第二話、こんにちわVR
「で、思ったんだが、コントローラーとソフトは? 後、ソフトを差し込む場所はないのか?」
「お前は一体いつの時代のゲームの話をしてるんだ? 赤と緑の配管工のレベルの話だぞ、それ。今のゲームは、モジュールが脳波を感知して勝手に行動してくれるんだ。わかるか? オンラインオンラインはヘルメット型ってことだ」
ん、全くわからん。
「つまり、ソフトこそこのCDだが、他のパーツは必要なく、頭にヘルメットをかぶれば即オンラインオンラインが出来るって事だ。細かい事はマギ……ええと、コンピューターが全てやってくれる」
何それ危なくない?
それに俺が知ってるのは、赤と白の本体とコントローラーが繋がったゲーム機と携帯用の白黒だけだし。
それが時代遅れとか言うなら、むしろ結構。それなら俺は時代を逆行して生きる。
押入からその配管工のゲームを出して準備を始める俺を説得するのに30分。
オンラインオンラインの準備を再会する事を条件に、Mのマークのハンバーガー屋で夕飯を奢らせる確約を取ること10分。
何バーガーを、いくつ食べようかとサイトを開くこと、プライスレス。
さて、あの後びっくりする位早い時間に家に来たこの男は、まず何をするかと思ったらオンラインオンラインがどれだけ素晴らしいかの演説を始めだした。
正直ウザイ。
なので、足払いからの腹部への拳打による追撃で少し沈黙させる。
この状態で起きあがった翔は、何故かいつも不満を口にする。
だから俺はいつもその行為に対する意味、必要性、必然性等を淡々と説明する。
それは正面から心底面倒臭そうにやるのがポイント。
こいつは打撃は一瞬で回復する特異体質だがメンタルは弱いからだ。
目を虚ろにして体育座りの翔を見ながら御満悦の俺。
暫くして、回復したのか当初の予定通りに器具の説明に移る。
それでも会話の節々に俺を過去の遺産扱いするその態度はいただけないが。
「だから、操作に関しては全然問題ない。メニューやアイテム画面も……「それは取説読んだから知ってる」……そうか」
実は読んでない。
やるからには楽しむつもりでやらないとな。そんな物に取説なんて不要。
それも含めて楽しむのだ! と言うのが我が家の家訓。
うち、俺も含めて誰もゲームなんかしないが。
でも、掃除機や洗濯機買ったときも、母上様はバッチコイ状態だった。
父上様は新しいPCを購入時、ノー取説で使いこなしていた。
遺伝を感じるな。
奴はそれを知ってると思ったが別にツッコミは無かったな。
目の前に袋から出してない取説があるんだが。
意外にバカだからな。
まあ、いいか。
発売すぐだから、攻略情報も混沌としてる。
よくわからんが、まあ、仕方ないんだろう。
配管工みたいに職業が決まってるわけでもなく、オンラインゲームならやることも決まってないだろうし。
それに、次々とオリジナルのジョブやスキルが生まれ、誰もが専用のジョブやスキルを手に入れられると言うのがオンラインオンラインの売りらしいし。
「それって、珍しいのか?」
「馬鹿! 業界初だ! こんな独創的なシステムが処理落ちしないで導入されてることにびっくりだ!」
なんだか、よくわからないが、凄いらしい。
俺は攻略サイトの意義は、自分には手に入れられないかもしれないスキルの説明と、クエストやアイテムの、その名の通り自身のゲームの攻略の補佐につきると思う。
なら、より俺には必要ない。家訓家訓。
後ろで翔に見られながら、ヘルメットをかぶる。
ふとそちらに注目すると、あいつ……俺が見えてないと思って冷蔵庫から夕食用のハンバーグ取り出しやがった!?
俺の当たった山形牛をミンチにして作った特性ハンバーグに手を出すとは……野郎……いい度胸だ!
そんなにMのハンバーガーショップに腹が立ったか?
くたばれ!
目にもの見せてやろうと、姿勢は買変えずに一撃を投擲する。
「おわっ!? おま、お前! そんなん当たったら死ぬだろ!」
「ヘルメットとは光の反射で後方も見えるんだぜ? 俺の飯を狙うハイエナには死すらも優しすぎる」
テーブルに置いてあったこの間懸賞で当たった室内用の物干し竿を力一杯投擲。
残念ながら外れてしまい、ゴミ箱に穴があく。
「……二度目……じゃないか。通算して74351回目は無いぞ。後、そのゴミ箱修理しとけ」
「それは誇張がすぎるだろ。せいぜい500程度じゃないか? それにしても被害者の俺が何でゴミ箱を……」
「終わったら、そこの大吟醸はやる」
「俺も酒は飲めないし……いらないもの応募するなよ。他のやつに当選枠を譲ってやれよ……はぁ」
「ゴミ箱は当たったのが押入に入ってるから交換しとけ」
「お前の家は何でもあるな……」
いらないものを翔に押し付けて、俺はやっと展開されている画面に集中する。
荘厳な音楽と目の前に迫る立体的な3D映像。
実際に目してみれば、翔のやってる事や背後になんてとても目がいくような物じゃなかった。
「へぇ、これはまたなかなか……」
予想以上だ。所詮ゲームだからなぁ、と油断してた。
殆どリアルの映像と遜色ないじゃないか。
実際にこんな綺麗な草原は見た事ないがね。
「まだダイブしてないのか? ああ、初回の映像と認識の調整か。映像すげぇだろ? 延期につぐ延期で、俺達ヘビーユーザーも5年も待ったしな」
この出来なら、延期上等! とか言いながら、なんか力んでるヤツはとりあえず無視。
こんな奴が何十万人も一堂に会していたのか?
恐ろしい場になってそうだな。
さりげなく隣にいるが、こいつはゴミ箱は片づけたのか?
視界は幻想的な森や草原を抜けると、突然辺りが真っ暗になる。
「お? そろそろか?」
「うるさい、横やり入れるな。片づけが終わったら邪魔だから消えろ」
「酷っ! 確かに画面が見れる訳じゃないから、俺も暇だけどよ」
突然、頭……いや、目の前の画面から声が響く。
汝、平穏を望むか?
「はい/いいえの二沢か……」
「神の選択に来たか。じゃあ、そろそろダイブ開始だな。因みにそれはな、初期ジョブとキャラ特性を決める為の……「うるさい、帰れ」……へいへい、わかったよ。じゃあ、俺も帰ってアクセスするから、初めの時計台で待っててくれよ?」
絶対待ってろよ! 絶対だぞ!
しつこい位に念を押して、翔は帰って行った。
頭の片隅でこれなんてフリ? とか思っていた。
耳を澄ませて鍵をかけたのを確認してから、再度意識をオンラインオンラインに向けようとする……が、その前に。
素朴な疑問として、なんであいつが鍵持ってんだ?
……ま、いいか。それこそいつものことか。
「で、質問だっけ? 疑問が一つあるな。どうやればそれを選択を出来るんだ? ボタンとかないが……」
俺が交互にはいといいえに視線を移す。と、ぼんやりとした光がその文字を照らす。
つまり俺の視線を感知してるのか?
「人類の科学の進歩は恐ろしい。が、今はこれなら話は早い。平穏、当たり前だろ俺は日本人なんだから……はい、と」
次の質問は……。
村に襲ってきたモンスター。
汝はどうする?
1、逃げる
2、戦う
いやいや、平穏を選んだのに1を選んだら俺が平穏になれないし、おかしいだろ。
2、と。
汝は戦士と対峙している。
どうする?
1、足を狙って動きを止める。
2、引く事なく、正面から戦う。
なんか、質問の意図がわからない。
平穏って何で聞いたんだよ?
もう適当でいいや。
…………。
最後の質問です。
汝は、男/女?
最後がそれかよ!?
むしろびっくりだ。
そんなこんながあり、俺は新しい世界を得た。
ダイブスタート。