第十一話、お別れはいつですか?(1)
何だかわからないが、畑に植えた木の棒から生えた木から現れた精霊、ドライアードと契約してしまった俺。
一農民が、こんな熟練者も知らないような突発的なクエストが起こった、と言う重圧に耐えられる訳もなく、今俺が何をしてるかと言うと……。
「ドライ。こっちに水を上げてくれる? 俺は、クワで耕して回るから」
コクコク。
溜めておいた桶を持ち上げて、少しずつ畑に水をあげてくれる、俺の契約獣ドライアード。略してドライ。
俺は木のクワを振り上げ、今日もこの20m四方の畑を耕し続ける。
声をかけながら、さり気なく頑張っているドライの様子を微笑ましく眺める。
この感じはまるで……。
「一人もんの牧場主の俺が、家族のように仲良くなった従業員の子供が手伝いに来て、少しずつ仲良くなって行っている実感が湧いたときのようだ」
「そこは子供の成長を~とか言おうぜ」
何を馬鹿なことを。彼女もいない寂しい一学生がそんな妄想できるか。お前じゃあるまいし。
「おわっ!? 貴様何時の間に俺の間合いに……」
「あのなぁ……ふぅ、まあ、いいけどさ。そろそろ現実逃避は止めようぜ」
あれから2日。
俺から離れないドライアードを見て、誰も具体的な施策が出てこなかった為、やむなく俺はリアルの妹みたいな対応を取る事にした。
その離れなさは、簡単に言うと懐いてる、みたいなのが一番わかりやすいイメージであろうか?
「ご苦労様。重かっただろ?」
ふるふる。
「そうか。偉いぞ、ドライ。お前も好きなだけ水飲んで良いからな」
コクコク。
小走りに、井戸に向かって走っていった。
……いい子や。冒険とか何だかどうでもよくなってきたかも。どうせ俺は畑で生き、畑で死んでいくのだから。
「聞こえてるんだろ?」
「誰だ貴様……変態はお断りだ。用がないなら、いや、用があっても疾く消えろ」
「そりゃないだろ! お前さっき俺の事わかってたじゃん!? って、お前本当に柚子ちゃんみたいに扱ってるんだな」
そりゃそうだ。
俺に他の年下の子と接した記憶はないしな。
だから、対応も同じになるさ。
俺のベビーシッターぶりをなめるなよ。自我が形成される前からやってたんじゃないの? と、実の親から言われた俺の万能ぶりは半端ないぜ。
「……お前親から嫌われてんの? いくらいつもがあれだからって……」
「……否定できんな。」
「あんまり同じだと、柚子ちゃん怒るぜ」
「柚子がそんな事で怒るか。用がないならあっちいけ」
これはあれか、フラグか? 柚子オンラインオンラインプレイフラグの。
いや、ないな。
あいつは俺以上にゲームに興味ないからな。そんな訳ないか。
「待てって。出来た収穫物をNPCに見せに行くんじゃかったのか?」
全部二人にあげちゃったから収穫物もってないし。
それにファットの事を言うな。まだ心の傷が……。
「……それは後だ。それを言いに来たなら消えろ。まだ、畑をならし終わってないしな。やることは山のようにある」
「邪険にするなって。本命は別さ。今からよ、パーティー組んで、一寸洞窟探検と洒落込まないか?」
左右に松明がかけられた自然の洞窟。周囲を見渡しながら、俺とドライ、それに他数名が歩いている。
ここがそうなのか。
ドライも流石は精霊だな。
怖がる素振りもない。
「ここの最奥にあるのか?」
「ああ、そうだ。情報によると、ドライアードの壁画とか言う石碑があるらしい」
そう、この洞窟に来た理由はそのドライアードの絵画が洞窟の奥にあるから。
廃人さん(ロマノフ)の知識から、関連のありそうで俺達でも入れそうなダンジョンを見つけてきたのだ。
先程はぼかしたが、一緒に洞窟に来たのは当然ロマノフ。
そしてもう一名は、不機嫌を顔に出して隠そうともしないミリンダの姿の2名であった。
「ミリンダさん、悪かったって」
「私に黙って冒険……毎日同じ時間に来てるのに……」
「拗ねてるなぁ」
あのあと、ミリンダがインする時間に、ロマノフがパーティー申請をしてたものだから、さあ大変。
仲間外れにされたと思ったミリンダが拗ねまくり。
「ロマノフも、ドライの手掛かりを掴んだと思ってうっかりしてたんだろ?」
ちょいちょい。
ミリンダの裾を掴むドライ。
素朴で純真なつぶらな瞳を受けて満身創痍のミリンダ。
「わ……わかりました。ロマノフさん、ドライちゃんの時は私も仲間に入れて下さいね」
「わかりました。ごめんね、ミリンダさん」
全く、困ったものだな。
取りあえず……きちんとしたレベル上げも含めた、冒険は初めてだな。
パーティーバランスはかなり悪いけど。なんて言うか前衛の戦士ロマノフ、後衛の魔法使いミリンダはいい。
問題はなんだかよくわからない俺だ。
戦闘方法は敵をクワで耕すか、拾った物を大きくして投げるかしかない。
でも、クワは壊れるから近接の選択肢はないな。
逆に後衛なら二つのスキルが生かされるからいいかな。
理由は簡単。
拾った物の等級が良くなるランクアップと、投擲アイテムを投げるときに補正が入るその名の通り投擲スキルがあるからだ。
因みに回復は各自この間大量に収穫した薬草。なんせ、俺は被弾=即死だから関係ない。
あれ? よく考えると意外とバランス悪くないかも……。
「なあ、ジェイル。ドライアードは何が出来るんだ?」
「……さあ?」
水まきと光合成? 後、水を飲んだり出来るな。
「可愛い、なごみ系です」
「いや、戦闘じゃあ役に立たないから……」
「敵が魅了されるかも」
そんなスキルないだろうけど。
「お、噂をすれば……じゃあ、2人は後衛からサポートを頼む。格上じゃないから丁度俺達の力を試すのにいいな。俺が前線でタゲを取るから……ドライアードは、ジェイル。お前に任せた!」
言うや否や、ウッドソードを振り上げて敵に飛び込む。
大胆に飛び込むなぁ。
今回の敵は玉ねぎの形のモンスター、そのままずばり、フレッシュオニオンだ。
早速、力一杯斬りつけて玉ねぎのターゲットとなる。
「行きます……この恨みと悲しみと疎外感と怒りと……その他諸々の何かを込めて……ストーン!」
ミリンダはやる気だ。改めて見るのは初めてだが、魔法は即時発動しないみたいで詠唱中と言う扱いなのか硬直状態になってる。
俺は……とりあえず石投げるか。
落ちている石を拾う……ランクアップの効果かやや大きくなる。
「よいしょっと、行くぜ。それ!」
様子見のつもりで軽く投げた。
なのにそれは予想以上に速度がついてフレッシュオニオンに直撃する。
その速度はミリンダの発動させた石つぶて、ストーンよりも早く到達した。
ダメージも予想以上にある。
「おま! いきなりかよ! 一寸自重すれ!」
ロマノフからターゲットが外れてしまい、一瞬こちらに駆け寄ってこようとする。
俺の投擲とロマノフの剣戟を受けてくるくるくるくる回りだす玉ねぎ。
ターゲットを指定しきれないみたいだ。
じゃあ……幾つか石を拾って連続して投げる。
ひょい
ひょい
ひょい
お、倒した。
場所柄か、耐性のせいミリンダのストーンは相性が悪いみたいだ。
「土耐性が高いみたいですね。ストーンのダメージの通りがよくないです」
「仕方ないさ。ダメージもあるしゼロな訳じゃないから、変わらず頼む」
少しだけ被弾した翔が戻ってくる。
やはり、近接ジョブはノーダメージで進むのは難しいな。
まだ一匹目なんだが。
このままだと薬草がいくつあっても足りないよな。
何かいい手段はないものか?
くいくい。
ん? ドライ?
「ドライ、どうした? 俺の考えがわかるか?」
言葉遊びか、つい多少の有り得ない願望を込めてドライに聞いてみる。
コクコク。
少し考えるようにしてから、自信気にうなずいてみせる。
そしてドライが両手を上げると、一滴の水がロマノフの頭上に降る。
「お? 回復した……ドライアードって回復魔法なんか使えるのか?」
「らしいな。偉いぞ、ドライ」
頭を撫でてあげる。
目を細めて嬉しそうにしてる。と、思う。
「精霊さんですもんね。ドライちゃん格好良い!」
皆、ドライを絶賛しながら、奥へ奥へと進んでいった。
この一連のやりとりだけで俺の投擲とランクアップの複合投擲術の有用性と、ドライの回復系スキルの有無が一番の収穫だった。
「ふぅ、レベル上がりました」
「おめでとう。幾つになった?」
「6です。ジェイルさん達は幾つですか?」
「俺達は8だ。もうすぐ9になるかな? ドライは2」
足止め+後衛火力作戦で、かなり奥まで進んできた俺達。
ここのモンスターはあった事ないやつが多くいた。
コウモリやナメクジ、初めに襲ってきた街周辺より大きな、おおねずみにタマネギ。
俺が街から離れないからだろうけど……。
途中、幾つかの未鑑定アイテムと素材を手に入れた。
ドロップ率や質が上がるので、採集係は俺が一任されている。
素材は、埋める系以外俺は使わないから必要ない。
帰ったら2人に全て分配しよう。
そういえば種とか街で売ってるのかな?
鑑定品は、鑑定料が一律100Gの為、皆で出し合って均等に振り分ける事にしてる。
まあ、仲間内だから出来る事だろうがな。
はぁ、鑑定のスキルとか欲しいなぁ。
なんか、お金無くてもやっていけるな。
よく考えたら、俺は開始から全くゴールドを使ってない事に気付いて農民もやっぱりいいな。そう思わされた。
俺達は適度に休憩して、MPを回復してきたからミリンダもドライにも余裕がある。
「つきましたか?」
不意に開けた場所に出た。
そこはまるで今からクエストですよ、言わんばかりの広場だった。