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第十七話、始まりの第一歩ですか?(1)

 俺の隣にちょこんと座っている、緑のローブを来たツインテールの小さな女の子、木の幻獣ドライアード。


 装備のお陰で召喚後もMPに余裕があり、改めて転職は必要なかったんだなぁと実感する。


「あの爺……いつか見とけよ……NPCと戦闘出来るようになったらボコボコにしてやんからな……」

「いや、どう考えてもボコボコにされるだろう……しかし、条件が……云々じゃなくてまさかの未実装とは予想外だったな。掲示板に情報上げなくて良かった……」


 意外も意外と話す奴の声を背後に聞きながら、収穫活動に移る。


「薬草194個、せいしん草79個か。いつも思うがとんでもない収穫数だな。これも存在しないジョブの不具合って奴か? まあ、取れたこれをまた植えて、と……」


 準備しにいくか、と思って桶を取ろうとするが、ドライがやる気満々に桶を持っていた。

 

「行ってくれるのか?」


 コクコク、といつものように頷いてくれる。


「そうか、じゃあ頼めるか?」


 やはり癖で頭を撫ででしまう。


「いやぁ、やっぱりスペック高いよなぁ。パターンといい、自律的行動といい、とてもプレイヤーアシストのシステムの一端とは思えん」


 かって知ったる何とやらとばかりに、水を汲んでくると畑にまいてこっちに俺の前に小走りに向かってくる。


 本来はあり得ないのだが、何だか俺にはニコニコとしっぽを振って頭を撫でて欲しがってる小犬ちゃんを連想させた。


「思うんだがな。結果として召喚は出来るようになったんだ。もうこのままでもよくないか?」

「だが、性能的に農民で続けるのはキツくないか……いや、お前は元々がっつり型じゃなかったもんなぁ。個人的にはそんなレア中のレアのジョブは残しててほしいが……」


 クワを力一杯入れながらそんな会話をする。


「まあな、むしろ効率効率とか言われると疲れそうだ。俺は今度はこの薬草で料理とか作ってみたいが」

「お前らしいな。スキルさえあればお前は職人の方が向いてそうだ……なあ、さっきからドライアードの頭を撫で続けてるのわかってるよな?」


 ん? 別におかしな事はあるまい。


「おかしいわ! 撫でるのはおかしくなくても、普通は畑を耕しながらはせんだろ! 愛ですぎだろ! 常考!」

「おかしな奴だな。今日の日課は終わったし、じゃあ、レベルでも上げに行くか。行くよ、ドライ」


 コクコク。


 黙って付いてくるドライアード。


「待てって、俺も連れて行けって!」


 今日のレベル上げはドライアードが主役だ。









 今の俺の適正な狩り場は、アイリーン達といったカサイの沼地らしい。

 トンボとウサギがメインのターゲットだ。


「ここではユニークのウサギに恨みあり! 今は恨みパワーを溜めつつレベルを上げていくか」

「激しいなぁ。出た所でまだ、俺達じゃ勝てないからいいんだが」


 早速白ネームの沼ウサギに採集で拾って、ランクアップで格を上げた元砂利(現小岩)を投擲する。


 1/8位だろうか。まあ、こんなものか。


「なぁ、俺には格上何だが……」

「ああ、俺よりレベル低かったんだっけか。ま、気にすんな、すぐ上がるさ」


 明らかな前衛がいるため、この様子なら俺は完全投擲特化型の方がいいな。


 そう言えばドライアードは近接戦闘可能なんだろうか?


「ドライ、行けるか?」

 

 コクコク。


 現在ドライのレベルは2。だが、これがどういったレベル判定なのかわからない。

 プレイヤーと同じなのか、それとも何か別の計算式から導き出された数字なのか。


 もし、プレイヤーと同じだったらやばいな。レベル16相当の敵にレベル2で挑むことになるんだから。


 じゃあ、端からやらせてみるか。無理だったらすぐに下がらせてドライのスキルを使ったり、俺と一緒に小岩を投げればいいさ。


「やれやれ、じゃあ、ジェイル。回復はお前に任せるからな。オラァ!」

「OKOK、お前の鎧をドロドロにしてやんよ! じゃあロマノフの後から巻き込まれない場所から攻撃に励むんだ! ドライ、行け!」


 トコトコ。


 沼ウサギの背後に向かって小走りのドライアード。


 ……和む。


 そして、その拳を振り上げる。それすらもいやされる。そして振り下ろされる。


 ……意外に減る。


「レベル2だろ? 計算式が違うっぽいな。格も格上に減りすぎだろ」

「だな。これで俺達と同じ様にレベルが上がっていくと、俺の召喚主としての立場がない」


 いきなり俺の昔の投擲に迫る威力を叩き出しやがった。


 見えるだけとは行かないので、ロマノフの被弾率を見ながら俺も投擲に精を出す。


 シュッ、ブン! ドガン!


 いや、ウサギ殴った音じゃないし……これは然るべき機関から苦情もとかこないんだろうか?。


「これで、ラストだ! パワーアタック!」


 ロマノフの石斧の一撃で、沼ウサギは電子記号のようにはじけて消滅する。


「ドライ、お疲れ。凄かったな、偉いぞ」

「魔力型かと思ったんだが、いやいや、このレベルで行けるのは心強いな」


 予想外の奮闘ぶりに頭を撫でてやる。


 クレイゴーレムよりも攻撃力があるな。


「お? ドライアード光ってるぞ。レベル上がったのか? この光り方は……」

「格上だからな、すぐに上がったか。どうした?」

「いや、俺達と同じだと思ってな」


 ふむ、何が言いたいのかわからんな。強くなったならいいじゃないか?

 俺も威厳を忘れないようにしないとな。


 この戦力具合、いや、あれか? アップデートで修正されたのか?


 わからないけど、どちらにせよ言える事は……。


「ドライ無双始まる序章だな」って事だった。


 その後も俺が敵を釣ってきては、ロマノフとドライでフルボッコにする。俺も適当な小岩を投げるが。

 格上戦闘を繰り返した結果、ドライはガンガンレベルを上げ、何時の頃からは俺より遥かに攻防が高くなったようだった。


「ええ……ジェイルさん、お話があります」

「ん、何だ。手短にしたまえ」


 ロマノフ斧振るだけ、ドライ殴るだけ、俺投げる、時々ベチャッ、だけで殆ど休憩無しで狩り続けていたのだが、精神的な疲労の為休憩していたら何やら話しかけてきた。


「お宅のドライアードさんなんですか……」

「先生、家の子がどうかしたんですか? 家の子は人に悪さをするような子じゃないですよ」

「ええ、わかってます。あのですね、ドライアードさんは恐らく俺達と同じ上がり方でレベルが上がってます」


 む、それは初めの想定と違う。


「レベルアップ頻度や上昇率から考えてまず間違いないだろうかと」

「そうか……つまり、何を言おうとしてるのかというと……」


 結局言うことは同じ……。


「「ドライ(アード)無双始まったな」」だった。


 攻防は俺をはるかに越え、スキルは使わなかったからわからんが、魔法関係は多分相当高いだろうと思う。


 あの時のリーフストームのイメージがありすぎるから、実際に違う可能性もあるんだがどうしても完全魔法型だと思ってしまう。リンクの危険でなかなか使えないのが残念だが……。










 レベルが9まで上がったドライと共に、常に頭を撫でながら一度街に戻る俺達。


「どんどん俺が空気になりつつある。ん? あれは……玉ねぎ……のユニークか!」


 ジャンプしながら前に進む顔付き玉ねぎ。


 名前は……サウザンスプリングか。


「街道のユニークだからレベル的には上だろ? どうだ?」

「楽勝だろ? お前は当たったらアウトだから集中が必要だが……そうだ。ドライアードなら、単騎で勝てるんじゃないか?」


 ロマノフの言葉を受けて、小岩を迷う事なく、サウザンスプリングに投擲する。


「ドライのスキルを使ってみるか。MPは全く使わなかったから大丈夫だな……ドライ、行くぞ。リーフストームだ!」


 ドライアードの手に一枚の葉っぱが現れる。それを前方に飛ばすとやはり現れた複数枚が絡まり合い球体になる。

 そして、その球体は複数の葉を連続で吐き出し、嵐のように玉ねぎを貫通した。


「前はちゃんとみれなかったが、凄い派手だなぁ」

「少し変わった? バージョンアップの影響か?」


 ノックバックし、ダウンするサウザンスプリング。


 そのHPバーは7割が無くなっていた。


「幾らレベル的に格下とは言え、普通あんなに減らんぞ」

「やはり魔法型って事か? これは負けないな。任せた、ドライやっておしまい!」


 もう一回リーフストームを撃てばお仕舞いなんだが、やっぱりトコトコパンチを見たい俺の親心。


「違うぞ、それ。親心じゃないし」


 うるさい。


 向かい合ってツルと小さな手でタイマンしているドライとサウザンスプリングを眺める。


「子供の喧嘩だな」

「にしちゃ物騒な音がしすぎだろ? ドライアードが殴ると、ドガンドガンって……あの手は鉄鋼かなんかか?」 


 個性? 今風だな。


「プラス解釈しすぎだから!」

「気にしない気にしない。ほら、もうとどめだぞ。1/3も減らされなかったな。あいつの適正レベルってどんなもんなんだ?」

「確か……5~6位だったような……そも殆ど初めの一撃で減らされてるんだ。あんなもんだろ」


 ドガン! とどめの一撃と共に光に包まれるドライ。


 光り出すドライ。


「レベルが上がったのか、確かこれで10だっけか?」

「そうだな、なんか表示が……どうやらスキルを覚えたようだな」

「ほぉ、これはランダムじゃないんだな」


 試しに使わせてみる。


「ドライ、ツタウエポン」


 頷いて、手からツルを出すドライアード。


「草のツルか……それをどう出来るんだ?」


 俺もわからんから、ドライに任せてみる。すると、ツルをビュンビュンと振り回している。


「ツルの鞭か……」

「……だな」


 しかし、どうやらまだ終わらなかったようでそのツルは垂直に延びて剣のように硬質化した。


 今度は剣舞のようなものを見せてくれる。


 俺が魔法魔法言ってたから、自分近接職だって事をアピールしたいのかな?


「可変型の武器ってことか」

「基本が鞭みたいだ。消費MPは5。剣に変えると+5消費した。結果MPは10消費したな。威力も剣の方が高いみたいだな」


 まあこちらとしたら、俺が完全後衛型だから好都合だけどな。


 でも、堅いツルって鈍器だよな。


「あ~まあ勝ったしいいか。さ、ドライ、行くぞ」


 トコトコと、手に何かを持って近づいてくるドライアード。


「ドロップか? ……種と木……杖だな。何々、黄金の種? 効果は……なし。ユニークアイテムなのか……ま、植えてみるか。で、こっちが未鑑定の杖か、鑑定してミリンダはにでもやるか」


 その後は特に大きな戦闘になる事もなく無事に街までたどり着いた。


 よきかな、よきかな。


「なんか俺今日空気じゃなかったか?」


 気にしない気にしない、今日は一休み。

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