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第03話~魔法教室と魔法具~

チチチ…、チチチ…。


小鳥の鳴き声が聞こえる。


窓から朝日が差し込み、耕介の顔にかかる。


「…う」


スクリーンセーバーが止まり、パスワード入力画面が表示された。


「…あふ」


耕介は欠伸をしながら目の前のパスワードを打ち込み、パスワードロックを解除。

昨夜考えたモノを見返してからPCの電源を切る。

鞄のソーラーパネルを窓際に設置して、タオルを持ち宿屋裏の井戸に向うと、そこには水を汲んでいるアイシャがいた。


「おはようございます。コウスケさん。眠そうですね?」


「おはよう、アイシャちゃん。ちょっとね…」


宿に戻るアイシャに挨拶を返しながら、井戸桶で水を汲み、顔を洗う。

眠気が飛び周りを見渡すとサモンズが素振りをしているのを見つける。


荒削りだが大剣に振り回されず、きちんと振り切っている姿は、今まで剣とは無縁の世界で生きてきた耕介には圧倒的なモノに映った。

声を掛けられず、練習風景に見入ってしまった耕介をサモンズは横目でチラリと見る。


「…ふぅ」


左上から右斜め下への切り落とし状態でサモンズの姿が止まり、サモンズは練習をとめて耕介のそばにある井戸へ向ってくる。


「コウスケか」


「…あ、おはようございます。サモンズさん」


「あぁ、おはよう。昨日は良く眠れたか?」


「あ、ちょっと考え事しちゃって、少し眠いです」


耕介は苦笑しながらサモンズへ返答する。

サモンズは笑いながら桶の水で顔を洗い、手拭いで拭きながら話す。


「今日は魔法教室に行くんだろう?無理はするなよ?魔法ってのは精神力を使うからな。慣れない内は余計に疲れを感じるんだ」


「そんなもんですか…」


「そんなもんだ。まぁ、詳しい事は魔法教室で聞けばいいさ。ほら、朝飯の時間だ。先、行くぞ」


宿屋に戻るサモンズを追いかけるように耕介は歩き出す。




朝食を食べ終わり部屋に戻った耕介は鞄の中を見直してアンパンの存在に気付く。

すでにお腹は満たされているので食べたいとは思わないが、このままでは消費期限が来てしまう。

ふと、サモンズ達のチョコを食べた時の嬉しそうな顔を思い出す。腐る前に譲ってしまおうと、アンパンを持ち食堂に戻る。




みんなで食べられるようにと、耕介はエヴァに包丁を借りて適当に切る。

よく試食コーナーに置いてある、パンの切れ端をイメージしたのだ。


切ったパンを食堂に残っていた人に差し出す。

既にサモンズ達は『甘い食べ物』だと知っていたので、喜んで手を伸ばす。

サモンズ達が手を伸ばし、美味しそうに食べるのを見て他の宿泊者も手を伸ばしてくる。

耕介は遠慮しているアイシャの目の前に持って行き、アンパンを差し出す。


「甘くて美味しいよ?」


微笑みながら勧めると、アイシャはアンパンを掴み口に入れる。

途端、満面の笑みで歓声をあげる。


「甘い!甘くて美味しい!!」


耕介はその笑顔に微笑み返す。


「そんなに美味しいのかい?コウスケ、私達にもくれないか?」


「えぇ、どうぞ」


ゲイルとエヴァにもアンパンは大好評だった。

反応は予想以上であり、「どこで売っていた?」「もっと無いのか?」「どうやって作るんだ?」など、サモンズ達や他の宿泊者だけでなくゲイルやエヴァにまで問い詰められるほどだった。




耕介はこの国の事を呆れるほど知らない。


この国には甘味を使った料理は余り無く、砂糖、蜂蜜、樹液、花の蜜などは在るが、直接飲んだり舐めたりするモノが主流である。


十数年前より砂糖が隣国より供給されるようになり、徐々に砂糖の値段は下がってきている。国民も少し無理するだけで砂糖が手に入るようになった。

だが、肝心の砂糖を使った料理は開発が始まったばかりというのが現状だ。

つまり国民にとって砂糖とは、『直接舐めるモノ』、『水に溶かして飲むモノ』程度の認識でしかなかったのだ。


では、『餡子』を食べればいいのではないか?というと、話はそんなに単純ではない。

『餡子』は『小豆』を原料としているが、この世界では小豆を煮詰めて餡子を作るという発想をもっておらず。

専ら、煮込み料理やスープの材料としていたのだ。その為、渋く苦いものという印象しか持って居なかったのだ。


この世界で初めて『餡子』を食べた人の衝撃は、詰め寄られているコウスケを見れば言うまでもないだろう。


そんな事情を知る由も無い耕介としては、「アンパンはそれだけしか無く、売っている場所も貰い物なので分からない」と誤魔化すほかなかった。




宿のみんなの残念そうな顔を見ながら、耕介はエヴァに尋ねる。


「甘いお菓子は少ないんですか?」


「あんまり無いねぇ。甘いものなんて果物とか蜂蜜、樹液、砂糖くらいだね。お菓子もクッキーとかなら聞いた事あるけど、他には聞いたことも無いよ」


エヴァにお礼を言い部屋に戻る。



お菓子は結構売れるかもしれないな…。後は砂糖の相場、卵、小麦粉類、食器具………。…まずは魔法教室行ってからか、魔法でどんな事ができるようになるのかも重要だからな。


耕介はお財布カードを持ち、鞄以外を貴重品として預かってもらいギルドへ出発する。





***





「おはようございます。魔法教室を受けたいのですが…」


「おはようございます。今回はどのコースをご希望ですか?」


受付の女性から魔法教室案内一覧と受講料が記載されている用紙を見せられる。


「白魔法基本コースでお願いします」


「白魔法基本コースですと銀貨5枚掛かりますが、宜しいですか?」


「はい」


「では、前払いとなっていますので、お客様のお財布カードをこちらのカードの上に重ねて、『ギルド』宛に銀貨5枚のお支払いをお願いします」


「ギルドに銀貨5枚を払う」


耕介は指示通り銀貨5枚を支払い、カードに表示されている金額が銀貨5枚分少なくなっている事を確認する。


「では、これを持って右手奥の101号室へ向ってください。そこに担当が居ますので、担当に渡してください」


受付の女性に言われ、「1番」と読める木札と俺の名前と魔力値が書き込まれた紙を渡される。

受付の女性にお礼を言い、101号室へ向う。




101号室の扉が開いていたので覗きこんでみると、机と椅子が縦3列、横3列に並んでいた。教壇の上には碧色の水晶球、と何かを書き込んでいる金色の長い髪の女性が座っている。


「すみません。魔法教室を受けに来たんですが…」


「…あ、はい。では、その木札と書類はこちらで受け取ります。…はい。どうぞ、そちらの椅子へ掛けてください」


女性は木札と書類を受け取り書いていたモノをしまって、耕介に向き直る。

女性は碧眼にメガネをしており、耳は長く尖っている。体格は華奢であり、抱きしめれば容易く折れてしまいそうな印象を耕介は受ける。

女性に言われるまま木札と書類を渡して椅子に座る。


「白魔法の基本コースを受講される、コウスケ=タカハシさんですね?私はマリーベルと言います。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


マリーベルは耕介の机の前に椅子をずらし、水晶球を持ってきて目の前に座る。


「白魔法は火、水、土、風、光の総称として呼ばれています。出来る事としては、火を熾したり、水を出したり、土を動かしたり、風を起こしたり、光を点したりです。但し、魔力量があっても、魔法を使えない人も居ますし、一つの魔法しか使えない人も居ます。もちろん全部の魔法を使える人も居ます。今回はそこを見極めて行くのが目的です。ここまでは良いですか?」


「はい」


耕介の返事にマリーベルはにっこり笑いメガネを右手で軽く直す。


「この水晶球に触れてください」


耕介が水晶球に触れると、赤、青、緑、白と点滅を繰り返し始めた。


「…コウスケさんは火、水、風、光の適正があるようです。練習次第ですが、4通りの魔法が使えます。残念ですが、土魔法は使えないようです。では、次にコレを持ってください」


次にマリーベルが差し出したのは何の変哲も無い棒だった。


言われるままに棒を掴む。


「そのまま、『光れ』と念じて見て下さい」


耕介が頭の中で『光れ』と念じると、棒の先が赤く光った。


「魔法具も問題なく使用できるようですね。これは魔力が無い人でも、魔法を使えるように開発された魔法の道具。通称『魔法具』の判定道具なんです。これが光らない人は魔法具が使えません。…まぁ、魔力が無い人でも使えるように開発されているので、そんな事はあり得ないんですけどね」


マリーベルは耕介から棒を受け取り机にしまい、代わりにネックレスを耕介に差し出す。


「では、最後にこのネックレスを着けて目をつぶってください」


言われるままにネックレスを首にかけ目を閉じる耕介。


「そのネックレスは体の魔力の流れを強くする働きがあります。胸の奥から首、頭、また首、肩、手、肩に戻って胸、お腹、足、足先。足先から胸に戻り胸の奥へ戻る。

体を巡っている流れがあります。…分かりますか?」



胸の奥を探す。


「………。なんとなく分かります」


「では右手を前に出し、右手に集まれと念じて下さい。充分集めたら『ライト』と唱えてください」


「…………ライト」


耕介は呟き目を開ける。

そこには直径10cm程の光球が浮かんでいた。


「おめでとうございます。それが光の魔法です。消すときは心の中で『消えろ』と念じるだけで消えます」


耕介が『消えろ』と念じると光球はすぐに消えた、と同時に疲労感が体を襲う。


「最初は1回使うだけで疲れてしまいますが、何回も使っていれば疲れないようになります。そこは慣れしかありません。もちろん、魔法は何回も使えるわけではなく、自分の魔力値を超える回数は使えません。ただ、魔力値は成長する可能性もありますのでご安心ください」


「魔力が底をついてしまうとどうなるんですか?」


「動く事も出来なくなります。大抵は自分の疲れ具合が分かるので、疲れてきたと感じ始めたら使用を控えたほうが良いでしょう。またカードには魔力値が記載されているので、魔力値が100を下回っている時にも使用を控えると安全です。安静にしている事で魔力値は回復しますから、そこまで気にする事もないですよ。火、水、風はそれぞれ『ファイア』、『ウォーター』、『ウインド』と唱えれば使えます。基本的にはここまでですが、何か質問はありますか?」


「…合成も出来ると聞いたのですが」


「合成は応用の授業ですね。さわりだけ言うと火と土が混じった後の合成物を明確にイメージする事で可能となります。イメージの持ち方は応用の授業で行います」


「イメージがはっきりしていれば、私にも出来ますか?」


「出来ます。ですが、イメージは難しいですし、魔力も結構使います。どうしても使うのであれば、基本魔法を使っても疲れないようになってからにするほうが良いでしょう」


「わかりました」


「他に質問が無ければ、基本講習はこれで終了です。宜しいですか?」


「はい、ありがとうございました」


耕介はお辞儀をして退室する。





***





ギルドを出た後は野菜通りに向う。

野菜・果物の値段を確認する為だ。

野菜通りを過ぎるとお肉通り。

陳列されている肉の種類は豊富で、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、蛙肉、ゴブリン肉、コボルト肉、オーガ肉などが並んでいる。



…美味しいのかな?味が想像つかないぞ…。

耕介は食べた事のない肉に未知の味を想像して首を傾げてしまう。



次にお肉通りを抜け、道具屋通りへ寄る。

耕介が初めに入った道具屋では迷宮探索用の道具屋だったようで、回復薬や麻痺を治す薬、解毒剤なんかが売られていた。次の店では、迷宮探索用の道具と生活用の道具が半々に並んでいる。

店によって売っているものが異なるようだ。耕介が道具屋の店主に確認すると、道具屋の看板の下に絵が描いてあり、盾の絵の前に剣を上から刺した絵が描かれている道具屋には迷宮探索用の道具が置いてあり、フライパンの絵は料理用の調味料が置いてある。魔法具店は水晶球の絵が描かれていると、と教えられた。


耕介は道具屋の下の絵に気をつけながら見て歩き、ようやくフライパンの絵を見つけて入ってみる。



…ふむ。スパイス、砂糖、塩、唐辛子…、結構充実しているか。

塩が銀貨10枚、砂糖が銀貨50枚、蜂蜜は金貨1枚…。


耕介は各種調味料類の値段を確認できた事に満足し、道具屋を後にする。


道具屋から宿への帰り道に野菜通りで買い物をして宿へと戻る。





宿に戻った耕介はエヴァに台所の使い方を教えてもらうように頼む。


「エヴァさん、俺に台所の使い方を教えてもらえませんか?」


「料理をしたいのかい?…う~ん、じゃ、これからお昼だからまずは見ていてごらん」


「はい。ありがとうございます」



耕介はこの世界の人が料理をしているところは始めて見る為、じっくりと観察する。

コンロに相当する場所には銀色の板が置かれており、その上『何も無いところ』から火が出ていた。下に薪が置いてあるわけでもないのにだ。


耕介が不思議に思っていると、アイシャが長方形の箱の扉を開けて肉を取り出す。

取り出した肉からは白い煙が上がっている。


まるで冷蔵庫のようだ、と耕介は目を丸くする


耕介が混乱している内に料理が出来てしまったようだ。

耕介は料理運びを手伝いながらエヴァに話を聞く。やはりアレらは魔法具だと言われる。エヴァ曰く、アレらの魔法具はすべて金貨1枚(銀貨100枚)以上かかっており、一般家庭で使う事は無いのだと教えられた。



料理を運びながら何気なしに火が出ていた箇所を見て耕介は驚いた。



コウスケの所持金


【収入】

無し


【支出】

魔法教室代金:銀貨5枚

買い物代金:銅貨30枚

お昼代金:銅貨30枚


【結果】

お財布カードの中身:金貨1枚、銀貨37枚、銅貨50枚

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