第十七話、始まりの第一歩ですか?(2)
最近の俺の悩み。
それは攻撃力。わかってはいたが、貧弱! 貧弱! である。
元のステータスが激烈に低い、プラス適正武器は使うと壊れてしまう仕様。その為まず近接攻撃が出来ない。
現在はコボルトの儀式剣でなんとか攻撃しているが、むしろマイナス補整のせいでダメージがあるだけ大した物といった物。
そも当たったら負けの超高難易度になってるから悠長な戦いが出来ない為滅多に近接は使わない。
だから農民固有のランクアップと投擲スキルを使用したザ・投擲での攻撃がメインになる。
一気に押せる場合はそこに更に農具スキルをプラスした新・投擲を行う。
急に何を? と思うが、別にレベルが上がってどんどん強くなっていくドライに危機感を覚えた訳じゃない。決してない。
なので、拾ったものだけでなく、しっかり装備できる武器がないかを聞きに、ファット爺の家に向かう。
町の中、地理を覚えるのは苦手だが、流石にちょくちょくくるここは忘れたりしない。
「おい爺、聞きたいことがある。俺の装備についてだ……」
「なんじゃい、藪から棒に。主の装備など農具と素手にきまっておろう」
決まってるって俺はそんな常識知らないし、何やら素手ってなんぞ? スキル無いぞ。
「最も、ワシ等農民は全てのジョブの原形じゃ。その気になれば何でも出来るがの」
高位ユニークって事か?
取り敢えず知りたい情報だったがなんの解決にもなってねぇ。
結局今までと何もかわんねぇじゃないか。
「調べても出てこないよな、きっと……」
未実装のジョブだ。クエストだっていつ実装されるかもわからねぇし。
存在しないジョブの情報、聞けただけめっけもんか?
それだけを聞くと俺はファットの家から厳かに退出した。
全く役に立たん爺じゃ。
あれ? じゃあ、なんで畑のクエスト出来たんだ?
今、気がついたのだが……魔法系ジョブの武器って鑑定してくれた武器屋に売ってるのか?
改めて調べたことなかったが農具って隠されてたりしないか? 売ってないだろうか?
「買った事がないからわからん。どうしたものか。行くべきか行かざるべきか」
皆、今日は夜までログインしないしな。
ああ、あの時、街を全て回らなかった己を殴り倒してやりたい。
「何時までもそんな事いってても詮なき事か」
俺は今でダンダクール武具工房にきている。前にはいつものイケメン鍛冶職人のフェイトがいる。
「かくかくしかじか~と、言う訳なんだがここにそういった物は売っているのか? 後ついでにこれを鑑定してくれ」
「農民用の農具、ですか……それに鑑定ですね。承ります」
完璧なこの男が考え込む仕草を取るとは……。
「ここでは一寸扱っていませんね」
「やはり農具はないのか……ファット爺に聞いたんだが、農民に格闘の適正があるって聞いた。そっちはどうだ?」
「………………ファット様の…………ああ、そうでした。私、すっかり忘れていました。ジェイル様がお使いになるに適任な物に心当たりがあります」
急に何度も頷づきだしたぞ。ファット爺の名前を出したら反応が変わったな。
「そ、そうか……それは農具なのか……?」
「ええ、そうです。農具は私達では作れませんのでこの町で手に入る事はありません。外で手に入れるしかないのです。場所はですね………………」
場所は聞いた。位置がわからん。
結局格闘について聞いたが、格闘スキルを覚えなければ変わらないそうだ。
ステータスに問題があるから、どの道近接自体に向かないとか丁寧な言葉で酷いことをいわれた。
因みに杖は千の魔杖と言うユニークアイテムだった。低レベルユニークから出たやつだから、あくまでそれなりの性能っぽい。後でわたそう。
なので夜になったらロマノフにでも詳細を聞いて現地に行ってみるつもりで、フィールドでゆるーくレベル上げでも……と思ったが、そうは問屋が卸さないようだった。
(やぁ、ジェイル、今、暇? 一寸手を貸してほしいんだけど……)
アイリーンからのテルであった。
まだまだ、農民の一日は終わらない。
「ありがとう、一寸厄介なクエストをこの子がやりたいって言い出してね」
「呼ぶのは別に構わないが……学生は早いな。てっきり夜だと思った。ああ、ミリンダも一緒なんだ? しかし、随分急いでるな。まだ、詳細は何も聞いてないんだが…… 」
「はい、こんにちわ、ジェイルさん! 私達は、帰って、すぐ、ログインしてますから! ジェイルさんは、今日はお休みですか!」
「ああ、そうだ。都合よく(必須な科目を取ってない自主的な)休みだったんだ」
しかし、二人が厄介って言うようなクエストなんて、俺に力になれると思えないんだが……俺農民だぜ。
「説明は移動しながらでいいわよね。一寸距離があるから」
「だから、何をそんなに急いでる? で、行き先は!? この位聞いても問題なかろう?」
「はい! 行き先はアルツリング高、原にあ、るテ、ンペストの渓、谷で、す」!
テンペスト渓谷? 何処かで聞いた場所だな。そう、ついさっき聞いた気がするぞ。
「で、何をそんなに急ぐ!」
「時間制限があるのよ! あんまり余裕のない!」
「なる程、把握だ。それにそこなら俺も都合がいい」
「どうしたの?」
「俺もその渓谷に用が出来た所だったんだ。俺のあたらしい武器の為にな」
「新しい……?」
「武器……?」
これは行き先までに説明をするのは俺の方らしかった。
アルツリング高原……常に晴天に恵まれた遠くまで見通せる高原。
羊やトカゲ、ゴブリン(コボルトと同じ二足歩行型の敵勢種族)がメインで出現する。
そして、テンペストの渓谷はそこの場所の一つであるゴブリンの集落がある場所だ。
「クエストは簡単。テンペストの渓谷でゴブリンの呪術王を倒すだけよ」
「強そうな名前が出てきたな……それって、俺は受けれなかったのか?」
止まる世界……。
「アイリーン、そそそそそう、そうだよね? ジェイルたんはた、対象じゃんなかっんだよね?」
「あ、ああ。確か……その筈よ?」
おい……ミリンダは慌てすぎだ。言葉遣いがおかしくなってるぞ。ジェイルたんってなんだ? 誰かに愛でられる趣味はないぞ?
アイリーンも何故俺に聞いてくる? 俺が聞いてるから。
「まあいい。今回はただの助っ人だしな。クエスト報酬はなんなんだ? 把握してるんだろう?」
「そっちは貴方には関係も興味もないわ。それは間違いないの」
俺が興味ないもの? 戦闘ジョブ系のアイテムか? だが、そんなのミリンダも興味ないだろう?
「あのでね……実は……なんです」
「へぇ、そうなのか。そ随分思い切った決断をしたな。れなら喜んで手を貸させてもらうよ」
俺じゃあ、それ以外は投擲位しか出来ないけどな。
「オレと、魔法てショウブダ」
「所々言葉がおかしいのは仕様なのか?」
「ジェイル、そんな風情のない事言うものじゃないと思うわ。おバカさんの設定なのだから、触れたら可哀想じゃない」
「二人とも、私ク付き合ってくれてるからだろうけど、少しはエストしようよ……」
適当に渓谷のゴブリンを狩りながら(アイリーンが)一直線に(場所は調べてあったらしい)じゃらじゃらと怪しい装飾に身を包んだゴブリンの所に辿り着いた。
またもや、しっかり、とでもないがこちらの言葉を話すNPCに違和感を覚える。
ぎゃー、とか、がるる、とかでいきなり戦闘でもいいと思うんだけどな。
「オレと、魔法てショウブダ」
「言い直してるのか。律儀なNPCだ」
「ここはしっかりと受け答えしてあげないと、クエストが進まないからですよ。はい、お願いします」
「自分の集落に攻めいられて、我関せずと勝負を挑んでくるゴブリンと、攻めいったのにお願いする冒険者……シュールね。悪くないわよ、ミリンダ」