子宝と、地獄。
神埼が冴子の恐ろしい特性を確信した時にはもうおそかった。
何と、冴子はこの時にはお腹に自身の子を宿していたのだった。
妊娠中も冴子は整体学校に通いながら、学生の友達とカフェやカラオケファミレスと外食三昧で遊び周っていて、家事は一切しなかった。
冴子に自由にお金を使われてしまうので、神埼は一生懸命はたらいても食事をするにも充分なお金を使えずに、周囲が見ても驚くほど、体重が減っていた。
冴子は家事を一切しない上に、家を散らかし放題だった。
リビングのテーブルの上にはいつも、メイク道具やお菓子のゴミなどが散乱していたのだった。
冴子に家事をして欲しいなんて思いはとうのむかしに消え失せていた神埼だが、
冴子にせめてリビングのテーブルの上だけは片付けて欲しいと頼んだ。
その翌日。冴子の両親が乗り込んできたのだった。
「妊娠中で心身ともに辛い中頑張っている娘に、満足に掃除が出来ないと責め立てるなんて夫失格だ。」
「自分の子を産んでくれる妻を大切に出来ないなんて鬼畜だ」
「妻が妊娠中くらい家事でも何でも協力出来ないのか」
このような罵声を1時間ほど、神埼に浴びせ両親は帰宅した。
神埼は反論する力すらなかった。
何故ならば、自分もつい最近まで冴子の不幸話を信じきていたのだから。
交際当初、冴子は神埼に壮絶な幼少期の話を涙ながらに話していたのだ。
両親から、家事も自閉症の兄の世話も未就園児の頃から押し付けられて、暴力を振るわれて、奴隷のように扱われていたと。
冴子は、常に自分が誰かに攻撃されている被害者でないと生きていけないのだ。
周りの同情が彼女にとっては生きる源なのだ。
きっと、今は神埼を悪者にする事で悲劇のヒロインを演じて彼女は最高に幸せなのであろう。
夫にモラハラをされて経済DVを受けている可哀想な女を演じる事で生き甲斐を感じているのであろう。
絶望の毎日が過ぎていく中で、冴子は整体学校を卒業して民間の整体師の資格を取得し、
程なくして、第一子の太郎を出産した。