第十四話、犬は飼っていますか?(1)
「ソロだろ? ああ、途中からは違うんだったか……つうかジェイル、レベル上げすぎだ」
ログインしてすぐに待ちかまえていたロマノフが言ったのはそんな言葉だった。
隣にはミリンダがいる。
今日は俺が一番遅かったらしい。
「ん? 何だ? すまん、俺にはそこのデカい熊が人語を解してるようなような気がしなくもないんだが、一体この世界では何が起こってるんだ?」
「いきなりだな、おい! そうじゃなくて……」
「ロマノフさん、一寸黙っててください。あのですね、これはロマノフさんがレベルを合わせられなかったから、拗ねてるんですよ」
「拗ねてないから! そんな子供じゃないですから! お前に急ピッチで上げられると、こっちが間に合わないんだよ! 何でレベル15まで上がってるんだよ? パーティー並の効率のよさじゃないか? 男子三日会わざれば……ってやつか!? 極端すぎんだろ!」
うるさいやつだな。
「はいはい、不満はわかった。じゃあ、ミリンダ、行くか」
「え、あの……はい!!」
「はい、じゃないし、俺を置いていくなよ! 行くから! 俺も行くから一寸待てよ!! 俺を放置すんなって、ネトゲ廃人は寂しいと死んじゃうんだぞ!」
うざし! まあ、そんな事で俺達はまたまたアレストガンの渓谷に足をのばす。
「何だ、ありゃ?」
「……わかりません」
「何度も来たけど、お出迎えは初めてだな」
アレストガンの渓谷に入った俺達は、こちらを見ている一匹のコボルトに遭遇した。
「敵、じゃないのか?」
「NPCみたいだな……名前付き、か? コボルト? 名前じゃねぇな」
「コボルトって名前ですか?」
種族名じゃないか?
でも、固有名詞でコボルトって書いてあるしなぁ。
「ジェイル。お前、この間のクエストっぽい武器関係ないのか?」
ああ、コボルトの儀式剣か。
「ええと、これか?」
「おお! その剣は!!」
うるさし。声でかいから!
「まだ協議中だ。勝手に話に入ってくるな、後うるさい」
「NPCにそんな事言っても……」
「私はコボルト、名前はない……」
「声小さくなってるじゃないか……そんな応用聞くのか」
うんうん。正面きっての説得が幸を労したみたいだ。 どうせなら少し黙ってて欲しい所だが……まあ、勘弁してやるか。
「このままでは、我等コボルト族の危機なのだ」
「でも話は唐突だな」
「まあ、クエスト用NPCだし」
「私、外でのクエスト初めてです」
俺がキーパーソンだから、仕方なくコボルトの儀式剣を手にしてコボルトの前に立つ。
「応対しなきゃ駄目か?」
「話が進まないぞ。そいつがトリガーになってるみたいだから」
確かに。見えない壁でもあるみたいに、中には進めなくなってるし。
クエストをこなさなきゃレベリングさせないって事か。
同時に出来れば、と思ったが、いざとなると面倒臭いな。
「仕方ないな。コボルト、何だ、その危機ってのは?」
「この地に眠る魔竜、ザカールライツが蘇ろうとしているのだ」
竜……ね。RPGの世界に来たなら、何時かは目にするとは思っていたが、こんなに早いとは。
「それで?」
「竜だと……メインでも戦った事ないぞ」
「私は探していたのだ。我等がコボルトの救世主となりえん勇者を」
何かありきたりの展開だな。
それにしても流暢に話すコボルトだな。
「コボルトの癖に随分言葉が上手いな。ここは全て片言にするべきじゃないのか?」
「ジェイル、システムにけち付けてどうするよ。その辺はご都合主義でいいだろ」
「ふむ、仕方ない。で、その勇者とやらが、俺か」
「そうだ。君は勇者の証したる剣を手にしている」
これか?
適当にドロップしただけだが? 随分勇者が多い世界なんだな。手に入れた奴全てが勇者とは。
しかも、俺は同族の虐殺王だがいいのか?
「クエストなんてそんなものさ。見てるのは、その時のデータだからな」
「この流れから言って、竜と戦闘ですよね? 私達に勝てるでしょうか?」
「ここの適正レベルからすれば、全く勝てないレベルじゃないと思うが……まあ、まず負けるだろうな」
嫌な予想の仕方だな。
「我等と人間は、共に相成れぬ者だ。だが、そこを曲げて頼む。我等に力を貸してくれないか?」
「拒否権があるのか、これは?」
先には進めないし、後ろではワクワクしてる戦士と魔法使いがいる。
相手は魔竜……そんな選択肢ないだろう?
「わかった。力を貸そう」
「有り難い。君達こそ、真に勇在りし者だ。名を、聞かせてくれないか?」
「農民、ジェイルだ」
「戦士ロマノフ」
「私もですか? ミリンダです。魔法使いです」
「そうか。ジェイル、ロマノフ、ミリンダ。君達に最上の感謝を」
頭を下げるコボルト。
なんか、余りに礼儀正しくてなんか変な感じだな。
「紳士だな、おい。なんで名前も無い奴が、こんなに流暢に話せるんだ?」
「クエスト上必要だったから? でも、それだけじゃ弱いな」
「まあまあ、終わったらわかりますよ!」
そして、俺達はコボルトの案内でその魔竜ザカールライツの封印されている場所に連れられて行った。
「凄いですね。見てるだけですね」
「衆人環視の中歩くのは緊張するな」
「クエストじゃなかったら、今頃全滅だな」
その道行きは、幾つもの集落を真っ直ぐ両断するような通り方をしていた。
クエスト中だから、そこにいたコボルト達は全て俺達を見ているけど、それだけなのだ。
心臓に悪いわ。
「この先の部屋だ」
「やっとついたか。疲れたぞ……」
「ああ、精神的に来るものがあるな」
「私の魔法、通じるでしょうか?」
ミリンダは集中し過ぎて頭に入ってないみたいだけど、俺達は等しくストレスを溜めた。
「済まないな、彼等も人間に馴れていないのだ。受け入れられない者は排斥しようとする」
それは、人も同じだな。
「では、行こうか」
「お前も来るのか?」
「戦うNPCだったのか……レアだな」
目の前には魔法陣がある。
ボスフィールドに転移します。と言った所か?
「-ーん?」
「私達、大丈夫だよね?」
服を掴まれた。何かと思ったらミリンダだった。
何だかえらく不安そうな顔だ。
「どうした? 何が心配だ?」
「皆、知らないようなボス……しかも、ドラゴンですよ。ひょっとしたらそこで本当に死んじゃったり……」
「……デスゲームを調べたのか。無駄に勤勉だな」
この間、言葉だけ出して説明するの忘れてたな。
自分で調べたんだろうな……もしくは、一緒にプレイしてる従姉妹さんか?
初めは俺も思ったけど、リアルの世界にデスゲームなんてない。
例え、それが限りなくリアルに近い世界であってもだ。
デスゲームなんて、たった一つのゲームでその後の人生を捨てられる程、我が強くはないよ。
人はもっと保身的だよ。
「心配ないさ。世の中そんな悪くは出来てないよ。それに……」
「それに?」
会話の主導権を握り、相手に言葉を浸透させる為敢えて一呼吸置く。
「最高の仲間といるんだ。もし、デスゲームでも結構じゃないか。俺達なら乗り越えられるさ」
「あ…………はい! そうですね! その通りです! 私、バカな事言っちゃいましたね」
「…………」
よし。なんとか説得に成功したな。
「お前、その内刺されるからな」
「……意味がわからないな。俺は貴様以外の如何なる相手にも敬意をもって接してるだけだ。邪推とは貴様の底が知れるな」
「オレ、トクベツ……」
なんだ、その受け取り方は……こいつも大概念な事奴だな。
しかし、つきあいが長いからその場のノリで言ったのが真に受けられたと悟られたか。
やれやれ。
ただ調子にのって格好つけただけだと、わかってるんだろう。
まあ、それはさておき。
「じゃあ、行くか」
「-ーよし」
「はい!」
俺達は魔竜ザカールライツのいると言うフィールドへの魔法陣? に、足を踏み入れた。




