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第十五話、日常への入口はこちらですか?(2)

「ふっ、はっ、せい!」


 右フックからのストレート、止めの左ハイキックで、めった打ちにされて消えていく玉ねぎ。


「さあ次。ミリンダ、遅いわよ、遅れないで」

「アイリーン、一寸待ってよ! そんなに連続は無理だよぉ。私もMPないからぁ」


 それを見ながら、俺は苦笑いしながら後をついて行く。


 俺は自分で自覚してるからいいが、なんで俺に関わる奴らは揃ってこうも個性的なんだかなぁ。


 サーチアンドデストロイを繰り返す、初見のパーティーメンバー殿に負けないよう、小岩を投擲しながら後方待機を繰り返した。







「貴方がジェイル? 私はアイリーン。レベルは今13でジョブは格闘家よ。宜しくね」

「アイリーン、ジェイルさんは年上だから……」

「OOに実年齢は関係ないでしょ? だって、気遣いをしに来たんじゃなくて、ゲームをしに来たんだから」

「同感だ。俺もミリンダは丁寧過ぎる感じはするな。俺はジェイル。レベル16の農民だ。ミリンダから聞いてるとは思うが……」


 皆まで言うな、とばかりに手を振るアイリーン。


「大丈夫、貴方の事は誰にも話してないわ。今日はなんか悪かったわね。結果呼び出したみたいになって。この子ったら、何でもかんでも秘密にするから。と思ったら、急に大量の薬草とせいしん草をもらった、なんて……そりゃ興味わくわよね」

「ふ、まあな。何でもかんでも秘匿してもらっていた俺達にも非があるんだがな。で、どうだ?」


 上から下まで舐めるように見つめてくる。


「わからないわ。見た目なんて、勝手に決められた物だもの。でも、気は合いそうね」

「ああ、そういう事か。なら、確かに気は合いそうだ。宜しく頼むよ、格闘家?」

「ああ、楽しい時間になりそうね」


 そしてやっとミリンダに声をかける。


「ほらミリンダ。馬鹿な事してないで早く行くわよ」

「そうだぞ。そんな体育座りで、構って欲しそうに器用にこっちを見ながら黄昏てるんじゃない」


 ミリンダは慌てたように立ち上がって反論してくる。


「ち、違います! 別にそんな訳じゃあ……ただ」

「ただ?」

「私がお願いして来てもらったのに、アイリーンとばっかり仲良くして、私、仲間外れだし……暇だから座っちゃおうって……」


 俺はアイリーンと顔を見合わせて笑い合う。


「そうだな。じゃあ一緒に行こうか? 仲良くな」

「全く、可愛い子ね。手繋いで行きましょうか?」

「2人とも! 子供扱いしないで下さい! それにアイリーンは同い年でしょ!」


 微笑ましい限りだな。こういうのも悪くないな。








「ふう……やっぱり、白ネームだとなかなか歯応えがあるわね」

「ふう。一寸休憩しようよ。アイリーンはペースが早すぎるよ」

「そうね。私もMP無くなっちゃったし、瞑想しましょうか」

「いや、格闘家か。単体戦闘力はトップクラスじゃないのか?」


 格闘家。拳や脚を使って超近接戦闘を行うジョブだ。最大の特徴は、スキルの低消費MPとスキルが連携出来る事。


 以前、ロマノフがやっていたみたいな連続でスキルを発動させるだけとは全く違う。

 連携する度に、次のスキルにダメージボーナスがつくのだ。


 同じ技は連携不可だが、最悪、MPの続く限り連携可能なのだ。


「そうね。変わりにコストパフォーマンスは悪いんだけどね」

「重戦車って感じだな」


 よく知らんが前衛中最もMPを使うジョブだろうな。


「ジェイル。貴方の投げスキルも面白いわね。正直、投げなんて敵を釣るだけのオマケスキルだと思ってたわ」

「私も初めは驚きました。私のストーンよりダメージが高いんですもの」


 ノック式投擲方は使ってないから今はミリンダのストーンの方がダメージ高いぞ。

 ちょいちょい迂闊だよなぁ、この子。それは俺の最奥だから。俺の唯一の戦闘力だから。


 迂闊にバラすな。


「……はにゃ?」

「駄目だこいつ、早く何とかしないと……」

「よくわからないけど……ジェイル。ミリンダに以心伝心を求めるのは無理よ。その子、とんでもなく察し悪いから」


 まさかアイリーンに悟られるとは……はぁ、やれやれだ。


 それにしても、未だに自力では他に戦う力はないし、これからパーティーを組む機会も多そうだから正直簡単に不覚は取りたくないな。


「でも、ジェイル。貴方なんで装備初期のままなの?」

「ん? 武器は持ってるぞ」

「それ、クワじゃない。武器じゃないでしょ」


 まあな。農民様の神聖な宝具の一つだ。


「しかも使ってないし……その腕輪と指輪位じゃないの? 見た事ないけど」

「どちらもクエスト報酬だからな」

「指輪は私も持ってますよぉ。へへへぇ」


 左手を見せながら、見せびらかすミリンダ。


「まるで恋人みたいね」

「ははは。そりゃあ光栄だ」

「こっ!? ち、違うよ。ちゃうねん! ロマノフさんも持ってるし、別に私達だけじゃ!!」

「後はクエストを一緒にやった俺のフレな」

「そう、良い物手に入れられてよかったわね」

「あうう…………」


 きっとこの2人はいつもこんな感じなんだろうなぁ。

 微笑ましい、実におもしろい。


「ミリンダも他の人達と楽しくやってるのがわかって私も嬉しいわ。さ、MP回復したみたいだし、行きましょうか?」

「OK、カサイの沼地に行くんだよな。敵のレベルがかなり上がる。俺が釣るから、前衛をつとめてくれ」

「へ? へ? へ?」


 一人ついて行けないミリンダ。


「わかったわ。期待してるわよ。私を失望させないでよ?」

「むしろ、君こそ俺の期待に応えられるか? まあ見てろ」

「……はっ! メイ~!!」


 遅いな。既にアイリーンと俺は、エリアチェンジ直前だ。


「一寸待ってよ~」


 企み成功、とばかりに俺達は2人で振り返ってミリンダを待った。













「さて、2人はここで待っててくれ」


 ここの敵は、俺に取っては格下である。

 本来ならレベルが1しか変わらないミリンダはともかく、レベル13のアイリーンは俺のレベル差補正により大した経験にはならない。


 しかし、俺には固有スキルのガイドがある。アイリーンにとってはここで倒した格上も適正に経験が入るのだ。


「格闘家は防御が薄いらしいから、それだけ心配だな」


 単騎で飛んでいた巨大トンボに、ランクアップと採集で取得した小岩を投擲する。


「そら、来たぞ。アイリーン、タゲ取り宜しく!」

「任せて! スキル、正拳突き!」


 俺を追ってきた巨大トンボに、その名の通り正拳をぶつける。


「行きます。ストーン」


 ノックバックした所で、ミリンダの石つぶてが直撃する。


「痛っ! やってくれるわね。まだまだ行くわよ! 二連打、張り手、ローキック!」


 接近して繰り出すラッシュに、HPバーを減らしていく巨大トンボ。


 しかし、格上だからかダメージ自体は少ない。


 見てるだけってのもな……俺も小岩を投擲して、羽に穴を開ける。


 地に落ちてバタバタしてる巨大トンボに、ミリンダの石の弾丸、ストーンブレッドが巨大トンボの体を打ち砕いた。



「この位なら、後2連戦は可能ね」

「無理は禁物だが、まだ可能か……よし、今釣ってくる」

「はい、待ってますね」


 トンボは対応可能……か。むしろ余裕があるな。

 じゃあ、今くらいのレベルのトンボ中心に狩るか。


 次のトンボを釣って戻る。


「ーーアイリーン!」

「はいよ! 張り手!」


 当たったトンボが飛行を止めて地に落ちる。


 ん? 張り手はスタン効果があるのか……攻撃特化型だなぁ。


「一気に、ストーンブレッド!」

「行くぞ、アタック!」


 俺の小岩とミリンダの石は、落ちたトンボの顔面に直撃。


「二連打、ローキック!」

「終わったな。アイリーン、MPはどうだ?」

「一寸キツいわね。瞑想するわ」

「あ、じゃあ私も……」


 じゃあここらで一休みだな。


「ねぇ……」

「どうしたの? アイリーン」

「私、経験値が凄く入るんだけど……」

「ああ、それはね……ととと」


 こちらを見るミリンダ。


 律儀に秘密にしようとしているらしい。

 でも、そこまで言ったら逆に煽ってるようなものだな。


「ああ……俺のスキル効果だ」

「そんな気はしてたけどね。ミリンダ、いつもこんな感じなのよ」

「これで俺に興味を抱かない訳がないな」


 揃ってため息をつく俺達。


「頑張ってくれるのはわかるんだがな」

「私も一生懸命がわかるから、あんまり気にしないようにしてたんだけど……ね」

「何、どういう事? 私、なにかした?」


 全く……微笑ましい限りだ。


「いや、ミリンダが頑張ってる、って話だよ」

「ミリンダは偉いっていってるのよ」

「また……2人とも……」


 そんなこんなで狩りは続けられた。



 トンボ中心に狩っていたが、早い速度で狩れている為、やはり単騎でいる沼ウサギやコボルト偵察兵も倒していく。



「二連打、正拳突き! っと、あ、レベル上がったわね」

「おめでとう。もうレベル15か。ガイドの効果から外れたか」

「私ももうすぐ上がりますね」


 ミリンダがもう上がるか。


 なんだかんだで一時間位立ったか。


「じゃあ、ミリンダがレベル上がるまでやるか。アイリーンは構わないか?」

「全然OKよ。ジェイルはまだ上がらないの?」


 まだ少しかかるな。


「有難う御座います。じゃあ、頑張りますね」

「じゃあ、一寸行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」


 キャンプ(レベル上げで使用する待機所)から出て敵を探す。


 段々敵がポップしてるな。

 リンクしないようにしないとな。


 やはり一番安全そうなトンボを釣って、ミリンダ達の所に戻った。






「後、1~2匹位です」

「ん、わかった。アイリーンも行けるか?」

「一体なら問題ないね」


 新しいトンボを釣って戻る。


「行くよ……ローキック!」

「ストーン!」


 ダメージもレベル相応に高くなった拳脚によって、一気にトンボを削るアイリーン。


「私も……ストーンシャワー!」

「なっ!? ミリンダ、待て!」


 発動した複数の石つぶては、対象のトンボだけでなく、周囲にいた他のノンアクティブの3匹の沼ウサギにも被弾した。


「わっ! ミリンダ!」

「え、なんで……」


 怒りながらこちらに向かってくる沼ウサギ達。


 竜との戦闘で使っていたストーンシャワー。

 複数箇所にヒットしていたから、もしやと思ったんだが……やはり複数対象の広域魔法だったか。


 RPGゲームの広域魔法なら、便利な魔法だがこういったオンラインゲームだと、使いにくい魔法だな。


「2人とも、現段階で4匹のモンスターの相手は無理だ。急いでエリアチェンジするんだ」


 沼地の泥を掴みながら、2人に声をかける。


「間に合うと思えないけれど?」

「私……なんて事……なんとか……」

「アイリーンもミリンダも、現状のMPで複数対象の撃破は無理だ。俺に至っては言わずもがな」


 小岩をモンスター達の顔に投擲する。


 目潰しの効果とかあるといいのに……。


「俺がここは引きつける。早く行くんだ」

「でも……私……」

「その説明を聞いてそんな事……行けるの?」


 考える時間はないだろ?


 タゲが移ったのを確認した俺は、拾えるだけの小岩を手にして木のクワを振りかぶる。


「回避は得意でね。早く行け、俺一人の方が生存率高いし、俺には奥の手がある」

「わかった。ミリンダ、行くわよ」

「でも、ジェイルさんが……」


 ミリンダは何だかんだと少しごねていたが、結局アイリーンに連れられていった。


 さて、トンボを回避しながら、ウサギをどれだけ仕留められるか。


 まずは一発、クワで撃つ。死なないのを見て、二発目も続ける。 


「……これでも一撃じゃ無理か」


 トンボが邪魔で、それ以上撃破する時間はなかった。


「計3匹。どんな奇術師でも無理があるな」

「ピー!」

「ギョルゥゥゥゥ!」


 上体を反らしてトンボの突進をかわして、後に続こうとしたウサギに小岩をぶつける。


 もう1匹のウサギも投擲で時間を稼ぐ。


(抜けました……ジェイルさんも逃げて下さい!)


 ふむ、よかった。


 じゃあ、俺も……行ければよかったんだがなぁ。


「そら、ショトガン投擲!」


 手にした小岩を全てウサギにぶつける。


「ピーィィィ」


 よし、後2匹。


 なんとか逃走の目安を……と思っていたが、そうは問屋が卸さないみたいだった。


「またリンク……金? ユニークか!」


 ウサギ型のユニークモンスターがこちらかに向かってくる。


 背を向けて逃走するには、今のトンボとウサギは楽じゃない。


「名前は、トゥーンラビナスか……貴様の名は忘れんぞ」


 せめて一太刀、と、モンスター達の隙をついて包囲網を抜け出し、何故かあの時無くならなかったコボルトの儀式剣を手に突撃する。

 しかし、中距離からのよくわからない攻撃に、気がついたら街の時計台にいた。


 やはり死んだか。ま、役割は果たした。充分かな。


 俺は早速テルで連絡を取った。










「すみません、ジェイルさん! 私のせいで」

「別に気にする事はない。あの場では最前と思う選択をしただけだ」


 正直、MPのない魔法使いと格闘家には無理だったろう。


「ジェイル、助かったわ。貴方、リーダーの資質凄いわね」

「止めてくれ、柄じゃない……」

「……うん」


 アイリーンがなんかおかしい。

 顎に手を当てて、しきりに頷いている。


「貴方、面白いわ! フレンド登録してくれる?」

「構わないが、何故急に? 今回はこうしたが、別に自己犠牲の精神なんてないぜ?」

「そんな事どうでもいいわ! ミリンダ共々、私も仲間にいれて」


 何がお気に召したかわからんが、愉快な奴だ。


「OKわかった。こちらこそ、フレンド登録宜しく。ミリンダ、どうした? また、膝を抱えて」

「何でもないです!!」

「まあまあ、いいじゃないの。私が貴女の仲間と仲良くなったから、段々自分が要らない子扱いされていくかもしれない可能性を「いちいち言わなくていいです!」……はいはい」


 本当に、楽しくなりそうだった。

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