第一話、プロローグ
当たった……もう俺、駄目なんじゃないだろうか?
自宅に届いたダンボールを眺めながら、自分の家、賃貸で一人暮らしだから安全な筈だが……ドッキリじゃないかと周りを見回す。
「罠は……ないか……しかし、あいつらならやりかねん。慎重になってなりすぎる事はないだろう」
黒い猫のマークの宅配員が去ってから、当然の如く閉めていた玄関を開けて廊下に不審者がいないか確認する。
誰もいない。
玄関を閉めてから、しっかり鍵をかけたのを何度も確認すると、今度は窓を開けて裏から見える道路にも不審者がいないかを確認。
こちらも誰も……でもないけど、俺に関連しそうな不審者はいない為スルーする。
そして、窓もしっかり鍵をかけると、この間月刊安全第一、で当たった盗聴器発見器と爆発物発見器を使ってダンボールをスキャンする。
当たってから使うのはじめてだな。
応募しといて良かった。
両手に装備してダンボールをなぞるように動かす。
反応なし…………!? 盗聴器に反応。でも、ダンボールじゃない?
音の強弱を確認ながら家の中を歩き回る。
一番音が激しくなる場所は……ここか!
この間学校で、同じサークルの女子一同からもらったでけぇクマの人形。
…………そっと中から盗聴器を取り出す。
何を考えてるんだろう、皆は。
俺の日常を見て、笑い物にするつもりなんだろうか?
サークル内では比較的上手くやってるつもりだったから一寸ショックを隠せない俺。
明日からどんな顔して皆に会えばいいんだろう。
「もう、俺笑えないよ……と、まあそれはさておいて」
等と言いながらも、実はあまり気にせずにダンボールを触る。
盗聴器は実は初めてじゃないしね。
何でこんないたずらばっかりするんだろうな?
羽目を外しすぎだろ? 別に聞かれても困らないとはいえ、恒常化するとその内誰か手が後ろにまわるぞ。
全く、と、溜め息をつきながら耳を澄ませて中を窺う。
動きはなし。生き物が隠れてる訳じゃないみたいだ。
テープをはがしてみる。
後は箱を開けるだけだ。
意を決して中を覗いてみる。
…………そして黙って蓋を閉める。
「……何が起こってるんだ?」
オーケーオーケー。クールになるんだ俺。
俺が応募したのは松坂牛1kgだ。今までどれだけ応募してもこれだけは当たらなかった景品だ。
きっと中で箱詰めになってる筈だ。
もう一度、希望を込めて蓋を開けて見直してみる。
……最も肉の旨味が味わえるしゃぶしゃぶ用の、美味しい厳選された生肉の筈だ。
「オレ、ニククイタイ」
唸ってみても、獣のようにわめいてみても、何回も見直しても、ただのヘルメットにしか見えなかった。
「何だこれ?」
それをまとめて指でつまんで取り出してみる。
「ぐぬ! ……俺もなかなか無茶しやがる」
意外に重くて指の骨がミシリと音がした気がした。
慌てて落としそうになるが、なんだか意味が分からないので、火事場の馬鹿力的な何かでゆっくりと元に戻す。
「おお、痛え……良かった、俺の指ちゃんが無事で……」
手を振りながら……中に入っている物を袋から出して一つずつ取り出していく。
もう、自身にダメージを与えそうな無茶はしない。
そしてフローリングの床に広げられたのは、ビニールにくるまれたヘルメット。
それに付属品らしき、CDと山程の配線だった。
「誤配送か? こんなの応募した記憶無いぞ? 俺宛じゃなかった? いや、宛先俺になってるな。ま、なんにせよ、何らかの説明がある筈~っと、あったあった」
中にあった手紙を目を通す。
謝罪と代用品としてのオンラインオンラインへの招待状について?
どゆこと?
ええと……なになに、あなたは特賞の松坂牛1kgに見事当選致しました……じゃあ、何でこんな訳わかんないのが送ってくるわけ?
しかし、大変申し訳ないのですが、今回から当社の方針で食品の取扱いを見合わせる事になりました。
……マジか!? 当たったのに食えないのか! むしろ、当選通知来ない方がいいじゃん! ガッカリじゃん!
その代わりに代替え品として、クロスワード部門の特賞であるオンラインオンラインへの招待状を景品とさせていただきます。何卒ご了解の程をよろしくお願いいたします。
……いらないんだけど。この期待感とガッカリ感をどうすれと?
何でこんな事なったのか、はがきを出したはがきの友社について情報を集める。
何かあるようだったら、今後の懸賞も見合わせなきゃいけないし。
……懸賞品で食中毒か、じゃあ仕方ないな。しかし、ハガキで当たってるんだからその位気合いで我慢しろよ。
まあ、そんな理由なら仕方ないな。
それなら、ついでにそのオンラインオンラインとかいう奴も調べてみるか。
確かゲームだったよな?
まず、ネット通販で有名なナイルガワを調べてみる。
……………………まさかの松坂牛30kg分の価格。
ゲームだろ? 高い、高すぎるだろ?
内容は…………前評判は最高、しかし、実際にはその前評判を上回る面白さで、販売半月にもかかわらず全世界での販売開始……か。
それじゃ何の事だか全くわからん。
公式サイトでも見てみるか。
そこに写っていた映像は、場所こそファンタジーの世界だが、俺と殆ど見た目変わらないような、普通の人間に見えるキャラクターが、これまたファンタジーの剣と魔法に身を包んで巨大な狼と戦っている姿だった。
世界初の電脳体感型ゲーム……VRMMO。
あれを体感出来るなら、確かにとんでもなく売れるだろうなぁ。
レビュー等も少し探してみる。
…………あるにはあったが、しかし、システムや自由度ばかりがコメントされてて批判的なものが殆どないな。
これだけ大人数が参加してるならもっと意見があってもいい筈なのに。
「まいったなぁ、こんなに高い物、物が物なら一儲けの筈なのに……オンライン系の器具って買取してる場所少ないんだよなぁ。新品で未開封だからやってくれないかな?」
でも、盗品や懸賞の横流しだと思われたら困る……実際その通りなんだが。
いやまてよ。ひょっとしたらそんな事しなくても…………思いついた事が実行可能かどうか、早速携帯をかける。
「もしもしお前か実は懸賞で騙されてオンラインオンラインのヘルメットが送ってきたんだが俺は肉が食いたいんだ俺の言い値で買わないか」
(落ち着け、そんな早口で言っても何が言いたいのかわからん)
「頭の悪いヤツだな。その位気合いで感じ取れ。オンラインオンラインのスターターキットが当たったんだが、お前俺から買わないか? って言ったんだ」
(…………まじか! 今品切れ続出で、一年待ちなんだぞ!? 買う! 買う! むしろ買わせてくれ!! …………いや、折角だから、お前やれよ! お前のPCなら問題ないから。一回やって俺達がどれだけ力説しても変えなかったお前の中の価値観を変えろ! むしろ俺と一緒にやらないか?)
やだよ、面倒臭い、しかもキモイ。
拒否したのだが、電話では埒があかないと考えた悪友の木上翔が我が家に来訪、数時間に及ぶ攻防の末に、あれよあれよと俺もオンラインオンラインを体験する事になった。
何でだ?
まあ、焼き肉食い放題をゲットしたからいいかな。
俺はお前が泣くまで、食べるのを、止めない!
で、実際入ったのはバイキング形式の焼き肉屋だったとさ。