ウィオレンティアちゃんとゴブリン
かわいいゴブリンに会ったよ
強烈なレバーブローが、緑色の腹を深く抉った。
ケツをぶたれた小娘のような悲鳴をあげると、ゴブガリは地面に切ないキスをした。
「汚いラブシーンだ」
這いつくばったそれを見下ろしながらも、私はファイティングポーズを解けないでいる。
茂みから次々湧き出す小鬼たち。その数は私がかぞえられる数――「じゅういち」を優にこえていた。
「じゅうに……じゅうさん……次はじゅうご……だっけ」
闇に蠢く無数の影、その大きさはヒューマンの子供と変わりはしない。しかしその醜悪さは可愛らしいヒューマンベイビーとは似ても似つかないものだ。裂けた口、つり上がった目、腰巻きからはみ出たちんこ。なんという邪悪、なんという破廉恥、それはまさしく魔であった。
「その布、何のために巻いてんの?」
私はゴブガリに腰巻きの意味を問うた。しかし、彼らと会話など出来るはずもな――ウギャギャ、ウギャ、レイプ……ウギャ――いこともない。
これもまた、神、もしくはエロフの権能なのだろう。相手が知性ある存在ならば、私はだいたいお話し出来る。
なるほど、どうせレイプするとき出すから一緒、あるいは、レイプしやすいように……か。
合理的ではある、しかし、問題はそのレイプターゲットがたぶんおそらく私であるということだ。
「性被害者にはなりたくないな」
いまだこの身は乙女である。初めてのお相手がこの緑色というのは、さすがにちょっとハードすぎる。
仕方ない、妖精さんに頼るか。
貞操の危機に出し惜しみは出来ない。私は、私の中にいるもう一人の自分――「妖精さん」に語りかけた。
「妖精さんにでーたの書き換えをようせい! もーどは……うーんと、『人類』で!」
――アドミニストレーターナンバーシックス、コード――ウィオレンティアからの要請を確認。生体データの上書きを開始します。
頭のなかに、私とは違う、誰かの声が響いた。
「相変わらず、なに言ってるかわかんないな」
彼女、妖精さんの言葉を私はまったく理解出来ない。しかしこの声がもたらす力、それがどういうものかは知っている。
私の切り札――ウィオレンティアちゃんチェンジ。
世界に存在する数多の生命体、その力を、私はこの身に宿すことが出来るのだ!
――書き換え完了、モード――人類。
発動したのは、もーど人類。つまり、今の私の戦闘力は、十二、三才のヒューマン女子に匹敵する。
「いくぞ、ゴブガリども!」
ヒューマンの力を宿した私はゴブガリの群れへと突貫した。
「えいっ! この! くらえっ! おや? あれ? あいた! 痛い! うわっ! やめろ! やめ……やめて! ヒィッ、レ、レイプされる!」
私は服をひん剥かれながら、地面を転がるようにゴブガリたちから逃れた。わざわざモードチェンジしたというのに、これはいったいどういうことだ。
「なんだこの弱さは! まるでヒューマンの子供じゃないか!」
私の叫んだ台詞が、すべての理由を説明していた。
選択を誤った。なにゆえ私は、世界に存在する数多の生命体のなかから、ヒューマンなんぞを選んでしまったのか。
「やり直し! 妖精さん、やり直し! もーどは、えーと……えーと……ゴブガリに負けないやつ! そうだ! もーど――」
ゴブガリで――
その後のことはよく覚えていない。
ゴブガリの力を宿した私は、子鬼たちと泥沼の乱戦を繰り広げた。同等の力を持つ者どうし、容易に決着はつかなかった。殺し合いをつづけているうちにゴブガリたちは同士討ちを始めた。戦場は混沌の様相を呈し、凄惨な争いは夜明けまでもつづいた。
そして、その戦いから三年の月日が流れた。
死闘の末、ゴブガリの首領を倒した私は、群れを率いるボスとして日夜縄張り争いに精を出している。
もちろん、何かが間違っている、ということには私自身気がついている。しかし、私の中のゴブガリが、「これはこれでいいんじゃない?」と囁くのだ。
ちなみに、「もーどゴブガリ」を発動した私の肌は、緑色である。
ゴブリンになったよ