第十話、汗水流して働けますか?(2)
俺の畑に出来た、巨大な木を初めとした生えまくりの草々。
「朝より多くなってるな」
木の周囲に生えまくる草に増量感を覚える。
「あの……この大きな木は?」
「おい、これってひょっとして…………」
「ああ、当然名前はまだ付けてない。公募性にしようかと思ってるんだがどうだろうか?」
「そうじゃないだろ!?」
全く……洒落のわからん奴だな。
「十中八九初めに叩き込んだ木の枝だろう
な」
「一日でこんなになるんですか……昨日私が見た時はまだ芽が出た位だったのに……」
「俺の才能故だな」
「いや、そんな馬鹿な……だが一概に無いとも言い切れない為否定しきれない」
あれは、どうすればいいのかね?
切り落とすべきか?
斧でも落ちてないかな?
「ミリンダさん、確か、ジェイルに種を育ててもらってるんじゃなかったっけ?」
「はい、昨日お願いしたんですけど……このうじゃうじゃしてるのがそうなんでしょうか?」
「…………」
「だろう。この緑の葉のやつは、薬草だな。この分だと……30枚はありそうだな。こっちの青いのは……一寸見た事ないなぁ。何を渡したんだい?」
「ええと……確か、緑と青の種です」
「じゃあ、緑が薬草かな? この青い葉が青の種だろうけど……」
「…………」
「ジェイル、どう思う?」
「…………」
「ジェイルさん?」
「…………」
「おい、ジェイル!!」
「……あ? どうしたんだ?」
「何やってんだお前」
何って、なあ?
「飯だ」
「飯ってなぁ……」
「朝より伸びてる草を見たら、カップめん用意してたのを忘れててな。離籍して食ってたが、もう食い終わったから大丈夫だ。早いだろ?」
伸びてたけどな。
「フルダイヴ型のVRMMOのOOでどうやってやってるんですか?」
「意外に簡単だぞ。設定画面でスリープモードを選択するとこの状態のまま一時的にログアウト処理がされるみたいでな」
「お前は……そんな所ばっかり覚えて」
これだって一つの楽しみ方だ。
「あの、ジェイルさん。地面に生えてる葉っぱなんですけど……」
「ああ、多分これはミリンダから渡された種だな」
しかし、植えた種と同じ色とはね。
創意工夫が感じられんな。
「ミリンダの種だ。さあ、持って行ってくれ。それとも、収穫までしようか?」
農業は収穫が一番楽しいだろうが……女性にやらせるには、腰を痛めるかもしれんしな。
「ええと……どうしましょうか?」
「ジェイルがやった方がいいんじゃなあか? スキル、ランクアップが発動するかもしれないし……」
ああ。そう言えば、そんなスキルもあったな。
あれからつけてないから忘れてた。
「あれからって、畑争奪戦からか!?」
「でも、ジェイルさん木のクワ拾ってましたよね!?」
「まあ、俺も忘れてたしな」
ああ、そうだな。
そう考えると、運が良かったな。
「忘れてた……こいつ、OOも懸賞で当てたんだった」
「本気ですか!?」
ミリンダだって人の事言えないだろうに。
全く、二人とも人のこと何だと思ってるんだ。失礼な。
じゃあ、スキルを装着して、と……。
よし、じゃあ、収穫に移りますか。
「まずは、この緑のやつだな……ええと……ただの薬草か……ん? ×2?」
一回取っただけなんだが?
何故増える……魔法のポケットか?
よし、ポケットもおぼしき場所を叩いてみよう。もっと増えるかもわからん。
「何やってんだ?」
「叩けば増えるかもしれん」
「あー私もよくやりました。本当にやると、中で粉々になっちゃうんですよね」
いや……普通そこまではやらないんじゃないかな?
この子…………いや、よそう。
因みに今増えた分の薬草は効果が減ったりとかせんのだろうか。
「ロマノフ。薬草の回復効果は?」
「確か、HP20回復だ」
20か……これは……変わらないな。同じ効果か。
じゃあ、何故か知らんが純粋に数だけが増えてる?
いや、むしろ収穫だと初めからこんな風に山ほど取れるのかもしれん。
「どうしたんですか?」
「仮説でしかないんだが……いや、収穫してしまうから、一寸待っててな」
違ったら恥ずかしいし、とりあえず全部取ってみよう。
一枚一枚、丁寧に収穫した結果……。
「薬草は、124枚ありました」
所々3~5枚と大量ゲット出来たりして、気付くと両手一杯になりました。
「……凄い」
「スキル効果か?」
「俺にもわからん。元々の採集効果か、ジョブが作用してるのか、農耕なのかランクアップなのか全く想像がつかん」
とりあえず全てミリンダに渡す。
「いや、こんなに受け取れません! 半分渡すって言ったじゃないですか。ジェイルさんのお蔭ですし、ジェイルさんもしっかりもらってください」
「でも俺、回復とか余り意味ないから……必要でしょ? ミリンダ」
構わないって言ったのに……どうやら彼女は半分で構わない、って判断したみたいだな。
にっぽんごって難しい。
そもそも俺だけ、敏捷性を多分に求められる別ゲーだから、回復なんて別世界の話だしな。
被弾、即死って恐ろしい。
「ジェイル。ミリンダさんの気持ちも考えれば、受け取るべきだろ?」
「はい、お願いします。私なんて、何もしてないのに……」
成功するかもわからない、農耕だから気にするな。のつもりで言ったんだが、むしろ気を使わせちゃったか。
「わかった。じゃあ、俺はこの3枚でいい」
「え? でも、私!!」
「他の分はロマノフに分けてやってくれないか? ボアスタンピートの時も、体を張って被弾してくれたのは彼だからな」
「ジェイル君……」
うわっ! 気持ち悪!
「……はい、わかりました。じゃあ、ロマノフさん。受け取ってくれますか?」
「この流れで俺が断る訳ないよ。それに、俺も回復は薬草かHP回復薬に頼り切りだから、正直助かる……が、流石にこの流れで渡されるのがこの数では多すぎる。魔法職を目指すなら被弾が俺より危機的な状況になるミリンダさんこそがメインで所有すべきと思うが?」
交渉中か。
うんうん。仲良き事は美しきかな?
終わるまで待つのは面倒臭いし、ガンガン次に行くか。
さて、次はこの青い草か。
まあ、緑は薬草。青は何だろうな? まあ、どっちにしても初見のものだから想像もつかないが。
試しに一枚むしってみる。
やはり、2枚取れた。
「ええと……せいしん草?」
「なんだそれは?」
言われなくても見るから、一寸落ち着け。この貪欲に知識を求めるダルマめ。
「……どうやら、MPを5回復する効果があるようだな」
「本当ですか!!」
半分ずつ分けた薬草を、やっとの思いでしまったミリンダが、超反応を見せて近づいてきた。
正直怖い。
でも、仲間の為に、顔に出さないようにする俺、ああ、なんて偉いんだろう。
「あ、ああ。そのようだな」
「成る程……MP回復系の入手先はここだったのか」
「やったぁ。これで楽になります!! ジェイルさん、ありがとう、本当に有難う御座います!」
何、この一人お祭り騒ぎ。
「この間も言ったけど、魔法使いが不遇な理由はここにもあるんだ」
「MP回復?」
「そう。MP回復薬は、中級モンスターしかドロップしないのに、ドロップ率がかなり悪いんだ。しかも店売りしてない」
はぁ、そりゃあ不遇だわ。
戦闘中のMP回復手段がなくて、更にその魔法も習得率が激低いんじゃなぁ。
だから、ミリンダはこんなに喜んでいるのか。
「じゃあ、丁度いいじゃない。ミリンダ、収穫やってみるといい」
「え、でも私……」
「もし違っても、さっきの大量の薬草が俺のスキルの為なのか、元々の薬草の収穫数なのかの判別出来るし」
「確かに、青の種ならすぐに手に入るし、いいんじゃないか? それにこいつにやってもらえばまたこんな状況になる可能性が高いんだから」
そうだよなぁ。普通にあれだけの薬草が取れるのがデフォルトなら、正に農民の価値がない。
俺(農民)だけのアドバンテージじゃなければ、畑利用者と更に運営への過剰なクレームを入れないといけないしな。
「じゃあ……頑張ります! ジェイルさん、何かアドバイスとかいただけますか?」
「アドバイス? う~ん、女性だからあまり長時間無理な姿勢を取らないように、適度に休憩をいれましょう」
「あ、有難う御座います」
「ジェイル……それ、採集のアドバイスか? なんか、俺にもダメージが来たんだが」
え? 違ったか?
そして、始まったミリンダの採集。
それは開始5分で終了した。
「こうも効果が違うとはなぁ」
「農民の領分って事か?」
「すみません、ジェイルさん」
ミリンダの採集は散々な結果に終わった。
ミリンダが行った採集は10回
1枚入手
失敗
失敗
1枚入手
失敗
失敗
失敗
失敗
1枚入手
失敗
と、10回チャレンジして、3枚しか入手出来なかったのだ。
どれが機能してるのかわからないが、俺のは凄まじい農民力だったらしい。
実際、その後俺が15回採集して、せいしん草を48枚入手したし。
「ジェイルの予想通り、レアスキルのランクアップと採集だけじゃなくて、農民自体にも特性があるのかもしれないな」
「ジョブにも特性があるのか?」
「隠し特性って言ってな。例えば、戦士はクリティカルが出やすい、魔法使いはMP回復速度上昇、とかな」
大量のせいしん草を受け取ってトリップしてるミリンダは、とりあえず置いておく。
「で、最後はこれか……」
「この大木はどうするべきかなぁ。切り落として、薪にでもするか? ロマノフ、その剣貸せ」
「ウッドソードだぞ? こんなの切ったら折れるっての」
しかし、斧はないしなぁ。
「あの、NPCに聞きに言ってみたらどうだ?」
「ファット爺か。そんなのいたなぁ」
忘れてたよ。忘却の彼方へ。覚えてたら常に闇討ちを考えてなきゃいけないし。
「……やむを得ん。ここにいてもわからんし、行ってみるか」
「しかし、この木の葉は、何かのアイテムにはならないんだろいか?」
強欲なダルマだな。仕方ない、確認してみるか。
木に登ろうと手をかけた時、大木は金色に輝きだした。
「なんだ!?」
「俺が知るか!」
「ふぇ? 何!? 何ですか!!?」
辺り一面が光に包まれる。
まさか、爆発するのか!? こんなばかげたやられ方か!?
取りあえず手で顔を守るように前に出すことしか出来なかった。
その光にダメージがある訳ではなかったようで、HPバーは減らない。
そして光はすぐに治まった。
特に状態異常にもなってなかった。
「全く、一体何だったんだ?」
「な、何、何なんですか!? 急に目の前が真っ白になりましたよ!」
「ミリンダさんは仕方ないよな。だが、今のは……おいジェイル! 木!」
俺の方を指さすロマノフ。言葉の内容から視界を戻すと、大木は綺麗さっぱりきえた。
「これが原因で起こった光だったのか……」
意味はわからなかったけど、何事もなく無事解決、カイケツ……カイケツ……。
「ジェイル、現実を見ろ」
「うわぁ、可愛い子ですねぇ」
くっ、ミリンダ、話しかけるな。
あれはきっと何か俺に干渉してくる。
そうに違いないから。
「----」
「貴女、どうしてこんな所にいるの?」
こんな所で悪かったな。俺の(借りてる)畑だ。
「迷子?」
緑の服を着た少女、俗に言う幼女は首を振って違う旨をアピールする。
本気か? 電脳空間だぞ。迷子なんかいるか? この世界には約束したフレンドに会えなくて走り回る奴は居ても、こんな子供の、しかも迷子なんていないだろ。
「NPCか?」
「だろうが……何か様子がおかしいな」
幼女は俺を見ると、小走りに寄ってきて服の裾を掴む。
「何故俺の服を掴む」
ぶんぶん。
「俺に用事か?」
コクコク。
「お前はさっきの大木か?」
首を傾げる。
「ロマノフ……どうすればいい?」
「こんなの、俺も見たのは初めてだ。訳わからんぞ」
「可愛いなぁ、ねぇ私とお友達になろう?」
俺達が困ってる横で、ミリンダが幼女と握手をして友好を深めていた。
「そのまま、その幼女が何を言いたいのか、聞き出してくれ。子供は嫌いじゃないが、何を言いたいのか全くわからん」
「いいよ。ねぇ、ジェイルに用事なんだよね?」
コクコク。
「貴女は誰?」
首を傾げる。
そして、手にしていたせいしん草を指差す。
「これ? ジェイルが作ってくれたんだよ」
コクコク。
幼女が触るとせいしん草は光り出した。何の効果があったんだ?
光らせただけか?
コクコク。
「こいつ……わかってやがるな」
「何がだ? でも、確定じゃね?」
「木の精霊か……農民に何の用事があるんだ?」
幼女は首を傾げると、俺の手を掴んで俺を屈ませると、頬にキスをしてきた。
「なっ!?」
「おお!」
「ああーーー!!」
驚きと同時に左腕に走る痛み。
慌てて見てみると、そこには、緑色の宝石をあしらった腕輪が装着されていた。
そして、流れるズジョウニ、ずじゅうに、頭上に流れる情報。
なんか、俺も一寸混乱してるな。
〔ジェイルは、精霊ドライアードと契約をした〕
はい?
俺は農民……だよな。
何で急にこんなイベントが始まったんだ?




