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天草教授の怪奇譚  作者: 北田 龍一
『異世界転移の珠』の噂

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勇者の敗北

「最初は、平和的な異文化交流だったと思う。アイツらもただの探検家で、世界の海を船で巡っている。そう言っていたし、表情とか言葉にも嘘が無い。なんて言えばいいのか……新しい文明に触れる興奮? って言えばいいのかな。それを楽しんでいるように見えたし、こっちも近い気分だった」


 異世界を語る力弥の表情は……過去を懐かしむ様子と、痛烈な後悔を滲ませている。最初の時の荒れた気配、敗残兵の感触もある。教授は静かに問いかけた。


「異邦人とその歓迎か……探検家と言っていたな? となると、定住はしなかったはず。船が出発する前に、水と食料なども提供したんだろう? 燃料は……」

「帆船だからいらない。その分、航海に時間がかかるから、水と物資は大量に要求されたが、色々と物々交換したよ。向こうは荒っぽい気質で、やたら声が大きかったけどな」

「はえ~……船乗りの気質って、異世界でも変わらないんッスね」

「船上の環境が、さほど変わらないからだろう。陸に上がるまでは閉鎖的で、物資の身勝手な浪費が許されない。保存食しかマトモに喰えず、娯楽もどうしても限定される。危険は素早く察知し、大声で伝えて全員で即応せにゃいかん。結果、異世界だろうがこっち人間だろうが、精神性が似通うのだろう」

「「へー……」」


 少々話が脱線したが、話を異邦人たちに戻す。最初は友好的だったのなら、途中から風向きが変わったのだろう。きっかけについて尋ねると、数度の交流ののちから、雰囲気がおかしくなり始めた……らしい。


「三回目か、四回目の上陸の後だったかな……アイツら、自分たちの言語で密談を始めたんだ」

「内容は? 聞き取れたのか?」

「あぁ。俺の前だってのにナメられたモンだ。分からないふりをするのが大変だったよ。

 ものすごく大雑把に話すと……島ごとの部族同士の軋轢を利用して、両方に武器を売り込んで……憎悪を煽って内乱を起こさせ、消耗した所を借金漬けにて全部奪っちまえなんて悪魔みたいな計画だ」

『悪魔もこの規模でやる奴は珍しいがな。いやァ、人間って怖いねェ……あ、この場合は異世界人か』


 本物の悪魔にこう言わせるのだから、実行を企てた奴らは鬼畜外道と断じて良い。「当然、長老たちに計画を伝えて、白い悪魔どもを撃退するための備えをしたよ」と、力弥は続けた。


「最初は他の部族も、半信半疑だったが……しばらくしたらアイツらが、憎悪を煽るようなやり方、妙な唆し方をしてきたから、逆に俺が信用された。おかげでほとんどの島の部族を味方に引き込めた、一・二割ほど向こうにつく奴らもいたけど」

「元々いがみ合っている部分もあったのだろう? 二割以下なら上出来に思えるが」

「それでも、その二割が……いや、そんなに変わらなかったかもしれない。数の問題じゃ無かったから」

「戦いは数って言うッス。数が揃っているなら、大体何とかなるんじゃないッスか?」


 ちらりと教授が『軍事専門の悪魔』を見やると、難しい顔で唸りつつも、微かに頷いている。『消極的肯定』と言った所か? しかし力弥は、絶望的な差があったと証言する。


「戦力差は絶望的だった。より正確に言えば、装備の差が絶望的だった。人数差が圧倒的だったけど、装具の差が……相手は鉄の鎧を着こんでいたし、マスケット銃と弾薬をあんなに持ちこまれたら……」

「アサルトライフルとか、ロケットランチャーじゃないだけマシなんじゃ……そこまで絶望する事は」

「現代基準で語らない方がいい。相対的な差があるのだろう? 君の集落の装備は?」

「木の皮や動物の皮を重ね張りした鎧に……量産できるのは、竹槍と弓矢がせいぜいかな……」

「な……ちょ、ちょっと待てよ力弥。お前を召喚できるんだから、なんか、スゴい魔法とか呪いとか使えないの⁉」

「あるにはあるが、準備に時間がかかり過ぎるし即効性も無い。俺の召喚だって、三日三晩巫女たちが詠唱し続けて、俺を呼び出した直後に全員ブッ倒れたそうだ」


 代永は唸り、反論を引っ込めた。順当に考えれば、別領域から人間を呼び出すのは容易ではあるまい。恐らく、そうした『大掛かりな呪術』は存在するが、代永が想像するような、戦闘に使える即応性の高い魔術は発展していなかった……あるいは使えなかった。

 加えて、この絶望的な装備差だ。原始的な南の島国VS中世ヨーロッパ基準の装備……もっと言うなら『銃』が最悪過ぎる。


「防具がほとんど役に立たんな……加えて相手は、長射程と高精度で君の部族を殺して回れる」

『んでこっちからの攻撃はほとんど通らない……か。確かにこりゃ、数の優位が意味をなさねぇわ』

「ゆ、弓矢を頭上から降らせれば……」

「鉄の盾を構えられて終わりだよ。こっちの矢じりに鉄製の物はない」

「そ、それじゃあ戦争にすらならない! 一方的な虐殺じゃないッスか!」


 反論はない。それはつまり――代永の発言を、肯定するしかないのだろう。現に力弥の表情は……敗残兵のソレへと変貌していた。


「一応、避難経路を使って持久戦に切り替えはしたよ。アイツらはこっちの熱帯環境に慣れてないし、装備も重いから長期戦に持ち込むしかないと思って」

『ほぅ? 地の利を生かしたか。素人と思いきや、悪くない選択だ』

「……君なりに、君のしてきた事を生かそうとした訳だ」

「だけど無駄だった。確かに日数は稼げたけど……こっちはいくら増援があったって、相手との装備差がひどすぎて意味が無い。そうこうしているうちにアイツら……森や村に、火を」

『焦土作戦か。侵略した後が面倒だが……いや、奪い取れる物が少ないと判断されたかね。これは』


 ちょくちょく悪魔が口を挟むが、最後の力弥の証言で、一気に興味が失せたらしい。それはつまり……焦土作戦により、勝敗が決定したのだろう。

 異世界に呼ばれ、彼なりに部族の力になろうと貢献した少年。滅亡の未来を回避すべく動いたが、結局予言は成就してしまった。侵略者によって島に火が放たれ……何もかもを、失った。

 なるほど。これなら敗残兵の気配を出せるのも納得できる。基本、狂気や激しい妄想話は、整合性が酷い事になりがちだ。一通り筋が通る発狂もあるが、極度のレアケースまでは配慮できない。それに――教授としては、既にある一つの仮説が脳裏に浮かんでいる。質問しようとした直前、力弥は思いつめた表情である事を喋り始めた。


「妻と子供は……逃げ切れたと信じたいが、分からない。でも、あの様子だと……殺されたか、あるいは……」

『死んだ方がマシな目に遭ったかだろうな』

「……それで? 君は救いたいのかね?」

「……あぁ。そうだ。だから……俺が死んで、こっちに戻る直前に族長に頼まれたんだ。『次の勇者に、珠を渡してくれ』って」


 珠と聞いて、その場にいた全員の視線が集中する。

 力弥の表情は、苦悶に揺れていた。

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