第十三話、強くなる実感はありますか?(2)
「これにもクリティカル判定と言うか、ボーナスがあるのか? 収穫出来る数に差が激しすぎる」
コボルトの集落であるアレストガンの渓谷で、もう一つレベルを上げて解散した翌日。
いつものように畑で収穫作業に移っていた。
「おお!? 6個だと……この状態でこんなに一気に取れるのか」
昨日植えたせいしん草。
あれよこれよと大量ゲットしてなその総数はなんと184個。
植えた数は33個。大体6倍だ。自給出来過ぎだろ?
とりあえず空いた畑スペース分、またせいしん草を植える。
また同数植えたので、200個近く取れるだろう。
楽しみである。
桶に入った水をクレイが上げてくれる。
それを見ながら、取りあえずこれからレベル上げでもするか? とか考える。
「ロマノフとミリンダは……いないか……じゃあ今日は一人で……ん?」
珍しく2人ともログインしてない。
俺だけがインしてる……あれ? 俺、ハマりまくってるのか?
…………いや、そんな事ないだろ。
ちゃんとリアルの事もやってるし……前期試験も中間くらいの成績をキープしてる。
妹とも昨日電話で話したし、来週は実家に顔を出す予定になってる。
大丈夫、俺はまだ生活捨ててない……。
(もういるのか? 俺んちのが近いのに、何故お前のが、早くログインしてんだ?)
(来たか。俺はまだ色々終わってからな! お前は優雅にシャワーしてるからだろ!?)
ロマノフ、ログイン。廃人のこいつが都合よく来たことで、自分が終わってるわけじゃないと認識できただけ今日はよかった。
(なんだ、急に? ああ、成る程。お前、俺達と同じように、自分が廃人になったんじゃないかって考えてんだな?)
(な!? んな事ないし!! 気のせいだし!)
(ま、アクセス頻度はまあまあだが、OOの特性を考えると、誰しもそんなもんだぜ)
特性? VRMMO?
(ただPCに向かうだけのオンラインゲームじゃないんだ。毎日ログインなんて常識だぜ)
ペルソナ願望か……俺にもあるって事か。
(お前はただでさえ、趣味が無かったんだからこうなって当然だ)
(……趣味位あるぞ)
(懸賞だろ? ありゃ趣味じゃねぇ。ゴッドハンドめ!)
失礼な。当たらなくても、商品に夢想出来るじゃないか。
(そうじゃねえ。逆だ! お前のはその的中率だよ。ぶっちゃけ懸賞生活で人生暮らしていけるだろう!?)
(無茶言うな、公共料金や家賃は懸賞にないだろ。流石に何度も現金は当たらん。よって懸賞だけで生活するのは不可能だ)
確かによく当たる。つまり俺の買う雑誌、応募者少ないんだろうな。マイナーなやつだし。
廃刊にならなきゃいいが。
「今の発言で既に可笑しいと気付け……っとに、ほら、来たぞ。行くだろ? レベル上げ」
「何だ、歩きながらテルしてたのか?」
「当たり前だろ? 時間は有限なんだ。今日も同じアレストガンの渓谷でいいだろ? 確か昨日の剣、クエストアイテムだろ? ガンガン使ってたが、耐久度大丈夫か?」
「それは問題ない。昨日の内に既に回復させてある」
何処で使うのかわからないがな。俺は何時如何なる時も油断はしない。
ひょんな事から入手したユニーク判定のアイテム、コボルトの儀式剣
探した所、街では関連するクエストは無かった為、現地で何かあるんだろう。
運が良ければ、レベル上げと同時にこなせるかもしれない。
俺達は今日もパーティーを組むと、コボルトの待つアレストガンの渓谷に移動していった。
「今日もここにするか」
敵の発生しない、通路を俺達の待機所兼戦闘する場所に決めて、俺はクレイゴーレムを召喚する。
「じゃあ、ジェイル、頼んだぜ」
「任せておけ、時給10000は約束しよう」
「無理だろ。12000が6人パーティーレベルだぞ」
俺はクレイをその場に待機させ、ランクアップで拾った石を当てる標的を探して走り出す。
「見習い戦士の白ネーム。君に決めた! アタック!」
投擲された小岩は、狙い通りに白ネームのコボルト見習い戦士に直撃する。
「グギャ!?」
そしてこちらを見ると、単騎で肩を怒らせながら向かってくる。
「クレイ。相手を倒せ」
「よっしゃ一撃目!」
近寄ってくるコボルト見習い戦士に、繰り返し小岩をぶつける。
近接可能距離まで近付いたとき、手にした石斧を叩きつけるロマノフ。
それだけで俺が散々小岩をぶつけて与えたダメージを余裕で超過させる。
残HP30%弱。同時に迫ったクレイがその拳で殴り、敵にスロウ効果を与える。
あれだけぶつけたのに、被ダメージ量からターゲットが俺からロマノフに移るのが一寸切ない。
「よし、試してみるか」
コボルトの儀式剣を取り出して斬りつける。
ダメージには殆どならない。まあ、剣の熟練型スキルないし、ジョブ的にもマイナス補正の攻撃力3だからな。
全く、未鑑定の方がダメージあった気がする。
数回斬りつけた所で、あまりのダメージの無さに戦法を変える。
少し距離をとる。
小岩を拾う。
真上に放る。
野球のバットよろしく、撃ち出す。
「どうだ?」
スピードは出た。しかし、手で投擲するのと速度は変わらない。
「これで、最後だ! はぁ!」
ダメージ量を確認しようとすると、同時にロマノフが横凪ぎにした石斧で、コボルト見習い戦士を両断にした。
「やっぱ、クレイゴーレムがいると段違いにやりやすいな」
「だろう。被弾率が違うからな……俺はダメージ=死だから、より恩恵を感じるよ」
盾で攻撃を防いでいた為、一身に攻撃を受けていたロマノフにも殆どダメージはない。
俺の儀式剣打法はよくわからなかったな。次でも試してみるか。
余裕を持ってロマノフが石斧を肩に担いだのを見ながら、俺は次の獲物を探しに行った。
結果剣で撃ち出しても速度やダメージは変わらなかった。
つまり、手で投げるのって凄く効率がいい?
小岩で白ネームのコボルト下級戦士を釣り上げる。
同じように、ターゲットを移しながら戦闘に入る。
考える。
俺の儀式剣打法は、俺が剣のスキルを持ってないから効果がないって可能性はないだろうか?
考えながら、大人しくクレイゴーレムの背後で小岩を投擲を続ける。
じゃあ、他のスキル……手持ちのスキル農具レベルレベルは2ならどうだ?
思いついた事は即実行してみる。
装備を変更っと……木のクワ。
ゴメンな、もしまた壊れたらすぐに捜索活動に入るからな。
敵には触れないから戦闘で使わせてくれ。
「じゃあ、これで……せぇの、アタック!!」
クワの裏、付け根に近い場所に当てるように小岩を打ち出す。
それはなんと先程のコボルトの儀式剣で打ち出した時より明らかに早くなって、コボルト下級戦士を貫いた。
これは……行ける。
「はぁ!? なんだ今の!?」
「うむ。素手で投げるより、バットで打った方がリアルでは早くなる。だから、やってみた。ただコボルトの儀式剣じゃスキルがない為大した事無かったので代わりに使ったのが……」
ダメージも上がってるみたいだ。
小岩を投擲する、2倍位のダメージになったな。
「……クワ、か。お前も変な事ばっか考えるなぁ、それ、レアスキル並のダメージ上昇率だぞ」
確かに投げ放題なのに、このダメージじゃやりきれないか。
いや、一つ問題がある。
「問題はある。小岩を浮かせて打ち出す、正直手間がかかる。両手で小岩を投げた方が早い」
「そうか。中々旨くはいかないな。……いや、待てよ? 投擲と具のレベル上げればどんどん強くなるんじゃないのか?」 俺もやってみるか?
それは……そうかもな。
スキルに呼応してダメージ上がったし、その内、俺の必殺技になりえるかな?
その仮説を検証するために、繰り返しコボルトを狩り出す。
基本は白と青ネームしか狙わない。
赤は上限なく高レベルなので、どこまで強いかわからないから。
アレストガンの渓谷は、入口近くなら適正レベル高くないから物凄く強い奴はいない。でも警戒するに越したことはない。
後、弓兵も対象に入れない。奴は止まって反撃してくるので、他のコボルトにリンクする確率が高くなる。
俺レベル上がってもダメージを受けたら死ぬから。
だから、周囲に釣れる敵が居なくなったら、ポップするまで瞑想してHP、MPを回復させながらだべっている。
「やっぱりダメだな」
「何だ、急に?」
座り込みと同時にため息をつくバカ。
「見てたろ? お前みたいに石斧で拾った石を打ってたろ」
「ああ……そんな事をしてたようなしてなかったような……」
正直全く気にしてなかった。
「してたよ! 俺、仲間、お前、パーティー、OK?」
「言葉の意味は分かるが、お前が言いたいことは全くわからん」
「くっ、まあいい。で、結果として打ち出して当てることは出来たんだが……ダメージが全く乗らなか
つまり、普通に投擲するのと斧でホームランするのと全く違いがなかった、と。
「ふむ、では何故俺は変わってる? お前も目で見て威力が上がってるのは見てるだろう?」
「ああ。だから、はっきりとはわからんがそれも農民の職業補整なんじゃないかと思ってる」
職業補整って……ランクアップと投擲スキルを取得して、木のクワをフィールドから入手して、条件を知ってて初めて生きる補整って……どんだけマゾい補整だ。
「いや、俺がそう思ってるだけだぞ? だが、農民しか持ってないと思われる農具熟練かランクアップが関わってるんじゃないかと思う」
「まあ、どちらにせよこれで多少は戦力になるからいいんだがな」
「充分だろ。あんま威力あがると俺しタゲ取りきれんぞ」
俺が他の武器熟練も覚えれば、もっと試せるんだがな。
って言うか、クワで打ち出すの難しすぎるから!
「所で、後どの位でレベル上がりそうだ?」
「ええと、一寸待て……800前後だ」
「30分位やればいけそうだな。上げきってしまうか」
「お前はどうなんだ?」
「俺か? さっき上がったばかりだから、大体2500位だな」
「一寸あるな、どうする?」
「いや、いいよ。他にやることもあるし、切りがいいだろ」
メインとの使い分けか? まあ、毎日大変な事だ。
「しかし、ゴーレムも瞑想モーションあるんだな。一寸見くびってたわ」
「意外と可愛いぞ」
顔が無いから、表情はわからないがな。
「これでレベル12か。後6。レベル15まではここでいいとして、そこからは移動しないとな」
「奥はどうなんだ?」
「いや、駄目だな。逆にレベルが高すぎる」
ふむ、まあ、とりあえず俺にはわからん。
任せるか。
「今考えてもわからん! 後で調べる! ほら、続けるぞ!」
オーケーオーケー。
じゃあ、行くか。
「俺の神速の投擲を見せてやろう!」
山程コボルト共を引っ張る為、立ち上がった。
「これで、最後だ!」
石斧の一撃と共に、コボルト下級戦士が撃破される。
同時に俺にレベルアップの表示が入る。
「お、上がったな。おめ」
「おう、サンクス。じゃあ、帰るか」所でお前ん家、晩飯なん?
「急だな。今日は無しだ。メインでの予定も詰まってるからな」
無しかよ。生活捨ててるな。俺はそこまでじゃない。よし、まだ俺はやっていける。
それにしても全く参考にならん。もういい時間だから、何を作るべきか……。
「寿司はどうだ? お前の作る酢飯はえらく旨いから」
「今から材料が集められるか、バカ者。それに一人でそんな手間のかかるようなのはせん……そうだな……豚カツでも作るか、こないだ当たった何処か産の肉が冷凍庫にあったな」
「お前……せめて応募する前に産地くらい確認してやれよ……ファームの人可哀想だろ」
そんな事を言いながら街に戻った俺は、パーティーを解散して畑を見てからログアウトした。
豚カツはなかなか旨かった。翌日の弁当にして食べた。
まる。