第十九話、男らしいってなんですか?(2)
「これで、クエストはOKだな。サンクス、ジェイル。さあ、街に戻ろう」
「……ああ、そうだな。なあ、ロマノフ……」
低成功率のクエストを終えたからか、この後のレアジョブの無双化に夢想してるのか、上機嫌のロマノフ。
そんなロマノフを気になった事があり、呼び止める。
「敵亜人は何種類位いるんだ?」
「ん? 何だ急に? ええとだな、お前が会った事あるのはゴブリン、コボルト、リザードマンだろ。後は、バードマンくらいかな?」
「そうか、後一種族か……これ」
俺は道具袋から、今回のクエスト戦闘で手に入ったアイテムを見せる。
「これは?」
「リザードマンの折れた英雄の剣だそうだ。これで他種族のユニーク剣は3本目だ……コボルトの儀式剣、ゴブリンの秘宝剣、そして、このリザードマンの折れた英雄の剣……全部にクエストがあると思うか?」
後、一種族なら、全部集まったら何が起きるやら?
「凄いなお前。俺アイテムなんて一個も手に入ってないぞ。剣シリーズか。なんか、会話の流れから召喚士用のクエストなのかもな」
「ああ……召喚士にもなったからな。ま、揃ってから考えるか……どの道、戦闘になったら、幻獣になんて勝てると思えんし」
二人で考えてもわからん。そも、俺が受けることは基本的にネット上で出てないことが多いし。
そして、クエストを受けた練兵場に……。
「見事だ。これなら私も君達に希望を託した甲斐があった。伝説の剣豪に負けない剣士となるのを楽しみにしてるよ」
ん? 君達?
そして、ロマノフと共に、俺も双剣士のジョブを取得した。
「そうかぁ。俺もクエストは受けた形になってたんだな」
「そうだなぁ……俺、立場ねぇなぁ」
俺は条件らしい戦士じゃなかったけど、ロマノフのパーティーメンバーだったので、クエスト受諾状態になっていたみたいだ。
俺も双剣士になれてしまったな。
両手で鎌とかどうよ? また鎌みたいないい武器はないものか?
「ま、いいか。お前の非常識気にしてたら胃がマッハで消滅する。しかし、畑と平和を愛する農民が、随分遠くに来たものだなぁ。召喚士と双剣士か……レアの固まりかよ」
「ライトノベルの主人公みたいな、始まりは農民なんだけど……みたいなやつじゃないぞ。基本的に因子のある農民ってやつだし」
段々最強になっていく。みたいなやつだと正にラノベ主人公だが……んなわけないし。
それを言うなら、俺よりドライアードやゴーレム達のが余程主人公じゃん? いずれ幻獣無双しそうだし。
「お前だけ、別ゲームじゃないか」
「元々そうだったが? タイミングが難しいんだぞ。回避特化型は」
「盾でも装備すれば? つうか、最低限の装備くらい買えよ」
そこにふれるか? 無いんだよ。農民装備可能品舐めんな。
そも農民は多少守備が増えても、ヒットオアダイだったからな関係無いんだよ。
召喚するようになったら、更に被弾率が下がったし。
双剣士サポで、前線に出るようになるなら必要なのか?
「わかった。少し店を回ってみる……今なら多少はあるかもしれん」
「それがいい……むしろ、俺がお前を最強にしてくれるわ」
なんか変なスイッチ入ったな。ウザし。
店はいいんだが、とりあえずサイドジョブを付け替えてみるか。
召喚士を外して……と。ん? 外れんが?
どうすれば変更できるんだ? まさか一つのジョブしか選べなかったとか……まさかまさか、俺早まった?
いや、待て……きっと上書きするんだろ? そうだろ? つまり、召喚士の上の部分に、双剣士を重ねればいいんだろ? な、だから代われよ!
希望を込めて実行。
変更は………………なし。召喚士はそのままそこに鎮座しておられる。
く、やっちまったのか…………認めたくなくて、サイドジョブをまじまじと見つめる。
メインジョブ、農民
サイドジョブ、召喚士
メインジョブ、農民
サイドジョブ、召喚士
メインジョブ、農民
サイドジョブ、召喚士、双剣士
………………………………ん?
今何かおかしかった。
メインジョブ、農民……これはいい。未実装だからジョブが消えてしまうからメインになってる。おかしな事はない。
じゃあ次……サイドジョブ、召喚士…………これも不本意だがおかしくない。元々そう設定したのは自分だ。
じゃあ次だ……双剣士。ここだ!
何故だ? サイドジョブの項目の隣に並んでるんですけど? 何々……ドユコト?
「ロマノフ、聞きたいことがある」
「ん? どうした?」
「こういう時って、どんな顔すればいいのかわからないの?」
「急になんだよ?」
とりあえず起こったことをロマノフに伝えてみる。
「なんだそりゃ! そんな仕様なのか? 3つ以上の複数ジョブって!?」
「俺の予想ではな。外せない変わりにいくつでも装備できるのではないかと。ただ、やる気はないが、メインの転職の時はどうなるんだろうな?」
「もうむちゃくちゃだな……その状況だと転職する必要ないし、考えるだけ無駄じゃないか?」
こいつ……イヤになりやがった。まあ、気持ちは分かるが。
なんだか、この混乱を分かち合おうとか意味の分からないことを抜かして、ミリンダ達も呼ぶ事になった。
「ジェイルさんですし。むしろ、格好いいです」
「流石ね。リアルラックのせいなのかな? むしろ、何処かからのテコ入れの可能性も考えられるわよね?」
テコ入れ? 不正に俺に色々与えてるってことか?
それは楽しくないなぁ。
「結局、意味がわからないしな。全て、農民から始まってるし……な、なんか皆受け入れ早くないか?」
「だって……」
「ねぇ?」
「「ジェイル(さん)だし……」」
なんか、いやな納得のされ方だな。
考えてもわからないだろ? もう気にしない事にして畑かレベル上げでも行きたい所だな。
「運営の考えは私達プレイヤーにはわからないし、ま、いいんじゃないの? ジェイルの特異性で私達が迷惑を被ってる訳じゃないし」
「そうだな。ま、のんびりやっていくか……」
「じゃあ、レベル上げ行きませんか?」
「マジメに主人公補正みたいになってきたな」
「まさか…………ミリンダ、レベルが皆バラバラなんだが……」
おろ? なんか、俺の希望通りに話が進んでるな。
「賛成。でも、アイリーンとジェイルは兎も角、ミリンダさんは俺と比べてレベル高すぎないか?」
「え? ロマノフさん、レベル幾つなんですか?」
「いや、さっきクエスト終えたばかりだから双剣士レベル1だ」
「私も、あれだけレベルが上がりにくいのをこの目にすると……持ってはいるけど賢者をメインにするのは一寸躊躇ってしまうな……」
「で、私が賢者レベル6です」
「1と6か。確かにミリンダは高すぎるな」
「ガイドの適応範囲なんて夢のまた夢だな」
バランスがあわないな。はてはて、どうしたものかな?
「なあ、一寸良い意見があるんだが……」
「ん? 貴様の愚考を聞く時間はないんだが? 用がないな向こうへ行ってろ」
「いや、あるよね!? 今、意見あるって言った直後だよね!?」
「突っ込みどころ満載だね?」
「ここまでの息のあったコンビネーションが私達の理想よ、ミリンダ」
「いや、それは……」
俺もやだなぁ。女性には意地悪されてるようにしかうつらなそうだし。
「仕方ない、発言を許可する。5文字以下で説明しろ」
「5文字だな、と……ジ、ョ、ブ、取、ろ、う! どうだ!!」
惜しい、小さい「ョ」の文が抜けてたな。よし、村八分だ。
「酷いですよ? 他のパーティーメンバーの皆さん、誰か私を助けてください!!」
「ジェイル、話が進まん。ロマノフ、新しくジョブを取得するのはミリンダの為か? どうなんだ? そうなのか? さあ、すぐに答えよ」
ん? 何やらアイリーンの背中に揺らめくオーラが見えてる気がする。
「ミリンダ、こんな事を聞くのはマナー違反かもしれないから、いやなら答えなくていいんだが……」
「はい、何ですか?」
「仲のいい男の子とかが、遊びに行く日に急に体調を崩して予定に来られなくなった事とかないか?」
「わっ!? なんで、ジェイルさんが知ってるんですか? 会った事ないですよね?」
そうか……ロマノフ、貴様の返答次第では、俺は貴様の墓標を作る羽目になりそうだ。
廃人引退のターニングポイントだな。しっかりしろよ。
いや、それならむしろ失敗した方がいいのか?
「ん? ジェイルが、どれだけのジョブを装備出きるのか試したいんだが? 他に何か意味があるか?」
「確かに、私も興味あるな。ミリンダもそうすれば一緒にレベリング出来るし、一石二鳥か」
オーラが消えた? どうやら、命拾いしたようだな。翔、貴様のリアルラックに感謝するんだな。
「ギャルゲ歴10年選手の俺を舐めてもらっては困るぜ! これでもフラグ建築士を操ってたんだぜ? 死亡フラグくらい華麗にかわしてみせる!」
「褒めるべきか、こいつの生活に物申すべきか……迷う所だな」
現状を打破出来そうな意見だった為、いくつかのジョブを取得する事にした。
結局、俺は転職出来ないから仲間外れ……なんて事は思っても言わない。さあ、皆、早く俺のレベルに追いつけよ。
「条件って戦闘だけじゃないんだな、時間かかるのは面倒臭いな」
「仕方ないですよ、神に祈りを捧げる~って結構簡単じゃないですか?」
「部屋で食事をしてるに10点」
「通話中に5点」
「残念、待機状態でTVを聞いてるに310点よ」
「アイリーン……そんな事言わないでよ!!」
おお、真っ赤になった。アイリーンが当たりか。
「お使いクエストだけで、ジョブ取得出来るなんて楽でいいじゃないか」
「戦闘がなくても取得は出来るが、問題はそのお使いがどんなに急いでもリアル1時間はかかる事実ではないか?」
「後、どの位あるの?」
「ミリンダはこらえ性がないな。まだ、25件目だよ。情報だと、まだ半分位さ」
むしろ聞いてる俺イヤになったわ。
「正直、ゲームしながら更に活字なんて冗談じゃないんだが?」
「頭に入れなくても大丈夫だぞ。ページをめくるのがトリガーだから、連打で構わないし」
「アイリーン、ご飯食べた?」
「この状況で私だけ夕食をとも言えないしな」
集中が途切れてきたな。俺も腹減った。
今日は何を食べようか? 冷蔵庫空っぽだったなぁ。
「そう言えば、これが一番基本的なジョブだよな」
「こんなに基礎ジョブ集めて、でも、私がレベルを10まで上げるの……大変すぎて保たないかもしれません……ジェイルさん! 慰めてください!」
「そんな自信満々に言われても…………頑張れ?」
「はい! ありがとうございます! 私、これから頑張っていきます!」
「早っ!?」
場所は街外の俺畑前。今回の条件は対象のモンスター10体の撃破。
「じゃあ、一気にいこう。スキル、召喚、ロックゴーレム。行ってこい」
ロックゴーレムを解き放つ。
「何をしたんだ?」
「すぐにわかるさ。ミリンダ、でかいの一発頼む」
「え、え、え……あ、ああ、はい」
暫くして、ロックゴーレムが帰ってくる……大量のモンスターをつれて。
「なる程な……貴方らしいよ」
「あれですね、いきますよ。スキル、ストーンシャワー!」
狙い通りミリンダの大量の石つぶてで、半数位がHPを近くまで減らすモンスター群。
もっと減るかと思ったが、やはり、ダメージが拡散するか。次いでロックゴーレムをパージさせた。
まだ残る。
「はい、とどめ。ドライ…………一丁上がり。さ、戻ろうか?」
「リーフストームなら、私いらなかったんじゃ………幻獣って怖い」
「今更だね。むしろ、今は彼は本人が殴った方が強いんじゃないか?」
最後だからはりきって、これで心おきなく(俺以外の)皆がパーティー組めるようになったのに、何で、こいつは相変わらず……みたいな生暖かい目で見られてんだ?
今日、俺とロマノフ、ミリンダ、アイリーンが取得したジョブ。戦士、盗賊、僧侶、魔法使いの基本ジョブ4つだ。
俺は全部装備できた……流石にバクか? それとも本当に何処かから何かを狙われてるのか? 修正食らいそうだな。ま、仕方ないか。
今回アイリーンが新しく盗賊になった。
そしてロマノフが双剣士で、ミリンダは未だ賢者の呪縛からは逃れられない……ミリンダは二人がレベルを合わせてくれるまで俺と待ちである。
つまり、俺にはまだまだだ。




