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第四話、アナタは誰と何しますか?

 フレンドとなったミリンダと、暫くこのVRの世界の凄さを語り合う俺。


 待ち合わせを強硬に薦めてきた何処かの馬鹿がやってくるまで、ただ待ってるのって暇だしな。


 ゲームを薦めてきて、尚且つあれだけお約束のフリ、それを受けて尚待ってやってるのに遅刻とは……確か電車が家まで30分位かかるが、そんなの気合いでなんとかしろよ。


「ジェイルさん、見て下さい! 猫、猫がいますよ!」

「ああ、猫だなぁ」


 現実世界と寸分違わぬ猫様が俺達の前を横切っていく。


「ああ! あそこ! ネズミですよ!」

「ああ、ネズミだなぁ」


 今度は俺が見た事のある一般的なネズミより一回りはでかいネズミが俺達の前を横切っていく。


 ネズミってデカいんだな。


 サイズ比的にここだと猫がネズミっ狩ったり出来ないのだろうか?


「ジェイルさん! 私ももう一回やってみますね、はぁ!!」

「ああ……ああ!?」


 まったりと話していただけなのに、何処でスイッチが入ったのか正拳突きを連続で壁に叩き込むミリンダ。


 まったり感が駄目だったの? だとしたら脳筋率高すぎるぞ。


 しかもその拳打はまるで舞踏でも見ているように綺麗で、俺のなまくら拳法なんかとは天と地の差がありそうだ。


 しかし……さっきからこいつはこんな事をしてたのか……そりゃ、俺がつるはしを叩きつける位無駄だと言いたくなる訳だ。


 端から見るとよくわかるが……なるほど、壁に当たる前に何か障壁のようなものが発生して当たるのを防いでいるのがよくわかる。 

 

 電脳空間って感じだな。


「ジェイルさん、見てて下さいね! 私、まだまだ行けますから! はああああああああああああああああ!!!!」

「お、おい、ミリンダ。一寸は落ち着け……」


 体をバネのように動かして気合いと共に繰り返される拳打。


 うわ……遂に足も出た。


 あまりの威勢の良さに、周囲のプレイヤーも何事かと注目する。


 大半は温かい目で見てくれているが、何この子引くわ~、みたいな顔の奴もいる。


 当然隣にいる俺も注目の的だ。


 こんな形で目立ちたくないから……。


 しかし、俺の願い虚しく人だかりは増え続ける。


 小心者の俺にはこれはきつい。


「おい、一回手を止めろ……と、トリップしてんのか? VR酔いとかあるのか? ……まあいい、この手の脳筋の扱いは慣れてる」


 止まらない脳筋は、当然ながら全く話を聞こうとしない。

 翔にも似たような所が多分にある為、俺は同様の手順を取り、ラッシュモードに入ってるミリンダを引きずって場所を移動する事にした。


 名前とか顔とか、覚えられてたらいい笑い物だな。

 むしろ引きずられながらも拳打を収めなかったこの小さな英雄さんに、俺はある意味で尊敬の念を送るべきは少しだけ真剣に悩んだとか悩まないとか。







「お前、変なヤツだな」

「ええっ!? なんで出会って間もない筈なのに、ジェイルさんの好感度がだだ下がりなんですか!?」


 いやぁ……だってねぇ。


 正直、急にあんな行動を始めた行動理由を淡々と聞いていきたかったが……深くは聞かないでおこう。


 いつの世も脳筋に理由なんて無いしな。


 常に社交的たれと考える俺は、これでも俺円滑に人間関係を築こうと努力してるんだ。

 これも我が家の家訓の一つだ。


「まあ、ここはゲームの中だ。ある程度変人でも誰も気にしないさ。少なくても俺は気にしないからな……強く生きろよ」

「ええっ!? 私、そんな変な人じゃないです! あ、一寸、離れないで下さいよぉ」


 少しずつ後方に下がって距離をとろうとする俺。

 そうはさせじと腕に抱きついてくるミリンダ。


 全く、洒落の通じない子だこと。


「いやそういわれても、僕には壁とお話出来る方に知り合いはいませんし……」

「非道くなってますし! ジェイルさんもやってたじゃないですかぁ!!!」


 ここでまた騒がれても移動した意味がなくなるな。

 それに一寸半泣きになってるし、そろそろ止めるか。


「まあ、それは兎も角……ミリンダは格闘技の経験とかあるんだろ?」


 あの動きはどう見ても一見さんにはだし得ない雰囲気があった。


「兎も角って……私には大切な事なんですけど……もういいです……あの、空手を少しやってましたけど……私は才能がなくて……」


 あれで? この子の通ってた道場? スクール? はどれだけ天才を集めた鬼の住処なんだ。

 ぶっちゃけると、この子とタイマンで勝てる気が全くしないんだが。


「従姉妹の方が私の何倍も上手いですよ」

「……君達一族は何処かの華麗な格闘一族なのかな?」


 こんな質問自体が今考えると、情けなくて正直穴があった入りたい所であった。










 そんなこんなでミリンダと(俺が一方的に)楽しんでいると、ちらほらと走り回っている俺達と同じような装備の奴が視界に入るようになった。


「なんだ、あいつは?」

「誰かを捜してるみたいですね」


 探し人か。あんなに走り回って約束とかしてないのか?


 俺だってこうして面倒くさくても待っててやってるのに、約束! タイセツ!


 いや、ここはVRMMMOの世界だ。そんな迂闊なやつはいまい。


 きっと友達募集中だけど、恥ずかしくて言い出せないシャイなあんちくしょうなんだな。うん。


 勇気を振り絞ったんだな。きっと彼の中ではすごく葛藤があるんだろうな。


 いや、待てよ? むしろ急ぎの用とかで誰かを捜してるのか? まさか、このゲームは知り合いをソートする機能とかないのか? 


「いえ、ありますよ? メニューを開いてみて下さい。フレンドって欄があると思いますが、これを開いて下さい」

「ふむふむ、む……ミリンダの名があるが、これが?」


 言われるがままに目の前に現れたメニューを操作していく。 


「そうです。そこを使えば遠くに離れてても連絡が取れますし、ログインしてるかしてないかもわかります」


 見てみるとミリンダの名前の下には、ログインの文字がある。


「ならなんであいつはあんなに走り回ってるんだ?」

「……ジェイルさん! 私、真相わかっちゃいました!」


 ほお……何処で聞いた事あるような前振りをしてくるな、本腰を入れてならば聞かせてもらおうか。


「あの人は、走る事でスキルを上げようとしてるんですよ!」

「そうかぁ? 違うような気がするが……そもそも街の中でそんなに上げられるスキルなんかがあるのか?」


 オンラインオンラインの売りはランダム性にあるらしいから、あってもおかしくはないが……なんか違わないか?


「ありますよ! 多分! よくわかんないけど、走る系のスキルとか上がりそうじゃないですか!」

「多分かよ!? しかも、まんまじゃないか! …………しかし、俺が運営会社なら街中で完結するようなスキルなんか作らないが。普通に考えて、外に出て自分達の作品を楽しんでほしいから街では上がらなくするだろ?」


 色々と残念な子だ事。俺、ここでは有り得ない筈なのに涙が出てる気がする。

 この子が不憫でならないよ。人が良さそうだから(脳筋だけに)、詐欺とかに騙されないかお兄さん心配です。


 スキルはまだよくわからないが、いくらランダムでもその辺のさじ加減はするんじゃないのか?


「言われてみれば確かにそうですね」

「ま、ミリンダはそれでいいか。じゃあ俺は寂しいぼっちが仲間を増やそうと誰かを探す振りをしているが、中々勇気が出なくて走ってる間に頃合いを見計らおうとしている! に賭ける。待ってろ、すぐ聞いてくるから。間違ってたら、あそこの屋台の肉を奢ること。いいな」

「え、一寸……そんな、待って! いつからそんなギャンブル!?」


 勿論待たない。


 こういったときは勢いで押す方がうまく時もあるから。

 そしてこういう時の俺の感は当たる。


 早速男の元に駆け寄って話を聞いてみる。


「なぁ、あんた……さっきから何をしてるんだ?」

「ん? いや、リアルの友人を捜してるんだ。待ち合わせしてたんだが……」


 まさかの普通の返答。


 ……この場合はどうしたものか? なんとか誤魔化せば賭けはむしろ俺の勝ち的な風に持って行けそうだが……こんなテンプレ的な奴いるんだな。


 それにしてもその状態だと、今日もう会えなくないか?


 ここはVRMMMOだぞ。


 携帯をならしても電話をかけても直に出向いても、オンラインオンラインをやってたら反応しないだろ?


 意識自体をダイブさせるゲームだぞVRMMMOというシステムは。


「残念だったな、今日その自称お友達様と遊ぶのは諦めるしかないだろ?」

「マジか!? いや、ひょっとして場所を間違えてるだけかもしれないし……」

「つまり、その言葉からお前さんは新規プレイヤーだろう? わかりやすく言うと新規で始めたにも関わらず、経験者の友人に捨てられたって事か……友達か?」


 可哀想に……山程走り回る位時間をかけて探してるのに見つからないなんてな。


 そんな裏切りに合うなんて、本当は友達じゃなかったんだな。


「いやいや、マジで親友だから、マブダチだから。それに……誤解がある。俺が経験者だ。探してるのは今日初めてログインした友人だよ」

「そうか……じゃあ、お前……ドジなんだな」

「いや、違うんだよ。聞いてくれよ! その友人の所でセットアップしてたんだけどな。神の選択が始まったから暇になって、冷蔵庫からコンビニのハンバーグをもらおうと思ったら物干し竿が飛んでくるし、それで貫通したゴミ箱は俺が直す事になるし、往復で電車代680円もするし、焼肉おごる事になったし、ちゃんと待ってろって何度も念押ししてたのに時計台にはいないし、とんでもなく懸賞に当たるし、ドSだし、ツンデレだし、腹黒いし、そのくせ肝心な所では僕より先に行くし……しかも、いざログインしたら広場は随分人が沢山いすぎて見つけられないし」


 不満だらけだな。それにしても何処かで聞いたようなシチュエーションだな。


 スキル、物干し竿投擲は俺もやったなぁ、あれは室内では危険なんだよな。

 だが、盗人の結果、罰を与えられて無事だったから壊れたゴミ箱位喜んで治すべきだろ。


 それに電車代云々だって、お前が勝手に来たんだから俺関係ないし。

 そもそもお前がこらを買い取ってればよかった話だろうに。


 …………ん? これ、俺の事か?


 なんか、その後も色々不満を口にしてるが……つまり、こいつは翔で俺がいないのをいいことに悪口三昧な訳だ。


 いい度胸だ。


「そうか……で、その探してるプレイヤーの名前は?」

「なんだ? もしかして手伝ってくれるのか?」

「意外か? 同じ初心者としてそんな可哀想なイケメンはほっとけない」

「イケメン? まあいい、助かる。しかもお前もビギナーだったのか。あいつが今も寂しさに震えて俺を待ってると思うと……種族や性別は不明、名前だけかろうじて覗き見たからわかるが……」


 こいつ、あのタイミングでどうやって……油断ならん変態め。


「で、その名前はな……「ジェイルさん! こんなに長くなるなら私も仲間に入れて下さいよ!」……そう、ジェイルって言うんだ……って、ジェイル?」


 忘れてた。そう言えばミリンダとの賭けの確認でこいつの所に来たんだった。

 ずっと待ちぼうけ状態で放置されたらまあ、こうなるか?

 なんか、うるうるしてる。


 小動物的に言うなら、ご主人様、遊んで遊んでって感じか?


 因みに翔は、俺とミリンダを見比べながら目を見開いて何度も俺達を指さしている。


「こいつはやはり友達のいないぼっちで、仲間探しの為にログインしてたそうだ。中々周りの人に話しかけられずに、混乱と混沌な精神状態で、発狂しそうな程にテンパって走り回ってしまったそうだ。さあ、ミリンダ。勝負は俺の勝ちだ。行こうか?」

「え、あの、本当ですか? あの、そちらの方……今の可哀想なキャラクター設定が事実なんですか?」


 いいから、こんな奴に確認の必要はないから。


「そんな訳無いから! 君もそんな嘘に簡単に騙されないでくれ! その物言い、それにその名前……お前が俺の……ええ、と、探してた! そう、探してた奴で問題ないんだよな! だよな?」

「何故二回言ったし……全く。ここでも誤魔化して遊んでもいいんだが、話が進まんしな。そうだ、俺だ。貴様、随分俺の事を言いように言ってくれてるじゃないか」


 ポンポンとミリンダの頭を撫でながら、逆の手で翔の腕をとる。


「い、いや、なぁ、これは違うんだよ、な、お前ならわかるよな?」

「ああ、わかる、わかるぞ、好き勝手あること無いこと文句言ってるんだよな?」

「いや、わかってない、わかってないですよ!? しかも殆ど事実ですよ!? でも、話を、話を聞いてくださーい!!」


 命乞いのような叫び声が周囲に響き渡った。


 こうして俺は、木上翔……キャラクターネームロマノフと出会った。

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