第二十話、リアルで用事って、じゃあ、何でいるんですか ?(1)
「これがメインなのか?」
「ああ、一般的にメインクエストと言われる本編だ」
俺はロマノフを引き連れて、酒場で老人に話しかけてクエストを進行させながら詳細を確認していた。
レベルや細々したクエストをこなしていた俺は、唐突にこのOOでも小説で言う所の中身。つまり、本編クエストについて全く触れてない事に気がついたのだ。
それでロマノフに聞いて進める事にしたのだが……。
「聞くだけでよかったんだが、何故クエストを進めてるんだ?」
「まあまあ、良いじゃないか。折角だから試してみたいこともあるし」
ネタバレしないだけマシなのか? 説明より先にここに引っ張られてクエスト進行を始めさせられた。
「この親父が酔ってるのも仕様なのか? 内容に一貫性がなくて全然わからん」
「まあ、俺が受けたときもそうだったし、仕様だろうな」
「3年……いや、5年? あれ、いつじゃつたかの? ……マスター、どうじゃったっけ?」
酒のせいか? 元々の病気か?
「…………お客さん。飲み過ぎですよ」
「そうじゃのぉ……いい感じに気持ちよくなっとるし……今日は帰るかのぉ……」
「お、おいおい、一寸待て! その前に俺に、そいつの話を聞かせてくれ!」
席を立って帰り支度をフラフラと始めた親父に、俺は焦りながら声をかける。
「……そんな仕様があるのか……やっぱりお前は違うな」
「そうじゃった! 忘れとったわ! すまんな、小童。で、その少年はの、ボロボロの衣服でここに来た。血だらけの服を手にしており、何処かの村から逃げてきたらしいわい」
お、座り直すことで記憶が蘇ったのか、なんとか内容がわかるような話しになってきた。
「村がモンスターに襲われたのか、それとも別の何かがあったのか……何があったかはわからん、そいつはその後言葉を失ってしまったからの」
どうやら、失語の少年がOOの物語の主人公なんだな。
「それで終わりだ、後はもっとレベルを上げないと進まない」
「こんなので終わりか? 消化不良だな」
血だらけの服を持った失語の少年か。果たして何が少年に起こったのか……気になる。
「俺もメインでやってるがあまり進んでないしな。本当にラストまで実装されてるのかすらわからん」
「なんだかなぁ、じゃあ、仕方ない。一寸、武器屋にでも行くか」
収穫も終えてる為、とりあえず行く事にした。
またまた来ました、ダンダクール武具工房。
「ようこそいらっしゃいました、ジェイル様。ロマノフ様もよくぞおいでになりました」
「前も言ったが、ここもお前以外には入れないからな」
なんかそんな事言ってたな。
「農民のお陰ってか? お前たちがフラグを満たしてないだけじゃないのか?」
「その可能性もあるが……街のクエストの検証は腐るほど皆やってるはずなんだが……違うとは思う」
まあ、俺が使えてるから別にいいけど。
「フェイト、鎌は手に入れた。後農具がドロップする場所はないか?」
「そうですね……あるにはありますが……今のジェイル様の力ならあるいは可能でしょうか……」
あるのか。鎌がもう一つあってもいいかな、と思ってたが、新しい場所にあるならそれに越したことない。
「俺は大丈夫だ。その場所は?」
「はい……鳥人の谷です」
「鳥人の谷はレベル30~49程度のバードマンの出る谷だ。お前にとってはレベルが格上にも程がある。俺なんて言わずもがな。だから様子見やクエストの一環かと思った…………だがな」
ロマノフが長々と演説を垂れながら俺をみる。
「クエストにもなってないし、何より、何故そいつがいる!?」
「フェイトの事か? 別におかしくないだろ? クエストなんだから……」
「……は?」
あいつが何を言ってるのかわからないが、俺にはきちんとクエストになってるし。
英霊への道行(1)
異種族の信仰する英雄の証を揃えろ。
「な、それは…………クエストアイテムを持ってるお前だけに起こったって事か」
「まあ、そうだろうな。外に出たフェイトは殆ど話さないから一寸寂しい」
そう言うルーチンなのか、黙々と俺に付いてくる。
「ここでの目標は2つ。バードマンのクエストの剣を手に入れることと、農具を手に入れる事だ!」
「それでついて来たなら、この鍛冶士も強いんだろうから大丈夫なのか?」
敵は問わない為、戦うスペースさえ確保したら即戦闘開始になる。
「では……先手は私が……」
「鍛冶士の武器……あれだけであいつのレベルが50以上なのがわかるな」
「そんなに強いのか? なら、見てるだけでも戦闘が終わるか?」
綺麗に立ち回り、バードマン屯田兵を圧倒するフェイトを見ながら俺達に出来ることを考える。
見てるだけは流石に暇すぎる。
「そこまでこの中ランク帯は楽じゃないが……お前なら対等に渡り合えるかもな。チートステータス」
「うるさい。でも、それなら行ってみるか……スキル、召喚、クロウゴーレム」
クロウを向かわせて、同時に鎌と銀の短剣を装備する。
「フェイトに集中してる今がチャンス……スキル剣戦の一撃……一閃!」
そして、通り抜けざまにスキルを発動させる。
「……このレベルでも3割位減るのかよ……あのチーターめ」
一気に減ったバードマンのHP。フェイトを置いて俺に向かってこようとする。
「それは無理なんだぜ? 羽人間?」
しかし、フェイトが発動した片手剣のスキル二連撃を受けて、そのHPをゼロにした。
「結構楽勝だな……と、いきなり宝箱か?」
「お前、この間といい……ドロップ率どうなってるんだ? 馬鹿だろ?」
「馬鹿とは何だ、このネズミ花火め」
とりあえず開ける……鉈だ。これが農具? いきなりか……俺って凄い……いきなり目標の一つを達成したぞ。
しかし……言っちゃ何だが……そもそも鉈って農具か?
「まあいいか。フェイト、農具ってこれのことか」
「はい……この武器、鉈、が私がジェイル様にお勧めした農具です」
無表情でじっと見つめられながら、返答してくる。
外だとこんな反応だから怖いって……。
「そ、そうか……サンクス。じゃあ、攻撃力は鉈の方が高いから……とりあえず銀の短剣を外して、右手に鎌、メインの左手に装備する事にするか」
鉈の攻撃力は36。鎌が25だから、左手に鉈、右手に鎌を装備。
これで一閃がより強くなる事だろう。
「お前……もう後、クエストドロップだけじゃないか。全く俺が知らないクエストだから結果が楽しみだ。お前等がタゲ取ってくれるから、次からは俺も戦闘に参加するぜ。スキル上げのいい機会だ」
「まあな。巻き込まれて死なないように気をつけろよ?」
「合点承知である!」
誰? そして、俺は次のバードマンを探す。
「さて、この威力……試してみるか……」
フェイトと戦闘中の二体目のバードマン屯田兵。
全く相手にされてないが、地味にスロー効果を与えながら背後から拳を叩きつけ続けているクレイ。
そして、その横で双剣を振るうロマノフ。
俺は構えたまま、頃合いを見計らう。
フェイトはやはり優勢で、片手剣を手足のように使って牽制する。
メインでフェイトがターゲットを取っているから、本人も含めて皆殆どダメージはない。
フェイト、防御完璧すぎじゃね?
「行くぜ! 二連撃! 改め、四連撃!」
ロマノフが片手剣スキルの二連撃を発動。しかし、双剣なので計四回斬りつける。
「私も、見せましょう!」
同時にフェイトも二連撃を発動。合計で半分くらいまでHPを減らすバードマン。
ここだ。俺は静かに剣戦の一撃を発動。
「行くぞ、双農具、一閃!」
先と同様に踏み込むと、鉈で一撃を入れる。
「おま……マジか?」
「倒した? そんなにダメージ違うのか?」
銀の短剣の時は比べて3割程度のダメージ。
両手が農具になった今は、5割位が一気にゼロになった
「因みに俺……ガンガンレベル上がるんだが……そんな相手にお前は……」
「俺もだ……まあまあ……」
武器を変えただけでダメージ跳ね上がりすぎだろ?
今回は10以上レベルが離れてる格上の相手だぞ。
俺、一寸いい加減自重すべきでは?
確かダメージ率は、短剣時の一閃は295、9だった。
しかし、装備が変わって対象になるスキルも変わった……故に、現行での一閃の攻撃力はいくつかと言うと……しのふのにゃんんにゃんにゃって……479、6……479、6!!??
いやいや……上がりすぎだろ?
「ジェイル……お前は何を目指してるんだ?」
「何……歌って踊れる万能の農民?」
「お前のそれは最早農民ではない……」
言っといてなんだが、一寸俺もそう思うよ。
そして、次のバードマンを探す俺。
殴るクレイとロマノフとフェイト→様子を見ながら俺は投擲→HPが減ったら一閃。
こんな感じの行動がパターン化する位楽にレベルが10以上離れたバードマンを狩り続けていった。
「中々出ないな」
「そうだな。俺もレベル上がりすぎ。クレイゴーレムもじゃないか? 普通に壁になる気がするぞ」
ロマノフのレベルが20になりました。クレイも20。
そして俺は29。
どれだけいるんだよ? って感じだが、アイテムが出ないんだから仕方ない。
ひょっとしてもっと奥の方なんだろうか?
「フェイト。バードマンの持つ短剣は、全てのバードマンが持ってるのか?」
「いえ、バードマンは信心深い種です。恐らくは祭壇等に奉納されているのではないかと思います」
む、なんですと?
「……おい、ロマノフ。今の聞いたか?」
「……ああ。気のせいじゃなければ、お前にも聞こえたみたいだな」
ダメ元で聞いてみただけなのに……俺達無駄狩りだったって事かよ!
「レベルは上がったから無駄じゃないんだが……」
「ミリンダ達と離れすぎちまっただろ! 気付かなかった俺もそうだが…………こんなミス久し振りだ。ああ……失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……「落ち着け、別に死よりも尚恐ろしい折檻なんて、あの娘達はしないから大丈夫だ、問題ない」……え? そうだろうか?」
ロマノフに促されて心の安定を図る。
これは俺のトラウマの一つ。
昔から俺達が致命的なミスをすると、妹の柚の恐ろしく強い幼なじみ(俺達も同じ)に、死よりも尚恐ろしい折檻を受けさせられていたのだ。
年がすすむにつれそれを受けるへまはしなくなっていたが、今な体が硬直してしまうレベルで恐怖が魂レベルで刻まれている。
「きちんと話せば納得してくれるさ。皆いい娘達だから……」
「そうだな。そうだよな。よし、俺、頑張るよ……じゃあ、取りあえず行ってくる」
「いや、待て待て、せめてここのクエスト終えてけ」
そうだった……まあ、ここまで来たら仕方ないんだろうか……中途半端に終えられる線は当に踏み越えている。
やるしかないか。
「はぁ、探すか、祭壇」
「なぁ、鍛冶士。あんた、祭壇の場所わかるか?」
「……大まかな場所でよろしければ……」
今日の教訓。
人の話はキチンと聞きましょう。