聖徳太子じゃないっつーの!
「おはよう。調子はどうだ?」
気がついたら目の前に先生が居た。珍しく小声だ。大体は僕の方が、いや俺の方が先に起きて待ってるけど。この感じは前にもあった。思えば昨日、寝た記憶がない。はしゃぎすぎて、カプセルに何か盛られたみたいだ。ダルくてしんどい。
「ムリ。もう一回寝る。」
不機嫌にそう言っても先生はスイッチは押さない。大体の大人は挨拶代わりに押すらしいけど。一度だけ、興味本位でお願いして、嫌々押してもらったけど、あれで起こされる奴も居るって聞くと、ちょっと信じられない。
「そうか、まぁいいけど。折角の大人の仲間入りの日だぞ?それに、ほら。外に出ればちょっとは気が楽になるかもしれないぞ?」
うーん………そうだ!昨日はそれでテンションが上がって…………。お目溢しがあるって聞いてさらに歯止めが効かなくなったんだよな。パージではしゃいで痛い目に遭ったって、前に先生からも聞いてたのに。情けない。今度は別の意味で嫌になってきた。こんなんで外出て大丈夫なのか?とか。
「大丈夫。俺よりマシだ。なんせ隔離まで行ったからな。他の未人に悪影響だって。普段喋らない大人が4人も周りを囲んで、罪状読み上げるんだぜ?聖徳太子じゃないっつーの!ってな。………ジェネギャどころじゃ無いな。すまん忘れてくれ。」
先生は過去の記憶があるとか言って、たまに時空を超えた冗談をいうけど、多分同じ時空でも笑えないだろうって事は何となく分かる。それでも精一杯励ましてくれてるのは伝わってくる。嬉しくて、ちょっとウルっときたけど、カプセルの中だと涙は流れない。培養液と混ざるだけだ。
「分かった、出る。って言うか、いつもは寝てる間に出てるけど、今日は自分で出るの?」
「あぁそうだ。基本的に未人は、それだけは知らされない様になってる。自由に出入り出来ると、大人が恐慌状態になって、AIさん達が困るからな。つまり、これを知るって言うのが、一番最初の大人の階段だな。」
階段……。階段とは、高低差のある場所を移動するために設けられた、複数の段が連なった通路。建物内では上下階を結ぶものとして、また屋外では傾斜の大きい道などにも設置されます、か。つまりは何かの例えなんだろ。
頭だけだった頃は、本当に過去の記憶でもあるんじゃないかって思ってた。そのぐらい先生は博識だ。ちょっと調べれば出てくる知識なので、今考えるとちょっと笑える。
「じゃあ、手順を言うから、脳内メモリの大事なとこと、そうじゃ無い所の真ん中ぐらいにコピーしとけ。忘れっぽい俺が見つけた、ベストな場所だ。………いや、お前には釈迦に説法か。適当でいいわ。」
また変な例えを……。釈迦釈迦釈迦………。あ、ダメっぽい。先生のくせにFワード使ってるよ。
「先生、Fワード。」
「え?まじか?すまん、これはマジで忘れろ。…………そうか、過激派もいた様な気がするしな。ありがたい存在って認識だったわ。ちょっと判定について聞きたいな。次の献身は…………。」
これは長くなりそうな予感が。
「先生、先に手順ちょうだい。勝手にやっとくから。」
「あ、そうか?んじゃコピー………。いやいや、勝手にはまずいだろ。何の為に早起きしたと思ってんだ。」
やっぱりまだ早いんだ。もっと寝れたのに、というのと、僕の為に早起きしてくれたっていう事だけで嬉しいのが混ざって変な気持ちだ。
「僕の為に、いや、俺の為にありがとうございます。」
「ぷっ。ふふ、良いんだぜー。もうすぐ大人だからって、大人ぶらなくても。そのうち勝手に大人になるんだ。それにAIさん達は僕ちゃんの方が好きって聞いた事もあるぞ。」
ぐぅー!大人の癖に!なんて大人だ!でも僕歴二十年は流石にすぐには変えられない!くっそー!
「先生なんか、AIさん達に詰められて半泣きになっちゃえ!」
先生の後ろには、Fワードを検知したのであろう、美人なAIさん達が整列していた。




