表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お人好しの悪女はもうごめんです。音楽の聖人になった婚約者様、さようなら  作者: 悠木 源基


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/45

第14章 父の視点から⑧王城編


 婚約破棄という言葉にホール内は再びざわついた。

 自分達が何の落ち度もない伯爵令嬢を追い詰め、婚約破棄をさせてしまった。その後味の悪さを感じているようだった。

 しかし、どうせそんなものは一時の感傷で、彼らはこんなことはすぐに忘れて、また新たに攻撃する標的を見つけ出して楽しむことだろう。

 

 

 せっかくの国王夫妻結婚記念パーティーだというのに、これは悲惨だなあ、と私は他人事のように思った。

 しかしまあ、娘の名誉だけは最低限取り戻せたから良しとするが。

 もう、みんなダンスを踊る気分でもないだろう。無理矢理にでも姪を連れて帰ろうと私は思った。

 

 しかし、ムューラント侯爵と令息に咎められ、制止されても、ピアットに近付こうと足掻いている女に目をやって、ふと考え直した。

 あんな害虫を放っておいては駄目だと。

 彼女がアクジット商会の娘だというのなら、特殊な薬をこの国に持ち込んで使用していたとしても不思議ではない。

 もし実際に本人だけでなく他人にも使用していたとしたら大変だ。このまま放っておいたら薬漬けになってしまう恐れがある。

 そんな中毒患者が国内に徘徊するようになったら大変だ。

 私は仕事で世界を飛び回っているため、麻薬中毒患者が社会問題になっている様を直に見てきたのだ。


 


 たしかに憧れの大スターが登壇するということで、貴族のみならず王家まで浮かれていた、ということはわかっている。

 たった一人の愛する女性の前でしか歌わないと宣言しているピアットの生歌を、同じ壇上で聴けたなら、それこそ各国の集まりの席でだって自慢ができることだろう。

 本日の主役の片割れであるにもかかわらず、その存在を誰にも気にされていない国王陛下でさえ、楽しみにしていたように見受けられたくらいだし。

 陛下と目が合うと、慌てて顔ごと逸らされた。

 国王陛下もそりゃあお困りだろう。大聖堂が選んだ音楽の聖人に対して、失礼極まりないことを王家自らやらかしたんだからな。

 

 王家は、聖人に選ばれたピアットが婚約者を裏切って浮気をしていたと思い込んでいたのだ。いくら悪女に騙されたとはいえ。

 しかも、なんの落ち度もない自国の令嬢を虐げて、不倫をしている他国の令嬢の方を持ち上げ、その後押しをするために王宮のパーティーに招待するなんてどう考えても異常だ。

 王家の倫理感はどうなっているんだ!という話になる。

 

 まあ、信仰心だけでなく、王家に対する忠誠心も薄い私にとっては、王家の評判が落ちようと知ったことではない。

 しかし、先ほどの王妃と王太子妃の会話を思い出して、いくらなんでもこれはほっとけないと思ったのだ。

 

 だから私は、ムューラント侯爵親子の側に近寄ってこう訊ねた。

 

「この半年、彼女とは食事を共にしていたのですか?」

 

 すると二人は揃って首を横に振った。

 

「この女は我が家の客人などではなく、薬を盾に強引に居座った押し入り強盗です。

 顔も見たくなかったので、できるだけ接触しないように心がけていました。

 客室からは出さないようにして、食事は部屋へ運び、監視を付けていました。

 それなのに、まさか使用人を金で買収していたとは考えてもいませんでした。情けない限りです」 

 

「いや、そこまで対策を取ったのは賢明だったと思いますよ。もし食事やお茶を共にしていたら、それこそ毒に近い薬を混入されていたかもしれませんからね。

 裏切った使用人には見当が付いているのですよね? 

 えっ、部屋に密かに監禁している? それは賢明なご判断でしたね。良かった。その者の証言を得られたなら彼女を逮捕することができますからね。

 どうせなら、今この城にいる騎士に証人と、彼女の連れてきた使用人達を確保をしてもらいに行ってもらえばいいのではないですか? 逃げられる前に」

 

 私が話している間にも侯爵親子だけでなく、王太子妃がさらに顔色を悪くして、ガタガタと大きく震え出した。

 彼女は自分のお茶会にメディーア=オコール侯爵令嬢を招待し、飲食を共にしていた。だから、彼女が特殊な薬を取り扱う商会の娘だと知って、今頃恐怖を覚えたのだろう。

 

「彼女から何か贈り物をもらいませんでしたか?」

 

 私がそう訊ねると、彼女はガクガクと縦に首振った。

 

「もしかしてそれはお茶の葉か何かで、王妃様にもお譲りしたのではありませんか?」

 

 私のこの言葉に王太子妃殿下は崩れ落ちそうになって、王太子に抱きとめられた。

 それを見た王妃は、全てを理解したようで、すぐに衛兵に指示を与えていた。

 さすがは気弱な国王を支え、陰で女帝と呼ばれている才媛だ。僅かなヒントを与えただけで全てを察したようだ。

 そもそも王太子妃だけでなく、ご自身のこれまでの行いにも疑問を抱かれていたようだから。

 

 

 おそらく判断力が鈍くなるような作用を持つ植物が、お茶の葉に混ぜられてあったのだろう。

 実のところ、その手の薬の噂を以前から耳にしていたのだ。

 

「ガリグルット帝国のアクジット商会は特殊な薬ばかり扱っているが、その中には怪しい物も含まれているらしいから気を付けろよ」

 

 そう貿易仲間から忠告を受けていたのだ。

 それ故に我が商会ではあそこを要注意商会としてブラックリストに入れておいたので、取り引きをしたことはなかったのだ。

 しかし、まさかアクジット商会がムューラント侯爵家の縁者が陰で経営している商会だとは思いもしなかった。

 夫人がガリグルット帝国のオコール侯爵家の出身だと聞いた気もするが。

 

 以前、そんな極悪非道の商会ならどうにかして潰せないものかな、などと考えたこともあった。

 しかし如何せん相手はガリグルット帝国御用達商会だ。そうそう他国の一商会が口を挟めるわけがないよなと諦めたのだ。

 

 しかし、もし彼女が怪しいお茶を王家に贈っていたとしたら、さすがに帝国も今回はお咎め無しには済ませられないだろう。

 何せ他国の王室にそんな毒のようなお茶を贈ったのだ。これまでの悪業とはわけが違う。

 潰すとまではいかないくても、かなりの罰を与えざるを得なくなることだろう。

 そうしないと、国ぐるみで我が国の乗っ取りを図ったと、世間に見られてしまうに違いないから。

 

 それと同時に我が国の方でも、アクジット商会とオコール侯爵家は諸悪の根源だと世間に広めなくていけない。

 今回王家は他国の一令嬢にまんまと踊らされたのだ。さぞかし屈辱に違いない。そのためにこの事実を揉み消したくて仕方がないだろう。

 しかし、こんなに多くの招待客の口を封じるなんて現実的には不可能なのだ。

 それ故にアクジット商会がいかに危険な商会なのか、それを世間に認識させ、仮想敵として国民の敵意や憎しみ、不満を全てそちらに向かわせる必要がある。

 そのためには、まず、この女と付き人、そして屋敷に残っているお仲間を素早く捕まえておかないと話にならないよね。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ