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第十六話、初めましてには長いですか?(2)

 ロマノフに案内されて、俺達は街を歩いている。


 戦士と格闘家、魔法使いに農民。俺だけパーティーに必要なくないか?


 それにしても、回復系の需要って高いと思うんだが、ぱっと見て僧侶とかのジョブって全然見ないな。


「なあ、ジョブには僧侶とかもいるんだよな?」

「ああ、回復職の事か? 他にも神官とか治療士とかもいるな」

「ロマノフ、それは基本ジョブじゃないから選択肢に入らないんじゃないの? だから僧侶位よ。でもそれはねぇ……」

「ああ、皆まで言わなくていい。結局魔法系ジョブは不遇って事だろ?」

「うう……私、魔法使いなのに……そんなに不遇、不遇って言わないでください」


 俺とアイリーンがからかって、ロマノフが突っ込んで、ミリンダが落ち込む。


 いい役割分担だ。


「それだけじゃない。掲示板で散々ネガってる奴が山ほど出た結果……」

「回復職は奴隷、そんなイメージがついたのよ。ただでさえ不遇と言われてる魔法……「だから言わなくていいですって!」……そうね、あまりに不憫ですものね」

「うう……普通に全部言われました……」


 まあ、それはさておき。


「あまり数がいないのはわかった。会ったことなかったから少し気になってたんだ。で、だ。アイリーン。僧侶の回復魔法スキルはどうやって習得するんだ?」

「こら、無視すんな」

「ジェイルさん!」

「オンラインオンラインの基本的な姿勢である適当にしていたらランダムでの習得ね。まあ、これはどのジョブでも関係ないけどね。適正ジョブで、適正なスキルを習得するにはその身に受けるのが一番確率が早いわね」

「ん、何だって?」


 受ける?


「まあ、それでも数%しか違いはないがな」

「でも大分違うでしょう? 要は回復魔法をその身に受ける。もしくは回復、状態回復効果のあるアイテムを使うしかないわね」


 そりゃあマゾいな。


「結局どの位いるんだ、僧侶系って?」

「あ、私も気になります。まだ会った事ないです」

「私は会った事無いわね。ロマノフ、貴方は?」

「うーん。あるはあるけど……ちゃんと魔法を習得してるのは、極一部だけだったなぁ」


 ふむ、つまり、パーティーでの回復はアイテムに頼ってるって事か。


「俺達、散々薬草やらせいしん草やらを使いまくってるが覚えんぞ?」

「元々の適正がないからよ。ただでさえ回復系は他のスキルより習得率が低いから」

「……そんなもんか。だが、なんかロマノフから聞いてたよりスキル習得にも法則性があるんだな」

「いや、殆ど違わないはずだぞ。パーセンテージの違いなんて殆どないから」


 まあ、俺には関係ない話だがな。

 

「じゃあ、ドライの回復スキルは凄いのか?」

「ああ、正直、攻撃型スキルよりはるかに利便性、希少性が高い」

「それをもう使えるんだから、貴方勝ち組ね」

「しかも、可愛い……いいですね。ね、ね、ね!」

「ミリンダ。貴女犯罪者の目になってるわよ」


 相棒としては全く頼もしい限りだ。

 むしろ、俺には勿体ないな。


「ほら、ここだ」

「へぇ、ここなんだ」

「えっ、ここって……」

「ついたか……って、お前……」


 皆して、ここ、ここうるさいなぁ。でも、敢えて言わせてもらおう。


 なんでここなんじゃぁ!!


「お前この家は、ファット爺の家じゃないかぁ!!」


 俺が畑クエストを受ける為に来訪したNPCのファット爺の家であった。











「考えてみると、ここしか怪しい場所はないんだ。

関係ないプレイヤーは入れないし、お前に一番関係してる。畑を手に入れた後のNPCの言葉、お前覚えてるか?」

「何でしたっけ? 確か、モンスターを畑から動かしてくれたんでしたっけ?」


 ああ、そう言えば、俺にクエストをさせる為だけに、畑にモンスターを配置してたんだったか。


 思い出したらムカっ腹が……。


「そう。NPCファットは、自分の力でモンスターをどうこう出来るような力を持ってるんだ」

「それは……普通じゃないわね。その意識をよそにずらしながらもヒントは与えるその手法も。私も参考にしないと……確かに私も、ここ入った事ないわ」

「俺も無理だ。入れるのはジェイルといる時だけだ。今までただの家屋データだと思われてたからな」


 なるほど。言われてみれば……盲点だったな。

 怒りに我を忘れてたわ。


「なるほどな。何だか俺がバージョンアップに関わってるかも、とか一寸だけ思えてきたわ」

「まだ言ってたのか。どう考えてもお前の為のバージョンアップだろう? 今までフラグが存在すらしてなかったんだ。実際問題考えて彼が一番怪しい」


 このダルマ探偵め。

 生き生きとしやがって……足かけちゃえ。


「うわっ! あだだだだだ! ジェイル、何しやがる!」

「嬉しそうに喚くな。もうファット爺の家の中だぞ。非常識な、階段から落ちて反省しろ」


 階段を登りきった俺達(ロマノフ以外)は、部屋の椅子で腕組みでいるファット爺に遭遇した。


「久しぶりだな、爺」

「ひよっ子が来よったか。今日は何の用じゃ? 畑の拡張か?」


 真っ直ぐに俺だけにロックする視線。


「出来るのか?」

「無理じゃ!」


 爺……。


「NPCってこんなに、会話出来るの!?」

「え? 普通じゃないのか?」

「俺とアイリーンだけが一般のプレイヤーって事さ。普通は、NPCとの会話を楽しんだりはしないよ」


 ギャラリーがうるさい。


「まあ、いい。今は農民として来たんじゃない。幻獣召還のジョブになる為に来た」

「……ほう。まだまだひよっ子と思っていたが……中々どうして。いつ気がついた」


 会話がトリガーだな。

 じゃあ、先程の仮定を話してみるか?


「畑からモンスターをどけたのはあんだだろ?」

「カッカッカ! よく気付いたの! 合格じゃ。では、始めようか」


 いや、お前クエストのラストに言ってただろうが。あの後どれだけ怒りを力に変えてモンスターを乱獲したか……。


 後ろを振り向く。格好つけてるつもりか? この爺は?


 皆、あまりに上手く話が進む為びっくりしてる。

言ってみれば、ジェイルはクエスト、召喚士、を開始しました……みたいなイメージか?


「何、簡単じゃよ」

「貴様がそう言って簡単だった事は一度もない!」

「主が契約した幻獣。向かい合い、改めて契約を交わすんじゃ」


 話を聞きゃあしねぇ。が、ん? それだけか?


「簡単と思うたか? いやいや、それは短慮じゃな。ひよっこが! 幻獣達は主の今までの行動で、敵対もするし更なる上位の契約も可能となる。つまり、貴様の日頃の扱いでお前は天国にも地獄にも落ちる!」

「なるほど……」


 好感度的な物があるんだな。それによっては、戦闘になるって事か……山程クレイゴーレムに自爆させてるし、ドライは無茶して自爆のような扱いをさせてしまったが、やはりまずかっただろうか?


「言っておくが、そこにおる有象無象の手助けを借りたら、その時点で失格じゃ」

「爺、貴様ならそんな事言うと思った。で、敵対したらどうすればいい? 前みたいな、手出しするな、とかはなしにしてくれよ」


 農民って言うのが味噌だな。

 一撃だから、大変よ。


「幻獣は力あるものに従う。その時は力を示すがいい」


 倒せば、その恨みポイント? がリセットされるって事なんだろうか?


「わかった。じゃあ、一寸待ってろよ。すぐに戻ってくるからな。いいな、絶対待ってろよ! 絶対だからな!」

「うむ、行ってこい。主に幻獣の加護あらん事を」

「……ジェイルのあれは振りなの?」

「いいや、違うよ。あいつは影響されやすいからおそらくお笑いでもテレビで見たんだろう?」

「私、よくわかりません……」


 思ったんだが……農民じゃなかったら、どうやってこの家に入るんだろうな?

 多分召喚士の条件が何かあるんだろうが、全く関係ないのでなんか疑問だけが残っていた。









 ファット爺の家を出ると、早速畑に戻る。


「ロマノフ、これは難易度的にはどうなんだ?」

「うーん。なんとも言えないな。特殊だ。あんなの俺に聞かれても判断できん」

「クエスト用ユニークとの戦闘じゃないし、ジェイルは大丈夫よ。戦闘になんてならないでしょうし」


 なんか、えらく高評価だな。なして?


「ジェイルさん。早くドライちゃん達と冒険したいです」


 そんな嬉しそうに言われても……これから戦闘になるかもしれないんだぜ?


「……ああ、そうだな」


 一応答えておこう。否定出来ない雰囲気だし。


「もうスキルでの召喚が出来る、で判断していいんだよな?」

「だろうよ。でなきゃクエスト内容と食いち違ちっまうからな。ま、頑張れよ。俺も問題ないと思うがな」


 なんなの、皆して……まあいい、じゃあ早速始めよう。


 俺は、スキルを発動……つまり、召喚魔法を唱え始めた。











「うむ。見事じゃ。召喚士とは、幻獣と心を通わせて共に手を取り合う対等な関係。それを努々忘れるな。では、おめでとう、ジェイルよ。今日から主は召喚士でよいのじゃな?」


 ファット爺の所で俺は、召喚士の心得? 的な物を聞いていた。


 再契約? 全く問題なく終わったが何か?


 話半分でロマノフとハイタッチを交わしながら、その時の事を思い出していた。













「召喚、上手く出来たか。森と木の幻獣。ドライアードだね?」


 コクコク。


 今、俺はドライ、こと幻獣、ドライアードを喚び出している。


「まずは、有難う。ドライのお陰で、あの時俺達は無事だった」


 …………。


 黙って聞いていてくれる。やっぱりいい子や。


「自分の未熟さの為とは言え、もうあんな無茶な真似は止めてくれ。これから俺の契約召喚獣になってくれるなら、自らの命も大切にしてほしい」


 ……コクコク。


 少し考えたが、頷いてくれた。


 そりゃそうだ。再契約の交渉前に言う事じゃないよな。


「で、だ。もし、君が良ければ、俺は再契約をしたい」


 コクコク。


「了承って事でいいのか?」


 コクコク。


 同時に頭上に、文字が表示される。


 これを読めって事か?


「我は天なり、汝は地なり。今ここにこの身は汝と共にあり、汝は我と共にあらん。その誓いと共にこれを契約とせん」


 ドライが俺の腕輪に触ってくる。そして、その身は消えた。


「ジェイルさん! どうなんですか!? 出来たんですか、出来たんですよね、出来たんでしょう?」

「ミリンダ、一寸落ち着きなさい。怖い人になってるわよ」

「出来たみたいだな。喚び出せるか?」


 スキル画面は……なんか増えてるな。召喚スキルか。スキルなんだな。今までは魔法扱いみたいだったしな。

 つまり、これでドライを呼び出せるようになった、で、OKだろ?


「ああ、大丈夫そうだ。召喚、ドライアード」


 俺の前に木の葉が集まり、幻獣ドライアードが現れた。

 こんな演出無かったな。これもバージョンアップの力か?


「きゃーー!」

「ミリンダ、うるさいわよ」


 バーサーカーのように、飛びつきそうなミリンダを抑えているアイリーン。


「うん。問題ないな。続けて行くのか?」

「ああ。クレイゴーレムも大事な仲間だしな」


 随分吹き飛ばしたけど。


「じゃあ、俺らはまた下がってるから存分にやってくれ」

「わかった。召喚、クレイゴーレム」


 地面の土が盛り上がって、人型を取る。


「クレイ、君も暫く振りだね……って、まだ何もしてないぞ?」


 喚びだしたクレイゴーレムは、膝をついて恭しく俺に頭を垂れていた。


「ええと、俺と再契約してくれる、って事か?」


 こちらも頷いて表現する。


「自爆について、思う事ないのか?」


 否定。いいやつだなぁ。


「じゃあ、クレイも宜しくな」


 ドライアードと同様の文言と共に、再契約を交わす。これで2体共戻って来てくれた。

 とりあえず一息ついて座り込む。


 どうやら、俺も大分張りつめていたらしい。


「戦闘無かったな。お前は、合格って事だろ?」

「ジョブチェンジクエストで戦闘なしって初めて見たわ」

「ドライちゃん、お帰りなさい。久しぶりね」

「はぁ、疲れた……さ、行くか」


 すぐに立ち上がると、ファット爺の家に向かった。


 今日からレベル1だ。

 皆とレベルが離れるな。

 レベル上げでもするか。









 なんて考えてる時代が昔はありました。


 ファット爺はやはりファット爺だった。目の前で言われた言葉に俺は衝撃を受ける。


「現バージョンでは農民取得の条件を満たす事は出来んから、農民に戻る事は出来んが構わんな」

「な、なんだってぇ!!!!」


 そんなこんなで召喚士のジョブ取得は見合わせる事になった。

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