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天草教授の怪奇譚  作者: 北田 龍一
郷土研究室の噂
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対話

 焦った頭では、その意図を察するに時間がかかった。『見えている』代永にはさほど違和感が無かったが、残りの二人には――『突如スマートフォンが現れ、空中に浮いてある画面を押し付けてくる』ようにしか見えない。ポルターガイストと誤解されそうだけれど、見えている代永が状況を説明した。


「な、なんか……鳩が自分の懐からスマホ取り出して、軽く操作してからこっちに突き出しているッスけど」


 拘束された三人は、相手が何をしたいのか分からない。しかし今度は、園山が反応した。


「アカウントと、連絡先を交換しろ……? そ、それで、私達をどうする気……⁉」


 宙に浮くスマホの画面を見れば、通信用のアプリが表示されているではないか。男二人が脳をフリーズさせる中、意思疎通の出来る園山が、恐怖と混乱に飲まれながら悪魔と話していた。


「それは――そう、ね。あ、あの、ならスマホを――」


 園山の言葉が言い終わる前に、ちょうど三人の前に、彼ら自身が持つスマートフォンが出現した。同時に、右手を拘束する槍が消え去り、最低限の操作が可能となる。三人に返却されたスマホの画面には『四人用の対話グループ』が作成されており、ここにいない四人目がメッセージを送り始めた。


『――お前ら、ナニモン? 退治屋や教会の連中じゃねぇの? 一人しかオレサマの声が聞こえてねぇみたいだし、コレ使って話した方が早いよな?』


 言われるまで、全く気が付かなかった。確かにこれなら、全員がハルファスの言葉を受け取る事が出来る。良い事なのだが、小原先輩は少し残念そうにつぶやいた。


「こっくりさん一式セットが、完全に腐ってしまったな……」


 霊的なモノと交信する道具、こっくりさん。日本では有名な方式だが、これに対しハルファスのメッセージが帰って来た。


『おいおい、我悪魔ぞ? 用意するなら、せめてヴィジャ盤にしろよ……』

「ヴィジャ盤……って何ッスか?」

『……こっくりさんと似たようなモンだ。西洋圏むこうにも近い奴があるんだよ』


 悪魔のため息が聞こえた気がした。完全に呆れられている気配だが、怒りを抱く余裕はない。未だに拘束を受けている三人に、悪魔の尋問が続く。


『そこん所の違いも分かってねェなら、完全に素人じゃねーか。悪魔に手を出すなんざ百年早いぞ? お前ら』

「手を出すなんてとんでもない! わたしは、わたし達は――『郷土研究室の悪魔』に、取材を申し込みに来ただけです。以前、天草教授の研究室にも取材に参りました。覚えていませんか?」


 何とか小原が弁明するが、メッセージアプリがしばらく沈黙する。既読はついているけれど、次のメッセージが送られてこない……

 まさか覚えていないのか? それとも悪魔の機嫌を損ねたのか? 震えて待つしかない人間たちに、待ちわびた返答が来た。


『悪ぃ。スゲー曖昧にしか覚えてねェや。でもまァ、お前らが退治屋じゃねェ事はよーく理解した』

「そ、それなら、この拘束を解いて欲しいッス……」

『ヤだね。信用できねェし。槍で腹を貫かれないだけ、マシだと思いな』


 改めて、自分たちのした事の迂闊さを悟った。大量の棍の下敷きになり、槍を虫の標本のようにして拘束されている三人だが、悪魔がその気ならいくらでも殺害する方法はあった……のだろう。今自分たちが生きているのは、鳩の姿の怪異が手加減したからに過ぎない。しり込みする後輩二人を差し置いて、小原は下敷きになったまま、記者根性を披露した。


「では、せめて取材をさせていただきたい」

『……今の立場わかってんのか?』

「それでも――『本物』と立ち会えたのです。取材せずにはいられない!」

『はっはっは……死にたいらしいな? バーカ』


 酷い罵倒の文言に園山は震えた。小原は馬鹿と言われても、自信ありげな、どこか挑発的な笑みを浮かべている。『見えている』代永だけは、鳩が愉快そうに笑っているのが分かった。だから、次のメッセージをすんなり受け入れられた。


『でもまァ、オレサマも時間を持て余しているからよォ~……暇つぶし程度に、取材とやらを受けてやってもいい。不愉快な事を言ったら処すけどなァ!』


 見せしめのように、追加の槍が視界の端に突き刺さる。後輩二人が固唾を飲む中、小原は一切怯まずに、彼には見えない、感じない存在へ取材を敢行した。


「あなたは……ソロモンの悪魔、ハルファスで間違いありませんか?」

『おぉ? 素人かと思ったが、オレサマの事は知ってんの?』

「特徴から、事前の調査で推測したのです。前々から『郷土研究室に悪魔がいる』という噂はありましたが、詳細までは不明でして。そして……『天草教授は、悪魔の力を借りて教授職を得た』なんて噂もあります」

『ふぅん……』


 早速噂について切り込む先輩。反応も含めて、お互いに様子見の気配がある。機嫌を損ねぬように、慎重にかつ大胆に、小原は推測を手に踏み込んだ。


「ですが……資料で見た『ハルファス』の性質と、今こうしてあなたの力を体験して確信しました。天草教授は、あなたの力を使って教授職を得てなどいない。悪魔ハルファスの権能は、学会で成り上がるに不向き過ぎる」


 それは事前の調査でも、浮かび上がっていた疑問点。証拠の無い憶測で、これが間違っていたら機嫌を損なう可能性もある危険な賭けではあった。けれど、勝算も十分にあるからこそ、小原は手札を切ったのだろう。

 悪魔ハルファスの主な能力は三つ。

 武器庫に武具を満たす能力。すなわち棍や槍などをどこからともなく出現させる能力。

 塔・要塞・防衛拠点などを作成する能力。土嚢を展開する能力もコレの応用だ。

 そしてもう一つ――兵士を自在に転送する能力は、対話の最後に披露される事となる。

 今はまだその時ではない。彼らの会話、いや取材は続くのだから。

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