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天草教授の怪奇譚  作者: 北田 龍一
『異世界転移の珠』の噂

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先入観による誤解と

 小さな違和感を繋ぎ合わせ、導き出された結論――『異世界転移の珠』の噂の正体は、現代の人間を過去、南の島国に生きる誰かの身体へ憑依させる呪術だった。断言できる要素は無いが、教授としては『異世界転移』と言うより納得できた。とはいえ――


「ま、これも私の推察に過ぎない。本当に『異世界転移』の可能性もあり得るが、こちらの方が私としては筋が通ると思う」

『いやー……魔物とか全く出て来ないし、力弥を呼び出す以外の魔法や魔術の、異世界ファンタジーでありそうな奴が無かったのに、なんでその可能性をスッパリ切っていたんッスかね』


 いくつか原因があるだろう。力弥の視点で話を聞き、体験の一部が『異世界転移・転生』の話や『過去への逆行転移・転生』に被っていた事から――『異世界転移できる珠』ど誤認され、噂として流布されていた。なまじこの手の話を知っている分、違和感を覚えつつも『異世界転移の範疇だろう』と思い込んだ……


「先入観とは恐ろしいな。いくつか要点が同じなだけで、細かな違和感に目をつぶってしまう」

『ホントそれッスよ……力弥の話を聞いてすぐ『あ! これ小説家になろうで読んだ奴だ!』って、完全に思考が固まっちまいましたし』


 他の可能性を切り捨てていたからか……代永は教授の話を聞き入っている。あまり相手を責めないように、何故代永が思い込んでしまったかを、教授は解説した。


「滅亡した文明目線の記録が、現代に残っていないのも大きい。人間誰だって、自分たちの汚点は無かった事にしたいものだからな。侵略後、その手の記録は発見次第抹消されたのは間違いない。『植民地化に際し、自分たちがいかに残虐な行為をしたか』なんて記録は、残したくないだろう? それに人間ってのはおめでたい頭をしている。言われなくても分かるような事でも、指摘されないとすっぽ抜ける。加えて事前知識や教養の差は、信じられないぐらいの溝を生むものさ」


 片や『なろう系』の近年サブカルチャーに慣れ親しんだ世代。片や民俗学を専攻とする教授。同じ話を聞いて、全く別の解釈をするのも道理か。

 だが――この話には、奇妙な共通点が存在していた。


『そんなオレでも、動機だけははっきり分かるッスよ』

「あぁ。力弥君も明言していたな」

『自分たちが滅ぼされる事を、何とか回避したい……そのために過去の人たちは、現代の人間の知識を借りたい。ですよね? ここは『なろう系の勇者召喚』と、類似している所ッスね』

「誤解の原因でもあるが……私も異論はない。これだけは明らかだ」


 滅びの運命の回避……異世界か過去文明の差こそあれ、誰だって滅亡したくない。他力本願と言えるかもしれないが、いざ絶滅が目の前にやって来て、傍観する者がいるだろうか?

 答えは明確だ。たとえどんな愚か者であろうとも、そこらにいる虫けら一匹でさえも、自らの命が尽きるその瞬間まで、足掻きもがくに決まっている。だが、代永は一つの疑問を見つけたようだ。


『でも、それならなんで『厄災』とか、未来に対して島の人たちも曖昧な表現なんッスかね? 最初から『侵略者が来るから戦争に備えろ』って断言できていれば、もっとしっかり対策できるんじゃ?』


 教授は返答に詰まった。これは代永の意見が正しい。滅亡する事は分かっているのに、その原因が不明瞭なまま。現に力弥も大掛かりな災害と予測したために、実際の『厄災』への対処に失敗している。しばらく考え、何とか教授は憶測を文章に落とし込んだ。


「何らかの理由はあるのだろう。元々呪術として、急ごしらえなモノだったのかもしれん。ただ、何にせよ完全な解析は難しい」

『どうして?』

「呪術の形式が失われているからだ。君に分かるように言うなら……『一子相伝の奥義が、誰にも伝わらずに途絶えた』かな?」


 秘伝の技術や文化は、復元が不可能に近い。ごく少数、限られた地域のみに伝わるモノは、引き起こされる現象のみに注目が集まり、工程や過程が軽視されがちだ。現代でも失われた技術はいくつも存在する。滅亡した文明の呪術を解析するのは、専門の教授をもってしても困難だ。だからこそ――教授はあるモノに強い興味を引かれていた。


「せめて『異世界転移の珠』の実物が手元にあれば……いや、あった所で復元は不可能だろうが、色々と研究のし甲斐がある」

『そっか。あの噂の珠は……いわば『呪物』なんッスね?』

「間違いない。その珠を持った人間の魂を、過去のある地域に呼び出す珠。口寄せ用の触媒だ。恐らく『最初に島の文明が滅ぼされた時、誰も呼び出されなかった世界』で生成され、巡り巡って現代まで大人しくしていた……のだと思う」


 最初から備えていたのか、西洋圏の人間の侵攻を受けてからの急ごしらえなのかは分からない。けれど、黙って滅びを受け入れられなかった。最後の最後の悪あがきの種が、この西暦二十一世紀で目を出したのだ。


『なんで今までは静かにしていたんッスかね。って、これも教授に聞いても分からないッスよね……』

「どっかの蔵に眠っていたのが、たまたま見つかったのか……他にあるとすれば、異世界転移の流行も関係しているのかもしれん」

『えっ……ここに来て関連あると?』


 こればかりは――『実際に悪魔を見ている』人間でなければ実感が難しいだろう。教授はちらりとハルファスの方を見てから、一つの法則を伝えた。

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