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天草教授の怪奇譚  作者: 北田 龍一
『動物ゾンビ』の噂

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進む調査

 やはり今回の『動物ゾンビ』騒動は『捨てられたペットがゾンビ化して帰って来る』流れのようだ。以前の相談者の『フクロウ』や、今回の『アカミミガメ』あるいは『ミドリガメ』も、後々飼うのが大変になる生物だった。

 そんな人の都合なぞ、動物側には関係ない。理不尽極まる行為に違いなく、怨念返しめいた現象のように思える。報いを受けろと叫ぶのは、ゾンビの術者か動物側か……それを判別するには、専門家たるシギックの調査を待つ必要があるだろう。時間が必要な事は想像できるので、その間に教授は経緯の把握に努めた。


「捨てた亀がゾンビになって帰って来た……だいたい何日後ですか?」

「二週間ほどでしょうか? ある日の夜……窓際で何かで引っかくような音がしまして……真っ先に息子が気が付いたのです」


 両親側の都合で、離れ離れになった息子さんと亀。ゾンビ化してしまったとはいえ、未練があるなら、そして幼い少年であれば――その後の行動は予想できた。


「その後……息子さんは亀を室内に招き入れたんですね?」

「はい。夫も目を覚ましていたのですが、止める間もなく息子は窓を開けてしまって。すぐに駆け寄って、ぺたぺたと触れ合っていました」

「襲われなかったのですか?」

「……息子は平気でした」


 暗い顔の奥さんは、右手小指の包帯を解く。赤く腫れた噛まれた痕は、捨てた亀に襲われたのだろう。会った直後の『ゾンビは感染しない』宣言で安堵を見せていたのは、自らや家族に『感染』の恐怖が付きまとっていたから……か。


「息子は……名前を呼びながら、酷い姿の亀の子を撫でてたんです。夫も私は……震える事しかできなくて。でも、その、なんと言えばいいのでしょうか……息子には、いつも通りの態度でした。息子だけには、よく懐いていた亀でして」

「……」

「でも、私達夫婦を見つけた途端……すごい勢いで迫ってきまして。それで、私と夫が……噛まれてしまいました」

「旦那さんも指を?」

「左足の親指だったかと思います」


 自分を捨てた二人には傷跡を残し、自分を愛でていた子には何の危害も与えていない……事前にシギックから聞いていた情報との違いに、天草教授は困惑した。

 この証言によって、ある一つの疑問が生まれた。それは『ゾンビ化しているにも関わらず、知能の低下が抑えられているのではないか?』との疑問だ。

 もちろん動物である以上、人並みの知能は無いが……しかし『自分を可愛がっていた人間』と『自分を捨てた人間』の判別は、動物でも出来るだろう。もしそうした『個人の判別』が不可能なほど知能が低下していれば、息子さんも襲われていたかもしれない。


「私達は……情けない事に頭が真っ白で。でも、息子は冷静でいてくれて、慌てて亀を離してくれて。その後は……危ないから息子に『亀を放せ』って言ったのですけど、全く聞いてくれなくて」

「……一度無理やり離れ離れになってますし、子供としてはそうでしょうね」

「……はい。私も夫も、遅ればせながら罪悪感が生まれまして。だから、しばらく息子と二人きりにさせようと。今にして思えば、かなり危ない事をしていました。無責任、と言われても何も言えません」


 それは子供に対してか、捨てたペットに対してか。とてもじゃないが、責任感のある人間の行動ではない。ゾンビ襲来は……百歩譲って異常事態と割り切るにしても、ソレを引き起こしかねない状況を作ったこの奥さんに、情状酌量の余地はない。ブチ切れる代わりにため息を吐いて、教授は冷静になるよう、必死に自分に言い聞かせた。


「それで? 今の状態になったのは?」

「時間は……正確な所は分かりませんけど、しばらく二人きりにしていたら、急に息子が泣き出したんです。夫と二人で駆け寄ると……もう全く動かなくなっていて。恐る恐る調べてみたら、ただの死体に」

「……よく保管する気になりましたね?」

「息子が嫌がったのと……捨てたらまた、蘇るかもしれないと。ですから、クーラーボックスに」

「鍵も閉まりますし、氷を敷き詰めれば腐敗も防げるから……か」


 死体を入れたクーラーボックスは、棺であると同時に封印のつもりだった……か。きっと教授たちが来るまでの間、様々な恐怖がこの両親の胸に渦巻いていたのだろう。

 自分や家族が『ゾンビ化』するかもしれない恐怖。下手に捨てればまた『ゾンビとなって戻って来るかもしれないペット』の恐怖。これ以上、息子と親子関係がこじれてしまう不安……そこに『専門家と大学教授』の情報が入れば、飛びつきたくもなるか。

 全ては自分たちが蒔いた種だろう。もしこれが『霊的現象の調査』で無ければ、本気で怒鳴りつけて見捨てたかもしれない。何度目かのため息の後に、ちらりと教授は『専門家』の方を見た。


「シギック。どうだ? 調査の方は」


 教授が尋ねると、死霊術師は唇を結んで唸った。あまり良くない知らせのようだ。


「ボクの専攻している術式と……違う、かな」

「なんだって? 死霊術ではないと?」

「あぁいや、死体の中の残滓とか調べると、死霊術ではあるんだよ? でも、あんまり馴染みがないんだよね……」

「分かるように話してくれ」


 難問と向き合うような表情のまま、シギックは手に取った『ゾンビ亀だった』死体をまじまじと眺めていた。


「ゾンビは基本、呪術をかけて作るか、特殊な霊薬を投与して作るか、その両方を使うかなんだ。でも、この構成は見た事無くて」

「なら、それが『ゾンビ』と関連するか分からないじゃないか」

「見た事は無いけど、呪術を使った側の意図は理解できると言うか……ホラ、専門で何かやっているとさ。基本的な所は、パッと見で分かる事ない?」

「……ある。なら、このゾンビが薬か呪術かも判別できるのか?」

「うん。間違いなく呪術のみの構成だよ」


 何の迷いもない断言。教授も奥さんも目を丸くする。専門家特有の早口で、つらつらとシギックは説明を始めた。


「『ゾンビ』は基本、人間を材料にして作る物だ。で、動物用に投薬するとなると……専用の調剤をしなきゃいけない。普通の薬だってそうでしょ? 人間用のをそのまま動物にブチ込んだら、薬の量が多すぎたり不具合起こすよ。動物ごとの個別の調整も必要……って考えたらムリムリ」

「確かに。素人でも想像できる」

「となると、呪術を使ってゾンビを使役した事になるけど……ん? なんだこれ?」


 シギックが亀をひっくり返し、裏側を見つめると……腐りかけの亀の体液で汚れた、何らかの紙を発見した。長方形のソレは、何らかの文字が書かれていたようにも見える。判読は出来ない。多少損耗しているが、元の大きさは千円札ぐらいだろうか。パッと見の所感を教授は述べる。


「……呪符か?」

「んんん? ますます分からない。呪符でゾンビを制御するなんて、聞いた事ないけど……それにどちらかと言えばコッチの、アジア圏でよく使われる方式だよね?」

「現代日本でも、お札を貼って封をする事はあるが……」


 シギックも教授も首を傾げているが、手掛かりには違いない。いくつかの事を明言しつつ、教授は相手に許可を求めた。


「――繰り返しになりますが……奥さんや旦那さん、息子さんが『ゾンビ化』する危険性はありません。気分が優れないとしたら、気の持ちようか風邪でしょう。それと、この死体が起き上がる事もありません。そうだな? シギック」

「う、うん。間違いないよ。もうこれは、ただの死体。術式が死んでる」

「そうですか……ありがとうございます」

「ただ、まだゾンビ化の事件は解決していません。調査のために、この紙を回収させてもらっても?」

「えぇ、えぇ、是非役立てて下さい」


 最後は抵抗なく、一つの手がかりを手に調査を終える。

 手にした札の正体は、果たして次の不吉を招くチケットなのか――

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