交際〜違和感
冴子と付き合い始めた事で神埼は幸せで充実した日々を過ごしていた。
優しくて、ユーモアがあり明るくて気の利く冴子に会う度に惹かれていく。
付き合い始めた頃に、冴子は自身は壮絶な過去があると涙ながらに神埼に話した。
冴子の家は代々続く古い町中華を営んでおり、両親は朝から晩まで店に出て働いており幼少期から冴子自身が家事をしていたと冴子は語る。
自閉症の兄がおり、兄の世話も両親は冴子に押し付けて友達と遊ぶ時間すらなく、学校にもまともに通えなかったと。
また、生まれつき手に欠損がある事でひどい差別やいじめにあっていたと涙を流しながら話す冴子を見て、
神埼は一生自分が守らなくてはと強く思うのであった。
しかし、冴子を守らなきゃいけないと思う気持ちが強まる一方で、たまに感じる違和感。
以前、冴子が唐揚げを作ってくれた夜のことである。
熱々でジューシーな唐揚げに感激している彼に、彼女はこう言ったのだ。
「私ね、初めて唐揚げを作ったのは2歳の時なの。忙しい両親に奴隷のように働かされていたから、はっきり覚えてる。幼稚園に入る前から洗濯も食事づくりもも全て1人でやらされていたの。」
「大変だったね、よく頑張ったね」と彼女を抱きしめながら神埼の脳裏に浮かんだのは、ちょうど2歳の姪の美香の顔だった。姉の娘であり、実家にとって初孫である美香に両親も自分もメロメロなのだ。
ママ、パパ、バーバ、じーじなど簡単な会話は出来るが、着替えや食事すら大人の手がないと自分1人では出来ない。
2歳の女の子が1人で料理など出来るのであろうか。
ましては、油を使うという危険が伴う行為を。
帰省した際は美香がいる時はヤケドしたらいけないので、暑い湯呑みなど美香の手の届く場所におかないようにみんな注意をはらっているくらいなのだから。
しかし、惚れた弱みか。
神埼は違和感を感じることするら冴子に申し訳なく思ってしまい、もちろん口に出すことはないのだ。
こんなに辛い思いをして一生懸命生きてきた彼女を疑うなんてとんでもない、自分が幸せにしなければと神埼は常に努力をした。
自動車整備士のためそこまで給料は高くなかったが、一生懸命働いて、冴子を旅行に連れて行ったり、欲しいと言われればアクセサリーなどをプレゼントした。