第十八話、街は貴方達を待ってますか?(6)
「成る程。確かに随分立派な木ね」
「そうだろ? じゃあ、見てもらった所で取りあえず収穫させてもらうぞ」
その木に生えた、みずみずしい実を手づかみで取る。
まあ、いつも手づかみなんだが……。
「名称は………………っと!? まさか………… アイリーン、これ、ソーマの実だ」
「本当!? 君の強運はとんでもないね。アイテムが全部揃ったって事?」
まさかのクエスト達成の為の合成素材の完全コンプリート。
正直自分でも信じられない強運だ。
今なら、俺の求める松坂牛セットも当てられるような気がする。
これは! 懸賞生活が俺を呼んでいるなり!
「ロマノフから少し聞いてはいたけど、そのリアルラックはどうなってるの?」
「ん、ああ……そうだな」
このラック上昇イベントは逃すわけには行かない。
「まあ、そのお陰で私達も本来なら遭遇する訳のない幸運を享受出来ているのだから、ジェイル様々なんだけどね」
「ん、ああ……そうだな」
いや、待てよ。ハガキや雑誌だけでなく、今回は携帯用のサイトにも手を出して見ようか?
兎にも角にも早くやらなければ。
「ジェイル? 聞いてる?」
「大丈夫だ、問題ない」
「……うーん……駄目だこりゃ」
「これで宿敵(松坂牛)も俺にひれ伏すだろう」
気がついたら、俺は一心不乱に懸賞生活を開始していた。
目の前には高くそびえ立つハガキの山。
「いつの間にこんなに沢山のハガキを……そもそも無意識で買いに行ったのか? ……あ、ちゃんとポイント貯めてる。意外に冷静だったのか?」
しかも、外は真っ暗。時計を見ると…………。
「真夜中じゃん! 確か、OO内で合成素材が揃った幸運に舞い上がって……舞い上がって……そこからの記憶がない……アイリーンがいたはずだが……何か失礼なことをしなかっただろうか?」
家の前のポストに大量のハガキを投函してから
おもむろにメールを開いてみる……ある。アイリーンからだ。
ポストが近いからここを選んだのは秘密だ。
さて、このメール、アイリーンからの不満や文句でなければいいが。
ジェイルへ
状況報告
あの後、何処まで記憶しているかわからないけれど、貴方は壊れたロボットみたいに「大丈夫だ、問題ない」を繰り返す、全然大丈夫じゃない人になってしまったのは記憶に新しいと思います。
元に戻りましたか? まあ、私が放置された形になりましたが、興奮から記憶が飛んでしまう娘にはなれているので気にしなくても良いです。
その状態でも収穫を続けていた貴方に、私は軽く驚愕でした。直接伝えても伝わらないと思いましたので、収穫出来たソーマの雫の半分は渡しておきます。2つあるので、クエスト用と新しく畑に植える用に使ってください。
明日、集まってクエストを進行する事、私から皆にメールしておきます。まずはゆっくり休んで下さい。集合時間は、私達が学校から帰ってシャワーを浴びられる時間の17時でお願いします。
最後に、ロマノフから貴方の事は聞いていたのでこの可能性も充分に理解していました。だから何も気にしないで大丈夫です。
では、また明日。
……むう。文字の節々から、不満や皮肉を感じるのは俺の気のせいではない気がする。
この文面を受けるなら、俺はよくわからんがフリーズしたみたいに固まってしまい、声をかけると、黙々と収穫、ただ会話はなかったと、そう言うわけか。
確かに失礼な野郎だな。
むう、しっかりとした謝罪が必要な気がする。
流れて放課後の一時、自宅に帰った俺は時間を確認する。
……やっぱり高校とは時間の流れが違う。もう余裕ないなり。
即座にログインする。
皆どれだけ早く帰ってたのか、既に全員集まっていた。
「アイリーン、昨日は済まなかった」
「いえ、メールでも言ったように気にすることはないわ」
「いや、あれは逆に気になる」
「そう。ま、気にしないで。所で懸賞は出来たの?」
「ああ、気が付いたら山のようなハガキが目の前にあった」
「当たると良いわね。譫言のようにいってたからね」
気にしてるのかしてないのか、どっちだ。素か? 素なのか?
「まだ、一日しかたってないのに……ジェイルさん、やっぱり福の神です」
「俺、ヴリドラ倒す必要ないじゃん……全く、お前は相変わらずだ。ほら、 これが俺の持ってる杯、十字軍の証明だ……それにしても福の神か。言い得て妙だな」
「もう、これで合成出来るんですか?」
「あ、ああ。いや、駄目だな……きっと合成に錬金スキルでも必要なんじゃないか? 手はうってある……ロマノフ、どうなってる?」
「ああ、メールで時間指定してるから、もう繰る筈だが……ああ、 来た来た」
そのロマノフの視線を追うように同じ方向を見やると、こっちに向かってきたのは大爆笑のホビットだった。
「あんた、本当にフェイルノート? こんなキン肉だるまになっちゃって……ぷぷ……」
「ペインキラー、何の為に呼んだか判ってるな? バカ言ってないでまずは自己紹介だろ」
陽気なホビットはこっちに向き直る。
「君がリーダーだね。僕はペインキラー、ギルド、閃光の旅人亭に所属してるジョブ大泥棒だ。宜しく」
「俺はジェイル。こっちはミリンダにアイリーンだ。そこの筋肉だるまは紹介の必要はないだろ?」
「ああ、そんな事されたら気持ち悪くて大爆笑してしまうよ。じゃあ、早速素材を渡してくれるかな? フェイルノート……じゃないや、ロマノフだっけ? 十字軍の証明はあるかい?」
「ああ、これだ。いけるか?」
「じゃあ、俺も。これがネクタル、こっちがソーマの実にゴールデンアップルだ」
事前にある程度話してるんだろう。とんとん拍子に話が進む。
「アイリーン、どういう事だと思う?」
「ロマノフの知り合いに頼んだって事でしょう」
十字軍の証明を手にして、何やら色々とやってるペインキラー。
「今まで結構合成してきたけど、こんな合成パターン初めてだよ。それにスキルレベルギリギリなのも久し振りだよ。腕が鳴るね! ま、大丈夫大丈夫。じゃあ行くよ。スキル、ハイブースト ! 熟練の経験!」
ペインキラーは、恐らく合成の成功率を上げる為かいくつかのスキルを発動させる。
「よし、ちょちょいのちょいっと……ほら、出来たよ、アムリタか。初めて作ったよ。御伽噺の世界のアイテムを作れるのが、錬金術の醍醐味だよね」
「ああ、助かった。ペインキラー、君への報酬はどうしたらいい?」
「君はフェイルノートのリアル友人らしいから、別に無くていいんだが……じゃあ、このクエストの完遂の現場に立ち会わせてくれないか?」
流石ロマノフの友人だ。思考が近い。
「わかった」
「いいんですか?」
「ああ、構わないよ。俺の予想じゃ秘匿は意味がなくなる事態になるだろうし……じゃあ、俺のパーティーに入ってもらうぞ」
「意味深だね、わかったよ。じゃあ、少しの間だけどお世話になるよ。リーダーさん
ファット爺の家に向かいながら、ロマノフにだけ聞こえる位の小さな声で確認を入れる。
「彼は信頼出来るのか?」
「一応な。俺と同じベータ版からの付き合いだから」
そんな訳で仲間が1人増えた。
「まさか、農民と賢者、格闘家のパーティーなんてね。 どこを捜してもこんなレアなパーティー無いよ」
「私が賢者だからですか……」
「違うでしょう? 被害妄想強すぎるわよ、ミリンダ。ジェイルの農民の事よ、多分。現状彼しかいないだろうし…………」
「まあ、賢者が魔法職だから少ないって言うのも……「無いわよね?」……はい、そうですね。後は、そこの二人の言うとおり農民は見たことない。そもそも、こんなレアジョブしかいないパーティーは見ないけどね」
「お前、俺の事忘れてるのか? それともあえて無視してやがるのか…………」
そんな言い合いに耳を傾けながら、ファット爺の家に入る。
「ここが? 農民用の追加キャラの家だったのか……」
「俺をパーティーに入れてくれてなかったから、家に入れなくて、一回無駄に時間を取りました……」
誰に言ってるんだ? あの筋肉だるまは? ま、そんなものより手早く終わらせようぜ。
「おお、来てくれたか。さ、早速アムリタを……」
アムリタ所持状態で話しかけたからか、異様に興奮してる。
ウザい。
トレードしてやると、走って姿を消す。かと思ったらすぐに戻ってくる。
「落ち着いたよ、有り難う。主等の御陰じゃな」 「早っ!? どんだけ即効性だ」
「あげる時間あったんですか?」
「また、俺達を騙してるのか?」
「そもそもこの建物にいたのね」
ま、クエストクリアになれば何でもいいがな。
「主。達には礼をしないと、うーん、どうしたものか」
「ファット爺。貴様は何が出来る?」
「ワシ? 何でも出来るそ?」万能やし
なんなんだ、この爺は。
「じゃあ、お前が出来る中で一番面倒くさい事をしろ」
「サドだな」
失礼な、苦労を形にして欲しいだけだ。
「ふむ、わかった。じゃあ、これをやろう……さて……条件を満たしてるのは主だけか。では、主だけの特権じゃな」
「何をするんだ?」
「ーーサイドジョブだ」
「なんだそれは?」
「深読みは必要ないぞ。言葉の通り、メインのジョブとは別に、他のジョブもサポートで設定出来るスキルじゃ。効果は、設定したジョブのスキルや効果、ステータスを上昇させる事が出来るのじゃ」
ん? いまいちよくわからないな。
「サイドのジョブも成長出来るって事か?」
「勿論じゃ。そういっとるじゃろ? サイドジョブのジョブ特性も発動するし、固有スキルの修得も可能じゃ。当然転職の際にあったスキルペナルティも解除される」
ペナルティ? そんなのあるのか?
「それは……凄いわね。プレイスタイルからして変わるじゃない」
「フェイルノート、僕はこんなクエストもサイドジョブな んてシステムも聞いた事無いんだけど」 「心配するな。俺だって初めてだよ」
正確な所がわからなかったので、アイリーンに聞いてみる。
「どう言うことなんだ一体?」
「言ってたことが全てだと思うけど……幾つものジョブを……いや、これじゃわかりにくいわね。農民をしながら召喚士を上げられるってことよ」
なんと!? そんな素敵スキル!
そして、同時に転職の弊害も聞いてみる。なんでも、転職するとそれまで上げていたスキルは使うことは出来るが、新しく元のジョブに再転職すれば別だがレベルが上がらないらしい。
ランダムをうたい文句にしているから、既に覚えたスキルにマイナスをつけてる。それが転職に関するプレイヤーの相違だそうだ。
つまり、あの時召喚士に転職していたら、俺個人の虎の子の攻撃手段、ザ・投擲も上がらなかったということか。
抜け道はあるみたいで、もう覚えてしまったらレベルはそのジョブ意外で上げられないのか。と、いうとそうではないみたい。
そのスキルはやや取得率が上がるらしく、新しく修得条件を満たさなければ、スキルレベルは上が るとの事だ。
つまり、新しく覚えないと行けないって事だろ? いや、それ抜け道じゃないだろ。
なんか、意地になってるだけにしか思えん。
だが、よく考えたら確かに召喚スキルは全く上がってないな。 幻獣任せだから上がらないとおかしいのに。
考えてみれば一長一短あるんだな。
転職はレベル10まであげれば、自由に変更可能らしい。
だが、覚えたスキルのレベルを上げるには再度転職が必要。その都度ジョブレベルを上げ直し……そりゃやってらんないよな。
うむ、サイドジョブの異常性は判った。
「ジェイル、君の農民こそうだが、彼女が言った召喚士……それはこの間のバージョンアップの専用ジョブの事だよね? それに今回のサイドジョブの存在。後半は知らなかったかもしれないけど、こんな大切な事、僕なんかに教えてよかったのかい?」 「構わないさ、俺はロマノフを信用してるし、彼が連れてきた君もその信用の範囲内さ」
余りの情報に不安になったのか、質問してくるペインキラー。
「それに、前回もだが多分これも次回のバージョンアップの対象になる。条件がキツすぎるが、有能すぎる……所持不所持で格差が出るだろう必須スキルだから……」
「いや、これだけの性能を誇るなら、当然な気がするが…… 」
「ペインキラー、素材を集めて合成の両方が可能なお前に残念なお知らせがある。このクエストの開始条件が、ゴールデンアップルを入手する事だ」
「フェイルノート、それがどうしたんだい?」
何だか知らないが、首を左右に振りながらペインキラーの肩に手をおく。
「ロマノフだ。あのな、俺達ベータ版からやってるが、そんなアイテム見たことあったか?」
「………………ないな。だけど、じゃあ君達はどうやって手に入れたんだい?」
「それはな、俺の畑から取れたんだ」
「取れた?」
混乱の極地にいる彼に、入手の経緯を説明する。
「……種の入手は可能、だが畑の入手とその収穫が難しい……」
「畑なら別に「ジェイルは黙ってろ」……なん?」
貸してもいい、と、言おうとしたらなんか黙らされた。
いつもなら吹き飛ばしてやるが、意味がありそうなのでそのまま黙る。
「抜け道はあるかもしれない。だけどな、集めるだけでも気が長くなるような時間が必要になる」
「……それは彼のジョブ、農民のジョブ特性ゆえにかい?」
「ああ。収穫成功率が劇的に落ちる。薬草で試したことがあったんだがな……」
なんか、俺が混ざれないので、同じく混ざれない仲間同士でトークを始める。
「ミリンダ達は何かもらったのか?」
「え? 私達ももらえるの? アイリーン、どうだった?」
「聞いてなかったの? スキルが増えてるじゃない?」
言ってた? 俺には言ってなかった気がするが。
「また聞いてなかったんじゃなくて? サイドジョブの説明の後ではなしてたわ」
むう、そうなのか。
「そうなんだ……じゃ、じゃあ何か増えてるって事よね?」
「ええ、固有スキルを一つ解放するっていってたわね。私は消費MP軽減」
また、重戦車ぶりに拍車がかかるスキルで。
「いいなぁ、それ。私もほしいなぁ。私も見てみようっと……あっ、ジェイルさん! 私、鑑定を覚えました!」
鑑定……?
「未鑑定品を鑑定出来るんですよ! 凄くないですか?」
「便利ね。賢者の面目躍如って所ね」
「そんなスキルがあったんだな。武器や涙目だな」
「えへへ~レベルがあるから、初めはあれかもしれないですけどね~」
レアジョブはそれに相応しいスキルが増えた。じゃあ、汎用系のロマノフはうなんだろうか?
「なら、転職すれば! それならいけるだろ? 条件はなんなんだい?」
「それが一番困難でな……お前も解るはずだ」
「まさか……レジェンダーでスターターなのか?」
レジェンダー? スターター? わからん単語だな。造語か?
「そんな顔しなくても説明するよ。スターターは、私と同じ開始からレアジョブについてるプレイヤー。レジェンダーはまだ取得条件が不明なジョブの事。知ってる限りじゃ、私はジェイル位しか該当しないけど」
「言われてみれば、ジェイルさんって凄いですよね」
ミリンダは最近そればっかりな気がする。あんまり言われ続けると調子に乗っちゃいそうで嫌やな。
ま、嬉しくはあるけど。
「で、これが一番重要なんだ。よしんば素材が集まって、合成出来たとしよう。だがな、農民でないとこの建物に入れないんだ」
「は?」
「ここはバージョンアップとかで解放された訳じゃないんだ。入るのにジョブ農民たそれに類する……パーティーメンバーしかドアをあけられない」
希望を打ち砕かれ、がっくりと肩を落とすペインキラー。
確かにな。ロマノフは言わなかったが、召喚士関連のクエストか、農民しか入れない。
条件もわからなければ、転職も出来ない。
召喚士のクエストで入れるんだろうか? それぐらいしか方法が浮かばない。
「ジェイル君。君、凄いね。その農民も召喚士も、君専用のバージョンアップなんだろ?」
「…………わかるか?」
「1人のためのバージョンアップは何回かあるしね。実際、召喚士の条件はまだ誰も見つけてないみたいだし……で、今、サイドジョブなんてシステムをひっくり返しかねないスキル……愛されすぎ」
なんか、へこみながら言われると情報を秘匿してるのが、凄く申し訳なく感じる。
「ペインキラー、わかってて言うな。レジェンダーでスターターだぞ」
「わかってるさ。ジェイル君の楽しいOOを考えるとそれが最前な事位。フェイルノートがいてその判断をしたんだ」疑う余地はないさ……召喚士と農民が密接に関わること位」
何故か急に笑い出したペインキラー。壊れたか? とりあえず何か投擲してやろうと周囲を物色する。
「僕は諦めないよ。絶対に別の条件を見つけてみせるよ。あきらめなかったから僕も大泥棒になれたんだから」
「あ、ああ……応援してる。俺に出来ることがあったら言ってくれ。協力位はする」
「ふふ、優しいな、君は。だが、必要ないよ。君のリアフレは、僕にはあまり関わらせたくないみたいだし、ジェイル君に聞いたら負けな気がする。同じ土俵に立てたら、その時はまた遊びに来るよ。君の希少性はきっと初見の僕には理解しきれないし」
ん? 最後の意味はわかりませんが?
「よくわかったわね? 彼の特異性は希少ジョブだからなんて言葉では表せないのよ」
「あ、君も彼に惚れた口?」
「貴男と同じ状態を惚れたって言うなら、そうね」 「え!? アイリーン……?」
やはり不明。
「誤解するなよ。別に関わらせたくないわけじゃない。こいつが楽しいプレイをするために、状況を整えたいだけだ。お前等も落ち着け。馬鹿ばかりやってないでとりあえず話を終わらせろ」
「それを関わらせたくないって言うんだけど……まあいいよ。ジェイル君、ほら、NPCが待ってるよ」
「ファット爺? ああ、まだ終えてなかったのか……わかった。それでいい。ファット爺、もしまた何かあったら言ってくれ。力になろう」
「ああ、今回は助かった。改めて礼を言わせてもらうよ。 ジェイル、ロマノフ、ミリンダ、アイリーン、有り難う」
綺麗まとまった所で、感謝と共に俺達はファット爺の屋敷を辞した。
「全く面白いものを見せてもらったよ。合成程度の報酬としたら全く足りなかったね。だから……僕も今日見たことは秘匿させてもらう。ジェイル君のプレイスタイルを崩したくないしね。今度会う時は僕がサイドジョブを取得したときだ」
「そうか、助かるよ。それに、今回は助かった。有り難うペインキラー、君と戦える日を楽しみにしてるよ」
「なんか、仲良くなってますけど……」
「あの約束だと、現段階じゃペインキラーは二度とジェイルに会えないけど……」
夢を壊すこと言うなよ。聞こえてないから良いものを。社交辞令みたいなものなんだから。
「フェイルノート、また明日。ヴリドラ戦でね」
「あ、ああ……そうだな」
「明日、ソーマの実が出るといいね」
「やっぱり、わかってて言いやがったな。覚えてろよ!」
「ははは、じゃあね、フェイルノート、ジェイル君。それに麗しの皆々様」
片手を上げて、振り返る事無く去っていくペインキラー 。
「ホビットが格好付けても似合わないな」
一寸同意だった。
「ロマノフ……」
「ジェイル、俺は間違った事はしてないからな。あいつは信用できるが、お前は相手を信頼するのが早すぎる。それで何回俺達が苦労したと思ってるんだ」
「……別に攻めてるわけじゃない。いつも感謝してるよ。なんとなくおまえ達が苦労してるっぽいのは感じてたし……」
「どう言うことかな?」
「ジェイルが相手を信用しすぎるから、ロマノフが慎重に相手の人となりをみてるって事でしょうね。まるでお父さんね」
「仕方ないの! こいつは放っておいたら、あちこちに友人作るから」
「変かな? それ?」
全くだ。友達百人集めるぞ? むしろ、ネットゲームは相手が見えないからやりにくい。農民のせいで、プレイヤーに迂闊に話しかけられないし。
「普通ならな。だが、それが黒塗りの車のボディガードに囲まれたえらい人だったり、言葉も通じない他国の人々とかだったら?」
「言葉が通じないのに?」
「そう。あいつは日本語しか話さないのに、何故か最終的には意志疎通がはかれてるんだ。しかも次からは、相手が日本語覚えてきてるし……」
それはまあ、友情故にってかんじ?
「ロマノフ……大変ね」
「……ああ」
まあいいか。さて、兎にも角にも、これで農民/召喚士の誕生だな。めでたいめでたい。
そういえば、ロマノフの固有スキルなんだったんだ?