第二十二話、街の治安を守るのは自警団の役目ですか?(3)
「これは無理だわ……運営の悪意しか感じない」
コボルト中級僧兵の錫杖の攻撃を、ガラティーンが腕をクロスして受ける。
「全くだ! どうしろってんだよ、この野郎!」
ブリュウナクが動きを止めたそのコボルトを蹴り飛ばす。
「でも、ここまで善戦出来てるのは、ひとえに僕のお陰だね。やっぱり感謝してよね? 行くよ? スキル、掌打!」
そして、追撃としてペインキラーのスキルが直撃する。
「…………今なら…………スキル、不意打ち、首狩り」
起きあがった所を、リィントゥースの腕が背後から首を押さえて思い切り曲げきる。
どうやらクリティカル判定が入ったようで、コボルト中級僧兵は一撃死判定を受けて消滅する。
「ふう、これで五体目か……なんとか私達にリタイヤはいないが……もう211人しか残ってないのか……まさかレベル制限がかかって、一気に装備が全て剥がれるとは思わなかった……格闘系のスキルが残っていた、ペインキラーとリィントゥースもそうだが、何より、ジェイルのクレイゴーレムのスロウ化が無ければ私達も持たなかっただろう」
「役に立ったなら、俺も参加した意味があったよ。むしろ、俺としては、装備なし状態でこうも綺麗に連携出来るチームワークの方が驚きだ」
この状況を反芻する。そう、ガラティーンの言葉通り、既に参加者の1/3程度しか残ってない。
その全ては、レベル制限のせいで全裸(全身タイツみたいな格好は残るが)になった高レベルプレイヤーにある。
装備なしじゃ、流石にどうしようもなく、ガンガンやられてるのだ。
で、やられたら復帰はしない。クエスト失敗扱いでそのままクエスト用のフィールドから出される。
そして、数が減った分残ったプレイヤーにモンスターが集まり……結果は言うまでもない。
「完全な負け戦だな」
「俺達だってギリギリの戦いなんだぜ。レベルがピッタリのパーティーじゃなきゃまともな戦いなんて無理だ」
また、こちらを見つけて走り寄ってくるコボルト中級剣兵に対して、ガラティーンがスキル挑発を使って誘導する。
「クレイ、行け!」
「私を越えられると思うな、スキル、センチネル!」
ガラティーンのスキルが発動して、自身の守備力が増大する。
コボルト中級剣兵は一心不乱にガラティーンに剣を振るう。
その背後からクレイが殴りかかり、スロウ効果を与える。
無手で挟撃するペインキラーとブリュウナク。
隙を狙うリィントゥース。
俺はとりあえずクレイに指示を出す。
このコンビネーションはなかなか有効で、その後もコボルトを撃破していく。が、それはあくまで敵が単体だったときの話だ。
プレイヤーが減るにつれ、そうも話が行かなくなる。
「囲まれたぞ! ジェイル、中級格闘家を頼めるか?」
「わかった、早くしろよ? クレイ、行け!」
ガラティーン達がコボルト中級騎士を相手取る間に、俺は同時に戦闘になったコボルト中級格闘家を足止めする。
「クレイも自動回復があるとは言え……こうも連戦だと流石にまずいか?」
元々のクレイはレベル32。30に制限されても殆ど変わりない。
ただでさえ能力の高めな幻獣だ。時間さえあれば短期での撃破も可能だ。
「ぐ、しまっ!?」
「な、もう一匹だって!?」
「ブリュウナク! く、スキル、ホーリーサークル!」
背後を見ると、ブリュウナクのお腹から大剣がはえてる。
コボルトもう一匹追加か。
これは……不味いか?
「…………回復アイテム…………気絶してる…………」
コボルト三匹……いや、これだけじゃない。まだ来ているな。四、五、六……八匹。
こっちは動けないメンバー一人。
「詰んだね。ガラティーン、どうする? 覚悟を決めるかい?」
「ブリュウナクの気絶回復までは持たないか。各員! 全力で……「ガラティーン、あれ等相手にどれだけ持つ?」……ジェイル? そうだな。持って30秒だ」
30秒か。ならギリギリ間に合うか?
「じゃあ、デカいの一発行く……こっちの守りは任せた」
「へぇ……ジェイル君……じゃあ、僕は背後を守るよ」
「…………覆せる? …………なら私はブリュウナクを守る」
「召喚士としてか……わかった。ジェイル、君に全てを託す。スキル、アイアンボディ、エアーシールド、リフレクトサークル!」
俺はクレイを自爆させて、眼前のコボルト中級格闘家を仕留める。
そして、ドライアードを呼び出した。
「ドライ、スキル、リーフストーム準備」
ガラティーンがコボルト達に袋叩きにされている。
しかし、スキルの効果からか、減るHPは予想よりも緩やかだ。
「スキル、大挑発! 何人たりともこの先は行かせない」
「この付近は皆やられちゃったわけ? どんどん増えてない? スキル、蹴撃翔!」
「ぐ、スキル、乱れ打ち! …………30秒は、無理…………」
ゴキブリか!? テレパシーでも使えるのか? と、思えるくらい続々と増えていくコボルト達。
「よし、ドライやるぞ。スキル、精霊の咆哮。全員仕留める! 発動、リーフストーム!」
ガッツンガッツン減るメンバーのHPがゼロになる前に、スキル効果で威力倍のリーフストームが範囲内のすべてのコボルトを巻き込んだ。
「流石に一撃は無理か。ドライ、弓形態で射撃しながら接近。近接距離からは剣形態で残った敵を砕け」
40%位は仕留められたか? 残りもHPは残り少ない。
ドライに指示を出した俺は、ブリュウナクにつきながらリィントゥースに薬草を放り投げていた。
「…………凄い威力…………」
「スキル効果が切れたか…………しかし、これが召喚士の力か」
「予想通りだよ。やっぱり君を連れてきて良かった!」
息を吹き返して、反撃にでるメンバー達。
どんどんとコボルトを仕留めていくが、そうは問屋が卸さないみたいだった。
「がっ!? まさか、僕が……!?」
残党を掃討中に、不意に飛んできた矢に貫かれてペインキラーのHPは一気にゼロになる。
「一撃だと!? 何処だ! ぐ、こいつは……」
消えるペインキラーを見て、射手を探していたガラティーンは、走り込んできた両手に剣を持ったコボルトの剣をを受け止めきれず大ダメージを受ける。
「ドライ、スキル、精霊の癒し!」
「レベル40オーバーのコボルト上級双剣士が何故この場に…………スキル、センチネ……がっ!」
ドライの回復よりも、ガラティーン本人のスキル発動よりも、何よりも早く再度飛んできた矢が、ガラティーンのHPをゼロにする。
「…………敵討ち…………スキル、クリティカル率アップ、首狩り」
声のした方を見ると、リィントゥースが弓兵と思しきコボルトの首をくいってしていた。
「当たった…………でも、これは抜けれない…………ジェイル…………この場を脱出して…………なんとかクエスト達成して」
「リィントゥース、まだ行ける! ドライ、弓形態、コボルト上級組のタゲを取るんだ!」
双剣士が、他のコボルトとは一段階違う速度でリィントゥースに走り寄る。
ドライの矢は、当たってるがこちらを見向きもしない。
「んっ! …………ただでやられない…………スキル、微塵隠れ!」
コボルト上級双剣士のスキルと思われる、双剣の振り回しを受けたリィントゥース。
僅かに残ったHPで、その場で大爆発を起こす。
煙が消えたとき、コボルト上級双剣士の姿は無かったが、そこにリィントゥースの姿もなかった。
「一気に全滅しただと? 急にモンスターのレベルが上がった……」
「皆、やられちまったのか?」
ドライが残党コボルトを全滅させた時、頭を振りながらブリュウナクが起きあがった。
「ああ、コボルト上級双剣士と、名前はわからんが射手にやられた。リィントゥースが最後に二匹とも仕留めてくれた」
「今までのコボルトより全然格高いじゃん! 流石、姐さん。いい仕事してるわ。ジェイル、この後どうする? 二人で、しかも敵が強いんじゃ対処出来ん」
二人って、戻ってこれないならパーティーはどうなってるんだろう?
パーティー表示から消えてる。脱退扱いなのか?
「ブリュウナク。パーティー情報みたか?」
「いや、何だ? って、俺達だけになってるじゃん!」
これは、一体なんでだ?
「わざわざメンバーからも外す意味があるのか? 一寸悪質すぎないか? パーティーチャットさせない為だろ?」
「そうか? 本当にそれだけだろうか? しかし何故、きっと意味があるとは思うんだが……」
考えがまとまらない。
「居ました。ジェイルさん!」
声がする。モンスターか!? と、二人とも構えていたが、それは今までよく見た俺のパーティーメンバーの姿だった。
「ミリンダ? インしてたのか?」
「はい、このクエスト開始のギリギリになんとか間にあったんです」
「連絡してくれれば良かったのに……一人なのか?」
いつも一緒のアイリーンの姿がない。
「アイリーンは私を庇って……」
「そうか。こっちもこいつだけだ……今回は負けかもしれん」
「じゃあ、私とパーティー組み直しましょうよ?」
パーティーを組み直す? そうか、その為の処置か!
これだけ沢山のプレイヤーがいるんだ。俺達みたいに生き残ったプレイヤーが必ずでる。
しかし、パーティーメンバーが抜け扱いにならなければ、俺達はリーダーじゃなきゃメンバーの加入権、脱退権を持たない。
だが、自動脱退扱いになれば、リーダーは自動で引継になるし新しいメンバーも加入可能になる。
成る程……考えたな。
「ブリュウナク、いいか?」
「勿論。この娘もジェイルやフェイルノートの知り合いだろ? まあ、そうじゃなくても俺は大歓迎さ」
軽いなぁ。今は猫の手でも借りたいから、増えるのは大歓迎なんだろうが。
「じゃあ、お願いできるか? ミリンダ」
「はい! でも、その人は邪魔ですね……スキル、魔神の指先」
「がっ!? プレイヤーだろ? どうなって……や……が……る…………」
何故か俺は、ミリンダが指先から黒いレーザーを出してブリュウナクのHPを削り取るのを、夢でも見ているかのようにただぼうっと見つめていた。