第十六話、初めましてには長いですか?(1)
アップデートの為のバージョンアップ。どうやら終わったようだ。
「よし……じゃあ、今日も行くか……っと、言っとくが、あれだぞ。俺は廃人じゃないからな。わかってるな!」
言ってから周りを見回す……全く、誰に言ってるんだか。
気を取り直してログイン。それと同時に意識は電脳世界OOに降り立つ。
「ジェイル、遅いぞ。アップデート情報は見て来たか?」
「いきなりか。ロマノフ、張り込みか……ストーカー犯罪は重罪だぞ」
適当にあしらいながら適当に返答する。因みに見てない。
「はいはい、どうせ見てないんだろ? お前に関わりがありそうだから詳しく話してやる。一寸来い」
引っ張られてきたのはいつもの畑。
ああ、丁度いいや。採集するか。
「スキル、クレイゴーレム召喚…………ん? 出てこない……」
「……話は最後まで聞けって」
まだ何も話してないのに最後までとはこれ以下に?
クレイが呼び出せない……どういう事だ?
「今回のアップデートのせいか?」
「そうだよ。じゃあ今から説明するからな。今日は大人しく聞けよ?」
む、これでは俺がいつも話を聞かない暴走列車みたいじゃないか。
こいつは張り付いてたから詳細に把握してるだろう。仕方ない、聞くか。
バージョンアップ終了から、まだ30分も立ってないんだが。
(ジェイルさん。いますか?)
(ジェイル。バージョンアップの検証に行かない?)
ほぼ同時と言ってもいい位の早さで、ミリンダとアイリーンからテルが入る。
「でだな、まずは敵モンスターの……「ロマノフ。ミリンダ達だ。呼んで構わんな?」……あ、ああ、いぞ……って、ミリンダさん、達?」
勢いで納得させたが、一応OKは出た。と、いう訳で2人とも畑に呼ぶ。
「ミリンダさんと別に誰かいるのか?」
「ああ、俺のデビューの日に会ったろ? ミリンダの従姉妹だよ。アイリーンって言う格闘家だ」
初めは訝しげにしていたが、ミリンダの従姉妹な事を話すと納得したみたいだった。
「そういえば会ったような気もするなぁ。それにしても当たりジョブか……どうだった? パーティー組んだんだろ?」
「ああ。連携数に限りがあるみたいだが、全段発射の消耗型戦闘兵器みたいな感じかな」
「やっぱりスキル連携が凄いって事か?」
伝わらんかったか?
わかりやすいと思ったんだがな。
「白ネームまでなら、MPの続く限りソロで余裕を持って打倒可能だ。守備には難ありだな」
「そうか。噂の通りか……お、来たみたいだな」
確かに、あの姿……と、言うか畑に向かってくるのは他にいないか。
「ジェイルさん、こんにちわ。あの……良かったんですか?」
「こんにちわ、ジェイル。そっちにいるのがロマノフさんね? 私は……多分もう聞いてると思うけど、この子の従姉妹をやってるアイリーン。こんな世話の焼ける子を暖かく見守ってくれてありがとう」
「アイリーン! また、貴女はそんな事言って!」
「あ、ああ。俺がロマノフだ。ミリンダさんとは、仲良くやってるよ。ジェイル、お前が彼女と馬が合うだろ?」
「まあまあだな、なあ?」
「そうね。否定はしないわ」
楽しいだろ?
「やあ、2人とも。アイリーン、これからはよろしく頼む。口外できない事が多いと思うけど楽しくやろう」
「はぁ、これでアイリーンに気にせず話が出来ますね。良かったね、アイリーン」
「そんなにかしらね? ミリンダ、貴女隠してるつもりだけど、あんまり上手くいってなかったよ? むしろバレバレだったわよ」
わかりやすく驚愕するミリンダ。その後何かを言われたのかえらく感動してる。
アイリーンが何を言ったのかはわからないが、俺にはわかる。あれは、まだ落とされてない。まだ彼女には落ちがあるはずだ。
「メイ……」
リアルの呼び名? をガンガン呼んでる。いいのか?
「今度お泊まりしましょうね? 仲良くお寿司とか焼き肉とか食べたくない? そう言えば私、ミリンダが昨日買ったパンプソンのCDまだ聞いたことないのよね」
「あ、いいね。お父さんに伝えとくね。それにあんな良い歌知らないなんて勿体ないよ! 私まだ聞いてないけど貸してあげる!」
「なるほどな。流石はアイリーン。上手いな」
ロマノフだけが、少し離れてため息をついていた。
「それにしても、なんで私に貴方の事を話してくれる気になったの? フレンドになったけど、正直ここまでは期待してなかったのに」
「簡単さ。俺は一度信じた人間は基本疑わない。ミリンダもそうだし、君も信頼出来る。それはこの間感じさせてもらった……それにもし何かあっても、ミリンダがプライベートで対処してくれるだろ?」
「なるほどね。ただのお人好しでもない、と。しかも、この短期間でこの子の性格も掴んでる。まあこの子も大概分かり易いけど、それを引き出してるのも貴方……か。本当に将来有望株だわ。それに女性を口説くのも上手い……と」
なんか、評価してくれるのはいいが、高校生に有望株とか言われたくないな。
それに口説くなんて心外な。ただ思ったことを話しただけなのに、そんな捉え方ばっかりしてたら世の中悪い奴にだまされるぞ。
「アイリーンさん。このスカポンタンにそんな事言っても無駄だよ。きっと頭の中では、俺はそんなつもりは全くないのにそんな風に感じるなんて、この娘は絶対騙される。とか考えてると思う」
「いや……流石にマンガの世界じゃないんだからそんな事はないでしょう?」
やはり年長者として、この子が世間の荒波を越えていけるように一言助言をした方がいいな。
「アイリーン。いくら自分に感銘を受ける言葉が相手から言われたと感じた場合でも、相手にとってはそうじゃない場合が多々ある。故に全てそのように反応を返しているといつかだまされるかもしれない……」
「……本気でいるのね。主人公的鈍感男……」
「俺も初めて会ったときは、ここに男の敵がいる! って過剰反応したものだよ」
「……で、だな。今回の場合は、俺はそんなつもりで言った訳じゃなくてな……「ジェイル、わかったわよ。貴方の助言を受けるわ、なんせ年上だものね?」……む。ならいい」
この反応……俺が真面目に訂正するのをわかってて言ったのか。
アイリーン、恐ろしい子……。
「ジェイル、ここで私誓うわ。私、アイリーンは、貴方が私を裏切らない限り貴方を裏切らない」
「アイリーン、ずるい! あ、あの、私も誓います! 私はジェイルさんだけの味方です!」
「だけって……好感度高すぎだろ! まあ、この空気じゃ俺もだよなぁ。俺も誓おう。君達全員の剣となり盾となろう」
「じゃあ当然俺もだな。まあ、元々の俺の矜持だから言うことは変わらん。だからなんでも構わんが…………俺は、俺が俺である限り、お前達との約束、信頼を決して違える事はない」
何だろうな、これ。クエスト?
なんか、オンラインゲームって雰囲気じゃないし。しかも、ミリンダはだけ全面的に俺の味方かよ。この子は今の俺の助言を全くわかってねぇぇぇ!!
「なんか……円卓の騎士みたいですね!」
「ギルドより密に繋がってるからな。少数集団の強みだな」
「ね、私が来て良かったでしょ?」
「……む~ジェイルさんと一緒に私に意地悪するのはなしだよ? でも、仲良く一緒にやってこうね、アイリーン」
なんか、アップデート情報は何処行ったの?
そんな感じだった。
「はぁ、凄いわね。自分達が原因のアップデートか。それに召還術に、畑に、採集、投擲ね……とても信じられる物じゃないけど、目の前でその異常を見せられればね……」
俺は、バージョンアップの説明をロマノフが行う前に自分の異常性を、全て、隠す事なく話した。
そして、目の前で収穫も行った。
今回も問題なく薬草243個、せいしん草141個収穫出来た。
その流れで薬草とせいしん草をまた植える。
「でだ、俺が召還を行えないのは何故だ?」
「やっと俺の出番か。少し長くなるぞ」
「いや、手早く済ませろ」
「え~、わかったよ。増えたのは確かなんだが、わからない。って言うのが確かな所だ」
ん? どういう事?
「お前の今までを考えて見ろ。農民の初期武器を畑取得後に植えて、初めのドライアードと契約。そのドライアードのヒントを探しに行って、クレイゴーレムと契約。偶然手に入れたコボルトの儀式剣が原因で魔竜と戦闘、その後の会話も幻獣と正式な契約を促す物だった。そして、その直後にバージョンアップ。何が言いたいかわかるか?」
うん。俺、結構苦労してるなぁ。やっぱりゲームは止めて家事に専念した方が能率的かなぁ?
「ゲームは人生の潤いだからな! ジェイル、勘違いするなよ! わかってないし。じゃあ、ミリンダさんは?」
「えっ!? ええと……私、一緒に参加出来て良かったです」
「はぁ、じゃあアイリーンさんは?」
「私、別にさん付け要らないわよ。そうね……きっと、他にも契約の条件はあるとは思うけど……スキルの拾得率やユニークアイテムのドロップ率を考えると……ジェイル専用のバージョンアップの方が可能性は高いんじゃないかしら?」
そう言えば、ロマノフは人に物を教えるの大好きだったなぁ。頷いてやがる。
「そう。俺も、それに同意見だ。未だ新規や幻獣に出会ったと言う報告はない。それどころか未だコボルト関連のクエスト発生のドロップを入手した報告すら上がってない」
全く、俺が嘘つき呼ばわりされちまったぜ。
そんな事を言ってるが、俺の知ったこっちゃない。
それにしても、俺だけの為のバージョンアップ?
まさかそんな訳ない。何十万人がプレイしてると思ってるんだ?
「過去にもあったんだよ。バージョンアップされたのに、全くわからなかった事が」
「その時はどうなったんですか?」
「なんにも。随時ジョブが創造されてるから、大した祭りにもならなかったよ。誰の為のバージョンアップかもわからないまま。そう言ったバージョンアップは詳細がわからないんだ 」
幻獣がユニークに追加されたから、全くなしじゃ終わらないが。と、自分が上位廃人である事を匂わせていた。
格好良くないから。とか考えてるんだろうな。
「で、ジェイルはどうするつもり? あんまり、目立ちたくないんでしょう?」
「まあ、いいさ。俺はドライに礼を言わなきゃいけないんだ。それに、畑仕事を手伝ってもらってたから、バレるやつにはバレるし」
で、結局なんで俺は召喚が使えないんだ?
「それは、正式に幻獣召還のジョブが追加されたからだと思う。一時リセット状態なんじゃないかな?」
じゃあ、何処にいけばいいのかな?
なんだか面倒くさくなったな。
「それは俺がある程度あたりをつけておいた。早速行くか?」
勿論だ。その為に、今までレベル上げをやって来たからな。
何だ結結局は俺は召喚が使えない。と、言うことらしかった。