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第05話~露店と夢~

耕介が二日酔いで痛む頭を押さえながら食堂に入ると、すでにリリーとレイラ、サモンズが朝御飯を食べていた。


「…おはようございます」


「おはよう」

「おはよ~」

「おはよう」


二日酔いなどどこ吹く風のサモンズ達と挨拶を交わし、サモンズの隣に座って食べ始める。


「あれ?ヴァイスさんは?まだ寝てるんですか?」


耕介は昨日の飲み会でヴァイスに敬語禁止と言われていたが、それはヴァイス、レイラ、リリーだけ。

サモンズに対して敬語を使わないのは失礼に当たると、今までどおりに尋ねる。


「あいつは帰ってきてない。どこかの女のところでも行ってるんだろう」


苦笑している耕介に、リリーが話しかけてきた。


「それにしても、昨日は驚いちゃったわよ~。魔法にあんな使い方があるなんて、普通思いつかないわよ~?」


レイラも半分呆れ半分笑いながら話す。


「そうね。普通、攻撃魔法を料理に使うなんて思う人はいないわね。魔法を覚える時は攻撃する相手に向って練習するし、先生も詠唱を短くする方法、集中力を増す方法、戦い方なんかは教えてくれるけど、他の方法なんて全然教えてくれなかったわ。

それに氷の攻撃なんかで氷を作ってもすぐに消えちゃうから全然冷えないし、効率悪いから誰もやらない。

冷やすためだけに魔法を使った人って、貴方が初めてじゃない?」


「魔法を知ったばかりだから、一般的な使い方知らないんだよ。だから、何のための魔法って考えるより、魔法で何ができるかを考えただけ。大した事じゃないよ」


「そんな事無いわよ~。デリザラス王国で勉強したけど、物を冷やすなんて誰もやっていなかったわよ~。

だから、コウスケは凄いのよ~」


「あはは」



魔法で冷やせたら便利だな~って感じで、言ってみたら出来ただけなんだけど…。

それに俺からすれば実際に魔法で凍らせたリリーさんの方が凄いと思う。


耕介が勝手に気まずくなっていると、サモンズが話しかけてきた。


「コウスケ、広場には何時ぐらいに行くんだ?なんなら、荷車を引いてやっても良いぞ?」


「ゲイルさんが戻ってきてからです。でもサモンズさんに悪いですよ」



本当は手伝ってくれると嬉しい。俺一人じゃ時間かかりそうだしなぁ。


そんな耕介にサモンズが言い放つ。


「気にするな。俺も昨日のアイスキャンデー食ったからお互い様だ」


そっぽを向くサモンズに、三人は顔を見合わせ苦笑する。


「ふふ。では、お願いします。実はちょっと重いかな?と思ってたんです」




耕介達が雑談をしていると、汗を拭きながらゲイルが戻ってきた。


「コウスケさん、お待たせしました。荷車使っていいですよ。今日一日はもう使いませんから」


「ありがとうございます」


耕介はゲイルにお礼を言い、荷車に荷物を詰め込んで出発する。





***





噴水広場──広場の中心に噴水があり、周辺200mほどが大きく開かれている。噴水広場からは東西南北4つの通りへ抜けられる様な造りだ──には既に露店が数店並んでいた。

十字路の出入り口は既に占拠されてしまっているが、気にしない。



甘くて冷たいお菓子を誰も売っていなければ、俺の独占商売になるはずだ。


耕介はなるべく人が大勢並べるような場所を選び、露店の準備を始める。



今日も太陽が降り注ぎ暑いのか、みんな汗をかきどこか足早に見える。


「さてリリーさん、とりあえず10本お願い。あとはお客の状況で追加するから。レイラさんは出来た10本を家族連れの子供中心に配ってきて。配るときには必ず、『今回は1本無料。次回はアイス1本銅貨50枚で販売中』と場所もあわせて伝えるのも忘れずにお願い」


「分かったわ~」

「分かった」



耕介とリリーが作り、レイラが家族連れを見つけて渡しに行く。

最初は怪訝な顔をしていた家族も子供の喜ぶ顔を見て笑顔に変わる。

もちろん、そのまま立ち去る家族連れもいたが、大半は奥さんも食べたくなり買いにくる。


耕介は女性の強さと男性の弱さに切ない気分になりながら、販売を続けていく。


「あら、みかん味だけじゃないの?」


「いらっしゃいませ。みかんの他に、林檎、レモンがございますが、どちらに致しますか?」


「じゃあ、林檎を1つ頂戴」


「林檎のアイス1本で銅貨50枚になります。お買い上げありがとうございます」


必ずお客様の注文を復唱する事で、誤注文を防ぐ努力をする。

あわせて、『アイス』という言葉の定着も狙っている。


「ママー!あたしもあれほしい~!」


「あれって?」


「あれ~!」


「…甘くて美味しい~」


女の子は満面の笑顔でアイスを食べる男の子を指差し、母親にアイスをねだる。


「…あの、おいくらかしら?」


「いらっしゃいませ。アイス1本、銅貨50枚になります。何味が良いですか?みかんと林檎、レモンから選べますが」


「へ~。どれがいい?」


「…う~んと、う~んと、みかん!!」


「じゃ、みかんと林檎を1本ずつください」


「みかんと林檎1本ずつ銀貨1枚になります。…はい、どうぞ。ありがとうございます。リリーさん、追加で20本お願いします」


「はい~」


「ねぇ、あそこでやっているのがそうじゃない?…すみません。アイスはここで売っているんですか?」


「はい、こちらで売っていますよ~」


ギルドで噂を聞きつけた人達や、広場でアイスを舐めている子供達の喜ぶ顔に釣られた人達が、徐々にこちらに集まってくる。


「レイラさん、もう配らなくて良いです。こっちで手伝ってください。リリーさん、追加でアイス作成をお願い」


「「了解(~)!」」




結局、アイスキャンデーは2時間ほどで完売した。

耕介は急いで大工街に向かい、木の棒を追加で500本依頼し、200本は広場へ、残りは宿屋に届けてくれるように依頼する。

お昼ご飯後もアイスキャンデーは飛ぶように売れた。


数時間後、持って来た果汁が残り少なくなったのを見て、耕介はこれから並ぼうとするお客様へ完売になった事、翌日も販売する事を説明して回る。

砂糖は高いからと、シロップの使用を控えたのでまだ半分以上残っている。


耕介はこれなら、明日も使えるとほくそ笑む。



シロップを荷車に積み、宿屋への帰り支度をし始める。

ふと、顔を向けると子供が二人こちらを見ていた。


「…食べたいのか?」


「…」


幼い二人は手をぎゅっとつなぎ、小さい方の子供はモノ欲しそうな顔をし、大きい方の子供は耕介を睨みつけている。

よく見ると二人の髪はぼさぼさ、服は着古されており所々ほつれが目立つ。


「どうしたの、コウスケ?」


「レイラさん、あの子達…」


「あぁ、孤児院の子供達ね」


「…孤児院の…」


「あぁ、近くに孤児院があって………」


二人の姿が養護施設時代の耕介自身と重なる。


「…」


耕介は箱に残っていたアイスを取り出し、そっと二人に差し出す。


「…ほら、あげるよ」


突然の事で動けない子供達の手の中に強引にアイスを掴ませる。


「あ、ありが…とう」

「ありがとー」


二人はこぼれそうな笑顔で答えてくれる。

笑顔になった子供達はアイスを持たない方の手をつなぐと走り去っていった。




「さ、今日は帰りましょうか」


二人を見送り、レイラとリリーに話しかける。


「そうね」


「はい~」





***





宿屋に戻り、耕介はレイラとリリーに報酬を支払い、明日の事について話す。


「明日もお願いできませんか?」


「良いよ~」


「えぇ、構わないわよ。でも、私達が手伝えるのは後2日だけよ?」


「2日ですか?」


「えぇ、4日後から迷宮に潜るから、前日から忙しくなるのよ。最初にリーダーが言ってたでしょ?まぁ、ギルドで依頼すれば手伝ってくれる人くらいすぐに見つかるわよ」


「分かりました。では残り2日、宜しくお願いします」


「こちらこそ、宜しくね」


「宜しく~」


耕介がレイラとリリーに頭を下げると、二人は笑顔で返してくれる。

そんな他愛ないやり取りが、耕介の心を温かくして、耕介の目に涙がにじむ。


こんなに自然に笑えたのは何時振りだろう…。

働いていた頃は笑顔なんて気にする余裕無かった…。

笑顔で話す相手もいなかった。


耕介は涙をごまかし、サモンズとヴァイスに露店の成功を話す。

ヴァイスは成功を喜び、二日連続の宴会に突入してしまった。


…二日連続で飲んでしまった耕介は久しぶりに夢を見る。




───名前は?


初めて出会った時の険しい顔。



───違う!ホイップのしすぎだ!


容赦なく叱る時の厳しい顔。



───そうだ!だいぶ良くなったぞ!


料理に成功した時の笑顔。



───…本当にお前が盗ったのか?


そして…『裏切られた』という顔。




翌朝起きた耕介は自分が涙を流している事に気付く。


「結構…、気にしていたのか」


ため息をつく。




それからの2日間。

翌日も翌々日も、露店販売を始めるとすぐに長蛇の列が並び、用意したアイス300本はあっという間に売れてしまい、嬉しい悲鳴が止まらなかった。

買えなかったお客様には申し訳ないが、露店で用意できる数としてはアイス300本が精一杯なのだから我慢して頂くしかない。


当初、アイスの購入層として考えていたのはファミリー層だったが、実際の購入層はファミリー層だけでなく、シニア層、若者層も買いに来ていた。

この国では甘いものが少ないから、求める人が多いのだろう。



露店販売から戻り、宿屋のベッドで耕介は一人考える。



多少の蓄えは出来た。

ここらで古代語について確認しておきたい。

あれは間違いなく『漢字』だった。

魔法具は金貨1枚以上の価値を持つ高級品だ。

魔法具を自分で作成できれば資金面は一気に解決する。

いや、自分で作成できなくても、新しい漢字と意味を伝えれば情報料として収入を得る事は可能になるはず。

店を構えて魔法具店として経営する、もしくは情報料だけを魔法具作成者に売るって言うのも中々に良い方法だ。


仮に古代語が売れなくても、店を構えるのは必然だろう。露店ではこれ以上の収入は厳しい。地球と違って、使い捨て製品が無いからどうしても元手が嵩んでしまう。

木の棒1本石貨5枚だとしても、この3日間で900本=銀貨4枚と銅貨50枚も使っている。

決して粗末に出来ない。



どちらにしても店を構えなきゃいけない…か。

でも、料理店と魔法具店では組合も違うだろうし…。



明日は魔法具店に確認して、それから組合だな。


コウスケの所持金


【収入】

1日目:銅貨50枚*売り上げ280本=金貨1枚と銀貨40枚

2日目:銅貨30枚*売り上げ300本=金貨1枚と銀貨50枚

3日目:銅貨30枚*売り上げ300本=金貨1枚と銀貨50枚

合計:金貨4枚、銀貨40枚


【支出】

1日目

売り子手伝い賃:銀貨11枚

木の棒代金:銀貨2枚、銅貨50枚

果物代金:銀貨2枚、銅貨70枚

2日目

売り子手伝い賃:銀貨11枚

木の棒代金:銀貨1枚、銅貨50枚

果物代金:銀貨2枚、銅貨70枚

3日目

売り子手伝い賃:銀貨11枚

果物代金:銀貨2枚、銅貨70枚

合計:銀貨45枚、銅貨10枚


【結果】

お財布カードの中身:金貨4枚、銀貨74枚、銅貨40枚

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