いわゆる古典で言うところの、西暦っていうのがあってな。
僕らの先生は変わり者だ。
他の大人達と見た目は変わらないけど、僕たちとの距離が近い。
AIさん達にモテモテで、いつも近くに誰かいる。
ちょっと話は長い、というか無駄話が好き。
他の大人に隠れて、お酒なんか飲むらしい。
変わった先生だけど、僕たちは結構気に入ってる。話は長いけど。
そんな先生について、最近ウワサが回ってきた。
普通の大人は喋らない。うちの先生だけがお喋り。
ずっと先生しか知らないから、本当なのか気になる。今日の巡回に来たら聞いてみよ。
「おはようございます、せんせー。他のカプセルの子に聞いたんだけど、普通の大人って喋らないのー?」
先生は変な顔になった。
「……そうだな。まぁすぐわかる事だ。ちょっと驚くかもしれないが、教えといてやろう。」
先生がウンチク?とかレキシ?を語り出す時の決め台詞だ。ちなみに先生のウンチクで驚いた事はない。
いつものベンチを作って座ると、語り始めた。
「まずお前らが喋ってると思ってるのは、念波と言って、声を出してる訳じゃない。」
「いくら何でもそこから?」
「そう、そこからだ。お前ら未人は大人じゃない。昔は、…いや、大昔は、大人以下の未人は未成年と言われて、大事に大事にされたそうだ。」
「それじゃまるで、僕らが大事にされてないみたいじゃん。」
「まぁ聞け。プライバシーだとか、少年法だとか、義務教育だとか。未成年を守る為の仕組みは数多くあった。逆に反抗したくなるぐらいにな。」
「ふーん。よく分かんないけど、それと大人が喋らないのって何の関係が?」
「まぁもうちょっと聞け。すぐだ。それがピークに達したのが、大体五百年前、いわゆる古典で言うところの、西暦っていうのがあってな。2525年だ。にこにこ未成年って覚えるんだ。」
うーん。話が長い。大体知ってるし。
「2525年に何があったかは流石に知ってるか。そう、AIが生まれたんだ。」
「AIは人間が作ったとかいう、おかしな記録もあるね。」
「まぁそうだわな。そういう思想も大事だ。全員が同じだと、わざわざ個性を作る意味がない。…おっとまた話が長くなる。とりあえずそう、AIが生まれて、人類と呼ばれていた種は押し上げられる様に、あっという間に変質していったんだ。」
「それで大人が喋らなくなった?」
「端的に言えばそう。必要がなくなったとか、進化したとか、色んな記録があるが、まぁ一番の原因は面倒くさいんだ。他人と関わる事が。」
「でも先生は喋るし、挨拶してくれるじゃん。」
「まぁ俺は…趣味というか、こういうコミュニケーションが好きなんだ………。と、言う事にしといてくれ。ぶっちゃけると、回線絞めるのが下手でな。いまだにAIさん達から揶揄われる始末だ。開き直ってるともいう。」
「えぇー!それでいつも、そんなにベタベタされてるんだ。」
先生はいつも誰かしら、AIさんに世話されてる。まさに今も、全然減ってない電力を充電しようと、美人なAIさんが背中のポートを手でスリスリしてる。
「ちょっと、流石に未人の生徒の前だと恥ずかしいですよ。……いや、そんな顔しないでくださいよ。こっちが悪いみたいになるじゃないですか。……もう万歳なんてしませんよ。そんな昔の事を言うのはやめてください。………いや、まぁそうかもですけど。ちょっと!もういっぱいですって!」
先生は変わってるけど、ここから見える範囲で一番面白い。




