悪霊殺し
電灯が明滅する狭い和室。
平井は畳の上で縮こまって正座していた。
彼はちょっとした物音にも過剰に反応し、汗だくで怯え切っている。
そんな平井を眺める別の男がいた。
空中で胡坐を掻いて浮遊する幽霊――牧野は退屈そうに呼びかける。
「なあ、おい」
「……何ですか」
「いつまでここに住むつもりだ?」
「えっと、ひとまず一か月ですかね……そういう契約なので。もちろん早期解決できればすぐにでも出ていきますよ」
平井はスケジュール帳を確認しながら言う。
その瞬間、牧野は盛大に舌打ちした。
「さっさとぶち殺せばいいじゃねえか。呼び出す術とかねえのかよ」
「自分、インチキ霊能者なので……すみません」
「そんなんで除霊の仕事受けるなよ! どういう頭の構造してんだてめえ!」
「ご、ごめんないっ! でも霊能者って儲かるんですよね……手っ取り早く借金を返済するにはこれしかなくて……」
「俺が言うのもなんだが、お前も大概クズだよな」
「自覚してます、はい……」
平井は下を向いて落ち込む。
牧野は特に気にすることなく浮上すると、天井に手を伸ばした。
彼の手は抵抗もなく天井をすり抜けた。
さらに腕や頭部も同様に天井へと吸い込まれていく。
牧野の行動に平井が驚いて立ち上がった。
「ちょっと、どこに行くんですか」
「ターゲットの悪霊を探す。地縛霊ならどっかに隠れてるだろ」
牧野は下半身だけ和室に残したまま、天井裏を泳ぐように徘徊する。
数秒後、天井をぶち破った牧野が派手に落下してきた。
牧野の胴体にしがみ付くのは、青白く半透明な女だった。
脇腹に噛み付かれた牧野は、顔を歪めて怒鳴り散らす。
「クソが! 奇襲なんて仕掛けやがって畜生ッ!」
牧野は女の霊を投げ飛ばし、押し入れに叩き付けた。
彼は懐から半透明の包丁を取り出し、それで女を滅多刺しにする。
「誰が! お前なんかに! 殺されるかよ! ボケが!」
黒い血を吐いた女はぐったりとして動かなくなった。
それでも包丁を刺す牧野に、平井は恐る恐る声をかける。
「だ、大丈夫ですか……」
「平気だ。すぐに治る」
女の身体が粒子となって霧散し、牧野に吸収されていく。
吸収を終えた彼の身体が、噛み付かれた傷が跡形もなく消えていた。
包丁を仕舞った牧野は満足そうに笑う。
「よし、一か月予定の仕事が二日で終わった。報酬貰いに行こうぜ」
「は、はいっ」
「七割は俺に寄越せよ」
「でも牧野さん、幽霊だから現金使えませんよね?」
「うるせえな。貯金してんだよ」
「何のためにですか?」
「内緒だ内緒! ぶっ殺されてえのか!」
「ひっ、すみません!」
平井は怯えて謝りつつ、今回の成功報酬について頭の中で勘定していた。




