をきいたからか? 奴が言ってた天の道を覚えてるし。

 一閃も今見た一閃二式、霞、を覚えてるな。


 なんてタイムリーなんだ。そう言うクエストなのか?


 効果は、敵の防御無効。代わりに威力激減か……。


 いや、十分!


「誠に遺憾ながら主はワシの後継者になっとる。今ので、ワシの見せたスキルは全て託せたはずじゃ。ならこやつなど物の数にはならぬ。やってしまえ!」

「言うじゃないか、英雄。俺の守りを抜けれる奴なんていないんだよ!」


 それはフラグか? たった今ファットに貫通させられてたが?


「一撃じゃ無理か? いや、まあ、悪いがここでお前は終わりだ……スキル、剣戦の一撃! 一閃二式、霞!」


 見たとおりにフェイントを入れてから斬り抜ける。

 俺の一撃も無事発動したようで、ダイモンの盾を抜けて本体へ切りつけられる。


「ぬ、馬鹿な! こいつも俺の盾を!? し、しがもこの威力が!?」

「スルー効果ヤバすぎる。確かに威力は下がってるが、防御無効って……威力半減しても防御分があるから、通常の一閃と殆どかわらねぇ」


 残HPはもう殆どない。奴は驚愕して俺を警戒するが、何か忘れてないか?


「お前はもう終わりだ。ドライ、行くぞ。スキル、幻獣の咆哮、リーフストーム」

「幻獣っ!? しまっ! ぐああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 広範囲への葉の刃をうけて、魔族、鉄壁のダイモンは、消滅しきった。


 スキル、一閃二式霞……か。とんでもないな。だけど、完璧じゃないみたいだな。

 ウェイトタイムがあるな。物理型スキルには殆どないのに……まあ、強すぎるから仕方ないか。


 一閃二式霞のウェイトタイムは、10分。長いよ……大体一戦闘に一回位しか使えない感じだな。


 た、これで、クエスト達成条件は果たした。後は、残党を狩るだけだ。


















(皆様お疲れさまでした。達成条件を満たしたため、クエスト、英霊への道行き(2)を終了します。残プレイヤー4、達成したプレイヤーの皆様には、クエスト報酬として、スキル、腕力強化、を取得できます。クエスト欄の達成報酬の項目をタッチして取得して下さい。今後ともOOをよろしくお願いします)


 終わったか。俺の周りには、敵を叩き潰す剣を持ったドライと、双剣スキルで一気にHPを減らし尽くすファット、堅実に剣と盾を使い戦うフェイトがいた。


 あ、報酬の腕力強化取っとかないと。


「これだけの組織だった襲撃。もしや魔王が復活したのかもしれん」

「そんな……魔王は彼によって封ぜられた筈……」

「しかし、魔族が襲撃に加わっとる。時代が英雄を求めとるのよ……のう、ジェイルよ」

「俺!? 急に振るなよ。クエスト進行はそっちでやってくれよ」


 夕日をバックに締めるならこっちを巻き込まないでくれよ。


「この世界に英雄の資格を持つのはワシと主だけじゃ。ワシはもう老いぼれじゃ……それにワシと違い、アイネスと同じように精霊に愛されておる主にしかできん事じゃ」

「これは俺がイエスって言うまで続くのか?」

「私達は、ジェイル様が動きやすいように準備しておきます」


 あれ? 今度は俺の返事ないし。なんか外堀から埋められていく感じがする。


「まずは街の復興からじゃな。大分やられたからの」

「暫くは私達も武具以外の物を作ることになりそうですね」


 歩いていく。あれあれ? ここはせめて俺に声かけろよ。


 まあいい。


 ギリギリだけど終わった。色々考えさせられる事はあったが、クエストは問題なく終わった。


 疲れた……精神的にもな。


 休もう、とりあえずゆっくりと。


 誰とも話さずにログアウトした俺は、ベッドに倒れ込むと眠った。泥のように。寝れば何も考えずに済むと、それだけを頭に考えながら。


 

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