第二十話、リアルで用事って、じゃあ、何でいるんですか ?(2)
「ここか……」
「ここか……じゃないだろ! バードマンが山ほどいるじゃないか!」
鳥人の谷のクエストアイテムの剣を取りに来た俺達。
まさかその場所が、バードマンの密集地帯だなんて誰も思わないだろ……。
「どうする?」
「どうって、無理だろ」
まあ確かにな……でも、あれだろ? 取ればいいんだろ? つまり。
「何考えてるんだ? お前は」
「だから、走り抜けてあの剣さえ手に入れればいいんだろ? なぁ、フェイト……このクエストはアイテムさえ手に入れればいいのか? 戦闘不能になったら失敗なのか?」
「いや、それをNPCに聞いても……」
普通に考えて、あれを全部倒してやるのは無理だ。
なら、何か条件があるはず。
「条件、と、言うのが私にはわかりかねますが、工房で鑑定をするので、お待ちいただければいいのでは?」
「よし、確約は取った。なら、決まりだな」
「……やるのか」
最後の手段だぜ。まあ、最後って言うか、最終的にはそうやるんだが。しかし、レベルも上がったからただでやられはしないと思う。
出来るだけ道連れにしてからがっつりいこうかね。
俺は幻獣の中で一番固くて耐久性、付加スキル、共に優秀なクレイゴーレムを呼ぶ。
「まずは釣りから始めましょうかね……っと」
群から離れたバードマンから、小岩の投擲で釣って呼んでいく。
レベルがだいぶ近くなったから、高レベル以外はこの投擲だけでも3割位ダメージを与えられるようになった。
頃合いを見てたけど、ここは俺もガンガン戦うぜ!
一閃しなくても、持ち前の高ステータスだけで押せるようになったため、鉈と鎌を振りながらバードマンを駆逐していくバードマンハンターとなった。
「ぐおっ! 流石に痛てぇ!」
「馬鹿! ステータスあっても、レベル49まで上がいるんだぞ! 不用意に攻撃食らうな!」
そうはいってもな。次は沸きそうだから、急いでんだよ。
「スキル、剣戦の一撃! とどめだ! 一閃!」
ノックバックして、距離を開かれたのをそのまま一閃の射程にして飛び込んだ。
「成敗!」
「まさか……本当に全部狩るなんて……お前、ほんとあり得ないわ」
俺もそう思ったよ。もう、フェイトいなくても十分戦闘できるし……。
「召喚、ドライアード。回復を頼む」
ドライの精霊の癒やしで俺のHPを回復させる。
「正直、クレイのスロウ効果が汎用性が高すぎます」
「確かに、あの付加効果は強すぎだ……被弾が減らせるし、自分達に余裕が持てる」
広場には全く敵影はない。俺達で刈り尽くしたから。
格上も立派すぎる縦であるクレイがいるし、一気にHPを削り落とす俺の、双農具一閃。
被弾時も回復としてドライがいる。
ロックは今回出番がないが、格上には向かないからな。
「さて……これがバードマン達の種族の剣か」
「こんな短期間で全部揃えるとは思ってなかったぞ……お前、ゲーム機でもチートってほんと、俺の居場所を奪わないでもらえます?」
こいつは何を言ってるんだか? そもそも、お前がいなきゃゲーム自体やってなかったってのに……。
「さて……これか。最も勇敢だった戦士の装飾剣……強くなさそうな名前の剣だな」
「まあ確かに……って、これはまさか!!??」
俺が剣を取った瞬間、足元が光り輝く。現れる魔法陣。
「なんか、コボルトのクエストでもこんな事……つまり魔法陣発動があった気がするな」
「転移用だからな……って、違う! なんでそんな冷静なんだ、お前は!」
興奮するなよ、言うだろ? 慌てない慌てない、一休み……って。
「ああ……これだから天然は! 誰か何とかしてくれーーー!!」
そして、俺達は魔法陣から特殊フィールドに移動することになった。
「ここにくる者がいるとは…………満たされたということか」
「……ええと、誰だ? と言うか、何処にいるんだだ?」
そこは真っ暗だった。
何も見えない。
「……済まないね。私には必要のない物だったからつい」
スポットライトのように、光が降り注ぐ。
やっと周りを見渡せるようになった……何にもない。
ただ黒いだけ、何も見えない。
「無駄だよ。ここは暗闇に封じられた世界。何処を見渡しても、何も見えないよ」
「そうか……ま、あんたのお陰でお互いを見ることが出来る。礼を言っておく」
目の前に立つ、黒ずくめの男に頭を下げる。すると、男は驚いたように左眉を軽く上げる。
「私が君をここに呼んだんだよ? なのに、君はそんな私にも頭を下げられるのかい?」
「当たり前だ。行われた礼には礼で返す。それが我が家の家訓だ……それに、何か用があるんだろ?」
足元は魔法陣。きっとこれが無くなったらどこまでも落ちるんだろうなぁ、とか思う。
出来るだけ、好印象を与えないと。
「君は強いね。そうだな、用事はあった。でも、その前に……ね?」
言うまでもないだろ? と、言わんばかりに両手を構える男。
こんな流れを無視したクエストあるか?
そもそもロマノフ達はどうなったんだろうか?
「俺も聞きたいことはあるが……それが望みなら、受けて立つのが我が家訓」
「ありがたい、最近退屈してたんだ……私の名はザカール。魔竜ザカールライツだ。君とやるのは二回目だね。楽しみだ」
なっ!? じゃあ、あの竜がこの人型なのか? そもそも、じゃあ、ここどこよ?
「先手は私から……行くよ。それ!」
「尋問くらいは覚悟しろよ……召喚、クレイゴーレム…………行くぞ!」
無手で飛び込んでくる男、ザカールライツ。対抗するためにクレイを差し向けた。
「ふむ、スロウか……私の動きを抑制するとは……君のゴーレム。なかなかのレベルだね。それに私の攻撃に耐えるか……ふむ。これは……」
「無茶苦茶強いな。確かに前は不完全だったっけ言うのがよくわかる……」
ここは魔法陣による特殊フィールド。地面に何も落ちてないから、俺が遠距離から投擲ができない。
俺の戦闘手段のメインが使えない。
ま、やりそうはあるけどな。
クレイは一撃で8割のHPが持って行かれ、スロウ効果も殆ど入らない。
力負けもしてるから、組み合っても全然負けている。
「どうした? 君は何をしてくれるんだい? そのまま見てるだけな訳じゃないだろう?」
「勿論だ、今お前を駆逐してやるさ」
やられる前にクレイを自爆させ、ドライを呼ぶ。
「お? 目くらましか……これにもスロウ効果があるのか……私以外には随分と有効そうだな」
「行け、スキル、リーフストーム!」
爆風の中にザカールライツがいるのは、声からわかる。
なので、そこに向かってドライのリーフストームをぶちかます。
当然仕留められないだろうから、俺は一閃の構えをとる。
「スキル、剣戦の一撃……」
「大した威力だね。下位の幻獣にそこまでの威力を持たせるなんて……君はサマナーとしても有能なんだね」
リーフストームをくらっている最中も、余裕があるのか口は止まらない。
だが、それがお前がそこにいる証拠! その余裕、吹き飛ばしてやる。
「あまり、油断するなよ……スキル、一閃!」
俺もリーフストームに飛び込んで、鉈を力一杯振りそのまま切り抜ける。
「召喚、ロックゴーレム! ロック、パージ!」
呼び出したロックも同時に爆発させる。
そして飛んできた破片を、両手で装備した農具で浮かせてザカールライツに打ち出す。
ロックのパージも俺の投擲も、全てが直撃した筈。現に吹き飛んで倒れてるし。
さて、どうだ?
俺は両手に農具を持ったまま、油断しないようザカールライツをみる。
「強い強い……ここに来る者でここまでの存在は初めてだよ」
ゆっくりと体を起こそうとするザカールライツ。
制止をしようとロックが殴りかかる……が、消えた?
「さて……まだ君に私を驚かせてくれる手はあるかな?」
「……そんな気はしてたが、まだまだ余裕か……もう打つ手がないぞ……そもそも今何をした?」
一応しっかりとダメージはあったみたいで、全体の1割強のダメージがあった。
あれだけやってで1割か……今のを後9回……それは無理ゲーだろ?
やりようが思いつかないが、ロックを再度呼び出し備える。
「大したことはしてないさ。こうやって、ね」
ザカールライツの指先から黒い光りが走る。
「ロック!? ……おいおい、レーザーかよ。どうしろってのさ?」
レーザーを受けてそのまま砕け消滅するック。
「さて……大勢は決した。これを覆すのは困難な状況だ。君はどうする?」
「どうっていわれてもな……」
俺に向けられてる指先、集まる黒き光。
「さあ、見せてもらおうか、人の力を……」
「ばっ! 無茶言うな! スキル、召喚、ロックゴーレム」
光を回避は無理! 見てからの対応も無理!
しかし、さっき光りは貫通してなかった。なら、これで防げる筈。
「ふむ……初見で気が付いたみたいだね……」
黒いレーザーを受けて、先と同様に砕けるロックゴーレム。
防御の高いクレイにしなかったのは、元が泥で出来たクレイゴーレムだとレーザーが貫通する恐れがあったから。
そして俺の予想通りに、レーザーはロックで止まり消える。
「まだ、終わってないぞ。ほら、行け!」
砕けたロックの体を構成していた岩が床に落ちている。
俺はそれを手にすると鉈で撃ち出す。
「無から有を作り出すか……そしてそれを瞬時に、私への攻防一体の手段とするとは……」
「元再弱の農民は伊達じゃないぞ。使える物は何でも使う!」
出来ることは正直もうない。これだってMPが尽きればおしまいだ。
せいしん草でカバー出来る範囲を超えてるし……元々そうだったんだろうが、正に万事休す。
「楽しいね。君は本当にいろいろな事を見せてくれる。人はこれだから面白いよ」
次の指先が俺の方向を向いた。
俺はロックを呼び出す事にした。