第3章 吐き出した恨み節
ピアットはただただ唖然として私を見ていた。私の毒舌にかなり衝撃を受けたようだった。
よくもまあこんなに辛辣な事が言えるものだと、自分でも正直驚いていたけれど。
(自分は自分でしかない。もう素直で従順な令嬢を演じるのはやめるわ。頑張ってもどうせ貴方の目に私が映ることはないのだから。
今さら貴方から愛想をつかされたとしも、もうどうでもいいわ)
でもそう思えるようになったのは半年前、彼の従姉のメディーア=オコール侯爵令嬢が現れてからだった。
実の姪だとはいえ、彼のお母様に瓜二つの、美人で儚げな守ってあげたくなる女性。本当に私とはまるで正反対だったわ。
彼女の姿を見る度に胸が苦しくなってざわついた。悲しくなって何度も涙を流したわ。
でも次第にお似合いだとは思うだけで嫉妬さえしなくなっていったわ。
私は二人に近付いたこともなかったのだから、嫌がらせなんてできるはずがなかった。
それなのに、運命の恋人同士を引き裂く悪役令嬢だと呼ばれるなんてあんまりじゃない?
情けなくて惨めで腹立たしかった。いくらお人好しの私だって、素直に婚約解消なんてしてやれないと思ったわ。
私がそんな都合のいい安い女だと見られたら、大切な妹のリリアンまで将来男から軽んじられてしまう恐れがあるもの。
それに、社会貢献で芸術家のパトロンをしているお父様まで馬鹿にされてしまうし。
「まあ貴方の理想の女性はお母様のムューラント侯爵夫人だったのですから、私がいくら努力をしたとしても、土台無駄な話だったのでしょう。
ようやく貴方もご自分のお好みの女性を見つけられたようですから、私の存在なんて邪魔者以外の何ものでもないのでしょう?
だから貴方のために婚約破棄をして差し上げようと言っているのですよ。
とはいえ、ただの婚約解消にしたのでは、父の名誉に関わりますし、こちらにとっては不利益ばかりになってしまうのでそれは無理ですわ。
ですからそちらの有責になることは仕方のないことだとご理解ください。
いくらなんでも多少は我が家に恩を感じていらっしゃるでしょう? いくら図太い貴方でも。
そもそも、慰謝料や借金返済も今の貴方なら別にそれほど懐も痛まないでしょうし」
「ほ、本当に待ってくれ。突然色々言われても頭が追いつかないよ」
怒涛の如く私が喋ったので、ピアットはただただ驚き戸惑っているようだった。
このソフーリアン王国の中で一番の難関と言われている王立学院で、領地経営学科を主席で卒業した私がわかりやすく説明したのよ? それなのに理解できないのかしら?
貴方だって王立音楽学院ではずっとトップの成績を修めていた特待生だったと記憶していたのだけれど。
それってもしかしたら、専門分野の音楽関係だけ優秀だったのかしら? まさか違うわよね?
それとも単に、私がこんなにたくさん喋ったから驚いているのかしら?
そうかもね。これまでの私は貴方に嫌われたくなくて、必要最低限のことしか話さなかったものね。まあ、話す時間がなかったせいもあったけれど。
「私の方には待つ必要などありませんわ。今貴方にお話ししたことは、書類にして既に貴方のご実家の方へ送らせてもらいましたから。
そもそもたとえ私から婚約破棄されても、貴方は何も困らないでしょう?
既に社会的ステータスを確立されていますし、高収入も得ている。私でなくても跡取りのご令嬢と結婚されれば、次男の貴方でも貴族でいられるわけだし。
いえ、そのうち国の名誉を高めたとして陞爵される可能性が高いですから、婿入りなどせずとも当主になれるのではないですか?
そうなれば貴方はおもてになりますもの、すぐに貴方のお好みの女性が見つかる、いえ、もうお付き合いしている方がいらっ……」
「ぼ、僕は君が好きなんだ。君が僕の理想の女性なんだ」
「お付き合いしている方がいらっしゃるでしょう」と続くはずだった私の言葉を遮って、ピアットが勢いよくそんなことを言い出した。
それを聞いて、それまで冷静(本人的には)に対峙していたつもりだった私もさすがにカッとした。
逆流した血で頭部全体がパンパンに膨らんで、長年保ってきた令嬢の仮面がパリンと割れた……ような気がした。
最後まで彼の好む毅然とした貴婦人を貫きながら別れようと思っていたけれど、これ以上我慢ができなくなった。
冗談じゃないわ。ふざけた事を言うな!
私は怒りの形相でこう言ってやったわ。
「私は本来ガサツで、優雅とは無縁な性格なんですよ。それは貴方だって覚えていますよね?
私が幼い頃から貴方の兄上のロジアン様と両家の庭園、そして領地内の草地を駆け回って遊んでいたことを。
そんな私を、貴方は『野蛮な雌猿』と、はっきり面と向かって呼んで侮蔑していたのだから」
私の言葉に彼は激しく首を横に振って否定しようとしていたが、今さらそのパフォーマンスに何の意味があるのかさっぱり分からなかった。
私を嫌っていたという事実を否定したところで、実際にそう思われるような態度を取り続けてきたのだから、貴方が有責である婚約破棄は変えられないのよ。
さっさと諦めてこの申し出を素直に受け入れなさいよ、とあの時私は思ったのだった。




